- 株式会社hokan
- CREリーダー
- 齋藤 陸
顧客継続率99.4%!ユーザーの不安を解消するエンジニア「CRE」をhokanが導入した理由
Googleが提唱したエンジニアの専門職「CRE(Customer Reliability Engineering)」を導入する企業が増加している。
CREとは「顧客信頼性エンジニアリング」を意味し、技術を用いて顧客の課題解決に取り組む、いわば「カスタマーサクセスを担うエンジニア」のことを指す。あらゆる業界でSaaS導入が進む中、デジタルシフトをサポートする役割としても注目を集めているのだ。
2017年に創業し、「保険業界をアップデートする。」というミッションのもと保険営業のためのクラウド型顧客・契約管理サービス「hokan」を提供する、株式会社hokan。2020年度は前年比で導入社数が3倍、さらに継続率も99.4%を達成するなど、順調に成長を続けている。
同社では、まだエンジニアが10名に満たない2020年のタイミングで、CRE専任のチームを立ち上げ。現在は全ての顧客にCRE担当者がつき、導入時のデータ移行や技術的な課題の解決を直接エンジニアがサポートしているのだという。
CREチームのリーダーを務める齋藤 陸さんは、「プロダクト開発とCREのチームを分離し、それぞれが100%各領域に専念できるようにしたことで、開発の速度感を落とさずにお客様対応の品質を向上させることができた」と話す。
今回は齋藤さんと、同じくCREを務める寄口 龍太さんに、hokanのCREチームの立ち上がりから具体的な業務内容まで、詳しいお話を伺った。
「保険」という特殊な業界に特化したバーティカルSaaSを展開
齋藤 私は法学部出身なのですが、もともと社会のインフラとしてのITに興味があり、エンジニアを志してSEになりました。就職してからは主に保険会社や銀行で、社内SEとして働いていました。
中でも保険業界には長く在籍していたのですが、システムがレガシーだったり、新しいものを取り込めていなかったり…という課題を本当に肌で感じていて。
その中で、hokanが掲げるミッションにとても共感し、2020年1月にバックエンドエンジニアとしてhokanに入社しました。その後すぐにCREのチームの立ち上げを行い、現在はCREリーダーを務めています。
▼【左】齋藤さん【右】寄口さん
寄口 私は大学卒業後に一度、営業として就職したのですが、モノを作ったり技術に触れるような仕事に関心が出てきて、ITエンジニアの道を志すことになりました。
そしてECサイトや保険会社向けシステムの構築を担当していたのですが、中でも保険業界のデジタルシフトが遅れていることを、作る側としてもすごく感じていて。そうした背景から2021年2月にhokanに転職し、現在はCREチームの一員を務めています。
齋藤 hokanは、保険代理店様に向けた顧客・保険契約の管理を提供するクラウド型のサービスです。保険というひとつの業界に特化したバーティカルSaaSになります。
実際のユーザーは、保険を販売する営業の方、いわゆる保険募集人の方々です。お客様に保険を販売される際に必要な顧客や保険契約の情報、さらには日々のスケジュールまでを管理できる機能を提供しています。
▼hokanのサービスイメージ(同社提供)
保険は、商材として特殊な面が色々とあるんですね。例えば契約の管理は、種類によっては何十年、もしくは終身まで続いていきますし、また業界として未だに紙ベースでデータを管理している会社も多くあります。そういった特殊性から、プロダクトに求められる要件も他の業界とは異なる部分があると思います。
敢えて初期フェーズのうちに、CREを開発チームから切り離した
齋藤 弊社自体はいま25名ほどの組織ですが、CREチームにはそのうち4名が所属しています。もともとCREはシステムサイドに所属していたのですが、よりCSチームとの連携を強化するため、2021年8月からビジネスサイドに所属する形に移りました。
「CRE」というのはCがCustomer、RがReliability(信頼性)、EはEngineeringを表しています。直訳すると「顧客信頼性エンジニアリング」です。
この「信頼性」とは、お客様からのプロダクトや自社に対する信頼を指します。それをエンジニアリングを用いて高めていくことが、CREの役割です。
例えばhokanを導入していただいたお客様が、「どう操作すればいいかわからない」といった疑問を抱えていれば、それはCSチームで解決することができますよね。でも、「こういう操作をしてしまったが、データはどうなったのか」といったシステム上の問題は、CSだけではどうしても解決できません。
そういったケースで、エンジニアリングの力を使ってお客様の課題を解決するのがCREチームになります。
hokanで、CREが完全にチームとして立ち上がったのは2020年の2月頃です。と言うのも、2019年の年末くらいまでは、hokan自体をガンガン開発していくフェーズだったんですね。ですがその後、hokanを実際にご利用いただくお客様が増えてきて、一番最初に出てきた問題が「システム移行」でした。
お客様からすると、いま使ってるシステムを新しいものに変更する…というだけでもストレスや不安を感じますよね。まずは安心してhokanに移行していただくことが必要だったので、そのためにCREチームを立ち上げ、データの引き継ぎ等を担っていくことになりました。
▼hokanで働くエンジニアの皆さん
敢えてこの段階でプロダクト開発側とチームをしっかり分けた一番大きな理由は、開発のスピードを緩めないためです。
以前は、プロダクト開発をしているエンジニアがお客様からきたお問い合わせや、データ引き継ぎの対応を行っていたんですね。ですがそうすると、開発側で引いていたスケジュールがどうしても後ろにズレていってしまうんです。
そこで、開発部門は開発に100%専念し、お客様の対応が必要なところはCREが100%対応する、という体制を会社として構築するために、独立したチームを作りました。
現在はエンジニアのおよそ半数がCREという形になっていますが、全員が中途半端な状態で開発を進めていくより、各自が100%専念する領域があることで速度感は非常に上がりました。また、顧客対応に強いエンジニアチームがいることで、お客様対応の品質自体もすごく上がっているかなと思います。
お客様の不安をゼロにするために、CREチームが全顧客をサポート
齋藤 現在、hokanのCREは大きく分けると3種類の業務を行っています。まずは、先ほど申し上げたデータ引き継ぎ等の導入サポート、次にお問い合わせへの対応、そして最後が、CSが顧客対応をするときにお客様側の設定や操作ログを確認できる管理画面の開発です。
導入サポートについては、基本的には新しいお客様の導入が決まった段階から担当としてジョインします。お客様から見ると、CSの担当者が1人と、我々CREの担当者が1人、2名体制のサポートが付いているような形です。データの引き継ぎが必要な案件であれば、営業段階から入ることもありますね。
お客様の中には、既存のデータをExcelや紙で管理をしている場合もあります。そうしたデータをhokanにしっかりと引き継ぐために、Excelのデータを加工したり、PDFファイルの中の文字列を読み取ってデータ化する…といったこともCREが担っています。
CREチームの目標は、最終的にはお客様にhokanをずっと快適にご利用いただくことです。なのでもちろんアクティブユーザーを増やし、解約をなくしていくことが根幹にありますが、現時点で直接持っている目標は、問い合わせ件数の減少と回答速度の短縮です。
どんな会社でも、CREというポジションにおける共通の目的としては、「お客様の信頼性を上げていく、不安をゼロにする」ことがあります。ですが、業種・業態によって、実際に行う業務は変わってくると思うんですね。
現状我々は、業界自体がまだ十分にデジタルシフトが進んでいないということもあり、お問い合わせにしっかり回答していくことが重要なため、このような目標を持っています。自分たちのお客様が何を不安に思っているのか、何を解決してあげれば自社のプロダクトを好きになってもらえるのか、ということを考えることがまず大事なのかな、と思いますね。
寄口 CREとして、サービスの信頼性を担保するために必要な要素を整理して、そこにアプローチしていくような組織づくりを考えるといいのかなと思います。現状のhokanでは、お問い合わせ対応の品質の他にも、データ引き継ぎの際の正確性にはかなり気を遣っていますね。
齋藤 お問い合わせ対応の品質向上という点では、業務のひとつとして挙げた管理画面の開発は大きな成果かなと思います。以前は弊社側でお客様の管理を行うアプリケーションがなかったので、問い合わせが来るたびにCREが直接データベースを確認する必要があったんですね。
そうすると回答までに時間もかかりますし、本番環境での作業が必要なのであらゆる面での注意が必要でした。
寄口 管理画面では、hokanを利用されているお客様のデータをCSが直接確認したり、新しい保険商品やユーザーを追加することができます。
▼実際に開発されたhokanの管理画面
こういった機能を準備しているのは、信頼性を高めるためにはやはりスピード感が大事だからです。CSからCREのエスカレーションがなく、CSの自己解決が上がることでやはりスピードは向上しますよね。
また、こうしたデータを見ることが正確な状況把握につながり、回答の正確性も高まります。こうした形で、間接的に顧客信頼性を持ち上げる取り組みを行うのもCREの役割のひとつですね。
こうした仕組みをいまのうちから作っておくことが、事業がスケールしても無理なく高品質のサポートを提供するための下準備になっていると思います。
エンジニアのキャリアとしても、CREは面白い選択肢
齋藤 今後のチャレンジとしては、まだ社内で人力で対応している作業も多くあるので、それらを自動化・効率化していくことがあります。
先ほどの管理画面もそのひとつですが、いま導入社数やユーザーさんが増えてきている中で、お問い合わせの内容も多岐にわたってきているんですね。
現状はそれらにひとつひとつ対応していますが、今後はもっと効率化していくことが必要です。hokan社内の業務を効率化していくことがお客様へのさらなる価値提供にもつながると思うので、これからも頑張っていきたいですね。
▼hokan社のオフィスの様子
寄口 私は主に管理画面を作っているのですが、現状の管理画面はCS向けのものになっているので、その範囲を拡大していきたいですね。例えば請求や決済の仕組みも顧客信頼性という意味ではとても重要なので、技術的見地から改善に取り組んでいければなと考えています。社内の中でも、関わっていく領域を広げていきたいという気持ちは強くありますね。
齋藤 CRE自体がまだまだ新しい概念ではあるのですが、本当にお客様に寄り添うような立場なので、すごくやりがいのあるポジションだなと感じています。
エンジニアリングの技術を用いるだけではなくて、ビジネスや顧客対応の要素も多く含まれるので、やることが広範囲にわたるんですね。エンジニアのキャリアとしても、今後は面白い選択肢になるのではないかな、と思っています。(了)