- ライター
- SELECK編集長
- 舟迫鈴
【連載:成長組織のリアル】「30人の壁は甘くない」カミナシ社の現在地をお聞きしました
【Sponsored by 株式会社ゆめみ】本シリーズ「リアリスティック・ジョブ・プレビュー(以下、RJP)」は、「企業が『リアルな現状』を語ることが素晴らしい」という世界を作ることで、採用のミスマッチを減らしていきたいという思いから生まれた特別連載企画です。
急成長スタートアップ組織の実態について、良い面だけではなく課題も含めた「ありのままの姿」を、インタビューを通じて深堀りしていきます。インタビュアーを務めるのは、急成長スタートアップの内製化支援を行うと共に、RJPを以前から推進している株式会社ゆめみ 代表取締役 片岡 俊行さんです。
第一弾となる今回は、株式会社カミナシの代表取締役CEOである諸岡 裕人さんが登場。
カミナシはノンデスクワーカーに向けた、現場のムダを自動化するSaaSを展開されています。2016年に創業し、2021年3月にはシリーズAで総額約11億円の資金調達を実施した急成長スタートアップです。
自社が抱える100の課題を記載した「採用ウィッシュリスト」を公開するなど、積極的な情報公開でも知られる同社。そんなカミナシがいま向き合う、「30人の壁」「意思決定の失敗」「権限移譲」等について、ありのままにお話いただきました。
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父の背中を追いかけ、32歳のときにカミナシを創業
片岡 諸岡さん、本日はよろしくお願いいたします。まずは簡単に自己紹介をいただければと思います。
諸岡 私たちは、現場で働くノンデスクワーカーの業務を効率化するSaaSを提供しています。2016年の12月に創業し、いまは30名ほどの組織です。
創業した背景のひとつには、僕と同じ32歳のときに起業して、もう30年以上にわたって経営者をしている父の存在があります。航空関連のアウトソーシングというニッチな領域なのですが、ずっと右肩上がりで成長していて。一体何がすごいのか、僕はいまだによくわかっていないのですが(笑)
大学時代には「修行だ」と言われて父の会社で働くこともありました。その体験があったからこそ、いまこうして自分の会社を経営できているところもありますね。
▼株式会社カミナシ 代表取締役CEO 諸岡 裕人さん
諸岡 ちなみに片岡さんは、創業されたのはどういった背景ですか?
片岡 大学院時代に、研究室の仲間と一緒に立ち上げたんです。ただ、その頃はまだ「教授の推薦で大手メーカーに成績順に就職する」ことが一般的だった時代で。
僕たちの世代からやっと就職活動が解禁されたのですが、同級生はやはりみんな大手企業に行こうとしていました。
それを見ていて、「いや、ちょっと待てよ」と。同じ年代の人たちがGoogleのような企業を立ち上げて世界を変えようとしているときに、そうじゃないやろ、と思い、同級生を巻き込んで起業したんです。
結果、京都大学の情報系の大学院生が10人くらい集まったので、「就職戦線に異変あり!」といった内容で日経新聞の一面に載ったんですよ。
それで、僕らはもう教授から怒られて。逃げるようにして起業したので、大学「発」じゃない、大学「脱」ベンチャーみたいな感じでしたね(笑)
諸岡 大学「脱」ってすごいですね(笑)
「全開オープン」の情報発信によって、なりたい会社に近づきたい
片岡 この連載の背景として、やはり「良きも悪きも、企業のありのままを出していくのがかっこいい」という考え方を広めていきたいと思っていて。その点、カミナシさんの採用ウィッシュリストは素晴らしい試みだと思っています。
▼カミナシ社が抱える100の課題を採用候補者向けに公開した「採用ウィッシュリスト」
諸岡 カミナシには「全開オープン」というバリューがあります。ひと言で言うと、社内にも社外にも透明性を担保して情報発信をしていく…という意味合いで、創業初期から意識して発信を行ってきました。
その中で、SELECKさんの取材ウィッシュリストから着想を得て、いま自分たちが抱えている課題をフルオープンにすることにすごく意味があるのでは、と考えてスタートした試みです。
最初はあまり効果を期待していなかったのですが、今では面接に来る人、みんな見てくださっていて。「あらゆるチームの課題が見れることで、会社の状況が想像しやすく安心できました」といった声もいただきますね。
片岡 特にスタートアップだと、どんどん状況も変わっていきますし、外から見てもわからないことが結構ありますよね。とくに「現状の課題」を網羅的に洗い出している会社はこれまであまりなかったので、すごくいいなと。
ほかにもカミナシさんは、noteやPodcast含めて、会社としてめちゃくちゃオープンに発信していくカルチャーを感じます。
▼株式会社ゆめみ 代表取締役 片岡 俊行さん
諸岡 発信に関しては、自分たちのことを知ってほしいのももちろんですが、他にも狙いがあって。というのも僕、B型の人って、生まれたときからいわゆる「B型の性格」だったわけじゃないと思ってるんですよ。
片岡 と、言いますと?
諸岡 周りに「B型だからこういう性格なんでしょ?」と言われているうちに、そっちに寄っていくのではないかなと。なので外向けに発信することで「カミナシさん、こういう会社なんですね」と言われて、なりたい会社になっていける力学が働くと思っていて。だから、積極的に発信したほうが得だなと。
片岡 たしかに。「こういう会社なんでしょ」という周りからの期待があれば、そうなろうと思えますね。ありのままを見せつつ、目指したいところも見せていくのが良いのかもしれないですね。
まさに「30人の壁」を実感中。意思決定の際には「失敗」も…
片岡 今回は、採用ウィッシュリストに掲載されていた解決されたい課題のひとつ「組織とサービスのPMF」の中から、組織の方を中心にカミナシさんのリアルをお聞きできればと思っています。
▼「100年後も成長する組織づくり」を掲げる(カミナシ社採用ウィッシュリストより ※2021年7月時点)
諸岡 ずいぶん大層なことが書いてありますが、実はビジョナリー・カンパニーを読み返していてふと思ったことで(笑)みんな、人生のすごく大事な時間をカミナシにかけてくれてるので、せめて100年経っても、サービスと会社の名前は残ってほしいなと。
ただ、いま目の前で取り組んでるのは、そんな100年後を目指した壮大なことでもなくて。まだいわゆる「30人の壁」に苦しんでいるような段階なんですよ。
組織が12、3人のときにミッション、ビジョン、バリューを作って、正直、30人の壁なんて余裕で越えられると思っていたのですが、全然そんなことなかったですね。20人を超えたあたりから、思ってることが組織に伝わっていかない…みたいなことが何度も出てきて。
片岡 こちらのnoteで、組織内の情報伝達に課題を感じていらっしゃると書かれていたもの、読ませていただきました。
諸岡 リモートワークが中心になってきたこともあって、難しいですね。実は最近もちょっと大きな失敗をしてしまいまして…。
いま、どんどん人が増えていることもあって、スピーディに色々な意思決定をしなきゃいけない。その中で、コロナ後の働き方について判断しないといけない状況だったんです。そこで、経営陣と一部のメンバーで議論をして、一度方針を決定したんですよ。
でもそれを発表したところ「結果に否応はないけれど、意思決定のプロセスに参加できなかったことが残念すぎる」という声をもらって。
片岡 一部のメンバーの方とだけ話したので、残りの一部の方が残念に感じられた…ということですね。
諸岡 そうなんです。言われたときは、頭の中ですぐに言い訳を5個くらい考えてしまったのですが、いや違うな、と。自分が間違っていたと思ったので、謝って、やり直しさせてくださいってお願いしたんです。
経営課題をすべて公開。誰でも意思決定に参加できる仕組みを構築
諸岡 全開オープンというバリューを掲げているし、透明性の高い組織だと言っているにもかかわらず、全然できてないなと。これはもうすごく反省しました。
そこで、もうすべて透明にしようということで、最近「経営イシューボード」というものを作りました。これは、経営陣が現状の課題をすべて開示した上で、1人ひとりが「オーナー、メンバー、フォロワー」のいずれかに自分自身をアサインできるものです。
▼経営イシューボードのイメージ(カミナシ社より提供)
オーナーは決定権を持つ人で、メンバーが議論に参加できる人、そしてフォロワーは情報伝達を受けられる人になります。
このあたりは、もう悩み苦しみながら、周囲に謝りながら試行錯誤しています。自分としてはもちろんみんなの意見を取り入れて決めたいのですが、そもそも「みんな」って誰? ということもあるじゃないですか。そんな曖昧なことで意思決定はできないので。
片岡 そうですね。ゆめみは今250人ほどですが、30人、50人になると「みんな」で括るのは無理ですよね。それに、実は意思決定をしたい人はあまりいなかったりしますし。
うちも150人くらいのときに、近い課題が出てきて。そこから、オーナーシップを持って決める権限を持つコミッターと、それを応援するコントリビューター、という仕組みを作ったのですが、コミッターをやりたい人はあまり出てこないですね。
諸岡 わかります。「自分が決められる」ことより、「意志決定のプロセスが公開されていて、誰でも参加できる」ことが大事なのかなと。
僕自身は「お前らついてこい」みたいな人間ではなくて、どちらかと言うと周りに気を使ってしまう。なので、ちゃんと仕組みがないと「みんなの意見」という顔が見えない化け物と戦うことになってしまって…。なので自衛のために、このような仕組みを作ったところもあるかもしれないです。
マネジメントの課題も。権限の在り方は「はみ出しやすい」方が良い
諸岡 先ほどの経営イシューボードにも書いているのですが、最近、組織も30人を超えてきたので、マネジメントをどうするかも課題です。
いまはマネージャーは特に設けておらず、自然とそういう役割に収まっていく感じなんですよね。現状では「会社を自分たちで作っている」感覚が好きなメンバーが多いという背景もあるのですが、とは言え、制度的にも少し整えていく必要があるなと。
片岡 マネジメントで言うと、ゆめみの場合はちょっと特殊すぎるので(笑) 例えばiOSエンジニアが30名以上いますが、彼らが10個ほどのマネジメントの役割を当番制で担ってるんですよね。
小学校のときに、図書委員会、美化委員会、飼育委員会ってあったじゃないですか、あれに近い。「動物好き? じゃあ飼育委員会どうぞ」みたいな感じで(笑)
※ゆめみ社のマネジメントの仕組みについては、こちらの記事もご覧ください。
諸岡 当番、面白いですね(笑)権限の在り方で言うと、やっぱり「はみ出しやすい」方がいいんじゃないかなとは思っていて。
当番制もそうですが、権限がちゃんと決まっていたほうが、はみ出しやすいのかなとも思います。「僕はここまで、あなたはここまで、今回ちょっとそこは飛び越えさせてね」というコミュニケーションを誰とすれば良いかも明確になるので。
ただ、正直まだ考え始めたくらいなので、これからですね。
片岡 …でも、「カミナシ、はみ出し」って、韻を踏んでいて、めっちゃいいですね。
諸岡 カミナシ、はみ出し(笑)
片岡 ちょっとおちゃめじゃないですか。「はみ出しちゃった」みたいな。「じゃあもうしょうがないな、あなたやりたいんでしょ?」みたいな(笑)
諸岡 「じゃあはみ出しちゃう?」ってね(笑)
真面目な話、けっこう名前って大事ですよね。僕たちも「ゆるふわ会」「ゴツカタ会」っていう2種類の対話があって。「ゆるふわ」はわりとやさしい気持ちで雑談をするようなものなんですが、「ゴツカタ」は、本音をぶつけ合って殴り合う感じです(笑)
でも「ゴツカタ会やっちゃいます?」みたいな感じで、声をかけやすいんですよ。
片岡 名前によって、期待値コントロールができる部分がありますよね。
スタートアップの権限移譲は「どんどん任せる」で本当に良い?
諸岡 権限に関しては、スタートアップの初期フェーズにおいて、権限移譲を早くしすぎるのも問題なんじゃないかなと思う部分もあります。どんどん任せていくほうが良いという風潮が強いですが、それは生存者バイアスもけっこうあるのかなと。
と言うのも、僕は創業初期に一度失敗してるんですよね。最初は僕と取締役CPOの2人で意思決定していたのですが、僕が早めにプロダクトの権限をCPOに移譲したんですよ。まだPMFもしてない、成長もしてないような段階で。
でも、創業初期ってプロダクトが命じゃないですか。そんな中で、自分が「こうしたい」と思ったことも言い出しにくくなってしまって…。結果、メンバーからも「何か諸岡さん、気使ってるよね」と言われるような状況に陥って、辛かったですね。
片岡 そのときは、どう乗り切ったんですか?
諸岡 事業がうまくいかずピボットするとなったときに、CPOとは別々の道を歩むことになり、彼は退任することになりました。その後は、もう戦時体制。「このままだと潰れるので、僕が全部決めます」って、珍しく振り切ったんですよ。
片岡 時にはそういう強いリーダーシップを発揮するスーパー諸岡さんが出てくるんですね。
諸岡 残りのキャッシュが10ヵ月になって、やっとスーパー諸岡が登場(笑)
片岡 でも、会社の中でも、「ここは最後の最後まで諸岡さんが握る、任せない」という領域があって良いと僕は思いますよ。おそらく諸岡さんが、現場レベルでお客さんのことを一番理解されていると思うので。
諸岡 たしかにそうですね。僕も、自分が絶対手放しちゃいけないものを探している旅路にいて、それが少しずつ見えてきているような感覚があります。おっしゃるとおり、現場の理解ということでは誰にも抜かれない。いま話しを聞いて、そこは絶対、残り続けるなと思いました。
ただ中長期的な視点では、僕以上にその世界観を描ける人が入ってきたら、すごいことですね。いまだと「僕の頭の中=カミナシの限界」になってしまうので。「いや、諸岡さん、そんなのは僕も3年前に考えたんだけど」みたいな人がいるといいなあ(笑)
片岡 わかります(笑)そんな中で、今後半年、1年くらいで達成したいことで言うと、いかがですか?
諸岡 壮大な話は色々と描いていますが、いま、徐々にブルーカラーやノンデスクワーカーの現場DXを後押しする風が吹いていると感じてるんですよ。なので自分たちが、1年後にはその代表銘柄に間違いなくなっていたいなと思います。
その中で、現場DXを実現するためには、もはやシステムだけを持っていても難しいんですね。やはり大切なのは、人。DXを推進するデジタル人材の育成にも関わっていくことを、年内の目標として考えています。
片岡 今後が楽しみですね。諸岡さん、本日はありがとうございました!(了)
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