• サイボウズ株式会社
  • コーポレートブランディング部 サイボウズ式 編集長
  • 藤村 能光

【後編】サイボウズ式に学ぶ、「製品のPRにはつなげない」オウンドメディア運営術

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今回のソリューション:【オウンドメディア】

〜BtoBのオウンドメディアの成功事例の代表と言える「サイボウズ式」の連載最終回。具体的な運営法や、編集部の体制、そしてまず最初にすべきこと〜

近年、多くの企業は、顧客との直接的な関係性を築く「オウンドメディア(自社メディア)」に関心を寄せるようになった。

マス広告と顧客の多様性のギャップを埋め、高い投資対効果を狙う手法として注目が集まるオウンドメディアだが、日本ではまだまだその成功事例は少ない。

そんな中、特にソーシャルメディアにおいて大きな影響力を持つことに成功しているのが、サイボウズ株式会社が運営する「サイボウズ式」だ。

全3回にわたる今回の特集では、サイボウズ式編集長の藤村 能光さんに、企業メディアの運営術、そして目指すべき方向についてお伺いする。後編では、「企業の中のオウンドメディア」という視点で、編集部の体制や、同社内におけるサイボウズ式の立ち位置についてお話を聞いた

※オウンドメディア運営の目的について聞いた【前編】、コンテンツの作り方をお伺いした【中編】はこちらです。

企画はすべて自社で行う、サイボウズ式の運営体制とは

サイボウズ式の編集部の体制としては、専任で運営に携わっているのは私ひとりです。加えて、ほかの業務と掛け持ちで参加している社員が4、5名、学生インターンにも7人(2015年11月現在)入ってもらっています。

ライティングは外部ライターの方にもお願いしていますが、定期的に書いていただいているのは5、6名の方です。サイボウズが大切にしている「チームワークや働き方」の文脈まで踏まえた記事を作っていただきたいので、それをうまく汲み取っていただける方とのやりとりが自然に多くなっていきましたね。

藤村 能光さん

企画に関しては、すべて編集部で作っています。持ち込んでいただく場合もありますが、そういったケースでも必ず編集部で一度検討して、企画を再編成します。まず自分たちで汗をかいて、非効率的でもしっかり企画を作っていく、ということに重きを置いています

個人的な考えなのですが、それくらい自分たちでメディアの運営やコンテンツの企画をしなくては、自社メディアは差別化できないと思います。

効率を重視して、それっぽい記事を大量生産して、というやり方では、結果的に読者の心に残ることもなく、企業がメディアを運営する目的からはブレてしまうんですよね

※サイボウズ式開設の経緯、運営の目的について聞いた【前編】はこちら

ただ自社メディアの場合、企画は柔軟に考えることができます。製品のPRのための発信とは違って「絶対に発売日までに反響を得ないといけない」というようなこともありませんし、Webだからこそ、読者の反応を元に素早くPDCAを回すことも可能です。

企画を作って、記事にして、反響を生かして、また企画を作る……というサイクルをぐるぐる回しながら、どんどん企画をブラッシュアップしていけばいいだけなので。従って、企画の段階でガチガチに固める、ということはしていません。

自社メディアの企画に必要な「5つ」の要素とは

ただサイボウズ式の場合は、企画に必要な最低限の要素を5つ、編集部の共通言語として設定しています。まず「なぜやりたいか」という思いの部分。それから「コンセプト」「誰に届けるか(ターゲット)」「正しく伝えるために必要なこと(バリュー)」。最後に「サイボウズ式でこの企画をやる意義は何か」。この5項目ですね。

考え方としては、まずは「やりたい」という思いから始まって企画を立てる。そこからコンセプトを立てて、誰に対してどのようなバリューを提供できるかを考えていく。

ここまでは、よくあるマーケティングのフレームワークですね。ただこれだけでは、サイボウズ式独自の記事を作っていくことはできない。そこでそれに加えて「なぜうちでこれを書くのか」という文脈を練りこんでいく、ということになります。

取材の前にここまで作り込んでいるのですが、その理由は、取材をしてからいいところをまとめて記事にしようと思うとブレてしまうんですね。これは自社メディアにかぎらず、何かしら企画を考える場合は常に同じで、まずコンセプトが必要だと考えています。

伝えたいこと、伝わってほしいこと、そして果たしてこの記事を出す必要があるのか、ということを、先に掘り下げるようにしています

「ネタ切れ」は起こらない! コンセプト ✕ トレンドの発想法

藤村 能光さん

自社メディアの運営をしていると「企画のネタ切れ」が起こるという話をよく聞きますが、サイボウズ式ではそのようなことには全然ならないんです。

これは発想術だと思っているのですが、アイデアって掛け算なんですよね。メディアのコンセプトをベースにして、それに何かしらの要素を掛け合わせれば、新しいネタはどんどん生まれてくると考えています

そして掛け算する要素としては、トレンドや流行が挙げられます。なぜならば、人は新しいことに興味を持つからです。ニュースが昔からずっと人の関心を惹き付ける理由は、新規性を持っているからですよね。

サイボウズ式の企画も、それを意識して作っています。例えば社会現象として、働くお母さんが仕事で困っている、というトレンドがある。ではそれをサイボウズ式のコンセプトと掛け合わせてみよう、という風に企画に落としていきます。

イラスト

トレンドの部分は、その時々によって変わりますよね。だから掛け算する項目もどんどん移り変わっていきますし、企画も永久に生み出すことができる。ゼロから新しいものを生み出すのではなくて、このように掛け算で考えていけば「ネタ切れ」も起こらないんですよ。

企画から記事の振り返りまで 個人とチーム、それぞれが動く

企画は編集部のメンバーが個人個人で作っていくのですが、そこは弊社で提供しているGaroonやサイボウズLiveを使って逐一共有をしています。完成していなくても、できているところまでを常に共有するイメージです。

それを元に週に1度、編集会議を行っています。実際に書き上げたものを取り上げたり、全員で企画にフィードバックをしたりしていますね。

▼グループウェア「Garoon」で企画を共有

グループウェア「Garoon」のスクリーンショット

会議のあと、またひとりで考える時間に戻る、という流れを何度か繰り返してから、実際に取材を行って、ひとつの企画を記事にしていきます。ひとりで考える時間と、チームとしてオンライン上で情報を共有する時間、それをさらにブラッシュアップするためのオフラインの時間、という形で分かれています。

編集会議は、掲載済みの記事の振り返りよりは未来の話が中心です。PVなどの数字は、Garoon上のアクセス解析用のスペースで共有し、各人が次の企画に生かすために数字を見ています。 数字はあくまでも、自分が立てた企画に対して、どれだけの結果が出たかというのを判断する結果指標でしかないという考え方ですね。

※「PV」も「成約数」もKPIに置かない自社メディア運営法を聞いた【中編】はこちら

社内にも地道な積み重ねを 企業価値を高める自社メディア

また、自社メディアを運営する上で、編集部以外の社員の人たちの支えも非常に重要です。売り上げにはっきりつながるかどうか見えにくいポジションですので、ややもすれば、他の部署からはコストセンターとしてとらえられがちなんですね。

でもそうではなくて、メディア運営は未来への投資なんだ、ということを運営する側から地道に発信していくことが大切です。

私たちも、社内に向けて継続的に情報発信を行ってきました。数字を出すだけでなく、読者の方の反響などをスクリーンショットにして共有したり。「こういう読者の方がサイボウズに対して、こんな共感を持ってくれたんだよ」ということを発信し続けています。

その積み重ねで徐々に、「サイボウズ式というものが世の中に伝わってきているんだな」という雰囲気を社内に作っていく。そういった活動は、非常に大事だと思っています。

「作りながら変えていける」のがWebメディア まず発信から!

藤村 能光さん

今ではサイボウズ式を続けてきた効果として、弊社の対外的な認知度の向上が様々な面で顕在化してきました。具体的には、「働きがいのある会社」や「ダイバーシティ経営企業100選」に選んでいただいたり、採用面でも効果がありましたね。

弊社はソフトウェアの会社なので、文系の方に対してはアプローチが難しいところがあったんです。けれど最近は「サイボウズ式を見て面接に来ました」という方も増えてきています。こういった意味合いでも、サイボウズ式は企業価値を高めることに貢献できているのかな、と思います。

ただこれもサイボウズ式だけの力ではなく、会社が一丸となって色々な取り組みを行ってきた成果です。サイボウズ式の発信をきっかけに、他の媒体にも自分たちの情報が出て、それが第3者によって評価される。そうするとやはり社員のモチベーションになるわけです。そしてそれが、企業競争力を上げることにもつながっていく。

今、自社メディア運営に踏み出すかどうか迷っている方がいたら、まずは発信することから始めてみればいいのではないでしょうか。Webメディアでは、とことん作りこんで、100%完成したものを世の中に出していく必要はないんですよ。

コンテンツに集まってきた読者と関係性を作っていくことで、一緒に中身をブラッシュアップしていくことができます。だからまずは、出してみること、始めてみること。ただそこに「なぜ自社メディアを作るのか」という理由があることが大切なので、そこだけは最初にしっかりと突き詰めてもらえたらな、と思います。(了)

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