• サイボウズ株式会社
  • コーポレートブランディング部 サイボウズ式 編集長
  • 藤村 能光

【中編】サイボウズ式に学ぶ、「製品のPRにはつなげない」オウンドメディア運営術

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今回のソリューション:【オウンドメディア】

〜BtoBのオウンドメディアの成功事例の代表と言える「サイボウズ式」の連載第2回。「ファンづくり」のための効果的なコンテンツづくりについて解説〜

従来、企業のWebマーケティングの主力であったのはメディアに対する広告出稿だ。しかし近年、多くの企業は、顧客との直接的な関係性を築く「オウンドメディア(自社メディア)」に関心を寄せるようになった。

マス広告と顧客の多様性のギャップを埋め、高い投資対効果を狙う手法として注目が集まるオウンドメディアだが、日本ではまだまだその成功事例は少ない。

そんな中、特にソーシャルメディアにおいて大きな影響力を持つことに成功しているのが、サイボウズ株式会社が運営する「サイボウズ式」だ。

「新しい価値を生み出す、チームのためのコラボレーションとIT情報サイト」をタグラインとするサイボウズ式では、「製品PRにつなげない」という切り口でのコンテンツ発信を2012年から続け、結果的に同社の企業認知度の飛躍に大きく貢献した。

全3回に渡る今回の特集では、サイボウズ式・編集長の藤村 能光さんに、企業メディアの運営術、そして目指すべき方向についてお伺いする。中編のテーマは、「誰のためのコンテンツか?」。

自社メディアは『自分たちが伝えたい情報は伝えない』ことが重要」と語る藤村さんに、オウンドメディアにおけるコンテンツの作り方を聞いた。

※「何のためのオウンドメディアか?」を切り口に、オウンドメディア運営の目的についてお話を聞いた【前編】はこちらです

▼「新しい価値を生み出す、チームのためのコラボレーションとIT情報サイト・サイボウズ式」

サイボウズ式・画面

「PV」も「成約数」もKPIに置かない自社メディア運営とは

サイボウズ式を運営していく上で、何かKPIの数値設定をしているかというと、今は特にありません。「製品PRをしない」という背景を持って運営しているので、例えば見込み顧客の獲得数や、成約数などはまったく見ていないんです。

※サイボウズ式を運営する目的について聞かせていただいた【前編】はこちらです

サイボウズ式編集長・藤村 能光さん

立ち上げ当初は、「サイボウズ式という媒体がどれだけ成功しているか」を客観的に見るKPIを置いていました。具体的には、1年間で月間のユニークユーザー数・3万、を目指していましたね。

この数字は、他のサイボウズ製品のブログより多くの読者を獲得しよう、という目標をベースに決めたものです。そこまで厳密に追いかけていたわけではないのですが、自社メディアの運営は初めての取り組みだったので、最初は比較対象があってしかるべき、ということで設定していましたね。

今、サイボウズ式で取りに行っているのは成約数のような数値ではなく、そのもっと前段階にある「認知」の部分になります。まず知ってもらう、ということですね。

その目的と照らし合わせると、「多くの人に読まれても記憶に残らない記事」より「数が少なくてもきちんと共感を呼ぶ記事」の方が良いと考えています。従って、PV数だけを単純にKPIにしないほうがよいと考えています。

認知を取りに行くオウンドメディア

このような考え方は、マス・コミュニケーションの真逆だと思います。例えば1万人に露出をして300人に読まれるより、ひとりに深く突き刺して、その人の共感に基づくシェアによって30人に伝わり、その共感の輪が広がって300人に伝わる。サイボウズ式の運営では、こちらの方に価値を置いています。

そのように考えた時に、記事の評価として具体的に何を見ているかというと、SNS上のリアクションが挙げられますね。Facebook、Twitter、はてなブックマーク、NewsPicksのコメント。

SNSでシェアをしている方たちには「誰かに伝えたい」という思いがあるはずで、そういった文脈を持って記事が広がっていくので、やはりシェアの受け手への影響も強いですよね。このような定性的な部分を見て、それをベースにして記事の良し悪しを考えるということはずっと続けています。

その人に深く突き刺し、「いつか思い出してもらう」ための発信を

「誰かに深く突き刺す」コンテンツを作る時に重要なのは、誰に届けたいかをしっかり想像して、どんな届け方をするか、そこをしっかりと考えていくことです。

サイボウズ式で言うと、コアな読者層は、20〜30代のビジネスパーソンとしています。会社やチームの中で「次のリーダー」になっていくような人を想定していますね。理由は、そういった方がいざ「チームを良くしていく」ということになった時に、サイボウズのことを思い出してほしいと考えているからです。

これからリーダーになっていくような若い人にいきなり製品の話をしても、まだまだ実感を伴って認識してもらうことは難しいですよね。そこで、その前段階のコミュニケーションとしてサイボウズ式が存在していて、チームやチームワークについての情報を発信していく。

そのように読者の方とコミュニケーションを取っていくことで、彼らがチームで解決したい課題が出てきた時に、サイボウズのことを思い出してくれる。ここまで持っていくことができればいいな、と思っています。

自社メディアは「自分たちが伝えたい情報は伝えない」ことが重要

藤村 能光さん

きちんと読者の方と関係性を築くためのコンテンツを作る上で、特に自社メディアを運営している人が注意するべきなのは、「自分たちが伝えたい情報を伝えない」ことだと思います。

理由は簡単で、それは、自分たちしか興味がない情報だからです。伝えたいことではなく、読者の方が「知りたい」と考えていることの発信に専念することが非常に大切です。

どうしても、何かしら自分たちが伝えたいことをベースにコンテンツを作ってしまいがちなんですよね。でもそれは、読者の方からすれば「知らんがな」の世界です(笑)。

少し語弊があるかもしれないのですが、例えば広報ブログで「新入社員、今年も20人、入社しました!」って、読者には興味がない話なんです。

例えば「これまで新入社員の男女比が7:3だったのに、今年それが逆転した理由」というように、読者が興味を持ちそうなポイントを抽出するなど、工夫を加える必要があります。自分が読み手として「読みたい」と感じる情報をきちんと届けていく。それが本当に重要です

例えば、とあるサービスで「日間で1億メッセージのやり取りがあります!」という情報を発信するとします。これはサービスの価値を伝える、という意味合いにおいては「是」です。プレスリリースなどは、このような種類の情報発信ですよね。

一方で、まだ製品に関心のない層にとっては「1億メッセージ」がすごいのかどうかはわからないし、この情報だけではサービスへの関心をもたせられないかもしれない。従ってサイボウズ式ではこのように事実だけを発信するのではなく、編集によってどういう風にすれば伝わるかを考えていくようなイメージです。

まずはとにかく、「この記事を読んでもらいたい読者の方は、どんなことに興味・関心があるのか」ということを考えることから始めるのが鉄則だと思います。

私たちも、企画の前にまずトレンドを把握し、想定読者が欲しがっている情報の当たりをつけます。そうすると結果的に、読者がきちんとついてきてくれて、サイボウズを知ってもらうことにもつながるわけです。

コンテンツを流通させるためのタイトルづくりとは?

また、コンテンツを作ることだけに主眼を置くのではなくて、それが伝わるにはどうするか、という流通まで考える必要があります。もし、いくらいい記事を作ったとしても、想定している読者に届かなければ、その記事は存在しなかったのと同じことです。

企画立案と記事制作にかけた苦労が水の泡になって、悲しい結果で終わってしまう。それを防ぐための最適化が最もできる場所は、記事の「タイトル」だと思います。

自社メディアはWebの世界で勝負しているわけなので、結果的にコンテンツ1つひとつで判断されるんですね。そうなると、コンテンツの入り口であるタイトルで、人の興味を惹きつける必要があるんです。

サイボウズ式では、まずは想定読者の人たちにどういうことが響くだろう……ということからタイトルを考え始めます。SEOを狙っていくような考え方は一切していません。

それには理由があって、サイボウズ式では「問題解決型」ではなく「問題提起型」のコンテンツを発信したいと考えているからです。検索をベースに考える場合には、「解決したい課題が読者の頭の中にあって、それを調べに来る」という前提があります。

でもサイボウズ式では、読者の方の頭の中でまだ言葉になっていない、潜在的なもやもやを思い起こしてもらうためのコンテンツ作りを重視しています。

▼潜在的な読者のニーズを引き出す、「問題提起型」のコンテンツ

問題提起型のコンテンツ

もともとサイボウズ式を運営する目的は、潜在的な市場にコミュニケーションを展開していくことです。そこでターゲットに置いている読者の方は、まだ直接的に弊社の製品につながるような課題を抱えている人たちではないんですね。

従って、まずは問題を提起することで、顕在化していない課題を考えるきっかけになるようなタイトルを作っています。例えば「会社ってなんで続かなきゃいけないの?」というタイトルであったり。この「問題を提起する」という部分は非常に重視していますね。

このようなサイボウズ式のメディア運営の考え方は、「ブランドジャーナリズム」の方向に近いと思っています。企業やブランドが大切にしているコンセプトが起点にあって、それをベースに問題を提起していく。それが結果的に、企業や製品の認知につながっていくというものです。

適切な場所で適切なコンテンツを届けていくことが、企業の情報発信において大切なことだと思います。(了)

※サイボウズ式を運営する目的について聞かせていただいた【前編】はこちらです。

【後編】では、「企業の中のオウンドメディア」という視点で、編集部の体制や、同社内におけるサイボウズ式の立ち位置についてお話を聞きます。

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