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保育現場のリアルな声を起点に。社会課題の解決に挑む、ユニファの事業開発プロセス

保育現場のリアルな声を起点に。社会課題の解決に挑む、ユニファの事業開発プロセス_SELECK

SDGs—人権、経済・社会、地球環境などの問題を解決するための「持続可能な開発目標」の重要性が語られるようになって久しい。

日本が抱える社会課題もより一層深刻化する中で、社会課題をビジネスの手法を用いて解決するソーシャルビジネスが注目されていることは言うまでもない。

同時に、よく議論に挙がるのが「社会課題の解決と経済性は果たして両立できるのか」という問いだ。このテーマに対して、真摯に向き合い続けてきた企業がある。それが、テクノロジーの力で保育や子育てに関する社会課題を解決するユニファ株式会社だ。

同社は2013年の創業以来、保育ICT・研修サービス「ルクミー」を通じて、子育ての領域における社会課題の解決を目指してきた。現在、サービス導入件数は累計で13,000件以上累計調達額も約88億円を突破。

「家族の幸せを生み出すあたらしい社会インフラを世界中で創り出す」というパーパス(存在意義)を軸に事業領域を広げ、現在では14ものプロダクトを擁する組織に成長した。

ユーザーから支持され、導入件数を着実に伸ばしている秘訣として、同社は「独立した事業部による新規事業開発の体制づくり」と「顧客起点の事業創出」を挙げた。

今回は同社のビジネス本部・事業開発部で新規プロダクトの立ち上げに携わる嘉数 啓(かかず けい)さん、小澤さくら(こさわ さくら)さんに、どのように事業を着想し、どのような意思決定を経てサービスを具現化しているのか、お話を伺った。

公共性の高い保育業界において、持続可能なサービス提供を目指す

嘉数 私は8名いる事業開発部の部長代理として、新しいサービスや事業の立ち上げを担当しています。

もともと私はコンサルタント出身です。仕事は本当に楽しくて、これまでさまざまなクライアント企業とご一緒してきました。ですが、だんだんと事業会社側で自ら意思決定を行う立場に移りたいと考え始めて。

「子どもに楽しく働く姿を見せたい」と思ったこともあり、ちょうどその頃にご縁があったユニファに入社しました。

小澤 私は2021年10月に入社し、事業開発部でtoBサービスの新商品開発に携わっています。これまでは2社でtoC向けWebサービスのマーケティングや企画職に長く携わってきました。

途中、事業責任者として事業立ち上げに携わったときの面白さが忘れられず、サービス開発をする立場を目指してキャリアチェンジを決断し、現在に至ります。

私は現在子どもが2人おり、保育園にずっとお世話になることで仕事を続けてこられました。ですので、子育てにおける課題解決を目指すユニファの事業にとても共感しています。保育関係者向けのサービスに携われていることも、うれしいですね。

▼【左】小澤さん【右】嘉数さん

保育現場のリアルな声を起点に。社会課題の解決に挑む、ユニファの事業開発プロセス_SELECK嘉数 ユニファは、2013年に創業した、保育や子育てに関わる社会課題を解決するチャイルドケアテック領域のスタートアップです。「家族の幸せを生み出すあたらしい社会インフラを世界中で創り出す」というパーパスを掲げています。

小澤 特に都心部で働きながら子育てしている人たちにとって、保育施設はまさに社会インフラであり、育児における大切なパートナーだと思います。保育施設と家庭をつなぐプラットフォームを作れないか、という問いからサービス化したのが「ルクミー」ブランドです。

保護者へ保育施設での日常の様子を写真や動画で伝えられる「ルクミーフォト」をはじめ、保育施設向けの総合ICTサービスとして、フォトとヘルスケア、保育施設の運営サポートの三つのカテゴリーで、合計14のプロダクトを提供しています。

嘉数 私たちが向き合う保育業界は、とても公共性の高い事業領域。とはいえ、関わるすべての人を幸せにするためには、ビジネスとして持続可能な形にしていかなければなりません

事業として成果をあげつつ、ユーザーに価値提供をするバランス感覚をメンバー全員が持ちながら仕事をしていると思います。

事業開発をスピーディに行うため、専任部署を立ち上げ

嘉数 我々が所属する事業開発部は、前身の新規事業室を引き継ぐ形で2020年頃に立ち上がりました。

既存サービスが成長するにつれて、組織も大きくなっていきます。その中で新しい事業を作っていくとなると、やはり意思決定のスピード感が落ちてしまう。そこで、新規事業のミッションを持った部署として独立させるという形を取ったんです。

もともとユニファは大きく3つの組織に分かれています。営業やカスタマーサクセス、オペレーション、事業推進、事業企画などビジネス職が所属するBiz本部、エンジニアやPdMを擁するDev本部、人事総務・経理・法務などバックオフィス担当のコーポレート部門という形です。私たち事業開発部は、その中のBiz本部に所属しています。

Dev本部には、開発チームだけでなくデザインチームもあり、プロダクトを一気通貫で作れる体制になっています。

保育現場のリアルな声を起点に。社会課題の解決に挑む、ユニファの事業開発プロセス_嘉数さん小澤 さらに、Dev本部にはPdMが所属する部が独立した形であります。そこに複数のPdMがいて、外部パートナーさんのご協力をいただきながら、プロダクトごとに専任の担当を置いているんです。

嘉数 一方で事業開発部は立ち位置がやや独特で、PdMは自チームの中に置いています。これは、やはりスピード感を担保したいからです。自分たちが意思決定のハンドリングをできるように、このような形で体制が落ち着きました。

とはいえ、もちろん既存プロダクトとの連携は欠かせません。特に、PdM部をはじめとするDev本部とは密にコミュニケーションを取りながら新規事業の企画・開発を進めています。

現在、事業開発部として取り組んでいるのは大きく二つの領域です。一つは、保育現場向けの自社プロダクト「ルクミー」シリーズの新機能の検討。そしてもう一つが、保護者向けサービスの立ち上げです。

既存事業の保育施設向けのビジネスを拡張させつつ、保護者向けのサービスで各家庭にも直接アプローチをしていきたいと考えています。

事業開発は、とことんユーザー起点。「生の声」を大切に

嘉数 新規事業のタネはいたるところに存在するものですが、それを発見し、育てていくことが私たちのミッションです。

発見方法は、大きく三つあります。一つ目は、ユーザーさんへの定点観測的なニーズの調査から。二つ目は、「ルクミー」の販売パートナーでもある商社さんとの情報交換から。三つ目は、カスタマーサクセスやオペレーターに寄せられた生の声からです。

特に大切にしているのは、やはりユーザーさんの声ですね。プロダクトの導入から使い方のレクチャーまで伴走する中で、私たちはユーザーさんとの接点をたくさん持っています。その中から、新機能や新しいサービスのアイデアが見つかることがほとんどです。

小澤 ユーザーさんの声でいうと、最新テクノロジーを活用した子どもの安全・保護者の安心・保育業務の負担軽減を目指す次世代型保育園「スマート保育園・幼稚園・こども園構想」の実現に向けて協業している「モデル園」さんの存在も大きいです。

まだまだアナログな業務の進め方が根強く残っている点に課題を感じ、「変わりたい」とICT化へのお気持ちを強く持ってくださっている保育園・幼稚園さんはやっぱり多くて。

そういった施設にモデル園となっていただき、ルクミーを使っていただきながら、詳細なヒアリングや導入検証をお願いしています。現在は、全国で12ヶ所のモデル園がありますね。

嘉数 ですが、抱える課題やペインの種類は保育施設の数だけあります。業務フローや運用方法は、幼稚園と保育園でも全く異なりますし、園児数が20名ほどの小規模園と200人規模の園では状況が異なるのも当たり前ですよね。

だからこそ、「プロダクトを誰に向けて作るか」という意思決定の優先順位づけは悩ましくて、社内でもよく議論になります。そういう場合は、譲れない「核」となる部分を築いたうえで、調整していくほかありません。

小澤 事業開発部は8名ほどの少人数組織なので、保育園・幼稚園さんからうかがったお話を必要なメンバーで共有しながら意思疎通ができています。

嘉数 会社全体としても、ユーザーの声を大事にする姿勢は一貫していると思います。

例えば、Dev本部の開発メンバーも、新しいプロダクトの開発段階で「ユーザーがどのような課題を抱えているのか、生の声を聞きたい」という思いを強く持っており、実際に、カスタマーサクセスや営業と連携してインタビューに同席したり、保育園に訪問して1日のスケジュールや業務の流れを見学しに行くこともあります。

事業に関わる全員から、積極的に現場を知りに行こうとする姿勢を感じます。これは、新規事業でも既存事業でも変わらずユニファが大切にしている、「顧客起点」のスタンスが表れていると言えるのではないでしょうか。

保育現場の業務効率を改善する新プロダクト「ルクミー園モール」

小澤 2022年7月には、「ルクミー」の新サービスとして「ルクミー園モール」をリリースしました。これは、帽子や文具などの保育用品の注文や、遠足などにかかる行事代の支払いといったこれまで「紙と現金」でやり取りされていたものを、オンラインで完結できるサービスです。

▼「ルクミー園モール」

ルクミー園モール嘉数 園さんにとって、現金の管理業務は細心の注意を払わなければ保護者の方々とのトラブルにつながりやすく、時間的にも精神的にも負荷が高い業務です。そのペインを解消したいと考え、サービス化に至りました。

また、事前に調査したところ、保護者からのニーズも非常に高いことがわかったんです。園児の親世代は、日常生活においてキャッシュレス化が当たり前になりつつあります。非接触で注文や集金のやり取りができるという、時代の流れにも合った価値を提供できると考えています。

小澤 今までと同様、プロダクトの開発段階ではユーザーの声をたくさん集めました。リリース前には、複数のモデル園さんにお声掛けをして、テスト導入も行いました。

保育現場のリアルな声を起点に。社会課題の解決に挑む、ユニファの事業開発プロセス.003小澤 例えば、そこでいただいたご意見をもとに追加したのが、「選択必須」の機能です。帽子に日除けが付いているかいないかなど、2種類以上のパターンの中から一つを必須で選択してもらったり、ご兄弟姉妹のおさがりを持っている方向けに商品選択を任意にしたり。

実際に園さんがどのように注文を受け付けているのか、販売方法を詳しく聞いたことで必要な機能だとわかりましたね。

嘉数 ただやはり、園さんによって求める機能も違ったりするので、難しいですよね。ですので、N1としての顧客分析は非常に大事にしながらも、必ず再解釈を行って、具体的なユースケースに落とし込んだ上で機能を開発しています。

顧客の課題を解像度高く知ることで、新しい事業がつくられる

小澤 プロダクト開発においてベストな優先順位づけや意思決定をするために、ユーザーとどのようにコミュニケーションを取っていくかは、正直今も試行錯誤の日々です。

意識しているのは、業務プロセスの中で「どうして困っているのか」という背景を聞くこと。「この画面でこれを見られるようにしたい」と要望をいただいた際には、どういう場面で確認が必要になるのか、毎日必ずやらなければいけないのか、などさらに詳しくヒアリングしていきますね。

私は今までtoCサービスに携わることが多かったので、「自分が利用者になったとしたら…」とイメージしながら仕事ができました。ですが、例えば「保育現場での集金業務を、誰がいつどのような流れで行っているのか」は、最初は全く見当もつきませんでした。

そこで、実務担当の方に直接お話を伺う中で、どのお悩みの温度感が最も高そうかを汲み取るのも大切だと感じましたね。顧客の課題に対する解像度が高まるほど、ニーズにフィットしたプロダクトを提供できるはず。今後も「顧客起点」の事業・サービス作りを第一にしたいと思います。

嘉数 そうですね。園の先生方、保護者の方々には、これからもきめ細やかなヒアリングを行っていくつもりです。

私は、会社のパーパスである「家族の幸せを生み出す」という志が好きで、心から共感しています。現在は保育現場向けのサービス提供がメインですが、子どものご両親やご家庭にも直接アプローチできるような事業もなるべく早く具現化していきたいですね。

小澤 並行して、新たなビジネスモデルやスキームも生み出せればと考えています。「ルクミー」シリーズは、いわゆるSaaSとしてサブスクリプション型で月額料金をいただく仕組みです。

ゆくゆくは外部との事業提携など、アライアンス戦略も取っていけるとサービスの可能性がもっと広がるのではないでしょうか。園さんも、やはりすごく潤沢な予算があるわけではありませんので、よりリーズナブルかつ便利に使っていただけるようなビジネスモデルを育てて、より多くの人々に愛されるプロダクトを提供していきたいですね。(了)

ライター:村尾 唯
企画・編集:舟迫 鈴(SELECK編集部)

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