• 株式会社アジケ
  • 代表取締役
  • 梅本 周作

評価の「辛さ」をどう解決する? 上司と部下の「共通認識」を生む、評価制度の運用法

〜評価は「等級30%・職種別スキル55%・行動指針15%」で決める。等級ごとの役割を明確化した、UXデザインカンパニーの目標管理・評価制度を紹介〜

デザイナーやエンジニアといった技術職を、どのように評価・育成すべきかという課題を抱える企業は、多いのではないだろうか。

2007年に創業した、UI/UXデザインカンパニーである、株式会社アジケ。

同社では2015年の事業変革に伴い、中間マネジメント層の擁立と自立型人材の育成を目指して、経営層が持っていた権限を現場へ委譲することを決定。その過程において、個々の役割の明確化が必要だと感じ、従来の等級制度を見直した。

さらに、「等級」に加えて「職種別スキル」「行動指針」を評価の軸とすることで、事業への貢献度と個人のスキルを総合的に測れる評価制度を運用している。

同社代表の梅本 周作さんは、評価制度は「共通認識を生むためのツール」であり、その設計は「デザイン思考」と同じ、と話す。

今回は、評価制度の仕組みから目標管理の手法までを、梅本さんと、デザイナーチームマネージャーの藤戸 日果里さんに、詳しくお伺いした。

組織としての心機一転を目指し、経営層の役割や権限を現場へ委譲

梅本 僕は、2007年にアジケを創業しました。この社名の由来となっているのは、当時読んだ一冊の本です。

昔から池波正太郎がすごく好きなのですが、とある小説で「最近の若者は礼儀もなってないし粋じゃないから、これから味気のない世の中になっていくだろう」といったことが書かれていまして。

ですが、僕は時代を作っていくのは若い人だと思っているんですよ。なので、これがどうしても受け入れられませんでした。

合理性や効率性も大切だけれど、人間が感動する手触りやゆらぎのような感覚を大事にした「味気ある世の中」を創っていきたい。その想いから、「味気ない」から「ない」を取る形で「アジケ」としました。

創業してしばらくは、幅広くWebサイトの制作を請け負っていましたが、2014年頃から「UXデザインをメインでやっていこう」という方向に事業変革の舵を切ったんですね。

一方で、当時は社員数が増えるとともに若手が増えていたため、組織を成長させるためには次のリーダー層、マネジメント層になる人材の育成が急務でした。

そこで、それまで経営層にあった役割や権限を切り分け、現場に渡していく取り組みを始めたんです。

その過程で、従来の等級や評価の仕組みが組織に合わなくなってきていることに気付き、約2年前に評価制度を見直すことにしました。

権限委譲を行うため、等級ごとに「求められる役割」を定義

梅本 弊社には、デザイナーやエンジニアなどのクリエイターを中心に、現在17名の社員が所属しています。

クリエイターが集まる組織だからこそ、会社を「社員1人ひとりの自立的な成長を促す装置」のようにしたいと考えていて。

一方で、会社としての目標はあるので、社員の向いている方向がバラバラだと困りますよね。なので、会社と社員の目標がしっかり合致する組織にしていくことが大切だと考えています。

これを実現するため、弊社では「情報のオープン化」「現場への権限委譲」「目標管理とフィードバック」を、組織づくりの3本柱にしています。

この内、現場への権限委譲を進めていく上でまず必要だったのが、役割の明確化でした。

以前の等級制度では、グレードごとに「求められる役割」などの定義がなかったため、職種別スキルの高い人が昇級しがちになってしまいまして。

役割に対して何をすべきか? という部分で、会社と個人の意識やスキルが噛み合わないケースが出てきてしまっていたんですね。

そこで、G(ジェネラルマネージャー)、M(マネージャー)、L(リーダー)、S(スタッフ)という4つの等級ごとに、求められる役割とその役割を全うするために必要なスキルを、できるだけ明確に定義しました。

▼等級の一例(SとLのみ抜粋し、画像は編集部にて作成)

例えば、Sであれば「心のマナー」など社会人としての基礎スキルも入りますが、1つ上のLに昇級すると「事業達成力」「傾聴力」「伝達力」、さらにMになると「人材育成力」などが加わります。

このように明文化することで、「次の等級に上がるにはこの能力が足りていない」とか、この等級では「こうした役割を求められている」といったことが、お互いにわかりやすくなりましたね。

現場のマネージャーが、職種別スキルの評価項目を定義する

梅本 等級はあくまで「役割」を測るものなので、他にも「会社のミッションに貢献しているか」「専門のスキルが伸びているか」といった観点も、評価においては重要だと考えています。

そのため、弊社の査定評価では、等級30%、職種別スキル55%、行動指針15%という割合で、総合的な評点を算出しています。

等級は全社に共通する指標ですが、職種ごとに必要な専門スキルが大きく異なるため、これだけでは不十分で。そこで、職種ごとのマネージャーに、スキル項目とその内容を定義してもらいました。

藤戸 私は、5名から成るデザイナーチームのマネージャーを務めています。会社のミッション・ビジョンを軸に、デザイナーとしてどのようなスキルが求められるか? を定義しました。

私たちはUXデザイン事業を通じて、「クライアントの中長期的なサービス成長」を支援していきたいと考えています。

なので、いくら「かっこいいデザイン」を作ったとしても、クライアントのサービス成長に貢献していなければ、評価は伸びません。

クライアントの想いやサービスのユーザー、ビジネスモデルを深く理解し、そのサービスに必要なデザイン工程をきちんと組み立てること。またプロジェクトによっては、一度出したアウトプットをより良く改善していくというスキルが必要です。

ですので、デザイナーの評価項目には技術力を測る項目だけでなく、例えば「理解力」「提案力」といった項目も、必要なスキルとして定義しました。

▼デザイナーの6つの評価項目(画像は編集部にて作成)

また、各項目は10点満点で評価されるのですが、等級ごとに「要求レベル」というものを定めています。

例えば、「理解力」というスキルに対する要求レベルは、Sで3点、Mで7点、L以上で10点といった形で、この数字の定義も明文化しています。

これを定めることで、「この等級の人にはこのレベルのスキルを求めたい」という会社の期待値を伝えることができています。

評価制度は、お互いが「共通認識」を持つためのツール

藤戸 一方で、「自分の評価は正しいのか」「メンバーが不満に思っていることはないか」といった評価者としての悩みは、やはり尽きないですね。

特にデザイナーですと、プロジェクト別で担当業務が分かれているので、「日常の中で何をやっているのか」が把握しづらいんです。

そこで年1回の査定面談だけでなく、月に1回、チームメンバー全員と1on1を行い、日頃の業務や目標に対するアクションなどを確認するようにしています。

また、案件が終わるごとにKPTを実施して、何ができて何ができなかったのか、次はどのようにするか、といった振り返りも行っています。

というのも、やはり日頃からのコミュニケーションや振り返りがないと、お互いに納得のいく評価はできないと思っていて。

定量的な評価をする上では、そもそもメンバーがどういった業務でどんなアウトプットをしているかを理解することが、納得感に繋がると考えています。

梅本 僕は結局、評価する側の人も辛いと思うんですよ。評価って、したくないと思うんですよね。

なので、会社の評価制度は「お互いの共通認識を持ってもらうためのツール」だという風に考えていて。

例えば、被評価者の人が「よくできた、100点だと思います」と言ったアウトプットに対して、評価者の人が「ちょっと違うんだよな」という感覚を持つことってよくあると思うんです。

その「ちょっと違う」の認識を擦り合わせるための手助けとして、等級や職種別スキルといった定量的な評価と、1on1などの定性的なサポートを上手く使ってもらえればと考えています。

OKRは「月次」で管理し、個人の成長サイクルを早める

梅本 また、弊社では個人の成長サイクルを早めるため、昨年から月次の目標管理をスタートしました。

全社の目標管理はOKR(※)で運用しているので、会社から事業部、事業部から個人へと、目標(O)と重要指標(KR)を落としていき、個人の目標設定をしています。

※OKRに関する詳細記事はこちら

目標管理シートを活用して、月次で振り返りを行うことで、個々人の課題の洗い出しや次アクションの実行が早くなりましたね。

▼実際の、月次目標管理シート

藤戸 一方で、デザイナーの仕事は、月次での目標管理が難しい部分もあって。重要指標である「サービスの成長に貢献しているか」という点は、中長期でしか測ることができないんですよね。

そのため、目標に対する振り返りの場では、アウトプットに対するフィードバックだけではなく、「どうやってデザインしたのか」「どのように考えたのか」といったプロセスを聞くようにしています。

梅本 この目標管理を始める以前は、リーダー以下の人材育成が組織としての課題だったのですが、今ではその人たちが主体となるプロジェクトが少しずつ出来てきました。

藤戸 足りないスキルに対する認識や、それに対してどのように取り組んでいるのかということが継続的に共有されるので、成長が可視化されているなと感じますね。実際に1年前と最近の内容を比べると、1人ひとりのレベルアップも実感できます。

梅本 まだまだ試行錯誤中ではありますが、そういう意味では成果が少しずつ見え始めているかな、と感じています。

クリエイターを育て、「シームレスなUXデザイン」をしていきたい

梅本 実は、こうした評価や育成に関する制度設計も「デザイン思考」と同じだと思っていて。わりと失敗する前提で色々取り組んでいるんです。

もしダメだったら、半年や1年でチューニングしていけばいいという思想で運用しています。

また今後は、大きく2つのことに挑戦していきたいと考えています。

ひとつは、「クリエイターが事業を生み出すような会社」にしていきたいと思っていて。それを社内から実現していくため、最近始めたのが「新規事業制度」です。

この制度では、各自のアイデアを起案して段階的な審査を通過すると、プロジェクトや事業などのステージに応じた予算が割り当てられます。

第1回目では、5つほど案が出てきたのですが、カスタマージャーニーマップやプロトタイプを使ったりして、どれもなかなか面白い提案でしたね。

もうひとつは、UXデザインカンパニーとして、今後は「シームレスなUXデザイン」により注力していきたいと考えています。

実際に昨年、あるリハビリ施設事業立ち上げの支援を依頼されたことがありまして。

リハビリをされる方が、具体的にどういう風に既存の制度やサービスを使っているのか、どのような課題があるのかをヒアリングした上で、店舗設計からWeb集客までを担当しました。

認知から始まり実際に店舗でプログラムを終了してもらうまで、各タッチポイントをつなぐことに意識を置いたサービス全体のUXデザインを経験したのですが、これがすごく面白かったんですね。

今後はより一層、Webとリアルの隔たりなく「サービス全体のユーザー体験をデザインする」ということを軸に、全社で取り組んでいきたいと思っています。(了)

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