• モノバンドル株式会社
  • 代表取締役社長
  • 原沢 陽水

情報のネットワークを育てる。アトミックデザインに基づいた、Web3.0時代の組織論

モノバンドル_web3.0時代の組織論

コロナ禍により加速した、グローバル規模でのパラダイムシフトにより、ビジネスモデルに関わらず働き方が多様化した。このような、企業を取り巻く変化が激しい時代に設立され、これまでにはなかった組織運営にチャレンジする企業も多く存在する。

NFTの発行を効率化するインフラサービス、「Hokusai」を展開するモノバンドル株式会社はそのひとつだ。同社は、2021年の6月に創業し、設立当初からフルリモート体制で組織を運営してきた。

同社CEOである原沢 陽水さんは、自社を「情報化時代の組織」と称し、グローバル規模での非同期的なコミュニケーションを前提とした、合理的で生産性が高い組織を実現している。

具体的には、UIデザインなどで活用される「アトミックデザイン(※)」の考え方を組織に転用し、業務や組織「テンプレート」を作成。各業務を細分化した上で、各自の権限を明確にし、意思決定スピードを向上させているという。

※アトミックデザインとは、デザインパーツを、原子<分子<有機体<テンプレート<ページの5段階に分類し、最小の要素から組み合わせることでWebページを作成するUIデザイン手法のこと。

さらに、業務の効率化を目的とするエンジニアチームがビジネスサイド・コーポレートサイドも含めた各チームに常駐。さまざまな業務フローを自動化することで徹底的に無駄を省き、選択と集中を図っているという。

原沢さんは「人ではなくネットワークを育てることで、年齢や性別など関係なく優秀な人が活躍できる組織を実現できる」と話す。

今回は原沢さんと、同社でCTOを務める樽見 彰仁さんに、モノバンドルのユニークな組織づくりについて、詳しくお伺いした。

コロナ禍中に創業し、NFTを簡単に発行できるサービスをスタート

原沢 僕は元々、ブロックチェーンのリサーチャーをしており前職ではCOOを務めていました。そして、2021年の6月に日本モノバンドル株式会社を創業し、先日「モノバンドル株式会社」に商号を変更しました。

樽見 私は、5年ほどフリーランスエンジニアとしてブロックチェーンを開発していました。2021年にはブロックチェーン受託開発の会社を立ち上げましたが、同年の3月に原沢と出会ってモノバンドルの立ち上げに参画し、現在はCTOを勤めています。

▼【左】原沢さん 【右】樽見さん
同社は社員証をNFTの画像で発行しており、Twitterのアイコンなどにも利用している。

設立当初は、NFTを販売するマーケットプレイスをつくろうとしていました。ただ、その開発にはブロックチェーンの専門的な技術が必要で、一般的なエンジニアスキルを持つ人々にとってはハードルが高いのではと感じていました。

原沢 加えて、当時は、NFT領域においてShopifyやPayPalのようなマーケットプレイスの立ち上げを後押しするサービスがほとんど存在しないことに気づき、「Hokusai」の開発に至りました。

Hokusaiは開発者・事業者向けのNFTインフラサービスです。NFTを発行するために必要な暗号資産が不要なため、発行にかかる時間を短縮し、Web3の技術に触れずともNFTビジネスを簡単に始められることが強みです。

2022年のお正月にはHokusaiを用いて「NFT福袋2022」という企画が、Twitterを通じて集まった有志の人々によって実施されました。この企画はさまざまな分野で活躍する7名のクリエイターのNFT作品を買い付け、福袋として販売したものです。

この企画の発足は12月29日というお正月の直前だったのですが、APIの発行がスムーズだったことも寄与し、3日間でNFTプロジェクトとして完遂することができました。

NFT福袋は最終的には1つ2万円ほどの価値まで上昇し、販売開始から40分で完売。さらに、販売終了後もNFT購入者や様々なクリエイターがDiscordコミュニティに集まり、活動の発信が強化されるなど、様々な動きが生まれました。

▼実際に販売されたNFT福袋は販売開始から40分で完売

情報は「血肉」。ネットワークを育て、意思決定スピードを上げる

原沢 モノバンドルは現在、業務委託のメンバーを含めて40名ほどの組織で、フルリモート体制で勤務しています。

ここ数年の間に、ブロックチェーン市場はビットコインに始まり、大きく拡大してきました。世界ではDAO(※)も数多く立ち上げられ、インターネット上のコミュニケーションを前提としたビジネス環境が整いつつあります。

※DAOとは、「自律分散組織」と訳され、株主や経営メンバーなどの中央管理者が存在せず、組織に所属する人々によって、ミッション実現のために自律的に運営される組織のこと

僕たちも参画しているブロックチェーン領域のビジネスにおいて、インターネット上の「情報」は血肉に等しいもので、事業の成長スピードを大きく左右します。

グローバルで生き残っていくためには、フルリモートでメンバーの地理的分散を図りながら、オープンにされた情報を元に各人が意思決定を迅速に行い、組織が24時間回るような体制が必要です。

そこで参考になるのが、「NCW(ネットワーク中心の戦い)」と呼ばれる軍事コンセプトです。これは、指揮命令系統を守りながら、情報がリアルタイムに組織に行き渡るような仕組みを作り、意思決定スピードを上げるという考え方です。この考え方をベースに、創業時から「情報化時代の組織」を目指してきました。

樽見 具体的に、日々の業務は、Notion、Slack、Discordの3つのツールを使って行っています。社内のすべての情報はNotionに集約し、Slackはプロジェクトごとに情報を集約させるために使っていて、Discordはバーチャルオフィス的に活用しています。

▼指揮命令系統を元に、Notionも構造化されている

社内の情報は基本的にフルオープンにしていて、各会議の議事録はもちろん、経営戦略や経営課題、個人の承諾を得た場合は1on1の内容まで、すべて公開しています。

なかでも特徴的なのは、全員の給与を公開していることです。会議は基本的にコストが高いので、メンバーの時給から会議の単価を計算できるようにし、できるだけ無駄なコストを減らすようメンバーには意識してもらっています。

原沢 一般的な企業では「人を育てる」といいますが、情報化の時代ではこのように情報をオープンにして「ネットワークを育てる」方が、結果、人が育つと思っています。年齢や性別も関係なく、優秀な人であれば自ら情報を取りにいって活躍してくれますからね。

組織に「アトミックデザイン」を応用し、業務の再現性を高める

原沢 さらに、情報をオープンにするだけではなく、責任と権限を明確にし、迅速な意思決定を補助するフレームワークとして、UIデザインで活用される「アトミックデザイン」の考え方を組織に応用しています。

アトミックデザインについて簡単にお伝えすると、Webページを小さい方から「原子」「分子」「有機体」「テンプレート」「ページ」の5段階に分類した、デザイン設計のフレームワークです。

▼アトミックデザインの考え方(※SELECK編集部で作成)

これを組織に当てはめると、「原子」は期日や金銭的リソース等、「分子」はスプリントやワークフロー、「有機体」は業務全体、「テンプレート」は業務や組織のテンプレート、そして「組織」は個別具体の組織を指します。

経理や労務のように会社によって差がない業務ほど分解してテンプレート化しやすく、それらを共有することで各チームの業務を効率化できます。

▼業務をパーツ化し、「Atomic Organization Parts」としてまとめられている

▼Partsの一例(Devチームのスプリント)

また、テンプレートを作成する際に、誰がその業務を担うのかも明確にしています。チームで働くと余ったボールを拾いにいく人が必ずいますが、それらはすべて仕組みのせいにしてテンプレートを更新していきます。

樽見 この作業は、基本的には各部門・チームに任せていますが、加えて「ロジスティックス」というチームを社内に設け、業務のデジタル化も行っています。つまり、「組織をつくるエンジニアメンバー」が存在しているようなものです。

つい最近では、採用フローが自動化されました。他にも、お問合せへの対応や口座の入金通知なども自動化しています。

▼採用フローの自動化について、原沢さんが投稿されたツイート

このように、全社的に組織を改善しているので、それぞれの課題やナレッジを共有する場として、メンバー全員が参加する「組織会議」も毎週実施しています。

原沢 アトミックデザインの考え方を組織に応用したことで、社内のプロジェクトや、新規部門の立ち上げにかかるスピードが格段に早くなりました。さらに、エンジニアに関しては業務委託メンバーの入れ替わりが多いものの、業務を細分化したことによって、スムーズに開発を進められています。

「フラットな組織」は正義じゃない。ヒエラルキーをあえて活かす

原沢 僕たちの組織は「フラットな組織だね」と言われることもあります。けれども実際は、ある程度ヒエラルキー的に権限を分散していますし、その方がハレーションが起きづらいと考えています。

確かに、「自律分散の組織です」と言ったほうがかっこいいんですよ(笑)。けれども、ティールやホラクラシーといった組織論もありますが、人間の理想と現実に乖離があると思っていて。

ビットコインの動きを見ていても、やはり「人間」が運営しているんだなと思いますし、結局人間はサル時代の習性を受け継いでいて、ヒエラルキー的な階層構造からは逃れられないんですよね。だからこそ、人類共通の習性を拒絶するよりも活かした方が得策だなと思います。

樽見 これまでの取り組みを通じて業務が効率化され、組織としてはうまく機能するようになりました。ただその一方で、メンバーのメンタルや感情の部分がケアできていなかったと感じるシーンも増えてきていて。

よって、今後は組織に「余白」をもたせ、自発的なコミュニケーションが増える仕掛けを整えていきたいです。それらがモノバンドルのカルチャーを形成していくのではと思いますが、余白をどこまでもたせるか、のバランスがなかなか難しいんですよね(笑)。

原沢 この点に関しては、正直、金銭的なインセンティブがしっかり設計されていれば仕事は回るものだと思っていました。しかし、面白い仕事ができればお金はそんなに要らないという人が多いことに驚き、大きな反省でしたね。

最近はメンバーが徐々に増えつつあるので、僕と樽見で組織全体をみるのにはそろそろ限界があるなと。なので、一人ひとりの「何をやりたいのか」にもっと向き合いながら、マネジメント体制を整えたいです。

加えて、ブロックチェーン領域ではグレーな部分もまだまだ多く、何でも実現できてしまう怖さがあるため、倫理観のある組織を目指していきたいです。(了)

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