• ライター
  • SELECK編集長
  • 舟迫鈴

【連載:成長組織のリアル】専任人事ナシ、リファラル70%。Ubie社が向き合うスタートアップ採用の最前線

Ubie様_ゆめみ様_seleck

【Sponsored by 株式会社ゆめみ】本シリーズ「リアリスティック・ジョブ・プレビュー(以下、RJP)」は、「企業が『リアルな現状』を語ることが素晴らしい」という世界を作ることで、採用のミスマッチを減らしていきたいという思いから生まれた特別連載企画です。

急成長スタートアップ組織の実態について、良い面だけではなく課題も含めた「ありのままの姿」を、インタビューを通じて深堀りしていきます。

インタビュアーを務めるのは、急成長スタートアップの内製化支援を行うと共に、RJPを以前から推進している株式会社ゆめみ 代表取締役 片岡 俊行さんです。

第2弾となる今回は、Ubie株式会社の共同代表取締役である久保 恒太さんにお話を伺います。

Ubieは「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」をミッションに掲げ、2017年に創業。気になる症状から関連する参考病名と適切な受診先を調べられるアプリ「AI受診相談ユビー」や、医療機関向け業務効率化サービス「AI問診ユビー」を展開しています。

累計調達額は44.8億円を達成し、創業4年で130名を有する組織に成長した同社ですが、実は「採用」に大きな課題感を抱えているのだといいます。

リファラル比率70%ゆえの苦悩」「資金調達と採用のタイミング」「医療=慈善団体のように思われるけれど実は…」同社がいま向き合う課題とその解決法について、詳しくお話いただきました。

※本シリーズの第1回記事はこちら:「30人の壁は甘くない」カミナシ社の現在地をお聞きしました

▼▼▼ゆめみ社が提供するスタートアップ向け内製化支援サービスはこちら▼▼▼

Sponsored by ゆめみ株式会社

順調に事業を拡大するも、起業家として「思っていたこと」とは乖離が

久保 私はもともとエムスリーでエンジニアをしていたのですが、在職中からUbieの裏側にあるAI問診のコアエンジンの開発を始めて。3〜4年かけて起業の準備をし、2017年にUbieを創業しました。

現在、「AI問診ユビー」は全国47都道府県、400以上の医療機関での導入を達成しました。また「AI受診相談ユビー」も先日MAU200万を達成したところです。

▼気になる症状から病気と対処法を調べることができる「AI受信相談ユビー」

AI受信相談Ubie

片岡 順調に成長されていて、素晴らしいですね。

久保 ありがとうございます。でも「もともと思っていたこと」と「実際に到達したところ」には、実はけっこうギャップもありますね。

片岡 そうなんですか? ギャップというと?

久保 例えば「AI問診ユビー」はSaaSモデルのビジネスなのですが、SaaSって、スケールするのになかなか時間がかかるなと。

特に医療機関の中でも規模の大きな施設へ提案するには、営業組織も必要ですし、ハイタッチのコミュニケーションをしっかりと取ることが求められます。スピード感を重視するスタートアップの起業家が追い求めているものとは、乖離があるなと感じますね。

他にも技術的な側面ですと、そもそもセキュリティの観点からインターネットにつながっていない医療機関は少なくありません。そこにクラウドやAIが前提とされるサービスを導入しようとすると、かなり大変なんですよね。

▼Ubie株式会社 共同代表取締役 久保 恒太さん

Ubie株式会社_久保 恒太

片岡 そうですよね。そんな中で、事業的なブレイクスルーを感じられたタイミングや出来事はありましたか?

久保 ひとつは、大きな大学病院さんでの導入ができたこと。それから、医療現場でも働き方改革が求められるようになったことはとても大きかったですね。問診の効率化もマストになっていったので、ビジネスとしてはかなりの追い風になったと思います。

まだリーチできていない層がいる。採用のリファラル比率70%には課題も

片岡 Ubieさんと言えば組織形態もユニークですよね。0→10フェーズを担うUbie Discoveryさんと、10→100を担うUbie Customer Scienceさんに分かれていらっしゃると。

Ubie DiscoveryとUbie Customer Scienceでは、カルチャーや採用基準も全く異なるんですよね。

▼同社の組織構造(こちらのスライドより抜粋)

Ubie_ふたつの組織

※同社が組織を分割した背景については、こちらの記事もぜひご覧ください。

久保 そうですね。今日は私が見ているDiscoveryの方を中心にお話できればと思いますが、そちらが現在90人ほどで、Customer Scienceが40人くらいです。

片岡 創業から4年で、130名の組織。Ubieさんは採用もとてもうまくいっているイメージがあります。

久保 いえいえ、とんでもないです。むしろ採用が本当に辛くて、辛くて(笑)

片岡 (笑)

久保 社内では、なんとか頑張ってこの規模にまで到達した…という意識はあるんですが、まだまだですね。

片岡 ここまではどういった感じで人数が増えてきたんですか?

久保 最初の12、3人目までは、スタートアップあるあるで全員ほぼリファラル採用でした。実はいまも、Discoveryでは約70%がリファラル採用なんですよね。

背景としては、最初にリファラルで優秀な方がどんどん入ってきてくれたことで、結果的に「合う人しかいない」ということが、Ubieの福利厚生のひとつと言えるくらいになっていったんですよ。

価値観が似ていて、コミュニケーションが楽な人しか社内にいない、という状態ですね。ただ多様性という観点から見ると、逆にここは課題でもあるのですが…。

片岡 リファラル70%は、すごい数字ですね。うらやましく感じられる会社さんもいらっしゃるのでは。

久保 どうなんですかね…リファラルはこれからも推進していきたいですが、一方で、やはり近距離の人にしか出会えないという課題もあります。

片岡 人のつながりと言っても濃淡があるので、「リファラルできるくらい濃いつながり」となると自然と限られてしまいますよね。

▼【左】株式会社ゆめみ 代表取締役 片岡 俊行さん

久保 Ubieの場合、最初はエムスリーやリクルート出身の人が多かったですね。そういった意味で、まだリーチできていない人が採用市場に結構いるだろうな、と思っているんです。

他の企業さんでスケールしているスカウトやエージェントといったチャネルも開拓して、もっと遠いところにいる優秀な方にもリーチしたいのですが、なかなかうまくいっていなくて。

片岡 全く新しい業界の人がひとり入社するだけでも、一気に変わったりしますよね。そういう意味ではスカウトをうまく活用して、カジュアル面談だけでも来てもらえれば、そこからつながっていくかもしれません。

久保 色々な施策を試してはいるのですが、結局、リファラルの人のほうがアトラクトしやすく、カルチャーマッチもしやすい。社員の誰かが激推ししている人だと、やっぱり見方もアドバンテージがつきやすいですよね。実際に選考通過率にも差があって。

ただ一方で、論理的に考えると、遠い人と近い人とで別にスキルの差ってないはずなんですよね(笑)

片岡 たしかにそうですね(笑)

久保 なのでやはり採用のプロセスも含めて、うまく変えていかないといけないなという課題感を持っています。

「専任人事は置かない」現場の全員で採用するメリット・デメリット

片岡 Ubie Discoveryさんは、ホラクラシー(※)で運営されていて、専任人事の方も創業からずっと置いていないんですよね。

※人ではなくロール(役割)に権限を移譲する、組織運営の形態。詳しくは、Ubie社のブログもご参考ください。

Ubie_組織構造

久保 そうですね。最初から意図したというより、自然とそうなっていった感じです。「誰が採用活動するの?」となって、現場のメンバーや、実際にそのポジションの方を求めている人が動くようになったんですね。

いまでも専任人事を置いていない理由としては、大きく3つです。ひとつは、「人事が連れてくる人」よりも、現場で実際に欲しい人にアクセスして採用までする方がよりマッチングを判断できること。

次に、全員が採用活動や組織づくりにコミットすることで、言い訳ができなくなること。「人事が連れてきたから」といった責任転嫁ができないので、やはりコミットメントが高くなると思います。

そして最後に、現場が「自分で採用するしかない」となることで、noteなどの発信のような、社員一人ひとりの活動が外に出ていくこと。それが結果的に、外からは魅力的な会社に映る部分もあると思います。

こうした好循環が回っているので、専任人事を置かない全員採用を続けているんですね。

片岡 ゆめみはもう採用自体は新卒メインに切り替えているのですが、専任人事がいないのは一緒なので、すごくわかります。やらざるを得ないから、皆のコミットメントがやっぱり全然違いますね。

久保 そうですよね。ただ組織が拡大してきて、専任人事がいないことの難しさが見えてきた部分もあります。

例えば、採用プロセスが人に依存してしまって、ベストプラクティスを実行できていないケースがありますね。例えば候補者さんとのコミュニケーションのような、オペレーショナルな部分でもミスが出やすいかなと思います。

片岡 採用は難しいですよね。ゆめみでも過去に、選考を通過されなかった方に「受かった」と思わせるようなコミュニケーションをとってしまったことがあって。翌日、すぐに京都まで謝罪に行きました。

久保 あとは、現場も辛いだろうなと思います。特にエンジニアって、外部リソースを頑張って取ってくる、いわゆる営業活動的なものをしたくてエンジニアになった人ってほとんどいない気がするので(笑)

片岡 たしかに(笑)そうなると、やっぱり専任人事を置こうかなと考えたりされますか?

久保 いまは考えてはないですね。ただ、いわゆる人事ではなく、採用マーケターのような施策出しをする方は採用したいなと思います。施策の企画ができて、全体に対して「こういうことをやっていきましょう」と言えるような人ですね。

「慈善集団」と思われがち? 実際のところは「the スタートアップ」です

片岡 ちなみに、今、Ubie Discoveryさんで特に採用したい職種はやはりエンジニアですか?

久保 いえ、むしろビジネス職です。社内では事業開発と呼んでいるのですが、いわゆる「事業を作るためなら何でもやる」人ですね。ビジネスの種を見つけるところから、実際のセールスも、マーケティングも、カスタマーサクセスまで担えるような。

いまのUbieは問診という領域がターゲットですが、医療のドメインの中で事業をどんどん広げていきたいんですね。そこを推進していく、いわゆるBizDev、事業開発の採用に対する課題が大きいです。

先ほど採用市場へのリーチの話がありましたが、いま本当にリーチしたいのは事業会社の中で施策を回してるような人。ただ点在しているし、いまのUbieからは少し遠い距離にいるので、note等で発信を行ってはいるものの、まだうまく届いている感じではなくて。

発信という点では、あまりうちのカルチャーが伝わっていないかな、と思うこともあるんですよね。

片岡 と、言いますと?

久保 以前から「これは払拭したいな」と思っているのですが、言葉を選ばずに言うと「慈善団体」みたいに思われているというか…

片岡 なるほど、なるほど(笑)たしかに、サービスのロゴなども優しい雰囲気ですしね。

AI受信相談ユビー

久保 実際は、とくにUbie Discoveryの中にいるメンバーはめちゃくちゃビジネスが好きな人たちなんです。本当にスタートアップという感じで、ゼロからものづくりして子どものまま成長していった…みたいな組織なんですよ。

でも医療という領域にいるからか、社会に対して慈善的になにか良いことをしていそうな集団に思われがちで(笑)実はここが長年、課題でもあります。

片岡 たしかに外から見ていると、あまりスタートアップ的と言いますか、破壊的な雰囲気は感じないかもしれないですね。

久保 Discoveryの方は、オフィスもけっこうごちゃごちゃしているし(笑)逆にCustomer Scienceは、別のフロアにオフィスがあるのですが、すごく整理整頓されていて全然違うんです。ちゃんと朝に来て夜帰るし。

片岡 Discoveryの皆さんは朝に来て夜帰らないんですか?(笑)

久保 エンジニアは割と朝遅いのが当たり前だったりします。自分が好きな時間に仕事したらいいじゃん、という考え方なんですが、ちょっとだらしないですかね(笑)

片岡  良い意味でギークな文化を持っている組織なんですね。

久保 やっぱり癖はありますね。それにエンジニアはギーク文化で良くても、ビジネス職にはある程度シニアな部分も求められるので、そこも難しい。

片岡 ただ、エンジニアの人にとってはポジティブな気がしますし、安心できるのでは。それに、Ubie Customer Scienceさんの方にもうひとつ別の文化があって、そのふたつが共存できているというのが非常に面白いですね。

他にも、Ubie Discoveryさんの組織の「癖の強さ」ってあるんですか?

久保 ホラクラシーなので、基本的にマネージャーはおらず、それぞれのロール(役割)の中でミッションを任せられるんですよね。自分自身で仕事を作り出せるか、ということがひとつ鍵になるんです。

なので、既存の仕事の中で数字を伸ばすことが得意な人だったとしても、何もない荒野の状態から動くことがうまくできなかったり。それで過去に退職したメンバーも数名います。

あとは、2ちゃんねるやニコニコ動画的というか、全社会議でワイワイふざけあったりするような雰囲気があるんですよね。そういう「みんなでやる」感じには、合う合わないがあるのかなと思います。

「個々の仕事でパフォーマンスを出したい」という人は、あまり合わないかなという感覚がありますね。

スタートアップは採用にいつ投資すべき? ゼロから事業を作る組織を目指して

片岡 今日は採用の課題をかなりオープンにしていただいたのですが、例えば、1年前に戻って何かやり直せるとしたらこれはやっておけばよかったな、といったことってありますか?

久保 2020年5月に大型の資金調達をしたのですが、そのときに全社をかけて、もっと採用にコミットしておいたら良かったなと思います。

実は認知拡大のための発信強化を始めたのも今年(2021年)の1月からですし、リファラル以外のチャネルの検証も最近やっと始めたので…。

久保 基本的にスタートアップが資金調達をしたら、お金を一番使うべきところはやはり採用ですよね。人が生んだものがお金になるわけですから、早く動くに越したことはないなと。

特に先ほども言ったビジネス職への採用フォーカスは、もっと早く始めておけば良かった。一時期、9ヵ月くらいひとりもビジネス職が採用できなかったんですよ。「これは異常だよね」ということで動き始めたので。

スタートアップの場合、資金調達を一度したあとに、次のラウンドを実施するまでの期間がありますよね。その後半になってくると、どちらかと言うと採用より事業の数値を伸ばす方にシフトしていくんですよね。

つまり、中長期でリターンを得る活動に時間を使える調達直後のタイミングから、採用に投資をするべきだった。当時もそれはわかってはいたのですが、まさかこんなに長い間採用ができないとは思っていなかったので。

片岡 先ほどおっしゃっていた文化を伝えるといった部分も含めた採用活動ということですね。長期的には、どういった組織を作っていかれたいですか?

久保 やっぱり、事業を本当に作れる組織にしていきたいですね。例えばGoogleが事業をどんどん買収することでより大きな企業になっていっているように、新しいビジネスをゼロから作るのはすごくハードルが高いことだと思っていて。でも、だからこそ、本当に大きなビジネスを作っていける組織にしたい、という思いがあります。

片岡 肉食系の事業化集団ですね!

久保 そうですね。領域を広げて新しく事業を作っていける組織を作るためにも、人の採用を含めてまだまだやるべきことがめちゃくちゃあるということですね。

片岡 Ubieさんの印象が今日でかなり変わりました。ぜひゴリゴリ事業開発をされている方、Ubieさんをご検討ください(笑)久保さん、本日はありがとうございました!(了)

▼▼▼ゆめみ社が提供するスタートアップ向け内製化支援サービスはこちら▼▼▼

;