- 東京急行鉄道株式会社
- 鉄道事業本部 事業推進部 鉄道CS課
- 井上 敬介
通勤ラッシュを緩和する!入場規制をプッシュ通知で配信する、東急線アプリ運営の裏側
〜運行状況や入場規制の情報をリアルタイムに配信。 東急電鉄の、自社アプリを活用した顧客満足度の向上施策をご紹介〜
東京と神奈川のパイプラインとして、1日に約318万人が利用する東急電鉄。
多くの人々が生活の一部として利用するインフラであるが故、そこに寄せられる声の数も多く、解決すべき課題は多岐に渡る。
その解決手段のひとつとして運営されているのが、2013年3月にリリースされた「東急線アプリ」だ。
運行状況や駅内の混雑状況をリアルタイムに配信する同アプリは、リリース後、累計45万ダウンロードを記録。
この夏にアプリを通して実施したキャンペーンでは、車両の混雑率を改善することにも成功したという。
今回は東京急行鉄道株式会社にて、同アプリの運営を率いる井上 敬介さんに、顧客満足度を向上させるための取り組みについてお話を伺った。
届く声は1日1,000件にも。利便性向上のため、アプリを開発
僕は鉄道CS課という部署で、お客さまにご意見をいただきながら、サービスの満足度を高めるための取り組みを推進しています。
弊社のお客さまセンターには、日々、お客さまからの声が電話で寄せられています。
その内容は僕のもとにもメールで転送されるのですが、問い合わせも含めると、多い日は1,000件を超える場合もあります。
また、各路線の利用者を20代、30代…と各年代から集め、アンケートやディスカッションを毎年行う「東急電車モニター制度」を導入しています。
例えば「遅延時の情報配信をもっと早くしてほしい」「結局、目的地まで何分かかるのかわからない」などといった声をいただいています。
その中で、鉄道の利便性向上を目的に提供しているのが「東急線アプリ」です。
▼利便性の向上を目的に運営される東急線アプリ
元々は2013年3月に東急グループの鉄道と商業施設の利用を促進すべく、「のるレージ」というポイントサービスをPRする目的でリリースされたアプリでした。
しかし、2015年10月からはその位置付けを鉄道の利便性向上に変更し、運行情報などを中心に配信しています。
▼駅構内にて掲示されている東急線アプリの広告
というのも、東急電車モニターのアンケートや、外部に委託して実施する顧客満足度調査を実施した際に、「遅延への不満」や「異常時の情報配信や対応」などの結果については、ご満足いただけていないとの結果が出たんですね。
そのため、このままではいけないということで、アプリをお客さまの満足度を高めるために活用することになりました。
列車の走行位置や、バスの運行状況をリアルタイムに届けるアプリ
アプリの機能としては「時刻表」「乗換案内」といった基本的なものに加え、列車の走行状況をリアルタイムに配信する「列車走行位置」が特に多く利用されています。
▼列車の走行状況をリアルタイムに把握できる
また、鉄道だけではなく、東急バスの走行情報をリアルタイムに配信する「バスナビ」という機能もあります。
よく利用するバス停を登録することで、「今、ひとつ前のバス停を出発しました」といった情報を確認することができるんですね。
▼バスの運行情報を確認できるバスナビ
バス停までゆっくり歩いて行っても良いのか、少し急いだ方が良いのかを判断するためにご利用いただいています。この機能を使っていただければ、もう目の前でバスを逃すことがなくなりますよ(笑)。
鉄道の情報だけですと、利用シーンとしては異常時の状況チェックが主になるかと思います。ですが、バスで通勤されているお客さまであれば、毎日ご利用いただける機能です。
駅の監督者による判断で、入場規制をプッシュ通知で配信!
また、今年の8月に業界初となる「入場規制を知らせるプッシュ通知機能」をリリースしました。
普段から利用する駅を登録しておくと、駅構内の混雑などによる入場規制時に、その情報をリアルタイムに受け取ることができる機能です。
運用としては、まず、駅を日々管理している監督者が、事故の影響やその時間帯の人の流れといった状況を整理します。
そして、「安全のため規制が必要かな」と感じた際に、専用アプリを通じて、東急線アプリユーザーに向けたプッシュ通知を配信します。
▼スマホやタブレットを通して、プッシュ通知が配信される
この通知は、情報をリアルタイムにお客さまに伝えるための機能です。よって、本社のチェックを通さずに、駅の監督者が入力次第、アプリに通知される仕様となっています。
できるだけ早くお客さまにも状況を知っていただくために、このような形をとっています。
車掌もアプリを活用!車内アナウンスがより正確、具体的に
また、全く予期していなかった使われ方なのですが、実は車掌が車内アナウンス時の情報源として、アプリをチェックしています(笑)。
以前は「大井町線は20分程の遅れです」とアナウンスしていたものが、「最大16分の遅れで運行しています」と、より具体的にお伝えできるようになったんですね。
通常は内線で運行情報を社内共有しているのですが、アナウンスしながらだと、たまに聞き取れないこともあるんです。
そんな時にアプリを見れば、「隣の駅までに何編成の列車がいるか」といった情報を知ることができ、結果的にお客さまにも、より詳細なご案内ができるようになりました。
そのため、今ではアプリの改修がある度に、お客さまの声に加えて、運転部門からも「こういう画面があると便利」といった意見を聞くようにしています。
キャンペーンを通じて、通勤時の混雑率を緩和
また、今年の7〜8月の2ヶ月間で、グッチョイモーニングというキャンペーンを実施したところ、朝の時間帯における混雑率が緩和されるということが検証されました。
グッチョイモーニングは、田園都市線を対象に、朝7:30までに渋谷駅を通過すると、東急ストアなどで利用できるクーポンが貰えるというキャンペーンです。
▼様々なクーポンが発行されるグッチョイモーニング
朝の混雑緩和を目的に実施したのですが、混雑がピークに達する時間帯1時間あたりの混雑率が、田園都市線で約1%、東横線では約0.5%改善しました。
※混雑率:目視での乗車人数の確認と、各駅の乗降調査によって計測
1%と言うと、大したことのないように思われるかもしれませんが、我々からすると結構大きな効果なんです。
この取り組みは、8月でいったん終了したのですが、今後は対象路線の拡大も検討して、積極的に混雑緩和策に取り組んでいきたいと思っています。
「東急沿線に住みたい」と思われるようなアプリ運営を目指す
東急線アプリは、現在、約46万ダウンロードいただいており、この数は東急線1日あたりの利用者の約4人に1人にあたります。
そういった中で、広告を掲載してマネタイズを考えることもできますが、あくまで我々はお客さまの利便性向上を目的に、アプリを運営していきたいと考えています。
弊社では「いい街 いい電車 プロジェクト」と銘打って、移動手段を提供するだけでなく、東急沿線の街に、より安心感や愛着を持っていただくことを目指しています。
ですので、「朝早く行くと、何かもらえるのは東急線だよね」とか「東急線アプリがあるから、東急沿線は住みやすい」と思っていただけるようになれば嬉しいですね。
今後も、鉄道の情報配信に留まらず、お客さまの生活を少しでも豊かにするようアプリを作っていきたいと思います。(了)