• 株式会社shiftbase
  • 代表取締役
  • 中野 裕介

DAO的コミュニティで「個人の選択肢」を追求する。web3の学び場「UNCHAIN」の想い

web3時代の到来により、私たちの働き方も大きく変わろうとしている。例えば、DAO(Decentralized Autonomous Organization)という組織形態が広がることで、世界中の誰もが好きな場所で好きな時に働ける時代がやってくるかもしれない。

ソーシャルトークン(※)を活用したコミュニティプラットフォームの開発を主軸事業としながら、web3エンジニアコミュニティ「UNCHAIN」を運営する、株式会社shiftbase。2022年7月にはシードラウンドで総額3.1億円の資金調達を実施するなど、今注目を集めるweb3企業だ。

※DAOにおいて報酬として支払われるデジタル通貨のことで、受け取ったトークンは他の仮想通貨に交換したり、コミュニティ内での特別な権利として機能する場合が多い

UNCHAINは、Discord上にコミュニティを形成しており、用意されたいくつものweb3に関する実践型プロジェクトをP2P(ピアツーピア)で学ぶことができる。現時点で1,100人が参加するなど、エンジニアを中心に大きな注目を集めるDAO的コミュニティだ。

UNCHAINでは、学びを活性化する仕掛けとして、学習後には学習証明証としてのNFTが発行され、学習履歴が可視化される。また、学びへの貢献に対して独自のソーシャルトークン「$CHAI(チャイ)」が獲得できるなど、コミュニティ内の学び合いへの貢献度も明らかにされている。

shiftbaseの代表取締役に就任した中野 裕介さんは、このDAO的コミュニティの運営について「参加者に『当事者性』をもってもらうことが重要」だと語る。

具体的には、コミュニティのミッション・ビジョン・バリュー(以下、MVV)を明文化することで、参加者が自ら自分の意思や価値観と一致するかどうかを検討できるように。加えて、意思決定のプロセスに透明性をもたせ、常に誰もが意見を出せる環境を整えておくことで「当事者性」を育んでいるという。

そこで今回は、中野さんと同社の前代表である志村 侑紀さんにshiftbaseの創業の背景から、UNCHAIN誕生の裏側、コミュニティ運営における工夫まで詳しくお話いただいた。

「ソーシャルグッド」への近道を探し、shiftbaseを創業

志村 私は東京で生まれて16歳で渡米し、しばらく海外で研究職に従事し心理学を学んでいました。ただ、心理学を学ぶ中で、そもそも「感情」はどこから生まれるのかという深層の部分に興味をもつようになって。

そこで神経科学や機械学習を学びながらハーバード大学で2年ほど研究員として勤務し、その後UCL(University College London)の大学院に進んで博士課程の前期を修了しました。

私が一貫して研究のキーワードにしていたのが「利他的行動」です。具体的には、どうしたら人間はギブし合えるのか、その過程でどうしたら幸せを実感できるのかという点に着目して研究を行っていました。

ただ、研究職はどうしても足が長く、社会実装までに距離があります。コロナ禍をきっかけに日本に帰国したのですが、より早くソーシャルインパクトのある仕事に就きたいと思い、株式会社EmpathというAIのスタートアップ企業に就職しました。

そして1年ほど勤務した後に、研究職時代からのテーマである「利他的な行動を通じてコミュニティがどう幸福に向かうのか」に改めて着目しようと、2022年の2月にshiftbaseを共同創業しました。

中野 僕は新潟県で生まれて大学進学と同時に上京し、マスコミ業界を目指して就職活動をしながら、並行してNPO法人の立ち上げを行っていました。

僕は母子家庭で育ったこともあり、同じ境遇の学生さんに向けて、無料で家庭教師を派遣する活動をしていて。同じ志をもつ大学生が20〜30人ほど集まってくれたこともあり、ソーシャルグッドな活動ができていると思っていました。

ただ、当たり前なんですが、お金が回らなくて(笑)。持続的な運営のためには、解決したい課題にコミットしながらも、コントリビュートしてくれた人に報酬が発生する仕組みが必要だと身をもって実感しました。

その経験を通じて、マスコミ業界で発信側になるよりも、問題解決の当事者でありたいという思いが強くなったんです。ただ、当時はマスコミ業界に進むと思っていたので路頭に迷ってしまって。

そんな中で転機になったのが、フィリピンへの短期移住です。現地で驚いたのが、日々「どう生きるか」という次元で過ごしている人の多さたるや…。

その文化資本と経済資本の貧しさを同時に解決できないかと考えた結果、事業をゼロイチで創って雇用を創出できれば、結果として文化も醸成できるのではないかと考えました。

そうして、まずは自分が事業を創れる人間にならなければと思い、新卒で株式会社デジタルガレージに入社し、その後転職したEmpathで志村に出会い、共同創業に至りました。

▼【左】中野さん 【右】志村さん

主役は「個人」。選択肢を増やし、その人らしく働ける社会へ

中野 shiftbaseは僕と志村を含めて4人で創業しているのですが、よく会話のテーマになるのが「市民対個人」の話です。

基本的に人は共同体に属しているため、「市民」として日常を過ごしています。例えば、企業に勤める人であれば、その組織で意思決定権をもつか否かに関わらず、そこで働いているというアイデンティティをもってコミュニケーションをしていますよね。

けれども、僕たちがより注目したいのは「個人」の方です。本来、個人は強い力をもっていて「こうありたい」「これをやりたい」といった願いをオーナーシップをもって実現できるはずなんです。ただ、これまでの社会ではそれがうまく加速されてこなかった。

あくまでも主役は「個人」であるということ。その点において僕たちは深く共感していて、個人の選択肢を豊かにし、その人がその人らしく生きられる社会をつくりたいという想いを掲げてshiftbaseを創業したという背景があります。

志村 今後、20代、30代の人たちは一つの会社で勤め上げるということが少なくなると思っています。転職を繰り返してある程度技術を磨き上げたら、好きな場所で好きな案件をとって仕事をする人が増えるのではないでしょうか。

こうした時代背景を踏まえ、より「個人」に特化したダイバーシティを重視すべきだと考えていて。これまでは個人が1対1、あるいは1対企業という構造でギブしてきましたが、働き方を柔軟にするエコシステムやサービスがあれば、1対nという形で色々なプロジェクトに属することができます。

そして国内に留まらず、世界中の人と繋がることができれば、日本の経済活動にもポジティブな影響を与えられるのではないかと。

実は、起業を志した当初は、海外での創業も検討していました。けれども、国外に一度出てみたからこそ感じる日本の良さがたくさんあって。例えばご飯が美味しいとか、四季が綺麗だとか、事件性が少ないといったことも素晴らしいですし、だからこそ日本をより魅力的な国にしていきたいと思うようになりました。

P2Pで学び合いを加速するコミュニティ、「UNCHAIN」とは

志村 昨今、日本国内でもweb3関連のニュースをよく見かけるようになりましたが、まだまだweb3領域で活躍できるエンジニアが不足しているのが現状です。

そこで、私たちのアセットを活用して提供できる価値がないかを模索する中で、2022年2月に立ち上げたのがweb3エンジニアコミュニティの「UNCHAIN」です。

UNCHAINは、「未知の世界を楽しもう。まずはみんなで一緒に手を動かそう。」をコンセプトに掲げていて、web3の世界で挑戦するすべての人に、アイデアを形にするためのリソースを提供することを目的としています。

Discord上にコミュニティを形成しており、「LEARN(学習)」「GUILD(共同開発)」「INCUBATE(事業創造)」の3つの価値を提供しています。それぞれについて説明していきます。

まず、「LEARN(学習)」ですが、学習環境としてプロジェクト型の学習コンテンツを用意しており、P2Pで学べる場を提供しています。

現在は12種類のプロジェクトがあり、Solidity、Rust、Reactなどの技術スタックを活用して、MVP(実用最小限の機能をもつプロダクト)を開発し、実際にブロックチェーン上にdAppを実装するところまでを学ぶことができます。

そして、各プロジェクトをクリアすると学習履歴のエビデンスとして機能するNFTを取得できます。2022年7月時点で、すでに300枚以上が発行されていますね。また、Discord内にはNFTを複数枚もっていないと入れないチャンネルも設けられています。

▼UNCHAINで学べる学習コンテンツ(上)と、発行されるNFTの学習証明証(下)

また、コミュニティトークンの「$CHAI(チャイ)」を発行しています。例えば、メンバーの質問に回答したり、学習コンテンツに対してフィードバックを提供してくださった方などに付与していて、学び合いを加速する仕組みとして活用しています。

二つ目の「GUILD(共同開発)」については、アーティストのスプツニ子!さんや、幻冬舎のweb3専門メディア「あたらしい経済」さんと一緒にプロジェクトを立ち上げています。

また、スポットコンサルのような形で、NFTのプロジェクトを立ち上げたい人や既に資金調達を行ったプロジェクトに対してメンバーがサポートで入ることもあります。

最後に、「INCUBATE(事業創造)」については、ちょうど7月の上旬にTokyo Hacker Houseというハッカソンが行われ、UNCHAINから21のプロジェクトチームが発足し、うち1つのプロジェクトがBest NFT賞を受賞しました。

▼Tokyo hacker HouseにてBest NFT賞を受賞した「metaplants」チーム

MVVを明文化し、参加者に「選んでもらう」コミュニティへ

中野 UNCHAINを立ち上げてから3ヶ月ほどが経った時点で、ありがたいことに累計1,000名ほどの方にエントリーしていただきました。そのうち8割は既にweb2のエンジニアとして活躍されていた方で、web3の技術スタックを学べる環境を求めてエントリーされたという方が多い印象です。

その一方で、ビジョンに惹かれてエントリーしてくださった方も一定数いるのですが、その背景にはコミュニティ立ち上げ期の情報発信が影響しているのかなと思っています。

というのも、UNCHAIN立ち上げの際、Twitterで告知してから約3日間で500人の方にエントリーいただいたんです。その時点で、累計エントリー数の半分ですから凄いですよね。

エントリーいただいた方々については、最初から一気には招待せず、7個ほどのグループに分けて段階的に招待させていただきました。

そして、新しい方が入られる度にMVVを明文化したNotionを読んでもらうことに加え、僕たちが「与える人が報われる」共同体を目指しているということを繰り返しDiscord上で伝えていきました。

▼UNCHAINのNotionページ

発信方法にテクニカルなものは特に無くて、シンプルに泥臭く、機会がある度に発信し続けてきましたね。振り返るとそれしか方法がなかったように思います。

すでにコミュニティ内では、誰かが「わからない」と声をあげると他のメンバーが教えてくれる空気感が作られています。なので、初期に参加した方の中でも、僕たちの想いに共感してくださった方が残ってくださっていることで文化が醸成されてきたのだと感じますね。

志村 MVVについては、初期の頃から明文化するように心がけていました。というのも、UNCHAINに合う人は合うし、合わない人は仕方ないと思っていて、常に参加者側から「選んでもらう」コミュニティであるためのブランディングの一環として捉えていたからです。

私の研究テーマに繋がるのですが、人間が何か行動を起こした際に幸せを感じるパターンは二つあるとされていて。自由意志の元に動いたという実感がある場合と、たとえ強制されたとしても自分の価値観に合っている場合です。これは、DAOの在り方にすごく似ていると思うんです。

ドイツの社会心理学者、エーリッヒ・フロム氏が著書「自由からの逃走」で述べているように、人はルールや制約のない「自由」な状況下では方向性を失ってしまい、広がるけれど収束できない状況になってしまうので、ある程度の規範は必要なんですね。

つまり、このMVVが規範として機能していて、共感する人が自分の好きなタイミングでコミュニティ内で活動できる仕組みを設けたという点が、UNCHAINの設計において最も工夫した点です。

「あなた」として人と向き合い、共にコミュニティを育てる

中野 MVVの明文化がコミュニティ運営において一つポイントなのに加え、さらに重要なのが運営側の「言動の一致」だと思っています。

口ではどれだけ良いことを言っていても行動が伴わなければ人は離れていきますし、掲げたMVVはある種の約束だと思っていて。彼らがやりたいことや実現したいことをどれだけ応援できるのか、それぞれの想いがUNCHAINにどう反映されるのかといった点は、常に見られている感覚で運営しています。

そしてコミュニティに所属する方々と向き合う際に気をつけなければならないのが、「あなた」と思うのか「それ」と思うかの違いです。

これは経済学者、カール・マルクスの「資本論」に通じるのですが、本書の中で労働者は「人」でありながら「商品」でもあると解釈されています。これをコミュニティに当てはめるならば、メンバーは「同じミッションを実現するための仲間」つまり「あなた」として向き合うことが重要だということです。

今はまだ、「shiftbaseが運営するUNCHAIN」という印象が強いと思うのですが、今後はコミュニティのメンバーになるべく主導権を握ってもらって、徐々にshiftbaseというコンテクストを排除していきたいなと。

そこで必要なのが、マネジメントコストを極力下げつつ組織を推進させるための「当事者性」です。

マネジメントという要素はweb2でもweb3でも、組織がある程度大きくなったらやむを得ず必要ではありますが、その中で多くの組織が困っていることは「当事者性がないこと」に起因していると思っています。

例えば、いわゆる「指示待ち人間」と化して自発的に動くことが少なかったり、責任感が弱く人に任せ気味になったり、何かと自分を優先して保身に走ったりという問題があるかと思います。

そこでshiftbaseでは、組織の方向性と責任の所在だけを明確にして、他は自由にすることで当事者性を持ってもらうようにしています。今はインターン生も含めて20名ほどの組織なのですが、上下関係のないフラットな組織運営を目指しています。

この仕組みが徐々にワークしてきているのですが、それには、意思決定のプロセスに透明性を担保している点が大きく寄与しているのではないかと思います。一般企業では役員会やマネージャー内の会議の議事録などは基本的に公開されないと思うのですが、僕たちは原則オープンにしています。

つまりUNCHAINでも、透明性を設けてメンバーが常に意見を言える環境を整え、一緒にコミュニティをつくっていくんだという気持ちを維持できる組織を目指すべきではないかなと考えています。とはいえ、今は透明性を持たせるタイミングを模索している段階で、まだ実現には至っていないのが現状です。

「富める者が富み続ける社会」からの脱却を目指して

志村 資本主義を否定するつもりはありませんが、現存するビジネスの多くは人件費をなるべく削減して利益を確保しようとするものが多いと感じています。けれども、「富める者が富み続ける社会」ではなく、実際に手を動かしてコントリビュートした人が報われる社会を目指したいと思っていて。

そのために、UNCHAINのようなコミュニティのなかで、お互いにギブし合い、コミュニティが盛り上がることで保有しているトークンが流動性の高いストックオプションのようなものになる仕組みを確立していきたいです。

現在のUNCHAINはエンジニアの方に特化していますが、将来的には、デザイナーさんやライターさんなど、手や体を動かしながら働く他の職種の方々にもインセンティブを還元できるエコシステムを構築したいなと思っています。

そのような世界が実現できれば、ギブする人たちは高単価で質の良い仕事を得られるようになり、企業にとっても良い人材と繋がることができてwin-winの関係が築けるのではないかと期待しています。

中野 世の中には学習コンテンツが溢れており、誰でも安価で良質なコンテンツへと一定程度アクセスができるようになった一方で、「誰と学ぶのか」という共同体の選択機会はいまだに制限されています。文化資本の格差を是正するためには、個人が「誰と学ぶのか」を自由に選べる状態を構築していく必要があると考えています。

私たちは「個人の選択肢を豊かにし、自分らしく生きる人が増える社会を実現する」というミッションに本気で挑戦するための自由と責任を、今回のラウンドで出資を決めてくれた投資家の皆様から賜りました。

自分達が捉えた理想の尊さ、現実との乖離に葛藤する日々と実直に向き合い、地に足つけ、頭雲抜けるよう、前へ進んでいきたいです。(了)

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