• ワンマーケティング株式会社
  • BtoBマーケティング事業部 コンサルティングプランナー
  • 垣内 良太

マーケティングオートメーションを始めるためには?組織改革に成功した企業のMA実践記

〜業態の変化に合わせ、マーケティングオートメーションを導入した企業が振り返る、MA導入のポイントとは〜

IT化により、多くの産業が衰退していく中、変化を迫られる業界は後を絶たない。

伝統的な印刷業から、マーケティング支援事業にシフトしたワンマーケティング株式会社も、そのうちのひとつだ。

同社では、事業の変化に合わせ、営業方法も大きく変化した。テレアポ一辺倒だった過去の営業体制から、マーケティングオートメーションツール「Marketo(マルケト)」を導入し、見込み顧客の獲得数を120倍にまで引き上げた。

ゼロから構築するには、いくつもの壁があるように感じるマーケティングオートメーション。

その壁を乗り越えるためには、「MAはコミュニケーションの自動化ツールではないという認識が重要」「まずは動いてみて、データを集めることが先決」と語る、同社の垣内 良太さんと山岸 勇毅さんに、詳しくお話を伺った。

印刷ビジネスへの危機感から、マーケティング事業へシフト

垣内  私は、2001年に入社しました。弊社は当時、株式会社たかアートセンターという社名で、印刷業を専門にしていましたが、世の中がデジタルに移行していく中で「これからは印刷だけでは食えない」という難しさを感じていました。

▼ワンマーケティング株式会社の垣内 良太さん


そこから、現在の主力事業であるマーケティングオートメーション支援に事業をシフトしたのは、ある仕事がきっかけでした。

あるとき、企業のマーケティング支援の一環として、展示会を開催して見込み顧客の名刺を集めるということをしていました。ですが、費用と人を投資して集めたその名刺の先に、営業がアプローチしていなかったんです。

他の企業の方に聞いてみても、同じようなところが多くて。展示会では、ブランディングや認知といったところは重視するのですが、マーケティング視点でのアプローチができていなかったんです。

ちょうど同じ頃に、インバウンドマーケティングという言葉が流行りだしまして。「これはチャンスでは?」と思い、お客さんに提供してみたところ、良い反応をもらえたんです。

そこからBtoBマーケティングに将来性を感じ、社名もワンマーケティング株式会社に変更して、BtoBマーケティング支援、そしてマーケティングオートメーション支援の事業に取り組み始めました。

社名を変更するときは正直、社長とはかなり揉めましたが(笑)。

自社のマーケティングも開始するが、一向にアポが入らず…

山岸 私は、ちょうど社名が変わった年に入社しました。前職までは営業をしていましたが、売るための裏側の仕組みを作りたいと思い、マーケティング業務は未経験でしたが、ワンマーケティングに社内のマーケティング担当として入社しました。

▼ワンマーケティング株式会社の山岸 勇毅さん

現在は、自社のオウンドメディアである「BtoBマーケティングラボ」の編集長と、セミナーや展示会といったオフライン施策、メールマガジンなどのリードナーチャリング、マーケティングオートメーション(MA)の運用も担当しています。

▼同社が運営するオウンドメディア「BtoBマーケティングラボ」


弊社も、以前は属人的な営業体制でしたが、社名変更と合わせてマーケティングの体制構築を始めました。

垣内 まずはコンテンツマーケティングと、オーガニック流入狙いのコンテンツをどんどん作っていきました。ホワイトペーパーも作成し、コンテンツが増えるごとに、ぽつりぽつりとリード(見込み顧客)も取れるようになったんです。

ただ、そのリードに営業が電話をかけても、一向にアポが取れませんでした。これはおかしいなと調べてみると、ただの情報収集を目的としてサイトに来ている方ばかりだったんですよね。

実際、サイトのコンテンツはお役立ち情報ばかりで…。明確に「何かをしたい」という状態のお客さんは来ていませんでした。

必要なのは「ナーチャリング(育成)」。MAツールを導入

垣内 そこから、リードのナーチャリング(育成)をしなければということで、マーケティングオートメーションツールを導入しました。

もともと、「Salesforce(セールスフォース)」で顧客管理はしていたので、そこと連動させて、メールマーケティングを始めようと考えていました。

ですが、そのツールとSalesforceの両方をきちんと見るということが、上手く習慣にできなくて…。営業はただリストをもらうだけ、マーケティングツールはただメールを配信するだけ、という状態になってしまったんです。

また、BtoBマーケティングでは、一度営業をしてダメだったとしても、そのリードを「リサイクル」して、追いかける必要があります。そのリードライフサイクルの管理ができなかったので、このまま運用しても、売り上げにつなげることは難しいなと感じていました。

そこで、Salesforceと密に連携できるマーケティングオートメーションツール、「Marketo(マルケト)」に入れ替えることにしました。

インサイドセールスは、営業とマーケの潤滑油

山岸 ある時、突然ツールがMarketoに変わったので、最初は特に大変でしたね(笑)。導入支援は受けなかったので、最初の設定に時間を取られ、使いこなすまでに2ヶ月ほどかかりました。

ですが、一度導入すると、マーケティングと営業の連携がスムーズになりました。Marketo上の見込み顧客の情報が、Salesforceに自動で入ってくるようになったので、Salesforceの活用度も上がりました。

そして、Marketoの導入後しばらくして、インサイドセールスのポジションも作りました。リードが増えてくると、営業の人が新規の電話をする余裕がなくなるので、はじめにインサイドセールスが電話でアプローチし、営業に引き渡しています。

それまでは、営業とマーケティングがうまくリードを共有できておらず、摩擦があるような状態でしたが、インサイドセールスを置くことでそれが潤滑油となり、効果が出始めました。

ただ、振り返ってみると、インサイドセールスを導入するタイミングとしては少し遅かったなとは感じています。インサイドセールスは、リードが取れ始めた段階ですぐに導入すると良いと思います。

一時はアウトバウンドをゼロにするも、現実は…

垣内 MarketoとSalesforce上で電話をかける条件をあらかじめ定めておけば、電話先のリストをすぐに表示することができます。

以前は、山岸から渡されたリードを感覚でスクリーニングして電話していましたが、きちんと基準ができたのは大きい変化でしたね。

山岸 マーケティングオートメーションを導入したあと、実はテレアポをすべて止めたんです。「インバウンドですべての案件を取れるといいよね」と考えていたのですが、今ではアウトバウンドも合わせたハイブリッド型に回帰しています。

やはり、お客さんを待っているだけでは、タイミングを逃してしまうこともあって。インバウンドだけでは、カバーできないお客さんも絶対にいるので、インバウンドもアウトバウンドも両方押さえていこうと考えています。

MAはただのデータベース。チューニングを繰り返すことが重要

垣内 マーケティングオートメーションを導入したことで、「問い合わせをした」という明示情報を持っているお客さんだけでなく、「価格ページを見た」というような暗示情報しか持たないお客さんにもアプローチできるようになったのは良いですね。

Marketoは、マーケティングと営業のコミュニケーションを自動化するツールではありますが、それはひとつの機能に過ぎないと思います。それよりも本来の役割は、お客さんの声を溜め込むデータベースだと思います。


あくまでも、集めたデータを元にして、コンテンツを自動化したり、インサイドセールスと営業どちらが動くか判断して実行するためのツールだと思うんです。

そう考えておかないと、みんな「自分たちの業務が楽になるんじゃないか」というところに意識がいって、失敗するんですよ。

また、プランニングに時間がかかりすぎて、PDCAのDoの部分ができていない会社も、失敗しやすいと思います。最初はわからないことがあるのは当然なので、とりあえず動いてみて、データを集めていくべきですね。

実際に私たちも、KPIを明確に定めてチューニングを重ねることで、リードの獲得数、受注率、ともに大きく向上しています。

チューニングするときは、数値だけを見るのではなく、営業とマーケでお客さんの属性について議論したり、アンケート結果や問い合わせの内容によってアプローチを変えることも重要です。

そうして日々チューニングをして、改善を重ねていくことが、マーケティングオートメーション成功のポイントだと思います。(了)

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