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「自律分散型=フラット」ではない。経営者3名が語る、VUCA時代を生き抜く組織運営
〜階層・役職のない「自律分散型の組織運営」を行う3社が集結!実際の運営手法から、重要なポイントまでを語り尽くす〜
近年、ティールやホラクラシーといった「自律分散型」の新しい組織形態への関心が高まっています。
従来の管理型組織とは何が違うのか、具体的にどのような組織運営をしているのか。SELECKではそのような疑問にお答えするため、「自律分散型の組織づくり」をテーマにしたオンラインイベント「SELECK LIVE!」第3弾を、9月3日(木)に開催いたしました。
今回は、従来からマネジメント階層のないフラットな組織を運営する、ゆめみ社、Colorkrew社、RELATIONS社の経営者3名をゲストにお迎えし、参加者からの質問にお答えするトークセッション形式で行いました。
今回の記事では、その内容を余すことなくお届けいたします!ぜひご覧ください。
▼ゲスト
株式会社ゆめみ 代表取締役 片岡 俊行さん
株式会社Colorkrew 代表取締役 中村 圭志さん
RELATIONS株式会社 共同創業者 加藤 章太朗さん▼モデレーター
RELATIONS株式会社 Wistant事業責任者 加留部 有哉
登壇各社の「自律分散型の組織づくり」の概要について
1.株式会社ゆめみ 代表取締役 片岡 俊行さん
現在、およそ240名の従業員を有するゆめみ社。片岡さんは「組織として自律するためには『役割分散』と『権限分散』が重要」だといいます。
「役割分散」については、メンバーに役職を割り当てるのではなく、全職務における役割を明確に定義し、役割ごとにメンバーをアサインするという手法を取られています。
例えば、マネージャーが人材育成全般を担うのではなく、必要とされる役割を「コーチング」「カウンセリング」などに細かく分解し、外部の専門家も含めて分担されているとのこと。
また「権限分散」に関しては、全メンバーが代表権限を持ち、提案内容に応じて影響が及ぶメンバー全員のレビューを事前に受ける「助言プロセス」を経ることで、誰もが全社にとって重要な意思決定を行うことができるそうです。
※片岡さんに過去取材した「全員の給与額を「自己申告」で決定する組織づくり」の記事も、ぜひご覧ください。
2.株式会社Colorkrew 代表取締役 中村 圭志さん
現在、約120名の従業員が在籍するColorkrew社。
中村さんは「オープンにすることが全てを解決する」と考え、従来の階層型の組織だったところから、現在は「部署・役職・階層・情報格差」がないバリフラットな組織運営をされています。
その中でも「情報の格差がない」ということを最も大切にされているそう。評価においてはメンバー自身が評価者を選び、評価内容も全員に公開されるなど、あらゆる情報をオープンにしているとのことです。
※中村さんに過去取材した「役職ナシ・給与も公開する「バリフラット」な組織作り」の記事も、ぜひご覧ください。
3.RELATIONS株式会社 共同創業者 加藤 章太朗さん
当媒体SELECKの運営会社でもあるRELATIONS社には、現在、約50名の従業員が在籍しています。そして弊社では、「純ホラクラシー組織」という国内でも珍しい自律分散型の組織運営を行っています。
役職ではなく役割にメンバーをアサインし、権限を分散するという点はゆめみ社と同様ですが、組織の意思決定プロセスは「ホラクラシー憲法」というルールに則って実施しています。
現在は23の組織(サークル)があり、サークルごとに月1回の頻度で組織構造を最適化しているため、常に組織の形が変化しています。
今回登壇した加藤からは「ホラクラシーを導入することで、戦略策定や目標設定プロセスに全員が関わり、組織の意思決定スピードが向上した」といった話がありました。
※弊社加藤の「自律分散型の組織の正しい創り方」の記事も、ぜひご覧ください。
では、パネルディスカッションスタートです!
自律分散型の組織で重要なことは?「自ら仕事を取りに行く姿勢」
ーーでは早速、最初のテーマ「自律分散型への移行期のエピソード」からお伺いしていきましょう。「大きな組織改革にメンバーがついていけるでしょうか」といったご質問が多いですが、片岡さんはいかがでしょうか?
片岡さん 弊社の「役割分散・権限分散」の仕組み自体は、学生時代の「◯◯委員会」と同様に色々な役割を担うことができるというもので、至ってシンプルです。
なので、組織変革によってドラスティックな会社になったという印象はないですね。
一方で「全メンバーに代表権限を持たせること」には、アレルギー反応がありました。僕は「制約がなくなってみんな喜ぶだろう」と思っていましたが、権限を悪用できてしまうのではないかという不安から「何となく怖い」と。
そこで、禁止事項を破ったメンバーに対して、一定数イエローカードが出されたら代表権限が剥奪されるという、「イエローカード」制度を作りました。
結果的に、半年以上経っても誰もイエローカードをもらうことなく、社員を守る制度だということで受け入れられていきましたね。
ーーイエローカードの仕組み、良いですね。自律分散型の組織では、メンバーにどのような動きを求めるのでしょうか。いわゆる「ぶら下がり社員問題」についてはどのように考えられていますか?
中村さん 自律分散型の組織では「自ら考え、自ら仕事を取りに行く」ことが重要なので、それが出来ないメンバーは自然と仕事が減っていき、評価が下がってしまいます。
前提として会社のやり方が完全に正しいわけではないので、それが合わないと感じたメンバーは、退職という選択肢を取っているのかなと思いますし、それは仕方ないことだと捉えています。
加藤さん 弊社も同じですね。ホラクラシーを導入する数年前から、自律分散型の組織にすることを伝えていましたし、元々そういう文化だったので、その思想にマッチしていない人は在籍していないと思います。
やはり、採用の時点で「こういう組織だから」ということを伝えて、合意の上で入社していただくしかないかなと思っています。
ーー組織変革において、面接の仕方や採用の要件に変化はあったのでしょうか?
中村さん 面接時に「自分から取りに行かないと仕事がないよ」ということと、「超オープンマインドじゃないと不都合が生じるけど、そういう環境は大丈夫?」という2点をはっきりと伝えて、意思を確認するようにしました。
片岡さん 弊社の場合は、先ほどお伝えした通り特殊な組織ではないと捉えているので、採用要件などの変更はしませんでした。
一般的な企業の権限構造に染まっている方は合わないかなと思いますが、新卒社員や若手メンバーは今の組織の在り方としてすんなり受け入れて、自分のキャリアややりたいことを実現していますね。
加藤さん 弊社のホラクラシー組織は、「目的達成のためなら何をやって良い」という思想なので、誰かにリーダーシップを求めたいという方は難しいかなと思います。そういったところは、事前にお伝えするようにしています。
自律分散型の仕組みが「合わない」業界や企業はある?
ーー視聴者の方から「どんな業界・組織にも自律分散型の仕組みは合いますか」というご質問をいただいています。こういう企業には合わないのではといった考えはありますか?
加藤さん そうですね。権限や責任を分散するので、多少のことは目をつぶらないと成り立ちません。なので、情報の機密性が高い組織や、ひとつのミスが甚大な被害に繋がってしまうような企業には合わないかなと思います。
一方で、特定の部門だけ自律分散にするといった手法は、海外でもアジャイル組織という形態で行われていますね。
ーー組織規模の面ではいかがでしょうか? 例えば1,000人の組織でも可能だと思われますか?
中村さん 今は120名の組織なので、評価プロセスも全員のことをよく見て実施できていますが、これが1,000人になると全員は見れなくなると思うので、工夫が必要だと思います。
とはいえ、私たちの場合はマネジメントを細分化して役割を分担し、項目ごとに誰が評価するかを決めているので、それを集合させることで個人を評価をするという手法であれば、組織規模に関わらず適応できそうだなと思っています。
片岡さん 弊社の場合は1,000人の組織を目指す中で、手段として今の組織設計を選んだのですが、中村さんと同様に給与を決める部分で工夫をしないといけないなと思います。
現在は、メンバー自身が「600〜700万」といった給与レンジを決めて社内でオープンに申請した後、そのレンジの中での細かい給与額を非公開で自己決定する方式を取っています。
しかしながら、実際に給与レンジをオープンにして申請するメンバーはまだまだ少ないため、私が給与レンジを提案してあげて、その中で自己決定する形が多いですね。
その作業を1,000人分するのは仕組みで解決する必要がありますが、組織規模と自律分散型の組織が運営できるかどうかは関係ないかなと思っています。
心理的安全性が担保されてこそ、メンバーの自律性が保たれる
ーー中村さんは、「バリフラット組織」の運営で意識されていることはありますか?
中村さん とにかく「オープンにすること」と「自分で行動すること」だけを突き詰めていけば、自然と自律分散型の良い形ができると考えています。
逆に「この人が権限を持って見ているから大丈夫」と捉えてしまうと、すごく危ないと思っていて。オープンにしていれば、うまく行っていないこともみんなが感じ取って対処するので、自浄作用のように組織が綺麗に動いていきますね。
視聴者の方から「自律型組織では何でも自分で決められるの?」といったご質問がありますが、全然そんなことはなくて。特に経費の部分は、自分以外のチェックが入るようにして、自己決済は絶対にしないようにしています。
それ以外にも全員に説明責任を持たせて、「説明できないことはやらない」という形にしています。それをうまく回すためにも、組織の心理的安全性が保たれていることは重要ですね。
片岡さん そうですね。自律分散型の組織を形作るだけでは不十分で、場の空気も大切です。いくら「健全な批判をしましょう」とか、「批判をしても評価は下がらないよ」と言っても、本当に大丈夫なんだろうかという恐怖があるはずなので。
導入初期には、権限を持っていたメンバーに対しても批判する姿を見せることで、率直に伝えても大丈夫なんだという雰囲気を作ることが必要かなと思います。
代表としての権限を分散。その際に意識したこととは?
ーーご自身の経営者としての権限を分散した際に、意識されたことはありますか?また、それに伴う痛みはありましたか?
加藤さん 僕は「会社がうまく行くこと」を目的にしているので、組織形態は何でも良かったんです。そのためにどのような意思決定の構造を取るべきかを考えて、現在の組織形態に移行したのですが、あくまでも上段の目的を大事にしていました。
また、大きな組織変革の中では、ハレーションが起きることが想定されたので、当時のトップ間で社員の退職の可能性について話した上で、移行していきましたね。
中村さん 私が意識したのは、トップが持っている情報をオープンにして「権力を無力化」することです。というのも、特定の人だけが情報を持っていると、それが組織における権力になってしまうと思っていて。
また、情報をオープンにする際は、その内容が明確に説明できるかが重要です。例えば「なぜこの人がこの給与額なのか」は説明が難しいですよね。そういった説明しづらい部分を解消する必要があったので、すべてが開示されるまでに3、4年は掛かりました。
メンバーが決定権を持つことで、「大胆な意思決定」はなされたのか
ーー視聴者の方から「誰にでも意思決定できる仕組みということで、これまでに『ぶっ飛んだ意思決定』がなされたことはありますか」というご質問をいただいていますが、いかがでしょうか?
片岡さん 弊社では「助言プロセス」という仕組みを取り入れているので、無謀な提案をするのは難しいですね。
導入初期に「大胆な提案があり得る組織だ」ということを受け入れてもらうため、他のメンバーから「リモートワーク先進企業になるために、オフィスを解約する」という提案をしてもらったのですが、たくさんの反対意見がでました(笑)。
実際の現場では、自己判断できる範囲で大胆な意思決定をしていき、その事例が輪となって組織全体に広がっていくという形なので、いきなり無茶なことはしないですね。
▼ゆめみ社の意思決定プロセス
加藤さん 弊社のホラクラシーの場合は、自分が担う役割の権限範囲であれば、勝手に意思決定できますし、それを他の人からは侵害できないので、「どんどんやってくれ」という感じです。
例えば、新型コロナウイルスが蔓延した時には、迅速に働き方をフルリモートに変えたり、出張禁止にしたりしましたが、それは従来の経営層ではなく、その方針を判断する役割のメンバーが決めて組織を動かしていましたね。
中村さん 弊社は「民主的なコミュニケーションの上で、独裁的に決める」という考え方をしているので、決定権を持つ人が決めたら、批判をしても良いですが従わないといけません。
例えば、私が決めた「英語力が基準に満たないと昇格できない」とか「エンジニア採用は日本人にこだわらない」といった内容は、大反対を受けました。とはいえ、実際にそれらを実行したことで、組織は強くなったんですよね。
余談ですが、英語の基準がクリアできていないメンバーは、カジュアルに「難民」と呼ばれています(笑)。このように、たとえメンバーに嫌がられるような内容だったとしても、大胆なデシジョンメイキング(意思決定)は必要だと思っています。
「自律分散型の組織=完全にフラットな組織」ではない
ーー最後の質問になりますが、「裏で糸を引いて最終決裁するという形なら、本当に自律分散型なのでしょうか。フラットであろうという組織ポリシーではないのでしょうか」というコメントをいただいています。これに対してはどのように考えていますか?
片岡さん シンプルに組織構造の話なので、あまり難しく考える必要はないのかなと思っています。
例えば、チームに20人いるとうまく話がまとまらないから、まず少人数に「分散」する。そこでバラバラに動くと方向性が合わなくなるので「協調」することで、状況に適応してうまくやっていきましょうというのが、自律分散型の考え方ですね。
多くの組織では、その協調の仕方が「階層型」になっていて、何階層もあることで意思決定や情報の流れが複雑になっていたりすると思います。それによって、外的環境の変化についていきにくいといった部分があるので、そういった構造の違いですね。
中村さん 私たちのような組織は「完全にフラットである」という誤解が生まれやすいのですが、自律分散だとしても当然ながら代表と新入社員が同じ権限を持って、会社のことを決められるということではありません。
会社全体のことであれば、経営のリーダーである代表が最も考えています。なので、判断するのに相応しい人が判断をして、それにみんながついていく感じです。もし仮に違うメンバーの提案の方が良いよねとなれば、変えれば良い。
そういう意味で、フラットな組織とは「情報がフラットであり、役職があるというだけで偉い人がいない組織」だと考えています。
自律分散型の組織においてすごく大事なのは、「みんなに平等なチャンスがある」ということです。同じ情報を持って結果を出せば、みんなに認められて重要な仕事が手にできるという、「機会の平等性」がありますよね。
加藤さん そうですね。僕も、「自律分散型の組織=フラット」だとは思っていないです。
組織構造の形状がフラットに見えることはあるかもしれませんが、中村さんがおっしゃるように、誰が何を決めるかという「意思決定の重さ」みたいなものは役割によって違うので。そこは多くの組織と一緒ですよね。
ーー本日はみなさんのお話をお伺いできて、僕もすごく刺激的でした。たくさんお聞かせいただき、ありがとうございました!(了)
おわりに
いかがでしたでしょうか。「自律分散型の組織」とはどのように運営されているのか、従来の組織と何が違うのかなど、たくさんの知見が詰まったお話をしていただきました。皆さまの組織運営のヒントになれば幸いです。
今後も、現場で役立つナレッジをお伝えするイベント「SELECK LIVE!」を、定期的に実施していきたいと思いますので、ぜひご参加くださいませ。