- ぺんてる株式会社
- 商品開発本部 デザイン室 コミュニケーションデザイングループ
- 菊池 寛
イノベーションのきっかけはTwitterの「プチ炎上」?ぺんてるから学ぶ共創マーケティング
〜ユーザーのツイートから始まった「ユーセージイノベーション」、そしてTwitterを活用したコンテストによる「共創マーケティング」まで、ある製品の売り上げを120%に増加させた事例〜
プロダクトを開発している当事者は、ともすると、自分たちが意図したようにユーザーがプロダクトを使うはずだ、と思いがちである。
しかし、現実には、狙い通りの使い方ではなく、少し変わった使い方で市場に熱狂的に受け入れられることもある。「ユーセージ(Usage:使い方)イノベーション」と呼ばれる現象だ。
1946年創業の老舗文房具メーカー、ぺんてる株式会社。30年以上も前から発売されていた、プラスチック万年筆「プラマン」が、絵を描くためのツールとしても優れていると認められ、人気が再燃している。
▼プラスチック万年筆「プラマン」
そのきっかけは、「ぺんてる製品で描かれたちょっとエッチな画像をリツイートしたこと」であったと話すのは、同社のTwitterアカウント「ペペ」を運用する、菊池 寛さんだ。
ユーザーの反響を拾い上げ、さらにはプラマンを活用したWebコンテストまで開催することで、同製品の売り上げを前年度比120%に高めることに貢献したという。
今回は、そのTwitter運用から始まった「ユーセージイノベーション」と、「共創マーケティング」について、詳しくお話を伺った。
ぺんてる公式Twitter「ペペ」の「中の人」
私はぺんてる株式会社で、主に国内のグラフィックデザインやWeb運用のチームマネジメントを担当しています。また、アクセスを集めるためのコンテンツの作成や、SNSの運用にも携わっています。
SNS運用は、Twitterを中心に行っています。Facebookと比べて、Twitterの方が弊社がターゲットとしているユーザーさんと親和性が高いからです。また、Twitterは投稿に対してリアクションしてくれることも多いんですよね。
Twitterは、弊社のマスコットキャラクターである、男の子の「ペペ」と女の子の「ルル」がつぶやく形になっています。ペペの投稿は私が、ルルの投稿は社内の女性社員が行っています。
▼「ペペ」と「ルル」のTwitterアカウント
ペペのTwitterアカウントはこちら
ルルのTwitterアカウントはこちら
「ペペ」と「ルル」のつぶやきを始めたのは、2014年8月に実施した「ペペ&ルル Collection
」という企画がきっかけです。
その企画を実施する中で、「SNSのアカウントを作って、ゆくゆくは公式のキャラクターとして楽しく続けられたらいいよね」という事で、Twitterの運用がスタートしました。
弊社は、社内に広報部が存在しません。その分、担当者が責任を持って楽しんで運営しています。フットワークが軽く、自由にアクションできている体制といえます。
ブログも組み合わせ、投稿を工夫する
実際の投稿は、ペペからは新製品情報などの公式情報、ルルからはそれ以外のライトなコンテンツを中心に発信しています。
また、約2年前から「表現の道具箱」というブログも運営しています。内容は、弊社の製品を愛用してる方へのインタビュー記事が中心です。そのブログへの投稿も、Twitterで拡散しています。
取材を通じて、弊社の製品を愛してくれるユーザーさんが、どのように使ってくれているのかが見えるので、コンテンツを作る上でも参考になっています。
数あるコンテンツの中でも、文房具に関連するお悩みに応えるコンテンツや、生活の知恵系はバズりやすいですね。例えば「毛先がパサパサになった筆ペンは、70度のお湯に浸すとナイロン毛が元に戻って使えるようになる」という記事は、Twitterで1万5000ほどリツイートされました。
▼ブログ「表現の道具箱」
「製品を使ってくれている」様子をリツイートで拡散。しかし…
自社で作ったコンテンツの発信以外にも、ユーザーが弊社の製品を使って書いたものを投稿しているツイートは、積極的にリツイートして拡散しています。
以前、ちょっとエッチな同人誌を書かれている漫画家の方が、「プラマン(プラスチックのペン先の万年筆)」という製品を使って、「イラストにプラマンがオススメ!」と投稿しているのを見つけたんです。その時点で、すでに3000〜4000リツイートされていました。
描いてる内容は目を覆いたくなるような内容ではなかったので、大丈夫だろうなと思ってリツイートしました。
すると、「大丈夫かぺんてる?」「ぺんてるの中の人は変態なのか?」といったツイートがぶわーっと上がってきて。プチ炎上しながら、フォロワーの増減とリツイートが同時に起こりました。
「老舗企業がそういうことをしていいのか」という雰囲気になって、「やばいな、始末書書かないといけないな」と正直焦りました(笑)。
プチ炎上から一転、「プラマン買ったよ」の報告が続々と
ですが、しばらくすると、今度は嬉しい反応が起こり始めました。「プラマン買ったよ」「エッチなペン買ったよ」「俺も買ったよ」というツイートが出始めたんです。
「そのエロいペン、どこに売ってんだよ?」と言ってくるような人も増えて、うれしい反応でした。否定的な反応が一転して、「買ったよ!買ったよ!」と報告してくれるようになりました。
次第に、フォロワーさんがその買ったプラマンで描いた絵を投稿してくれるようになりました。そして、「プラマンって絵が描きやすいんだね」という反応が増えていきました。
▼実際にプラマンで描かれた作品
ユーザーが独自に起こした、「ユーセージイノベーション」
実は、プラマンはもう30〜40年前に発売された、主に宛名書きや手紙を書くために生まれた製品なんです。ただ、絵を描くツールとしては訴求しておらず、最近では販売数も落ち気味でした。
それが、このTwitterの流れで、製品のポジションが「筆記」から「描画」のためのツールに少し変わっていきました。
結果的に、非常に自然な流れのマーケティング活動につながって、よく言う「ユーセージ(Usage:使い方)イノベーション※」と呼ばれる現象が起きたのではと思っています。
※メーカーが意図していない使い方を、ユーザーが独自に見つけて使い始めること。
例えば、Amazonで食器乾燥器が売れているという話があって、実はプラモデルなどの塗装の乾燥用に使っている人たちが、たくさん買っていたりするんですよ。
そういう形で、プラマンにも新しい使い方が、ユーザーによって見出されたのだと思っています。
Web上の「共創マーケティング」で、売り上げは120%に
現代は、メールやスマホが広がり、ペンを使って書く機会はどんどん減ってきています。廉価な万年筆として販売されてきたプラマンも、筆記のためのものから、描画のためのツールに変わってきている過渡期だったのかもしれません。
ですが、メーカー側が、「これは絵にも描けますからぜひ使ってください」と言っても広まらないわけですよ。ユーザーさんがそれを見つけて広めるほうが、やっぱり自然ですよね。
Twitterでその兆しが見えたので、その流れに勢いをつけるべく、プラマンでイラストを描き、Webに投稿するコンテストを開催しました。1カ月間の応募期間でしたが、100超の応募があり、低予算で短期間ながら大いに盛り上がりましたね。
▼当時のコンテストの募集画面
そして、コンテストが終わって1年経った現在も、プラマンで描かれた絵はTwitterにいまだにアップされ続けています。
そもそも、企業がはじめからキャンペーンとして立ち上げるのではなく、自然発生的に起こっていた動きに乗っかる形で実施したのが良かったのでしょう。
ユーザーさんが面白がっていることや動向に目を向けて、それらと一緒になって作り出す。いわゆる共創マーケティングと呼ばれる形で、プラマンの認知度は上がり、売り上げも前年比120%アップになりました。
アクセス解析ツールも活用し、より良い投稿を目指したい
このように、主にTwitterを運用していますが、その効果測定は、今のところはリツイート数やフォロワー数を追って、半期ごとに効果のあった投稿を振り返る程度です。
ただ、今後はきっちりと数値を分析して、PDCAを回していくために、SNSアクセス解析ツールも導入していきたいと思っています。
ツールを活用して、今後は投稿内容の振り返りや、ライバル企業の製品に関するつぶやきなどを比較して、より良い投稿ができる体制を整えていきたいと思っています。(了)