- 株式会社Gaudiy
- BizDev/Data Analyst
- 藤原 良祐
「Web2.5」が最適解。自律分散と中央集権のバランスを追求するGaudiy社の組織づくり
2022年、「Web3.0時代」の到来により、関連企業や周辺技術にも大きな関心が向けられている。そしてまた、Web2.0時代では当たり前だった中央集権的な組織の在り方にも、変化が訪れようとしている。
Web3.0時代のファンプラットフォーム「Gaudiy Fanlink」を提供する、株式会社Gaudiy。2022年6月にはシリーズBラウンド・1stクローズにて25億円の資金調達を実施するなど、いま大注目のWeb3.0企業だ。
Gaudiyでは、バリュー(価値基準)としてWeb3.0の組織形態である「DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)」を掲げるなど、一人ひとりが自律的に意思決定をすることを非常に大切にしている。
しかしその一方で、同社代表の石川 裕也さんは「完全なDAOからイノベーションは生まれない」とも話す。
そこでGaudiyでは、Web2.0とWeb3.0、それぞれの弱みを補う概念である「Web2.5」を採用。一部に中央集権性を残した自律分散型の組織を目指し、各種制度の設計を行っている。
具体的には、意思決定における「教典」として「Gaudiy Protocol」を2022年より運用。誰でも課題を起案できる「Protocol Issue Board」を通じて組織や事業の課題を可視化し、 レビューを経た上でProtocol本体に統合するというプロセスを構築した。
今回は石川さんと、Protocol Issue Boardの運用を担うBizDev/Data Analystの藤原 良祐さんに、Gaudiyにおける組織づくりの考え方や、意思決定プロセスについてお話を伺った。
事業と組織は「相似形」。自律分散的な組織で従業員のUXを追求
石川 僕は10代の頃からテクノロジー業界で事業開発を経験してきました。その後、ブロックチェーンに出会って衝撃を受け、2018年にGaudiyを創業しました。
GaudiyはWeb3.0×エンタメの領域で、主に「Gaudiy Fanlink」というコミュニティアプリを企業向けに提供しています。ファンの創作・貢献活動が正しく評価・還元される「ファン国家」を創造することで、エンタメ業界の課題を解決し、ファンが報われる社会をつくることを目指して、日々プロダクトを作っています。
現在は組織も内定者の方を含めると40名ほどになり、順調に拡大しています。
▼Gaudiy社のオフィス
藤原 僕は新卒でNRIに入社して6年9ヶ月働いた後、2022年1月にGaudiyにお試しジョインをして、3月から正式に働いています。
肩書としてはBizDevとData Analystの兼務なのですが、入社前に「肩書は目安ですよ」と言われたのが本当にその通りで(笑)。いまは事業だけではなく、組織をつくっていく仕事にも悪戦苦闘しながら取り組んでいます。
個人的には、「会社と従業員」の関係性と、Gaudiyのプロダクトにおける「コミュニティとユーザーさん」の関係性って、相似形に近いと思っていて。
いま、自分は「Gaudiy Protocol」という社内の意思決定を行う仕組みづくりに関わっているのですが、それは「どうすれば従業員が会社のビジョンに貢献できるか」という場を整えることでもあるので、結果的に事業づくりともすごく共通点があると感じています。
石川 僕が組織をつくる上で大切にしている考え方のひとつに、「逆Conwayの法則」があります。簡単に言うと、「システムを設計する組織は、そのシステムの構造をそっくり真似た組織の設計を生み出してしまう」というConwayの法則を逆手にとり、そもそも最初から組織にシステムの構造を反映させるように設計する、という考え方です。
Gaudiyは、ブロックチェーンを使ってファンコミュニティを作っていこうとしている会社なので、組織も、ある種ブロックチェーン的な自律分散型であることが、事業の促進につながると考えています。そもそも僕は、自律分散的な組織であること自体が素敵だなと思っているんですよね。
そして、その世界観を実現しながら、より生産性高くプロダクトを開発するために、DAOという思想をベースにした組織づくりをしています。加えて、従業員の体験づくりにおいては、HCD(人間中心設計)やソフトウェア開発のような手法を用いて組織の制度設計を行っています。
DAOのように一人ひとりがフェアに納得感を持って、自分たちがやりがいを持って働けるUXをどう実現するか、ということを常に考えていますね。
イノベーション創造とフェアな価値分配を両立する「Web2.5」組織
石川 Gaudiyの「自律分散的に動ける」「一人ひとりが意思決定をする」ということを表している特徴的な制度の一例としては、「お試しジョイン」があります。
新しい人が入社するときには、必ずお試し期間を設けていて。一緒に働いてみて、候補者の方と従業員がお互いにフィットするかを最終確認するための期間で、それを通じて全員が「一緒に働きたい」と判断したら、正式入社に至るという仕組みです。
全員が採用に関する意思決定に関わる、ということなので、これは組織が民主的なDAOであることを体現している制度だと思います。
ですが一方では、組織が「Web3.0時代の完全なDAO」として多数決で物事を決定するようになってしまうと、スピード感をもってイノベーションを起こしていくことは難しいです。
イノベーションは、多数決から生まれるわけでは絶対にありません。なぜならば多数決では、「平均的」になってしまうからです。やはり圧倒的な熱量とリーダーシップを持った人が、世の中にないルールを作っていくことが、イノベーションにはつながるはずです。
ただ、逆に人に依存しすぎた中央集権的な状態になると、結果に対して報われるのはその人だけになりますし、周りにいる人がその人のビジョンを実現しようとする、という状態になってしまいます。それでは再現性が低いですし、僕がそれに参加する側だとすると、モチベーションにならないなと。
つまり、イノベーションをめちゃくちゃ追求しすぎると中央集権になるし、かと言って分散的にしすぎてもイノベーションが生まれないと。
この制約の中で、何が必要で、何は捨てるべきなのかと考えたときに、まずは誰もがフェアで自律分散的に動けていて、やりがいを持てているという状態は前提として必要だと考えました。そして、それが阻害されない限りは、組織として尖ったものを追いかけていく。このバランス感覚がすごく重要だなと思っています。
Gaudiyの現状は、僕自身が持つ強烈なビジョンがある一方で、働く個々人もそれぞれがやりたいことや目標を持っています。それらを擦り合わせた上でビジョンの実現に向かっていく、その絶妙なバランスを作っていこうとしていて。
その結果Gaudiyでは、「Web2.5」という概念のもと、組織づくりを行っています。
Web2.5とは、Web2.0からWeb3.0へと移行する「過程」にある概念ではなく、Web2.0とWeb3.0の強さと弱さを補った最適な概念です。
Web2.0では、中央集権的でイノベーションが生まれやすい反面、価値の分配も一部に偏ってしまう構造でした。一方、Web3.0では、参加者の納得感がある形で正当な価値分配がされやすい反面、イノベーションが起こりづらいという課題があります。
この「中央集権と分散のバランス」を考えると、組織は一部の中央集権性を残した「Web2.5」であるべきだと考えています。
▼「Web2.5」は、Web2.0とWeb3.0の強さと弱さを補った概念(Gaudiy社提供)
※上記の石川さんのWeb2.5組織の考え方としては、こちらのnoteもぜひご覧ください。
そして、組織としてこのバランスをとりながら、事業や組織について意思決定する仕組みと、その成果物のことを、「Gaudiy Protocol」と呼んでいます。
組織や事業の意思決定における「教典」である「Gaudiy Protocol」
石川 もともとGaudiyでは、以前から「福利厚生はどうしようか」「休みはいつにする?」といったことをほぼメンバーが決めてきました。ですので、誰もが「こうだ」と思うものをみんなで作れる、という文化は存在していました。
ただ、課題だったのはそこに「教典」がなかったこと。文化はあるけれどルールはないという状態だったので、2022年から「Gaudiy Protocol」を運用し始めました。
背景としては、Gaudiyでは「上司」のような「人間」が意思決定基準を持たないことを強く意識しているんですね。
もちろん、物事の判断に人間的なセンスが必要になることはありますが、現状の社会ではそれが大きすぎると思っていて。そこでGaudiyでは、これまで人間が持っていた意思決定基準というもの自体を、人間ではない教典のようなものに持たせようとしています。それが「Gaudiy Protocol」なんです。
▼Web2.5組織における意思決定(Gaudiy社提供)
全員がGaudiyの「DAO」「Fandom」「New Standard」というバリューに従って意思決定ができるように、「こういうときにはどういう意思決定をすればいいんだろう」という型を貯めていくものでもありますね。
ソフトウェア開発では、「Pull Request」と「Merge」という言葉をよく使います。コードを書いて、それが正しければ全体に統合していくというプロセスなのですが、この理論自体を「Gaudiy Protocol」にも導入しています。
藤原 具体的には、「Protocol Issue Board」と呼ばれる、いわゆる開発でいうチケット管理ができる場所を設けています。そこには全従業員がアクセスできて、好きなイシューを課題として提起できます。
階層的な組織の場合、思想としては「上の階層にいる方の判断が正しい」となりがちですよね。ですがGaudiyでは、現場で各ドメインのエキスパートとして動いているメンバーが持っている情報にはすごく価値があると考えているので、誰もがイシューを提起できるようにしています。
▼実際のProtocol Issue Board(Gaudiy社提供)
藤原 実際に上がっているイシューはさまざまです。Slackの命名規則やNotionの構造に対する提案もあれば、中長期の事業戦略に関することまで、視座もレイヤーもバラバラなものが100個近く挙がっていますね。
自分が所属するチームの課題に限らず、組織や職能をまたいだ提案も多いです。このように全員が主体的に提案ができるのは、Gaudiyのメンバーだからこそだと思っています。
ただ、先ほど石川からもWeb2.5の話がありましたが、「多数決的に、数の暴力で、会社の行く方向性が決まっちゃいけないよね」ということは、このProtocolが始まるときに全員で意識合わせを徹底的に行いました。
自律分散でありながらも、Gaudiyの目指すビジョンのもとで課題を的確に判断することが非常に重要だよね、と。個人のやりたいことありきで何でもかんでも挙がってくることは歓迎しないよ、という前提がまず組織としてあります。
そこで、イシューが起票されたあとはそのまま採用されるわけではなく、「助言プロセス」や「事務局レビュー」を経てProtocol本体に統合される形になっています。
助言プロセスとは、提案した課題に対して、そのドメインに詳しい方を必ず一人以上含めて助言を受ける、というもので、ティール組織にインスパイアを受けた考え方です。
事務局レビューは、Gaudiyのビジョンやカルチャーを誰よりも知っている人が必ずレビューに入るというもので、現在は石川が中心となってその役割を担っています。
ProtocolはGaudiyの教典、もしくは憲法のような存在で「これに従って意思決定していきましょう」というものです。そこに新しい要素を加えるのは非常に大事なプロセスなので、こうした形をとっていますね。
これまで、「Protocol Issue Board」を通じて意思決定されたことの具体例としては、毎週水曜日は通常業務をしない、という「EMPOWER-DAY(エンパワーデイ)」があります。
開発メンバーを中心にどうしても日々忙しいので、なかなか中長期の思考ができず、それに対する課題意識も何となくみんな持っていたことから、提起があったという流れです。
とはいえ、20%も業務時間を減らすことになるので、どうすれば生産性が下がらないのか、論文などを参照して検証したり、コーポレート目線からもレビューに入ってもらった上で、起票から数週間でローンチしました。
実際にスタートしてからも色々と制度の見直しをかけて、2巡目3巡目とアップデートしていっています。
※「EMPOWER-DAY」についての詳細はこちらのnoteもぜひご覧ください。
守るべき「ルール」ではなく、「参考書」「攻略本」「ありたい姿」
石川 「Gaudiy Protocol」は、あくまでも「これに則っていたら、より成功する。もしくはGaudiyのビジョンに近づける」ということを目的とした、一種の参考書なんです。ですので、そのルールに必ず従わなければいけない、ということではありません。
それを破ったとしても成功する人がいるのであれば、それ自体をProtocolのナレッジとして貯めていくべきなんですね。
ただ、こうしたものが一切ない状態では、人間が人間を教育しなければならないし、何か失敗をしたときにその責任を人間に持たせなければいけない。Protocolがあることで、ある種、失敗について組織への他責が認められているんです。
それは法やルールというよりは、「Gaudiyという組織はこうあってほしい」「こういう会社でありたい」という思いの表れだという感覚です。
藤原 僕は、Protocolはまさにカルチャーを作る取り組みだと思っています。いま、空気のように存在しているカルチャーを、さきほどのIssue Boardのようなものを使って可視化して、エンジニアリングできるようにする。
いま認知してるカルチャーを、どんどん統合することで教典として貯まっていく。ルールではなくて、攻略本のような位置づけだと感じています。
「こういうときにはこういうことをすると、事業は前に進むよね」「クライアントさんやファンが喜んでくれるよね」ということを貯めていくことも含めた、広い概念だと思っていますね。
そして「Protocol Issue Board」を運用していく上では、ユーザーである従業員の体験をとても大事にしたいと思っています。例えば「Protocolは書き換えちゃいけないものだ」と思った瞬間に誰も参加しなくなってしまうと思いますので、誰でも見られる、触れる、という体験をしっかりとつくっていきたいですね。
自社だけではなく、社会全体のナレッジとしてProtocolを育てる
石川 今後、組織が拡大していくと、ある程度のルールもできていくので、この「Gaudiy Protocol」はより精緻化されていくんだろうなと思っています。
また、人数が増えれば分業の視点も出てくると思います。ここも実はGaudiyのプロダクト側で行っていることと似ているのですが、コミュニティが複数あるので、実験がすごくやりやすいんですね。
サービスがひとつだと何をするにも影響範囲が大きいですが、そうではなく特定のコミュニティだけでPDCAを回すことができる。Gaudiyの組織が拡大していく上でも、分権された小さなチームで実験をして、うまくいったものを他のチームでも採用するといった形で、徐々に新しいProtocolを展開していけるのかなと。
藤原 分業も、やり方を誤ると、普通の階層組織になりかねないリスクはありますよね。ですので、そこも「個人に権限をひもづける」形にならないように抵抗していかなければと思っています。
例えばこのProtocolの理解度によって、Fandom担当と、DAO担当と、New Standard担当…という形で裁判官的な役割を任命するといったこともあるかもしれません。
このProtocol作りの仕事自体もまだまだ始まったばかりで、ようやく最低限の仕組みが出揃った段階です。今後は、もっとイシューを書きたくなったり、一緒にProtocolを作りたくなったり、といった従業員の体験のところまでしっかり迫っていきたいと思っています。
石川 僕はいまの社会全体として、自律分散的に、より一人ひとりがやりがいを持って動けるようなDAO的な働き方が求められるようになってくると考えています。
その前提の中で、Gaudiy Protocolもブロックチェーンのようにどんどん世の中に公開していきたいですね。Gaudiyだけのノウハウにするのではなく、社会全体の生産性を上げられるような一種の理論まで落としていくことが、僕たちが目指す世界感や、社会の実現につながっていくと考えています。(了)