- 株式会社ユーザベース
- 代表取締役社長(共同経営者)
- 稲垣 裕介
「カルチャー専任」チームの設立も。ユーザベースの、迷いなく挑戦できる組織の作り方
〜「PL責任者がすべての意思決定をする世界を目指す」「情報のオープン化で、全員が自ら『動いて変えられる』組織を」創業10年目、ユーザベースの組織づくりとは〜
2008年の創業後、SPEEDAではアジア、NewsPicksではアメリカ市場にも進出し、新規事業も生み出しながら順調な成長を続ける株式会社ユーザベース。
海外に5拠点を設け、グループ社員数は現在300名を超えているが、その組織をひとつにしているのが「経済情報で、世界をかえる」という同社のミッションだ。
その達成のため、ユーザベースでは共通の価値観(バリュー)として「7つのルール」を定義。
また、ミッション・バリューを社内に浸透させるための「カルチャーチーム」の設立、マネージャー以上の給与のオープン化を行うなど、各自が自由に意思決定できる基盤を作ってきた。
そうした取り組みにより、現在5つの事業を抱えながらも、「自由と責任」のバランスを保った組織づくりに成功している。
今回は同社で代表取締役社長(共同経営者)を務める稲垣 裕介さんと、コーポレート本部で担当執行役員を務める松井 しのぶさんに、創業期からの会社づくりについて、詳しくお話を伺った。
現在300名。幾度も「組織の壁」を乗り越えてきたユーザベース
稲垣 僕はもともとエンジニアで、創業から3、4年はデータベースの構築などを中心に行っていました。
その後、海外進出をしたあたりから、会社全体のエグゼキューションと、組織文化、チームビルディングといったことにコミットするようになりました。
2017年3月からは、株式会社ユーザベースと株式会社ニューズピックスの代表取締役を務めています。
ユーザベースは、海外のグループ会社も含めて現在およそ300名の組織です。創業からこれまでに何度か「組織の壁」を乗り越えてきています。
その度に、社内制度の整備や、カルチャーの浸透といったことに取り組み、組織の一体感を醸成するために努力してきました。
松井 私は2013年の2月に、組織が70名ほどだった時に入社しました。現在は、経理財務を除くコーポレート部門を管轄させていただいています。
ユーザベースは、コーポレート機能をもつ本体と、5つの事業(SPEEDA、NewsPicks、FORCAS、entrepedia、新規事業)から成っています。
海外にもSPEEDA事業で上海・香港・シンガポール・スリランカ、NewsPicks事業ではニューヨークに拠点があります。
そのすべての基盤となる最低限のインフラや、バリュー、ミッション、共通の価値観といったものは、全社共有で用意されています。ただそれぞれの運用は、各会社・事業の執行役員の裁量に任されているという形です。
例えば全社で共通しているものは、評価制度です。評価会議では、役員全員が集まって話をします。
そうした「締める」部分を持ちつつ、それ以外を自由とすることで、「自由と責任」を両立させているのが弊社の特徴のひとつかと思います。
文化の基準を言語化したことで、「言葉のパワー」が再認識できた
稲垣 組織カルチャーということで言うと、最初の取り組みは「経済情報で、世界をかえる」というミッションと、「7つのルール」というバリューを作ったことです。
当時は社員が30名、アルバイトや業務委託を含めても50名ほどの組織でした。
背景としては、まず、役員だけで人を見るには規模的な限界が来ていたことです。全員、実務も抱えていたので、価値観のズレによって社内が「混乱の極み」状態になっていて。
例えば役員が少しでも厳しい判断をすると、「経営陣がおかしくなった」みたいな噂が立ってしまったり…。
僕は割と対話をするタイプなので、社員と話をしに行くのですが、個々のバックグランドも違うので簡単には擦り合わないんですよ。
「これはダメだ」と思って取り組んだのが、ミッション・バリューを作るということでした。
いわゆる「文化の基準」というものを、一度言葉にしてみようと。そこで経営陣3名で、普段から大事にしていることをバーっと喋っていって、それを外部のコピーライターさんにまとめていただきました。
ただ僕自身、会社員の時にミッションやバリューというものを意識していたわけでもなかったので…。やってはみたものの、果たしてこれに意味があるのか、という不安はあったんです。
ですが、それを全体に発表したあとの飲み会で、皆がその言葉の意味や、会社の文化について話していて。
それを見て、すごいと思ったんです。言葉というもののパワーを、再認識した部分がありましたね。
松井 7つのルールは、これまで一度も文言が変わっていないんですよ。去年、変えようかと経営陣で真剣に考えたのですが、どれもピンと来なくて、結局元サヤに収まりましたね。
稲垣 もともと無理に作ったものではなくて、シンプルに、普段から言っていたことを改めて言葉にしたんですよね。それが良かったのかな、と思います。
松井 ミッション・バリューの浸透に関しては、「がんばって浸透させている」という意識はないんですよね。ただ、小さい仕掛けを色々と作ってきたところはあると思います。
例えば新しく入った人向けに、経営陣から創業以降のストーリーや7つのルールについて1時間語ってもらう、という取り組みはずっとやっています。
また、評価制度の中にも組み込まれていますし、毎年作っている「イヤーブック」では、7つのルールを題材としたコンテンツを設けています。
自分な好きなバリューや、どんな人がバリューを体現できていると思うか、といったことを書いてもらっているイメージです。
ミッション・バリューを「正しく」浸透させる「カルチャーチーム」
稲垣 7つのルールの次にあった大きな変化は、100名を超えたあたりで設けた「カルチャーチーム」です。
当時はどちらかというと、7つのルールが強過ぎるフェーズだったかなと思っていて。原理主義的に、「皆がそれを守らなければいけない」みたいな窮屈感がありました。
組織的には、社員が70名ほどだった時に、一気に70名を採用して140名まで拡大したんです。それによって経営陣と社員の距離が離れてしまい、逆に言葉が強くなり過ぎてしまった部分がありました。
松井 例えば「バリュー違反だ」といった言葉が、まるで武器のように使われてしまうことがあって。そう言われてしまうと、「私、悪いことしたの」という感じで萎縮してしまいますよね。
稲垣 カルチャーチームの機能は、主にリクルーティングとミッション・バリューの正しい浸透です。メンバーとしては、社内でも「エース級」の人材をアサインしています。
前者に関しては、そもそも僕たちのミッション・バリューにちゃんと合った人材を採用しないと、あとあと大変じゃないですか。この部分に関しては、過去に失敗もあったので、今は「迷ったら採用しない」ということが共通認識です。
後者は、今あるチームにミッション・バリューを浸透させることが役割なので、そのためのシステム面や研修、合宿などの設計を行います。
ベンチャー企業で早い段階からこういった役割を設けるのは、珍しいかもしれないです。
しかし僕たちとしては、バリュー経営というものを大事にしていくことのシンボルになるものだと考えたので、あのタイミングで作りました。
役割として定義することで、社内向けにも社外向けにも、メッセージとなる部分があると思っています。
最優先するのは事業のPL。組織文化の醸成より難易度が高いのは…?
稲垣 このように組織文化を作ることに投資をしてきましたが、やはり組織を作る上で基本となるのは、PLです。文化を作ることより、PLに対しての責任をしっかりと果たせる状態を作るほうが、難易度が高いと思っています。
組織が小さい時は、社内で何か問題があった時の社員とのコミュニケーションも、ほとんど取締役3人でやっていました。
ですがそうすると、事業の話ができないんです。経営会議でも人の話ばかりしている状態だったのですが、それって、本当に危険な状況なんですよね。
事業が成り立たなければチームも崩壊するので、やはり事業を優先することが、組織を大事にすることだと思っています。
そこで執行役員制度を導入し、もう少し事業に関するコミュニケーションがしやすいように、組織の構造を変えました。
目指しているのは、PLに責任を負っている人が、全ての意思決定をしていく世界です。ですので、組織の中でより多くの人がしっかり意思決定できる状態を作ることを優先しています。
そしてそのためには、色々な情報がオープンになっていることも重要だと思っています。
松井 例えば弊社の場合、評価制度はかなりオープンです。いわゆる等級制度のような「タイトルテーブル」が用意されていて、シンプルにタイトルと給与が紐づいているんです。
そしてマネージャー以上は、どこのタイトルに誰がマッピングされているかもフルオープンになっています。社員全員、稲垣がいくらもらっているか知っています(笑)。
稲垣 本当は、全員分を公開してしまってもいいと思うんですね。ただ、そういった文化はいきなりできるものではないので、段階的にやっています。
と言うのも、ブラックボックスの状態は、「誰かが決めている」ということなので、意思決定しない世界だと思うんです。逆に全てが見えていれば、違和感があれば自ら発信して変えることができますよね。
このように、「一緒に思考する側に回る」ためには、情報はオープンでなければいけないと思っています。
「オープン」に自己開示することが、組織に信頼感をもたらす
松井 また弊社では、「オープンコミュニケーション」を非常に大事にしています。この場合の「オープン」というのは、思ったことや感じていることを素直に伝える、という意味合いです。
オープンコミュニケーションができないケースは、やはり何か「言えないこと」があるんですよね。それは大抵ネガティブなことなので、溜め込んでいると前に進めません。
ですので、コミュニケーションにはかなりの時間を使っています。特に評価の時期は、マネージャーの時間はほとんどチームメンバーとの対話に使われていますね。
稲垣も、ニューズピックスの代表に就任した当時は、1ヶ月ほどかけて50名ほどのメンバー全員と1 on 1ミーティングをしていました。
稲垣 オープンコミュニケーションということで言うと、僕自身はとにかく「自己開示すること」を大切にしています。自分のことを伝えなければ、相手もなかなか内にあるものを出してくれないと思っているので。
飲み会なんかも、リクエストされれば絶対に行きます。飲み会はシンプルに時間が長いので、30分のミーティングに比べたら、ずっとお互いのことがわかりますよね。
また最近では、2週間に1回、全社員が集まる「みんなの会」で、役員が持ち回りでメッセージを発信するという取り組みをしています。僕に関しては先日、「36歳の初めて」という題材で、自分の挑戦について話をしました。
僕の人生で一番のチャレンジは起業なのですが、2番目は去年、社長になったことなんです。
36歳という僕ぐらいの年でも、また、社長という立場になっても挑戦している、挑戦というものが人の成長を一番引き出すものになる、ということを皆に伝えたくて話しました。
私自身もそうでしたが、挑戦の量と幅が、その人の成長を決めると思っています。
より権限委譲を進め、柔軟に意思決定できる基盤とカルチャーをつくることで、社員全員がコンフォートゾーンを越えて迷いなく挑戦できる組織をつくっていきたいですね。(了)
チームを目標達成に近づけるロボアシスタント
当媒体SELECKでは、これまで500社以上の課題解決の事例を発信してきました。
その取材を通して、目標を達成し続けるチームは「振り返りからの改善が習慣化している」という傾向を発見しました。
そこで「振り返りからの改善」をbotがサポートする「Wistant(ウィスタント)」というツールを開発しました。
「目標達成するチーム」を作りたいとお考えの経営者・マネージャーの方は、ぜひ、チェックしてみてください。