- ナイル株式会社
- Webコンサルティング事業部 ユニットマネージャー
- 實川 節朗
読者とサービスの「関係性」が道しるべ!?「迷走しない」オウンドメディア運営とは
〜なぜ、オウンドメディア運営がうまくいかないのか?「自社サービスとユーザーのつながり」を前提とした運営指針の立て方や、ユーザーへの具体的なアプローチ方法を大公開〜
近年多くの企業が、自社メディアを活用したコンテンツマーケティングに取り組んでいる。しかし、コンテンツ作りを頑張ってもなかなか成果につながらず、現場が疲弊してしまうケースも多い。
SEOとコンテンツマーケティングを強みとし、自社サイト「UIDEAL」を通じたWebマーケティングのナレッジの提供も行う、ナイル株式会社。
▼Webマーケティングのナレッジの提供を行う「UIDEAL」
同社のコンテンツマーケティング事業を立ち上げ、これまで数々の企業の支援を経験してきたのが、實川 節朗(じつかわ もとほ)さんだ。
實川さんは、コンテンツマーケティングが迷走しないためには、自社とユーザーの関係性を紐解くこと、そして「マーケティング」「ブランディング」といった明確な目的を定めることが重要だと語る。
今回はそんな實川さんに、迷走しがちなオウンドメディア運営における方針の立て方から、失敗しないための条件まで、詳しくお話を伺った。
Webマーケティングはユーザー主体のコンテンツを重視する時代へ
私は2011年に、ヴォラーレ(現ナイル)に新卒で入社しました。入社して2年間は、顧客のSEO支援を担当し、その後コンテンツマーケティング支援の部門を立ち上げました。
当時は既に、SEOは被リンクを集めるようなテクニックから、コンテンツが重視される時代へシフトしていく潮流がありました。
それに伴い、弊社の事業もコンテンツを育てていく方向へ舵を切りましたね。
これまで、40社ほどの企業の支援をさせていただきました。その経験を通じて、コンテンツマーケティングについて、色々な気付きを得ることができたと思っています。
「マーケティング的」「ブランディング的」なアプローチとは
コンテンツマーケティングでは、ユーザーへのアプローチ方法が大きく2つ存在すると私は思っています。「マーケティング的アプローチ」と「ブランディング的アプローチ」です。
▼コンテンツマーケティングにおけるアプローチ方法のイメージ図(※画像は編集部作)
まずマーケティング的なアプローチですが、これはユーザーの「直接的な購買」を目的とするものです。
例えば、特定のキーワードで検索をしたユーザーを自社のオウンドメディアに誘導し、最終的にそのサービスを導入してもらうことを目的とするようなケースですね。
それに対してブランディング的とは、「この企業と言えばこのサービス!」といった認知や想起の拡大を目的に、情報を発信するものです。
わかりやすい例で言うと、サイボウズさんのオウンドメディア「サイボウズ式」が挙げられます。
サイボウズさんはあのメディアで、直接自社サービスを売ろうとはしていません。それよりも「サイボウズ=チームワーク」ということをより多くの人に想起してもらうために、情報発信をしています。
※オウンドメディア「サイボウズ式」の運営術について取材した記事はこちら
このように目的に応じて、ユーザーへのアプローチの方法は全く異なります。そのため、自社でオウンドメディアを立ち上げる際にも、まずはその目的をはっきりさせる必要があるんです。
しかし今は、まだまだそれができていないオウンドメディアが多いように感じますね。
結果として、本当はブランディングすべきメディアがSEOに注力していたり、コンバーション目的のはずが、抽象度の高い記事ばかり配信をして成果を出せずに疲弊してしまっています。
メディアの目的は、ユーザーとサービスの「結びつき」で決める
では、オウンドメディアの目的をどのように決めるべきかと言うと、あくまでもユーザー起点で考えるべきです。「ユーザーの課題とサービスがどう結びついているか」によって決める、と言い換えることもできるかもしれません。
一例ですが、ニキビに悩んでいるユーザーがいるとします。
このユーザーと「ニキビ薬」というサービスは、すぐに結びつきやすいですよね。ですので、「ニキビ 対策」といったキーワードを検索しているユーザーに、サービスを直接的な解決策として提示できます。
一方で、同じユーザーに「ヨガ教室」のサービスを訴求したいとします。しかしヨガは、肌荒れの治療とは直接は結びつかないので、「内面からの美容の必要性」などを訴える必要があります。
つまり、現時点で「ユーザーの課題感」と「サービス」が結びついている場合には、購買や受注を目的としたマーケティング的なコンテンツが必要です。逆に結びつきにくい場合には、サービスや企業のイメージを形成するための、ブランディング的なコンテンツ発信が求められます。
オウンドメディアでよくある間違いとしては、発信すべきコンテンツの「方向性」を見失ってしまうことです。
そうならないためにも、「コンテンツのその先」を考え、目的に沿ったアプローチをしなければなりません。自社サービスとユーザーの結びつきについてまずは仮説を立て、ユーザーヒアリングなどを通じて調査し、検証する必要があります。
ニーズは「潜在 or 顕在」?読者の課題に寄り添うコンテンツを
オウンドメディアの目的が固まったら、次に具体的な施策に入っていきます。
マーケティング的なアプローチにおいては、まずユーザーからの自然検索、つまりGoogleのような検索エンジンからの流入を獲得することが必要です。いわゆるSEO施策ですね。
ただ今は、被リンクを集めるだけ、といった小手先のSEO対策は通用しなくなっています。それよりもまずは「信頼できる情報」を、「独自に」作っていくことが第一です。
検索クローラーに循環されやすいサイト設計はもちろんなのですが、さらに、想定されるユーザーの行動、つまりカスタマージャーニーに沿ったコンテンツを持つことが求められています。
次に、制作するコンテンツの内容ですが、これはユーザーのニーズが顕在的か潜在的かで、大きく変わってきます。
▼ユーザーのニーズによってコンテンツも変わる
既にニーズが顕在化している場合は、ユーザーは、そのサービスに何かしらの興味関心を持ってサイトを訪れています。そうした場合は、例えば導入の事例や、サービスの細かい利用用途のシーンを掲載することで、そのユーザーの興味関心の理由に応えることができます。
反対に、まだニーズが潜在的である場合は、ユーザーが自社のコンテンツに触れることで、自社のサービスに興味を持ち、その必要性を理解してもらえるようなコンテンツ作りが必要ですよね。
ブランディングは「自分たち」でこだわり抜いた情報発信を
一方でブランディング目的のオウンドメディアには、成功するための条件があると思っています。
具体的には、「熱意のある担当者」「信頼して任せてくれる上司」「メディア運営を許容・後押しする社内体制」の3点です。
▼オウンドメディアの成功には、運営体制にも工夫が必要
まず「担当者」ですが、そもそもオウンドメディアでブランディングをするということは、会社のアイデンティティにそのメディアを加えるようなイメージなんです。打ち出したいコンセプトを、高い質で社外に公開できていることが何よりも大切です。
そのためにはまず、安易に業者に丸投げしてはダメです。理想は社内の、自社サービスやメディア運営の目的をしっかりと理解している専任の担当者が、コンテンツ制作に携わるべきですね。
その「熱意ある担当者」、つまり編集長のこだわりも非常に大切です。その「企業ならでは」の情報を引き出し、信念を持ってコンテンツを作り続けることがポイントです。
あるWeb制作会社の例ですと、その企業のオウンドメディアは社員の日報を引用しています。社員が毎日学んだことを書く日報からいくつかをピックアップして、社外に公開しているんですね。
例えばデザインや、システム開発についての記事は同じ業界の人が読んでも、勉強になる内容で、記事の質が高いんです。実際にたびたびバズっており、業界でも有名なブログのひとつになっています。
オウンドメディアを「長い目」で育む、会社の理解が不可欠
次に「信頼して任せてくれる上司」と「メディア運営を許容・後押しする社内体制」です。
と言うのも、オウンドメディアのブランディングは成果が目に見えにくい、長期的な取り組みになります。ですので、成果を測るためのKPIを設定して追っていくことも難しくなります。
そのため、厳密に数字目標を定めすぎない方がいいですね。例えば「背伸びしすぎない」最低限のアクセス数、記事の品質を保つこと、ネガティブなコメントがつかないこと、といった目標が考えられるかと思います。
▼オウンドメディアは、会社のアイデンティティにそのメディアを加える
このような形でメディア運営を行うには、編集長を信頼して任せてくれる上司や、それらを許容・後押しする社内体制が欠かせません。
会社として副次的な効果が出ていれば、そのメディアを評価する姿勢も大切だと思います。
例えば、そのメディアの知名度のおかげで、採用や営業が成功したといった場合です。そうした現場の小さな成果が、社内で共有されることも重要ですね。
「届けたい相手」と「目的」を定めた上でのコンテンツ発信を!
他にも、読者がセグメント化されているケースでは、その業界の主要なプレイヤーや、キーマンに向けて訴求するコンテンツを作るのも良いですね。
メディアによっては記事を制作するときに、届けたい相手や、拡散してくれそうな読者をバイネームで設定することもあります。
そうしたメディアの評価としては、SNS上でのコメントやシェアに加えて、キーマンまで届いているか、またそのキーマンに好意的に思われているか、といったことも基準のひとつになります。
やはり、オウンドメディアを運営する上では、きちんとユーザーを「見る」ことが大切です。
「とりあえずメディアをやろう」といったような風潮も、世の中には見受けられますよね。ですがそういった考え方ですと、結局は疲弊してしまいます。
そういったことが起こらないように、目的をしっかり定めた上で、それに沿った運用を行っていくことが大切ですね。(了)