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スタートアップの最適な資金調達法とは? それぞれの特徴や企業の調達実践録を総まとめ
スタートアップにとって、飛躍的に成長を遂げて利益が安定するまでには、適正な資金調達のプロセスが必要不可欠です。
近年では、経済産業省がスタートアップの支援育成プログラム「J-Startup」を立ち上げたり、政府が「スタートアップへの投資額を2027年度に10兆円規模にする」と掲げたりと、さまざまなサポートが強化されつつあります。
しかし、適正な資金供給が行われているスタートアップは、まだほんの一部といわれています。
一時期は、大型の資金調達を実現して事業を急拡大する企業が多く見られていましたが、現在はインフレによる金利上昇に伴って、投資家がスタートアップへの投資を控えるようになったため、「資金調達難」に苦しむ企業も増えているのです。
そういった背景から、かつては資金調達といえば、出資を受けるエクイティファイナンスか融資を受けるかの2択が主流であったなか、今では借り入れによるデットファイナンスやクラウドファンディングなど、新たな手法やトレンドが存在します。
このように調達の選択肢が多いことはチャンスを広げられる一方で、企業ごとに事業規模や業種、ビジョンなどが大きく異なるため、適正な判断が難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、「スタートアップにおける資金調達」の基本情報や、現在主流になっている資金調達方法、国内企業の事例などを詳しく解説します。
<目次>
- スタートアップの投資ラウンド「シード」や「シリーズA」とは?
- スタートアップによる資金調達の主な種類
- 「デットファイナンス」などエクイティに頼らない調達が増加傾向
- 【厳選事例】スタートアップの資金調達ストーリー
- さいごに
スタートアップの投資ラウンド「シード」や「シリーズA」とは?
投資ラウンドとは、投資家がスタートアップに対して出資するフェーズを指し、スタートアップの事業段階によって以下のように分けられています。
- エンジェルラウンド
- シード
- シリーズA
- シリーズB
- シリーズC (以下D、Eと続く)
一般的に、企業がどの段階に属しているのかによって、資金調達を行う方法や目的がそれぞれ異なります。
エンジェルラウンド
最初期の「エンジェルラウンド」は、創業前もしくは創業から間もないため法人化もしておらず、プロダクトやサービスのアイデアのみがある段階です。そのため、資金調達の主な目的は、企業活動を始動させるためのスターティングメンバーの確保や、プロダクトを決定するための調査・研究となります。
資金調達先は、エンジェル投資家やインキュベーター、クラウドファンディングといった選択肢が挙げられます。
シード
「シード」はビジネスモデルの大枠が決定し、サービスや製品のプロトタイプが形になりつつある段階を指します。企業運営や開発に携わるメンバーが加わった場合、新たに人件費の捻出が求められるようになります。また、法人化にかかわる費用、プロトタイプ開発費用などが新たなコストとして挙げられるでしょう。
引き続きエンジェル投資家やクラウドファンディングのほか、ベンチャーキャピタル、日本政策金融公庫などが調達先となります。
シリーズA
この段階になると、すでに企業活動を開始し、プロダクトやサービスを消費者や市場に流通させています。事業規模、販売経路、売上などのさらなる拡大を目指す段階でもあるため、数億から数十億円もの予算が必要となる場合もあります。
また、実際にプロダクトが手に渡った人からのフィードバックを経て、改善と試行を繰り返すための研究・開発費も潤沢に準備しておきたいところです。
ここではベンチャーキャピタルをはじめとした投資家からの出資のほか、企業を対象とした助成金・補助金を受けられるかどうか、条件を確認しておくのも選択肢の一つとして有効です。
シリーズB
企業活動が軌道に乗り、提供しているプロダクトやサービスから得られたフィードバックをもとに改善・再構築をすすめる段階です。ビジネスモデルが確立し始める時期でもあるため、これ以降のフェーズでは地盤を固めるというよりも、中長期的な成長を含めた資金調達が求められるでしょう。
企業拡大には設備投資やマーケティング、より多くの人件費などの支出が必要不可欠となります。また、創業当初に発生した資金の回収も平行して実施しなければならないため、継続的に安定した収益を目指すのが理想的です。
なお、資金調達先はベンチャーキャピタル、金融機関からの融資を受けるなどの方法があります。収益が安定しつつある段階では社会的な信用度も足るという理由で、融資などの審査にも通過しやすくなる傾向にあります。
シリーズC以降
スタートアップの最終フェーズを迎え、継続して黒字経営を実施している段階です。調達額も過去最高の金額になりますが、その分自社の収益も安定しているため、それほど外部からの資金調達が必要にならないケースも考えられます。また、経営状況によっては、上場やM&Aなどさらなる企業成長を視野に入れても良いかもしれません。
シリーズB以前の調達方法のほかには、ファクタリングやシンジケートローン、PEファンドなどが挙げられます。
スタートアップによる資金調達の主な種類
前項にてラウンドごとにさまざまな調達方法を挙げましたが、ここでは主な資金調達の種類と、それぞれが適しているシチュエーションについて解説していきます。
エクイティファイナンス
エクイティ(株式資本)ファイナンスという名称の通り、自社で株式を発行することで資金調達を実行する方法です。借り入れとは異なり返済義務や利息が生じないため、返済の計画を組まずとも資本を入手できる、出資者となる株主からサポートを受けられるなどのメリットがあります。
一方で、返済義務がないということは、出資者にとってはリスクが増大するという側面もあります。具体的には、株主となった出資者は株主総会などで議決権を行使できるほか、配当金の支払いなどのリターンを期待する声も寄せられるかもしれません。この場合、配当金の支払いが最終的には借り入れよりも高くなってしまったという結果に陥ることも考えられます。
そのため、単なる資金の供給元・供給先という関係にとらわれず、出資者である株主とは「リスクを共有する」という理念のもと、企業価値を高める努力を怠らないことが重要です。
なお、エクイティファイナンスを活用した資金調達方法は、以下の4種類に大別されます。
- 第三者割当増資
- 株主割当増資
- 公募増資
- 転換社債型新株予約権付社債
デットファイナンス
「借入金融」とも呼ばれ、金融機関などからの融資や、社債を発行することで資金調達を進める方法です。
エクイティファイナンスとは異なり、他己資本のため最終的には借り入れ分を利子付きにて返済する義務が発生します。一方で、遅延なく完済できれば企業全体の信頼や実績を評価され、より広く資金調達の方法を拡大させやすくなります。
また、むやみに株主を増やす必要もないため、議決権を譲渡するといったリスクの心配もありません。万が一返済が難しくなった場合の担保がある、中長期的なスケジュールで返済の見込みが立っているという経営状況にある企業が向いている手法といえます。
デットファイナンスを用いた方法は、以下に挙げるものが該当します。
- 制度融資
- プロパー融資
- ビジネスローン
- 社債発行
- 私募積
- コマーシャルペーパー
- シンジケートローン
- ソーシャルレンディング
ベンチャーデット
これまで主流となっていた「エクイティファイナンス」と、現在増加傾向の「デットファイナンス」の双方の性質を汲んだ、比較的新しい調達方法です。金融機関から融資を受けるのと同時に、スタートアップは融資元に新株予約権を無償で発行・付与する仕組みになっています。
この新株予約権は、株式を事前に指定した価格で購入できる権利を指します。融資元はスタートアップの成長を見越した金額設定をしておくことで、適切なタイミングで売却すると大きなリターンの獲得が期待できるでしょう。
また、実績や信用面で融資の審査が厳しいスタートアップにとっても、資金提供の機会をより得られやすいというメリットがあります。これは現在の返済能力や担保の有無で判断するのではなく、将来的な企業成長を視野に入れた内容で融資の可否が決定されるためです。
これに加えて、ダイリューション(株式の希薄化)を抑制できるという点も見逃せません。株主を増やして出資を募る必要がなく、融資を受ける際に株式自体の発行は行わないため、既存の株式に対する希薄化の防止につながります。
具体的には、以下の手法がベンチャーデットに含まれます。
- 転換社債
- 新株予約権付融資
「転換社債」がよりエクイティファイナンスの性質に近く、社債の償還はありません。
また、「新株予約権付融資」は社債償還と平行して新株予約権を行使するというもので、どちらを選択するかは資金調達時の企業規模や進捗の度合いなどを参考に進めましょう。
エンジェル投資家
起業から間もないスタートアップやベンチャー企業に対して出資を行う、個人投資家の名称です。「エンジェルラウンド」の由来にもなっており、まだ実績のない企業を天使のように救ってくれる象徴としてこの呼び名がついたとされています。
創業直後の企業に絞って投資をするのは、業績が不透明というリスクばかりが目立つように感じてしまうかもしれません。しかし、エンジェル投資家の最大の目的は、上場した際に獲得できるキャピタルゲインや配当金によるリターンの大きさにあります。
そのため、上場を目指さない方針の企業は、基本的にエンジェル投資家からの出資を受けることは難しいでしょう。
クラウドファンディング
主にインターネット上で出資者を募り資金調達を行う方法です。日本では東日本大震災が発生した2011年頃から国内サービスが増え、新たな資金調達策として急速に広まりました。
プロジェクトの起案は企業や団体だけではなく個人でも可能で、寄付、災害支援、プロダクト制作の援助、テストマーケティングなどさまざまな目的に用いられています。
企業に対する出資を目的としたクラウドファンディングは、「ソーシャルレンディング」「株式投資型」「ファンド型」といったカテゴリに分類できます。
「デットファイナンス」などエクイティに頼らない調達が増加傾向
「STARTUP DB」のデータによると、国内スタートアップによるエクイティファイナンスの資金調達額は、2021年に過去最高に達しています。
その一方で、翌年の2022年になると調達件数・金額はともに前年を下回り、エクイティファイナンス以外の出資による資金調達の活性化が見られました。
2022年は日本をはじめ、世界各国でマクロ経済の環境が大きく転換した年といえるでしょう。
相次ぐ世界情勢の悪化や、主要国がインフレ抑制のために利上げを発表した影響により、スタートアップによる資金調達が難航するケースも少なくありませんでした。さらに、IPOの時価総額が100億円を下回るなど、スタートアップの企業にとっては上場を断念せざるを得ない環境が続いています。
このことから、より安定的な資金調達を実施したいというニーズが高まった結果、デットファイナンスを中心とした多角的な調達方法が注目を集めました。
出資者側としても、以前よりも企業の将来性や成長曲線を厳格に判断する風潮が高まりつつあります。そのため、お互いが高いリスクを負うよりも堅実に資金を確保する手段が選ばれている、というのが現在の日本におけるトレンドとなっています。
なお、2022年以降にデットファイナンスにて資金調達の実施を発表した企業の一例は、以下の通りです。数百億円もの融資を受けた企業もありますが、リスク分散の目的で複数の方法を組み合わせて資金調達を行う企業も目立ちました。
- 株式会社UPSIDER(約467億円)
- 株式会社タイミー(約183億円)
- ファンズ株式会社(約36億円)
- 株式会社10X(約15億円)
- 株式会社Fivot(約10億円)
【厳選事例】スタートアップの資金調達ストーリー
前項でも一部の企業名を挙げましたが、近年国内企業で実施された資金調達の実施例を見てみましょう。具体的な資金調達ストーリーを参考にすることで、自社にとって最適な事業計画を捻出する手がかりになるかもしれません。
スマートニュース株式会社
ニュースアプリ「スマートニュース」を運用しているスマートニュース株式会社は、2021年時点で過去最高額となる251億円のエクイティファイナンスによる資金調達を締結しました。
同社は2014年にアメリカへの進出を果たし、2019年には米国版独自の機能「News From All Sides」の提供などを経て、海外を視野に入れたトピックにも注目が寄せられました。
その結果、日本国内やアメリカをはじめ、欧州やアジア各国を含めたグローバル企業としての成長を特に評価された形です。
株式会社UPSIDER
2022年のデットファイナンス事例において、最高額である467億円の融資を受けたのが株式会社UPSIDERです。同社は主に法人カード「UPSIDER」の発行や、BtoB向け後払いサービス「支払い.com」の運用提供をしています。
2022年10月に発表された実施内容によると、複数の金融機関からの融資およびその追加枠の確保によって資金調達の締結がなされたようです。
サービス開始から約2年でこれほど大規模な融資を受けられたのは、順調な事業拡大の実績のみならず、企業独自で実施しているスコアリング精度の正確さが評価につながったと報告しています。
株式会社タイミー
アルバイト募集サービス「タイミー」を運営する株式会社タイミーも、2022年に183億円ものデットファイナンスによる融資を受けた企業として挙げられます。「働きたい時間」と「働いてほしい時間」をマッチングさせるスキマバイトアプリとして、2018年のローンチから着実に事業を拡大させています。
最も評価された点としては、近年のコロナ禍の環境においても、前年比で4.7倍に及ぶ成長率を記録したという実績の影響でしょう。高い評価を受けた結果は多額の調達金額のみならず、無担保・無保証・新株予約権付与なし・低金利という非常に好条件での融資が締結された内容にも表れています。
株式会社Contact
2022年に設立されたばかりの株式会社Contactは、眼科事業におけるDX化の推進を目指し、在宅・オンライン診療の普及を目指しています。シードラウンドでの資金調達であることから、今回の資金調達を経てシステム開発や新規事業への開拓、現在直面している眼科での課題解決に向けた体制の強化へ充てられるということです。
コロナ禍などによりオンライン診療の需要が拡大していること、その一方で眼科によるオンライン診療の事例が少ないことから、新たな事業・ビジネスチャンスの創出への期待値の高さが出資者のコメントからも伺えます。
投資家による企業評価が厳格化している中、この事例のように、新たな視点を感じさせられるビジョンの策定やプロダクトの創出によるアピールが、投資家との縁をつなぐ鍵といえるかもしれません。
ここからは「資金調達の裏側」として、過去にSELECKで取材した2つの記事をご紹介します。
株式会社アンドパッド
クラウド型建設プロジェクト管理サービス「ANDPAD」を2016年より展開する、株式会社アンドパッド。同サービスは現在、約39万人の建築・建設業界の従事者に利用され(※2022年11月時点)、また組織としてもベトナム法人の設立をはじめグローバルに開発体制を拡大するなど、右肩上がりの成長を続けています。
そんな同社は2022年9月に、シリーズDラウンドにおいて海外の機関投資家を中心に総額約122億円の資金調達を実施したことを発表。同時に公開した資金調達の目的と使途および今後の展開を示す「ANDPAD Second Act」と併せ、大きな話題となりました。
同社の取締役CFOを務める荻野 泰弘さんは、今回の資金調達の特徴はその目的が「単なる運転資金の確保」に留まらず、「カテゴリーリーダーとして業界を牽引していくための成長」にあることだと語ります。しかし同時に、マーケット環境が不安定な中での調達は苦労の連続でもあったそうです。
本記事では、そのような状況下にあっても同社が投資家に支持された4つの理由と、意図的に海外の機関投資家を招き入れたCFOとしての狙いといった、通常は語られない資金調達の裏側を詳しく伺っています。
シリーズD・122億円調達の裏側。アンドパッドが海外投資家に支持された4つの理由-SELECK-
2015年に創業し、サービスを提供するための市場すらほぼ存在しない段階から累計33億円の資金調達を実現したIdein(イデイン)株式会社。
同社は、「エッジAIプラットフォーム」という領域で、画像や音声などの解析技術を用いて、実世界にある様々なデータを自動で収集・分析するプラットフォーム「Actcast」を開発。現在では小売業や製造業を中心に、累計登録台数は15,000台を突破し(※2022年7月現在)、国内No.1シェアのエッジAIプラットフォームへと急成長を遂げています。
本記事では、創業5年で33億円のリスクマネー投資を得たことで、ピボットせずに邁進できたという同社の資金調達の裏側に迫りました。
資金調達を担当された方は経験があると思うのですが、「どうしてこの技術はIdeinさんでは実現できて、Googleでは真似できないんですか?」といった問いかけも多いですよね。どの企業もそこを説明するのに非常に苦労されているように思います。
その質問に対してどう答えたかですが、前提として我々のプロダクトの場合は非常にニッチで、「Raspberry PiのGPU」というプロセッサ向けのコンパイラ技術が一番のコアになっています。
なので、「まず、世界中で私たちと同じことを実現できる人物をおおよそ把握しています。その上で、その人たちは別々の企業に散らばって異なる事業に従事していて、当面は弊社と同じ技術には取り組まないことが分かっています」といったようにお答えしていました。(本文より抜粋)
投資家「Googleがそれをやらないのはなぜ?」市場ゼロから33億を調達したIdein社の裏側-SELECK-
さいごに
今回は、スタートアップの資金調達をテーマに、具体的な調達方法から各社の事例までをご紹介させていただきました。
国内のみならず、国際情勢にも大きく左右されるスタートアップの調達市場。今後も大きな変化があった際には情報をアップデートしてきたいと思いますので、参考にしていただけますと幸いです。(了)