- 株式会社リクルート
- 教育支援ディビジョン学習塾領域 企画責任者
- 有光 貴裕
人だからこそ提供できる営業価値を追求。リクルート・スタディサプリ「営業DX」成功の軌跡
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SaaS企業をはじめ、BtoB事業を展開する多くの企業では、様々なツールを活用したマーケティングやセールスの自動化が促進されている。
しかし、営業メンバーが直接顧客とコミュニケーションを取り、人ならではの価値提供をしてきた企業にとって、それらをシステムへと完全に移行するのは容易なことではない。現代の移行期において、その最適なバランスを模索している企業も多いのではないだろうか。
今回、営業活動において「人を生かす」ことと「システムによって自動化する」ことのバランスを最適化し、大きな成果を創出したのが株式会社リクルートのスタディサプリ事業である。
2012年にBtoC事業としてスタートした「スタディサプリ」だが、「学校教育の場で活用したい」という声を受け、2014年からBtoB事業を開始。2016年に学校の先生を対象とした管理画面ツール「スタディサプリ for TEACHERS」をリリースし、2021年には学習塾向けにもサービス提供を開始した。
その新規営業から契約後のサクセスフェーズにおいては、統合型CRMプラットフォーム「HubSpot」を導入し、各事業領域の特性に合わせて活用しているという。
まず、「学校向けサービス」の中では、全国に5,000校ある高校を対象とする領域でHubSpotを活用。数百名の営業メンバーの人的活動と並行して、新規顧客向けのナーチャリングや、導入顧客のオンボーディングを目的とした月30回近くのセミナー開催などを行っている。
一方、全国に50,000教室が存在する「学習塾向けサービス」においては、ヒューマンリソースに依存しない仕組みを構築するため、リード獲得から契約後のサクセスフェーズまでを一気通貫でシステム化。事業構想からたった4ヶ月で、同サービスの立ち上げを実現した。
そして上記の取り組みに加えて、顧客の心理的な不安を解消するシーンには人が介在することで、順調に事業成長を続けているという。
今回は、主にBtoB領域の企画責任者を担う有光 貴裕さんに、同事業における営業DXの取り組みについて、詳しいお話を伺った。
顧客規模と営業スタイルの異なる2つの領域で、営業DXに挑戦
私は、2014年に新卒でリクルートに入社して、スタディサプリ事業にて営業や戦略企画、事業推進など幅広い業務に携わってきました。
2020年から学校領域でのB2Bマーケティング、2021年から学習塾向けサービスの立ち上げをリードし、現在は同サービスの企画責任者としてマーケティング、営業、カスタマーサクセスを管掌しています。
▼教育支援ディビジョン学習塾領域 企画責任者 有光 貴裕さん
元々「スタディサプリ」は、すべての生徒が、インターネットの活用によって地域差や経済格差なく質の高い教育を受けられるようにと、2012年に「受験サプリ」として誕生したBtoC事業でした。
その後、2014年から学校(主に高校)向けに、2021年からは学習塾向けにBtoB事業を展開していますが、前提として、この二つの領域では「提案先の規模と営業スタイル」に大きな違いがあります。
まず、高校は全国に約5,000校あって、数百人の営業メンバーの一人ひとりが、新規営業のアポ獲得から契約後の伴走まで一気通貫で行うモデルになっています。
一方で、学習塾は全国に約50,000教室あり、高校の10倍にもなります。また、その半数はいわゆる個店と呼ばれる、リテールの塾が占めています。
このすべての提案先に対して営業メンバーが赴くのは物理的に難しいので、「ヒューマンリソースに依存しない仕組みをいかに作り上げるか」という設計部分が事業の要になる点が、高校領域とは大きく異なる特徴です。
▼スタディサプリBtoB事業の構造と本事例の対象先(編集部作成)
全顧客に一律の機会提供を。CRMプラットフォーム「HubSpot」を導入
ツール検討のきっかけは、高校領域で導入校が急激に増加したことでした。
それによって、営業メンバーのリソースの多くが導入校へのサービス活用の伴走に充てられたため、未導入の顧客に対しての情報や機会の提供にばらつきが生じ始めました。
リクルートは「すべての顧客に一律の機会を提供する」ことを大切にしています。担当営業の社歴やスキルの差といった会社側の都合によって、顧客への価値提供が左右されてはならないという考えがあるので、高校領域においてもこの課題の解決が急務でしたね。
そこで、営業メンバーの手を極力煩わせることなく、顧客への一律の機会提供を実現するために企画部主導で導入したのが「HubSpot」でした。
導入にあたっては他ツールも検討しましたが、決め手になったのは「施策改善の柔軟性」ですね。
具体的には、細かな項目から幅広い施策まで柔軟に高速で打ち手を改善していけることと、私たちのやりたいことを実現できる機能を有しながらも、専門スキルを持たないメンバーでも直感的に操作できるUI/UXであることを最も重視しました。
加えて、持続的にCRM/MAを活用した顧客コミュニケーションを行っていくため、費用対効果におけるコスト観点も重視して導入を決めました。
「読まれる」メルマガの活用で、顧客に漏れなく情報を届ける
高校領域では、「未導入校に対するナーチャリング」「導入校に対するサクセス」「双方の顧客に対するセミナー開催」の三つの用途でHubSpotを活用しています。
その中でもまずはじめに着手したのが、「未導入の顧客に対するナーチャリング」です。
ここから始めたのには理由があって。学校の現場には校長先生、教頭先生、進路部長、学年主任など様々な役割と分掌がある中で、誰がサービス導入の推進者になり得るかが学校ごとに全く異なるんですね。
なので、一校の中でも幅広くコミュニケーションを取りながら、定期的にそれぞれの方に価値ある情報を提供し続けることが、営業活動において重要なポイントでした。
そこで利用したのが、HubSpotのメルマガ機能です。これまで営業メンバーが足を運んで案内してきた教育全般に役立つ情報や、生徒が自学自習できるような仕組み作りなどの情報を、メルマガにして毎月お届けする形に移行しました。
そのメルマガ内に、ホワイトペーパーのダウンロードや、「営業に話を聞いてみる」ボタンなどのコンバージョンポイントを設け、顧客のアクションが起きたら自動で営業にトスアップメールを飛ばすという形を取りました。
▼営業名刺交換を起点としたトスアップフロー設計図(同社提供)
一般的な企業のメルマガと異なるのは、画像やイラストが少なく、ほぼテキストのみいうことです。これは、読み物としての充実感がその後の行動につながりやすいという顧客の業界特性を意識して作成しました。
テキスト中心のメルマガだときちんと読まれないのではないか?と思われがちですが、HubSpot管理画面で確認できるレポートでも70〜80%以上の方が「しっかり読んだ(※8秒以上閲覧)」という結果が出ており、実際のCVRも一般的な水準よりかなり高いのできちんと情報を届けられている手応えも感じています。
▼学校という顧客の業界特性から、テキスト中心のメルマガを定期配信(画像は一部抜粋)
また導入時は、営業メンバー向けの運用も考慮しました。営業側での作業が増えてしまうのは本末転倒ですからね。
営業メンバーには「これまで通り多くの先生方にお会いし、名刺情報を入力するだけでいい。そうすると、今の営業活動に加えて時折トスアップが来るようになる」とシンプルに説明しています。
HubSpotの活用により、セミナー開催は月2回から30回開催へと激増
二つ目の取り組みとして、「導入校に対するサクセス」のフェーズでもメルマガの活用を開始しました。たとえば、偏差値帯が近い学校やエリアなどで顧客セグメントを分けて、お悩みに合わせた事例などをご紹介しています。
そして、三つ目の取り組みとして、「セミナー運営の効率化」を実施しました。
営業企画では、HubSpotの導入前からさまざまなセミナーを開催していました。ただ、事前準備や開催後のアンケートの取りまとめなどの運用が非常に煩雑で、業務負荷が大きかったんです。
しかし、イベントページの作成や対象リストへの集客・フォローアップメール配信、参加履歴やアンケート結果の共有など、HubSpotの機能を活用することで効率的にセミナーの運営ができるようになりました。
中でも一番効果が大きかったのは、導入校に対するオンボーディングセミナーです。
高校領域では、業界特性上オンボーディングの時期が3~4月に固まるのですが、その期間内で元々は2回程度の開催だったところから、現在は30回近く開催できるようになったのです。
これによって、オンボーディングフェーズにおける顧客への情報提供の均質化にかなり寄与できたと思っています。
また、営業メンバーとしても、細かい機能などの説明はセミナーに任せて、彼ら自身は顧客に対峙して本質的な活用提案をすることにきちんと時間を使えるようになりました。そういった観点でも、これらの取り組みは非常に価値が高かったと思いますね。
ROIは余裕でクリア。新事業の早期立ち上げも実現し、高い利用価値を実感
その後の学習塾向けサービスの立ち上げにおいては、事業検討から4ヶ月という短い期間でリリースまでこぎつけました。ここまでスピード感を持って推進できたのは、HubSpotをベースにすべての仕組みを構築できたことが大きかったですね。
冒頭にお話ししたように、学習塾領域はヒューマンリソースに依存しない仕組みを作り上げることが鍵でした。もし先にHubSpotを導入できていなかったら、半年から1年は準備期間が延びていたかもしれません。これは本当に運が良かったと思いますね(笑)。
活用方法も高校領域とは異なっていて、学習塾領域では新規顧客のリード獲得からナーチャリングにおけるコンバージョンポイントをすべてHubSpotに統一しています。そして、導入後のオンボーディングや、継続利用いただくリテンション施策まで一気通貫で活用している形です。
しかし、人が一切介さないかというと、そんなことはまったくありません。
機能の説明や顧客の興味表出といった部分はすべて自動化した上で、導入前に疑問をお持ちの顧客やセミナーで導入意欲が醸成されている顧客、導入後のサクセスフェーズでヘルススコアが下がってきている顧客に対しては、きちんと人が介在してコミュニケーションを取るようにしています。
その際にHubSpotに蓄積された情報を見れば、過去の顧客とのやり取りや、どのコンテンツを見てくださっているかが一目瞭然なので、顧客数の多い学習塾領域においても現状問題なくコミュニケーションが行えています。
とはいえ、HubSpotを使えばすべての施策がうまくいくといった幻想はもちろん抱いていません。初めから100%完璧なものは作れないという前提に立ち、効果検証と改善を素早く回していくことに気を配っています。
HubSpot導入による成果として、まず高校領域では当初の計画以上にROIを余裕でクリアできています。また、学習塾領域でも最速の立ち上げが実現できて、営業工数の削減と共に顧客も増え続けているので、全体として非常に大きな成果がありました。
加えて、営業メンバーからも「テックタッチで機会創出からトスアップしてもらえるので、よりお客様に踏み込んだ本質的な会話・提案に時間を使えるようになりました」といった声が直接届くようになったのがとても嬉しいですね。
人だからこそ創出できる価値を高め、均質化することへ挑戦したい
現在、リクルートでは、どうやって人に依存せず、顧客へ一律に価値と機会を届けられるかが、どの事業においても重要な課題になってきています。
そんな中、僕たちがHubSpotを活用してその実現に邁進してきたことが注目され、リクルート内の様々な事業部から質問が来るようになりました。そういった変化から、CRMプラットフォームの活用を中心とした営業DXについては、これから社内でも大きく広がっていくのかなと感じています。
ただ「人に依存しない」と言う一方で、私たちは「人だからこそ創出できる価値」にも目を向けていて。顧客に対する機会提供の均一化だけではなく、その品質をより高めていくことにもチャレンジしようとしています。
たとえば商談の一部を音声で記録して、何をどんな順番で、どのように伝えるとお客様に伝わりやすいのかを分析したりですね。これまで個々人の「職人技」としてブラックボックス化しがちだった部分を見える化し、より高いレベルで再現性を持たせるような取り組みを進めようとしています。
また、スタディサプリの事業全体を見ると、HubSpotをはじめとして、SalesforceやTableauといったデータ分析系のツールをいくつか導入しているものの、現状ではそれぞれを単体で活用するに留まっています。
なので、今後は「人だからこそできる部分」と「人じゃなくても均質化していける部分」のバランスを追求し続けながら各データソースの連携を深め、進化させていきたいですね。そうすることで、メンバーがより強く力を発揮できるような仕組みや組織文化につながると考えています。
そして、現在私が管掌している学習塾の領域においては、学校領域で知見を深めてきたスタディサプリだからこそできる、唯一無二の価値実現を今後さらに進めていきたいです。(了)