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新卒技術者の研修、何をすべき? ZOZO開発部門の「チーム開発研修」を通じた全社貢献
エンジニアやデザイナー、プロダクトマネージャーといった、開発領域における専門職のニーズが加熱している。そんな中で、中途だけではなく、その伸びしろに期待して新卒を採用対象とする企業も増加中だ。
とはいえ多くの企業では、専門職という特性から、新卒であってもある程度のスキルや経験値を持つことを前提としている。しかしあくまでも「新入社員」である以上、何かしらの研修や育成の仕組みによるサポートは必要とされるだろう。
2021年10月に、当時は子会社だった株式会社ZOZOテクノロジーズの吸収分割を行い、研究開発以外の全部門を集約した株式会社ZOZO。その約400名からなる開発組織では、2018年から職種別の新卒採用を実施し、累計で100名ほどが活躍しているという。
そして、実際に開発部門に入社したメンバーが、1ヶ月という短い集合研修の半分以上の期間を使って取り組むのが、チームに分かれて実際に「使える」プロダクトを開発するチーム開発研修だ。
例えば22卒のとあるチームでは、「オンラインの社内イベントにおける社員の一体感をより高める」という課題を解決するための、オンラインリアクションツールを開発。同ツールはグループ会社を含む全社員約1,400人が参加するイベントで実際に導入され、現在に至るまで全社朝礼で活用されているという。
今回は、開発部門の新卒採用・研修をリードする藤田 美咲さんと、22卒として研修に参加し、現在はiOSエンジニアとして活躍する荻野 隼さんに、ZOZO開発部門の新卒研修の全体像や狙い、具体的な施策内容、その成果までを詳しくお伺いした。
「チームで成果を出す」観点を大切に、新卒採用・育成に取り組む
藤田 私は新卒でZOZOに入社し、当初は物流拠点であるZOZOBASEで商品管理、アルバイト管理などを担当していました。その後、2018年にZOZOテクノロジーズ(当時)に社内公募制度を利用して異動し、人事としてのキャリアをスタートしました。
現在は主にエンジニアやデザイナーといった開発に携わるスタッフの新卒採用や、内定者のフォロー、入社後の研修を担当しています。
荻野 私は電気通信大学の大学院を卒業し、2022年の新卒としてZOZOに入社しました。入社の決め手は、ZOZOは自分が大切にしているユーザー志向のマインドを持っていて、一番自分にマッチしていると感じたことです。
学生時代には別の会社で長期インターンシップをしていたのですが、そちらではWebの技術を使っていました。ただ、使っていた技術がアプリ開発もできるプラットフォームだったこともあってアプリに興味を持ち、未経験でしたが志望させてもらい、現在はZOZOTOWNのiOSエンジニアをしています。
▼【左】藤田さん 【右】荻野さん
藤田 これまでの実績ベースですと、開発部門に所属する新卒メンバーの配属は基本的に希望に応じて決めています。毎年、入社の4、5ヶ月前のタイミングで各部署に受け入れ可能な人数をヒアリングした上で、配属可能性のある部署から新卒メンバーに部署について説明してもらい、希望を出してもらっています。
そして最終的には面談を行って、本当にその部署が希望ともマッチングしているのかを擦り合わせた上で配属先を決めています。
弊社は「MORE FASHION × FASHION TECH」という経営戦略を掲げていますが、それを加速させていく上で、開発組織の成長は必要不可欠です。
その中で新卒採用や育成においては、技術力の伸びしろや、モチベーション、プロダクトへの貢献意欲の高さ、といった要素に加えて、社内でも大切にしている「チームで成果を出す」という観点を持っているか、といったことを大切にしています。
職種別の新卒採用は2018年から。現在は累計100名が開発組織に所属
藤田 エンジニア、デザイナー、プロダクトマネージャーなどを含めた弊社の開発組織は、現在400名ほどの規模です。基本的にはプロダクト単位で分かれており、「ZOZOTOWNの開発本部の中にiOSチームがある」といった形で構成されています。
もともとは一社の中に開発組織とビジネス組織を置いていましたが、2015年に研究開発チームの新設や新サービス開発の強化を目的に、サービスの運用や技術開発に関わる組織を集約し、スタートトゥデイ工務店(後のZOZOテクノロジーズ)を発足しました。
そして、今後はグループとしての連携をより強める必要性が高まったということで、2021年10月に研究開発以外の全部門がまたZOZOに集約されました。
▼同社の西千葉オフィス
藤田 デザイナーやエンジニアの職種別の新卒採用を開始したのは2018年です。ですので歴史としては割と浅いのですが、これまでの累計で100名ほどが現在の開発組織に所属しています。
開発系の専門職で新卒採用をスタートした背景としては、やはり若い人材だからこその固定概念にとらわれないアイデアや行動で、これからのZOZOのカルチャーを作り、それを継承していってほしいという思いがあります。
また、新卒を採用することで今いるメンバーのさらなる成長を狙えること、ZOZOTOWNのメインユーザーである若年層の方と近い視点を持って、新しいアイデアを生み出してくれることも期待しています。
1ヶ月の人事研修を経て現場へ合流。配属後すぐの「戦力化」が前提
藤田 実際の入社後は、約1ヶ月は人事側で企画した研修を実施しています。そのゴールとしては大きく三つあり、まずはしっかり活躍できる社会人になるための要素を伝えて、主体的に周りと連携しながら働けるよう、マインドをチェンジすること。
次に、配属までに最低限知っておくべきことを伝え、必要なマインドを育てること。そして最後が、自分の業務だけではなく、周囲や会社に対しての理解を深めることです。
この研修の中で、最初の1週間はZOZOで働く上で必要な情報や、ビジネスマナーなど、本当に必要最低限な内容を伝えています。
そして次に、2〜3週間を使って実施しているのが「チーム開発研修」です。これは、開発部門の新卒メンバーだけでチームを作り、実際に社内で使うプロダクトの開発を一通り実践するものになります。
この研修は、社内の技術スタックの選定やエンジニアの技術力の向上をミッションとしている技術戦略部と連携して設計しています。ただ、あくまでも統一研修の位置づけなので、配属後に現場で使う技術を使ってほしい、といったリクエストはせずに、プロダクトに応じて必要な技術も新卒メンバー自身に選定してもらっています。
このチーム開発研修を、本格的にスタートしたのは2020年です。もともと何か明確に課題感があったというよりは、チーム開発だからこその難しさを実体験として持っておいてほしい、これから自分自身が専門職として働くことへの解像度を上げてもらいたい、この経験を通して自信を得てほしい、といった狙いがあって始めました。
加えて、いわゆる「同期」というくくりで何か物事を進める経験は、この新卒研修のタイミングしかないですよね。新卒研修だからこそできることを考えた時に、ただ受け身で話を聞くだけではなく、アウトプットをするような機会を作りたいとも考えていました。
チーム開発研修の終了後は各配属先に合流しますが、半年ほどは各新卒に1人ずつ必ずメンターがついて、業務内・外のサポートやフォローを行っています。加えて、人事との定期面談によるサポートも実施していますね。
ただ、基本的に配属後は何かカリキュラムがあるというより、それぞれのスキルに応じて案件をアサインして、スキルアップしてもらうという流れです。
人事研修が終わって現場に合流するタイミングでは、ある程度のサポートをすれば業務が行える、という前提での採用になっていることが大きいですね。実際、配属されたタイミングから戦力として期待通りに活躍してくれている新卒がほとんどです。
そもそも現状では、学生時代に何かしらのモノ作りをしたことがあるような方を採用の対象にしているので、完全に未経験という方はいません。また、現状はどの部署も人が必要なので、新卒を受け入れることに対してポジティブだということもあります。
何年か新卒を受け入れてきていることもあり、受け入れや教育のノウハウも現場にはかなり貯まってきています。
グループ全体、1,400名で使うツールが研修を通じて開発された
藤田 荻野も参加した2022年度のチーム開発研修では、開発組織の新卒メンバー23名を、3チームに分けて実施しました。
弊社の場合、「フロントエンド◯名、バックエンド◯名」という形で職種別の定員を明確に決めた採用は行っていません。ですのでチーム分けについては、職種や内定者アルバイト経験の有無、スキルなどを考慮した上で、なるべくバランス良くチームを組んでいます。
荻野 22卒の場合は、取り組むべき課題の候補として三つのテーマが提示されました。自分たちのチームはその中から、「オンライン会議におけるリアクションツールの開発」を選んで取り組みました。
実際にやってみて、まず感じたのはオンラインでのコミュニケーションの難しさです。チームメンバー全員が初対面だったこともあり、仲良くなるにも対面以上の難しさを感じました。
こうした関係性の構築についても、完全にチームに任されていたので、お昼の時間やミーティングの後にあえて手を止めて雑談する時間を作るなどの工夫をしていましたね。
その一方で、これまで学生としてやってきた開発とはまた違う、チーム開発のノウハウはすごく学べたなと感じています。今回は社員にヒアリングを行ったり、仕様をすり合わせたり、関連部署と連携したり、といった実務で必要になることを全部圧縮して経験できたことが良かったですね。
また、過去に新卒入社で入った先輩社員がメンターとしてサポートに入ってくださっていたので、本番運用に向けてどう動いていこうか、ここから機能をより良くするにはどうすれば良いか、といった具体的な相談もできました。
最終的には、社内で実施されたオンラインイベントでこのリアクションツールが使われているところをイチ参加者として見たのですが、実際に視聴者同士でのコミュニケーションがその場で生まれていて、すごく面白かったですね。
▼開発したツールを、グループ会社を含む全社員約1,400人が参加するイベントで導入
▼開発したリアクションツールの特徴
- イベント参加者は、「COMMENT」ボックスから自由にコメントを送信することが可能。
- 用意された18種類のスタンプをクリックすることでも、登壇者へのリアクションが可能。
- たくさんのスタンプが連打されることで、イベントの雰囲気を自社らしくさらに盛り上げる。
- 一度限りではなく、他イベント用にカスタムが可能。都度外部契約にかかるコストを削減。
藤田 現在も、月に一度実施している全社朝礼でこちらのツールを引き続き活用しています。単なる研修で終わるのではなく、全社員が使う実用的なツールを開発したことで、多くの社員からのリアクションも得られ、新卒メンバーの大きなモチベーションにもつながったと思います。
売り手市場が加速する中で、学生により情報や機会を提供したい
荻野 あらためて、内定が決まってから入社して配属されるまでを振り返ると、全体を通じてフォローがとても手厚かったと感じています。新卒を大切にしてくれているんだな、と感じることが多かったですね。
特に自分の場合、技術がない中でiOSエンジニアとして配属されるということで、不安もすごくありました。でも、まずは内定者アルバイトを通じて実務をしながら基礎の部分を勉強させてもらえたことで、配属後もスムーズにチームに入ることができました。
また、配属後にはメンターに1on1で不安なことを聞いてもらえたり、人事の方との面談でも不安なことをフォローしてもらえたり。そのおかげもあって、今は配属されて半年ほどですが、チームに馴染んで仕事をこなせているかなと思います。
これまでは技術的な経験不足もあって、受け身と言いますかビギナー感も強かったのですが、これからは周囲に何かを「渡す」側になりたいなと思っています。それこそ、来年度に入ってくる新卒に対しても、今回の経験を踏まえてあげられるものがたくさんあるはずですよね。
藤田 冒頭でもお伝えしましたが、弊社が「MORE FASHION × FASHION TECH」を実現するために、開発組織の成長は必要不可欠なフェーズです。
その点、事業の成長に大きく影響を与えるエンジニア採用や育成に携われることには大きな責任が伴いますが、同時にやりがいもすごく感じていて。私自身は今後も、採用に軸足を置いて会社に貢献していきたいなと思っています。
現状、売り手市場が加速しているので、エンジニア採用がさらに難しくなってきています。こうした状況の中では、やはりZOZOで働くことのやりがいや、成長できる環境であることをまずは知ってもらうことがすごく重要かなと。
採用広報を通じた発信だったり、選考に参加する前のインターンだったり、学生の方が就職活動で会社を選ぶときに必要な情報や機会を企業としてしっかり提供していきたいので、現場のエンジニアや新卒メンバーの知見や知識も借りながら、活動をより加速していきたいですね。
そういった意味で、自分自身も成長する必要がありますし、どんどん挑戦もしていかないといけない。毎年同じことをするのではなく、世の中の変化に合わせて、できることを日々やっていけたらいいなと思っています。(了)