- 株式会社ベジオベジコ
- 代表取締役
- 平林 聡一朗
知識も経験も「何もない」リアルな八百屋から始まる、宮崎発スタートアップの挑戦とは
〜あるのは「情熱」だけ。宮崎発のスタートアップが、新規アプリのリリースと同時に、デザイン界でも大注目の「八百屋」を東京にオープン。その背景と狙いとは〜
宮崎県にオフィスを構え、九州産の野菜やフルーツの宅配サービスを運営する、株式会社ベジオベジコ。
同社は、株式会社アラタナをはじめとする3社の出資でサービスを開始した、2011年創業のスタートアップだ。
2017年1月には、1時間以内に生鮮食品を指定の場所に届けるアプリ「VEGERY(ベジリー)」を正式リリース。そして同時に東京都根津で、リアルな「八百屋」1号店をオープンした。
その八百屋は、店舗設計を片山 正通氏が担当、そしてグラフィックデザインを平林 奈緒美氏が手がけたことで、デザイン界でも大きな注目を集めた。
同社代表で若干25歳の平林さんは、今回の事業拡大にあたり、あくまでも「お客様目線」の店舗づくり・アプリ開発に、徹底的にこだわり抜いたそうだ。
今回は平林さんに、ベジオベジコのこれまでの歩みと今回の挑戦について、詳しくお話を伺った。
「外に出たくてしょうがなかった」自分が、宮崎に戻るまで
僕はもともと出身が宮崎県で、母方の祖父が農材屋の傍らで農業をしていたので、小さい頃から収穫などの手伝いをしていました。ただ高校時代には、宮崎から外に出たくてしょうがなくて。
1年間、アメリカへの留学も経験しました。そして大学は上京し、国際政治を勉強していました。
そんな中、大学2年生のときに東日本大震災が起きました。その翌日に、自分の友達や先輩が陸前高田市に住み込んで、学生団体をを立ち上げたんです。今では移住して、NPO法人として活躍しています。すごい行動力ですよね。
自分もその姿に刺激を受けて、復興支援として、現地でワカメの養殖などのお手伝いをさせてもらっていました。
3年生になるタイミングで「今後どうしよう」と考えました。そこで、もともと国際政治を勉強していたのに、いつのまにか地方に携わるようになっている自分に気がついて。
そして実は、僕の出身地である宮崎でも、新燃岳の噴火や鳥インフルエンザの影響で、農業が大打撃を受けていることを知りました。自分がそれに対してできることはないか、と思うようになったんですね。
そこで、宮崎に戻ろうと考えたのですが、それならまず宮崎で一番イケてるベンチャー企業でインターンしようと考えて(笑)、アラタナに出会いました。
当時から「農業がしたい」と言っていたところ、インターンが終わったタイミングで、当時アラタナが出資していた「あらたな村」という会社の代表をやらせていただけることになりました。
あらたな村は、宮崎県の五ヶ瀬町の野菜を全国にお届けするサービスを運営していました。私が代表になるタイミングで新しいサービスを作ることになり、「ベジオベジコ」という新ブランドを立ち上げたのが始まりです。
野菜をお客様に直接届けたいという思いから、東京に進出
ベジオベジコは、当時東京で流行っていたスムージーを自宅で作れる、野菜とフルーツのセットをお届けするサービスとしてスタートしました。サービス自体は4年ほど運営していますが、株式会社ベジオベジコとして独立したのは2015年のことです。
以前は宮崎から、全国のお客様に野菜を届けていたのですが、2017年の1月に、東京都根津に八百屋をオープンしました。そして同じタイミングで、生鮮食品をお届けするアプリ「VEGERY(ベジリー)」を正式ローンチしました。
VEGERYは、九州の安心・安全な野菜を、最短1時間でご指定の場所にお届けするサービスです。今年の4月には、提供エリアを関東全域に拡大し、Androidアプリの提供も開始しました。
▼「VEGERY(ベジリー)」のアプリ画面
このように事業を拡大した背景には、ベジオベジコのサービスを運営していく中で、やっぱり野菜を直接お客様に届けたい、という気持ちが、ふつふつと湧いてきたということがあって。
そこで、お客様がどこに住まわれているか、ということを改めて調査したところ、それこそ東京の渋谷区、目黒区、港区、世田谷区の方々がかなり多かったんです。
じゃあ、お客様の多い東京で、野菜を直接届けるサービスをやろう、という話になりました。
お客様の「安心」のために。東京根津に、八百屋を作ることを決意
VEGERYの正式リリースと同時にリアル店舗をオープンしたのは、お客様に、安心して商品を注文していただきたかったからです。
例えばAmazonさんのように、名前が知られているわけでもないので…。ベジオベジコというマイナーなサービスが「自宅まで届けますよ」と言っても、お客様は心配になるかなと。また、リアル店舗は兼ねてから僕たちが形にしたかったことでもありました。
店舗は、インテリアデザイナーの片山 正通さんに監修していただきました。そしてロゴやプライスカードなどのデザインワークは、片山さんの紹介で、平林 奈緒美さんにお願いさせていただきました。
お2人を含め、関わっていただいた方々が本当にすごい方なので、こちらから意見を出すのも恥ずかしかったんですけど…。自分の言っていることが合っているかわからないけれど、想いを伝えたい、イメージを伝えたい、という感じで、色々と話しながら進めていきました。
片山さんも平林さんも、僕たちの想いに非常に共感してくださっていて。いま僕たちがやらなければ、これからの日本の農業が変わっていかない、という「未来のため」という部分を、応援していただいた形です。
知識も経験も「何もない」自分たちの、想いをこめた店舗づくり
この八百屋に関しては、50年、100年続くものを見越してやっていきたい、という気持ちがありました。
ですので、「◯◯っぽいね!」と言われるような感じにはしたくなかったんです。例えば「ブルックリンスタイル」みたいな感じですと、ベジオベジコらしさがないよねって。
また、当時の僕たちを見て片山さんは、「何か、何もない真っ白」と感じたそうなんです。
「実力も経験も何もない。あるのは、若さと情熱だけ」みたいな。それをデザインに反映してくださって、本当にすべての無駄を取り除いた「謙虚さ」をデザインしてもらったと思っています。
店舗で印象的な「のれん」のデザインも、最初はいくつか案があって。いまは左側に「愛情一筋八百屋」と書いてありますが、最初は「日本一」という案もありました。でもそれだとおこがましすぎる、という話をして(笑)。
デザインの中で、あそこに「一」という文字が入るだけですごく締まって見えるから、それは使おうと。そして僕たちにあるのは、経験や知識ではなく、情熱と愛情だけなので、「愛情一筋」という言葉を入れよう、という感じで決めていきました。
あとはやはり、主役である野菜の1つひとつが輝ける空間にしたいなと。宝石店のように、野菜が光って見えるデザインをお願いしました。
実際に八百屋をオープンしてから、よくお客様に「野菜を選ぶのが楽しい、ワクワクする」と言っていただけるのですが、それが本当に嬉しいです。
僕たちが目指してたのが、まさにその部分で。と言うのも、お客様が、自分の身体や誰かを思って野菜を選んで、買って、それが食卓に並ぶまでには、ストーリーがあると思うんですよね。
ですので、その「野菜を選ぶ」体験が楽しいということは、すごく重要だと考えています。それが実現できていることが、本当に良かったですね。
やりたいことを詰め込んだアプリデザインを「作り直し」に…
VEGERYはアプリ上での体験も、かなりこだわって作りました。当初はもっと早くにリリースする予定だったのですが、実は一度UIを含め作り直したので、2ヶ月ほどリリースが延びているんです。
というのも、最初に形になったアプリをお客様に触ってみてもらったときに、目移りしやすかったり、使い方がわからないという声が多くて。「あれ、これは伝わっていないんじゃないか」と感じたんですね。
もともと弊社のお客様は9割が女性の方で、ペルソナとしても30代後半の主婦の方を想定していました。
でも実は、ベジオベジコの社員は男性ばっかりで。さらに、これを言ってしまうとカッコ悪いかもしれないのですが、僕たちはまだ20歳そこそこで、お客様は、皆様年上なんですよね。
僕たちより一流のサービスをいつも受けていて、舌も肥えていて、圧倒的に経験が豊富。ですので、そういったお客様が「便利、使いやすい」と思うかどうかに、一番気を配っていました。
結果的に、最初に作ったUIは、「僕たちがやりたかったものを詰め込んだ」だけになっていたんだと思います。
自分の周りの人と一緒に検証をしていると、やっぱり客観的に見ることができなくて。自分たちがいくら良いものだと思っていても、実は外の人に聞いたらそうでもない、ということって、結構多い気がしています。
UIなどデザインを作り直すかどうかは、社内でもかなり揉めました。これまでやってきたことが無駄になってしまうので。
でもやっぱり、「今までの時間」ではなくて、「これからの時間」を見るべきで。「本当により多くの人が便利に使えるサービスにすることが重要なので、今までがどうこうじゃない」、という話をして、思い切って作り直した背景があります。
「前掛けして配達しなさい」お客様の声をオペレーションに活かす
アプリが完成してからは、まず20名ほどのベジオベジコのお客様に、限定で使っていただきました。オペレーションの部分を検証する必要があったのと、直接お客様の声を聞きたかったので、配達も自分たちでしていました。
そもそも僕たちは地方出身なので、「渋谷から六本木まで、原付だと何分かかるか」といったことも全くわからなくて。1時間で何件配達できるかということを、実際に走って検証していました。
また、最初は「ザ・宅配」みたいな感じで、ウィンドブレーカーを来て配達していたんですよ。でもお客様から「八百屋の前掛けしてきなさい」と言われて。
「その方が私は話しやすいし、インターホンに応答するときも間違えない」と。それで、いまは全員前掛けをして配達しています。
他にも、アプリの使い方を動画で解析できる「Repro(リプロ)」を使って、実際にお客様がアプリをどう使っているのかを見ていました。
例えば、1枚の画像が重いとスクロールに時間かかって離脱してしまうので、できる限り小さいサイズの画像を使ったり、細かい改善をしていきました。
最終的には40〜50名ほどのユーザー規模で試験運用をさせてもらって、1月に正式リリースした形になります。
丁寧にサービスを続け、より多くのお客様に野菜を届けていく
現在は、社員3名とバイトさん30名で運営しています。社員の人数は少ないですが、ネット通販だけの頃から一緒にいるメンバーなので、ベジオベジコの立ち上げ当時と同じ感覚と言いますか。野菜に関する生鮮の感覚はみんな持っているので、心強いですね。
今、関東エリア全域には、翌日配送で野菜を届けられるようになりました。今のサービス圏内でお客様の数を増やしていくことが、当面の目標です。
そうして、どのエリアがお客様が多いのか、ということをまた検証しながら、サービスを拡大していこうと考えています。
八百屋の方は丁寧に丁寧に続けていきたいのですが、展望としては、2店舗目、3店舗目と増やしていきたいですね。そして、その八百屋からデリバリーができるモデルが実現できたらな、と思っています。(了)