- 株式会社GENDA
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- 重村 裕紀
4,000人のグループ成長を支える開発組織をゼロから内製化。GENDAのマルチプロダクト戦略とは
複数のプロダクトを展開する企業が、それらを一元管理しながらスムーズに意思決定し、事業をグロースさせ続けるには、どのような工夫が必要となるだろうか。
2018年に創業し、アミューズメント施設「GiGO」の店舗運営やオンラインクレーンゲームなどを手掛ける株式会社GENDAは、M&Aによりセガ エンタテインメントをグループ会社化したことで、当初の20人から一気に4,000人規模となった。
当時、GENDAに1人目のエンジニアとして入社した重村 裕紀さんは、この急激な変化の中で、4,000人以上の従業員が滞りなく業務を遂行できるように、コーポレート業務のシステム構築などを牽引。
その際に、外注依存となっていた開発の一部を内製化し、グループ全体の利益拡大と事業成長を実現するために、さらに本格的に開発組織づくりに尽力してきたという。
現在は、採用したエンジニアを純粋持株会社であるGENDAに集結させ、6つのプロダクトを展開するグループ企業の開発に横断的に携わる体制を採用。そして、プロダクト横断での「水平分業体制」を確立するために3つの取り組みを行い、撤退の可能性を抱える事業の黒字化や、サービスのユーザー拡大といった大きな成果を創出している。
そこで今回は、GENDAのCPOを務める重村さんと、VPoEを務める荒井 勇輔さんに、同社におけるゼロからの開発組織づくりとマルチプロダクト戦略について、詳しくお話を伺った。
M&Aで20人から4,000人規模へ。IT基盤を構築する新プロジェクトを始動
重村 私は、新卒で入社したFiNC Technologiesにてプロダクトマネジメント業務に携わった後、2020年10月に1人目のエンジニアとしてGENDAにジョインしました。そして同年12月にCTOに着任し、現在はCPOとしてオンラインクレーンゲーム事業や、ゲームセンターのDX推進などに従事しています。
GENDAは2018年に創業したベンチャー企業ですが、これまで他企業との協業やM&Aを通じて事業規模を急速に拡大してきました。その中でも、セガ エンタテインメント(現GENDA GiGO Entertainment、以下GiGO)のグループ参入は、非常に大きな出来事でした。
というのも、それまでのGENDAは20人程度の組織でしたが、それが一気に全体で4,000人以上の組織になったんです。
▼グループ入りに伴い、SEGAブランドのゲームセンターの店舗名を「GiGO」にリブランディング
この時、GENDAにいたエンジニアは私のみで、基本的に開発を外注していたため、開発経験のあるメンバーが在籍していませんでした。
しかし、グループ全体の業務システムや基幹システムを新たに構築することが急務だったため、両社が合流するまでの1年間を期限として、GiGOの情報システム部門のメンバーと共に「IT移行プロジェクト」を実行しました。
コーポレートITとビジネスITの外注依存の体制から、内製化を決断
重村 プロジェクトの第一歩として取り組んだのが、コーポレート業務のシステム構築です。ここでは、GiGOが導入していたシステムを一部変更する形で設計しましたが、その開発をすべて外注すると大きなコストや時間を要してしまいます。
そのため、外部パートナーへの業務委託と並行して新たなIT人材を採用しながら、勤怠管理や人事データベース、経理・稟議システムといった複数のデータを繋ぐパイプライン機能と、自社の独自システムの改修などを内製していきました。
そうした体制で進めてちょうど1年ほどで、4,000人以上のメンバーが滞りなく業務を継続できるシステムを構築することができ、開発の一部を内製化することによって数千万円のコストカットも実現できました。
次のステップとして2021年10月から取り組んだのが、GiGOがもつサービス群の「ビジネスIT領域」にメスを入れ、お客様が求めるサービスに磨き上げながら、利益拡大と事業成長を実現することでした。
▼セガ エンタテインメント(現GENDA GiGO Entertainment)のDXロードマップ
まず取り組み前の状況としては、ゲームセンターの会員アプリやオンラインクレーンサービスなどの開発に加えて、広告運用やマーケティングも外部のパートナー企業に委託していたことから、自社ではそれらをコントロールしきれていませんでした。
やはり事業を伸ばすためには、少なくとも自分たちでプログラムを管理できる体制にシフトして、プロダクトとマーケティングの戦略を一気通貫させなければいけません。また、事業部メンバーと密に連携して、意思決定と実行スピードを早める必要性も感じていました。
さらに、当時はプロダクトごとに開発チームが異なっていたことから、GiGOが運営するそれぞれのサービスの世界観も全く違うものになってましたし、横串でナレッジを共有する仕組みがないことから個別最適で成長しているという課題もありました。
そのような背景から、ビジネスIT領域においても全面的に開発の内製化を行うことを決断しました。
なお、前年のコーポレート業務のシステム構築において一部内製化に着手できていましたが、GENDAとして開発組織を立ち上げるまでには至っていませんでした。
そのため、ここからは新たに入社したVPoEの荒井さんと共に、正社員の比率を高めていく採用活動に注力していきました。
採用したエンジニアをGENDAに集結させ、グループ各社を横断的に支援
荒井 私はヤフーやスタートアップ、ZOZOテクノロジーズで開発やマネジメント業務を担い、2021年10月にVPoEとしてGENDAにジョインしました。当時はちょうど自社の開発組織づくりを本格化するタイミングで、私はプロダクトごとに必要な人材要件を定義するといった戦略立てから、正社員の採用とマネジメントなどを担ってきました。
まず組織の立ち上げ期はリファラル採用を中心に進めることとして、プロダクトの説明資料や選考フローを作ったり企業サイトを作り直したりと、一般的な企業では揃っているものをゼロから整備していくところから始めました。
採用シーンで1番難しかったのは、テック市場でのGENDAの認知度が非常に低かったため、「エンジニア採用をしている会社」だと認知していただくために、何を伝えたら良いかを考えることでしたね。
それでも月に1、2名ずつの採用を重ねて、1年ほどで正社員20人とインターン7人から成る開発組織を構築することができました。
重村 この採用活動を通じて、デザイナーなどのエンジニア以外の職能メンバーも増えてきたので、現在は職能グループとプロジェクト単位のグループが交差する、マトリクス組織のような形態となっています。
GENDAの開発組織(2023/6/19時点)
荒井 また、弊社の大きな特徴として、採用したエンジニア全員が純粋持株会社であるGENDAに所属しているということが挙げられます。グループ企業には各社が直接契約している業務委託の方はいるものの、社員のエンジニアは1人も所属していません。
そして、GENDAのエンジニアがグループ各社とコミュニケーションを取りながら、すべてのサービスに横断的に携わる形を取っています。
なぜこのような体制にしたかと言うと、個社ごとにエンジニアを採用した場合、仮に他のグループ企業で人材の拡充が必要になっても、企業の垣根を越境してエンジニアを行き来させることが容易ではないからです。
結果として、グループ全体の状況を俯瞰しながら、特に重要な案件にフレキシブルに人材を集めることができていますね。
グループ全体の成長のため「横断的な水平分業体制」の確立に着手
荒井 現在は、グループ全体で6プロダクトを展開していて、その裏側で新規プロダクトの開発も進めている状況です。数年後にはさらにプロダクトが増えていく見通しです。
そのようにグループや事業規模が急拡大する中で、正社員だけでプロダクトをスケールすると、採用が追いつかない可能性も考えられますよね。なので、引き続き業務委託の人材も積極的に採用して、雇用形態に関わらず共創できるような組織作りを大切にしています。
重村 そのような背景から、GENDAの開発組織では「マルチプロダクト戦略」を軸に、グループ全体の事業成長を支援することを目指して活動しています。その実現に向けて注力しているのは、「プロダクト横断的な水平分業体制を確立すること」です。
というのも、これまでは開発ツールや開発言語、企画からリリースまでのプロセスもプロダクトごとに異なっていたので、GANDAのエンジニアが現場に行ってみて初めて実態が分かるという状況でした。それではグループに横断的な流動性を持たせることが難しくなるので、このプロセスの標準化に力を入れているというわけです。
水平分業体制の確立に向けては、大きく3つの取り組みを実施しました。
1つ目が、開発要望のドキュメント化です。それまでは現場とのミーティングで「これをやってくれませんか」と口頭ベースで要望をもらっていましたが、その背景が分からないことも多かったんです。
なので、プロダクトに関わる全メンバーを対象に、要望の背景やスケジュールなども含めてドキュメントにまとめて上げてもらう仕組みに変更しました。
また、プロダクトマネージャーを対象に、全プロダクト共通のプロダクト要求仕様書(PRD、Product Requirements Document)の利用も標準化しています。
▼現場からの開発要望やPRDをドキュメント化
マルチプロダクト戦略を円滑に進める、全社共通フォーマットを整備
重村 2つ目の取り組みは、グループ全体の活動を正しく評価するための「レポートフォーマットの統合」です。ここではKPIグラフと、施策振り返りレポートという2つのフォーマットをグループで共通化して運用しています。
まず、KPIグラフについては、短期トレンド(週次)・長期トレンド(24ヶ月)・目標対比を網羅的に把握できるフォーマットを用意し、シンプルに理解できつつも、企業のKPIレポートによくある問題点を解消できる仕様にしました。
例えば、週次で数値が伸びた時に、それが季節要因なのか施策要因なのかを見分けやすくしたり、長期トレンドの把握や、KPIに対する達成状況もひと目で分かるように工夫したりしています。
▼ゲームセンター公式会員アプリ「GiGOアプリ」のアクティブユーザー推移(一例)
続いて、施策振り返りのレポートフォーマットについては、各プロダクトの施策内容と狙い、効果をスライド1枚に集約して部内会議で共有し合い、良い事例があればプロダクト横断で展開する仕組みを整えました。
▼グループ共通の施策振り返りレポートフォーマット(イメージ)
このようにKPIグラフと施策振り返りレポートをハイブリッドで運用することで、GENDAのメンバーがグループ全体の動きを網羅的に把握した上で、次の一手を素早く打つことができています。
また、これらの運用とあわせて、四半期に1回の頻度でユーザーアンケートを取って定性的な振り返りも実施することで、施策全体を正しく評価することができるようになりました。
ポートフォリオ全体のグロース最大化のため、投資判断ロジックを定義
重村 3つ目の取り組みとして、ポートフォリオ全体の投資判断ロジックを定義しました。
やはり今後も開発メンバーやプロダクトが増え続けることを考えると、どのように予算配分していくかという投資判断が非常に重要になります。そのため、キャッシュフローに応じてどのように投資判断するかを明確にして、ガバナンスを効かせるようにしています。
基本的には過去実績をベースとしつつ、今後の期待値や戦略的重要性などを加味して判断する形ですね。
これまで4,000人規模のコーポレート業務のシステム構築や、ビジネスIT領域も含む開発内製化、そして横断的な水平分業体制を確立するため取り組みを実施してきた中で、今はその成果も見え始めた段階です。
例えば、収益化が難しく「クローズすべきでは」という社内の声もあったサービスを無事に黒字化することもできたので、それはすごく良かったなと思っています。
また、ゲームセンターのお客様に向けた「GiGOアプリ」も、当初はユーザー数が少なくて、サービスとしてもあまり良い体験を提供できていませんでしたが、現在はアクティブユーザー数が約5倍にまで伸び、アプリの品質やレビューも大幅に改善することができました。
▼「GiGOアプリ」のアクティブユーザー数は約5倍に伸長し、品質やレビューも大幅に向上
このように目に見えてプロダクトが改善されることで、ゲームセンターの店舗スタッフからも「アプリを使ってこのようなマーケティング施策をやりたい」といったお声をいただくことが増えていて、とても嬉しいですね。
そのほかの各プロダクトの実績もかなり伸びている状況で、特にGENDAの開発チームを内製化したことがこの成果に大きく寄与しているなと実感しています。
プロダクトを横軸で連携し、世界中の人々の人生をより楽しくしたい
重村 多くの場合、プロダクトが増えれば増えるほど管理が複雑化するので、グループ各社が主体となってプロダクトを伸ばした方が、効率良くスケールさせることができるという面もあると思います。
それでも私たちは、GENDAを主体としてグループ各社のプロダクトを成長させるという選択をしました。その実現のためにグループ全体の運営方法を標準化したことで、プロダクトの品質面も整ってきましたし、成長サイクルの再現性を高めることもできてきたフェーズだと思っています。
次なるチャレンジとしては、現在進めている共通機能プラットフォームの開発によって、それぞれのプロダクトを横串で連携できるようにして、お客様が様々なエンタメサービスに触れられるようにしていきたいですね。
また、GENDAは最終的に「世界一のエンタメ企業」になるために、まずは国内市場のトップを目指しているところです。今後もプロダクトが増えれば増えるほど、「世界中の人々の人生をより楽しく」というGENDAのAspiration(大志)に繋がる構造を作りたいなと思っています。
荒井 私は入社した時から一貫して「GENDAをエンジニアの憧れる企業にしたい」と思ってきました。そのために引き続きプロダクトを磨き上げることはもちろんですが、正社員やフリーランスといった雇用形態や働く場所などの制限なく、多様な働き方を受け入れていきたいですね。
これからは新卒社員などの採用にもより力を入れていきたいと思っていますので、どのような立場の方でもGANDAに行きたいと思っていただけるような状態を目指したいです。(了)