- 株式会社スマートドライブ
- 代表取締役 CEO
- 北川 烈
クラウドファンディングでテストマーケ!初期ユーザーの声を活かしたサービス開発とは
〜クラウドファンディングで「ユーザーの声」を集める!「作っては壊し」を繰り返し、現在のデバイスは10代目。スマートドライブの事業開発とは〜
2013年10月に創業した株式会社スマートドライブは、過酷なハードウェア領域に挑戦するIoTスタートアップのひとつだ。デバイスの製作から、自動車の走行ビッグデータの解析まで、一気通貫で手がけることが同社の特徴である。
そのデバイスから収集できる情報は、車の位置情報、走行距離、急ブレーキや急加速などの危険運転、アイドリング、各種の故障情報など、多岐にわたる。
現在、同デバイスは大手コンビニの配送車両をはじめ、1万台以上の車に導入された。そして2017年4月には、およそ10億円の資金調達を発表するなど、順調にサービスを拡大させている。
そんな同社が、初めてデバイスをユーザーの元に届けたのは、創業から1年半後。クラウドファンディング「makuake(マクアケ)」上であった。
「まずは限定されたユーザーにサービスを使ってもらい、フィードバックをもらいたかった」と語るのは、同社CEOの北川 烈さん。
今回は北川さんに、「クラウドファンディングでのテストマーケティング」から、いかにプロダクトを改善させていったか、詳しくお話を聞いた。
車の健康状態や運転技術を診断し、リアルタイムにデータを提供
僕はもともと、大学院で移動体のビッグデータ分析を研究していました。それこそ車だけではなく、船や農作機、人の動きまでもが研究対象でしたね。
データ分析のようなテクノロジーの力で、移動体を進化させていけることが面白いな、と思っていて。その中でもやはりまずは車からだろう、ということで、2013年の10月にスマートドライブを創業しました。
スマートドライブが提供しているのは、自動車の状態やドライバーの運転特性に関するデータを収集し、スマホやWeb上で可視化するサービスです。
専用のデバイスを車に取り付けることで、例えば速度や、エンジンの故障情報、急ブレーキを踏んだ場所や回数といった、50種類ほどのデータを収集できます。
デバイスに関しては、シガーソケットに装着するものと、OBD-Ⅱという車の整備用ポートに装着するもので、合計3種類あります。取り付け工事などは不要ですので、誰でも簡単に導入ができます。
現在は、コンシューマー向けの「DriveOn」と、法人向けの「DriveOps」というふたつのサービスを運営していて、合計で1万台以上に導入されています。
コンシューマー向けのサービスでは、保険会社さんと提携して、ご提供しているものが中心です。運転技術を100点満点で診断するのですが、そのスコアが高ければ保険料が下がる、という専用の保険を開発中です。
一方で法人向けの場合は、車両の管理や燃費の改善、また、営業や配送ルートの効率化、といったことが提供価値です。
ハードウェアスタートアップは「死の谷」を越えるのが難しい
ただもともと、創業したときにはデバイスも何もありませんでした。
そもそも僕たちのようなハードウェアが必要なスタートアップですと、ローンチするまでのハードルが非常に高いんです。
「モノ」が必要なので、サービスを完成させるまでにも、何億円も必要になります。金額が大きいので、投資家を見つけるのもなかなか難しいんですね。
ですので、プロトタイプまでは作れても、そこから市場でサービスを成長させるフェーズに辿りつく前に、深い「死の谷」があって。
そこをどう乗り越えるか、ということは、ハードウェアスタートアップの「あるある」かもしれません。
実際、スマートドライブでも、プロダクトをローンチするまでに2、3億円かかっています。
ハードウェアを作って、それと繋がるアプリも作って、データを解析するサーバも作って…。そこは資金調達と、一部は助成金を活用させていただきましたが、けっこう辛かったですね。
初めて商品をお客様に届けたのは、創業から1年半ほど経ったときです。そのときのデバイスは、既に7代目なんですよ。作っては検証をして直して、の繰り返し。ちなみにいま提供しているものは、10代目にあたります。
お客様との最初の接点に、「クラウドファンディング」を選んだ
そんな中、初めてユーザーに使ってもらえるレベルのものができたときに、最初はやはり個人のお客様に使っていただきたいなと考えました。
と言うのも、我々のサービスが提供する「車に関するデータを集めて解析し、活用すること」の価値は、ユーザーさんが使いやすいサービスでなければ実現できないと思っていたんです。
実は世の中には、車の状態を診断する機械は、以前からあったんですよね。ただあくまでもメーカー向けの商用で、大きな機械を工事して取り付けるようなものでした。
もちろんエンドユーザーには何もフィードバックされていませんでしたし、インターフェースもあってないようなもので。これでは、爆発的に普及しないだろうと。
ですので、僕たちの提供するサービスでは、ユーザーさんが簡単にデバイスを取り付けできて、さらに使いやすいインターフェースであることが必須だと思っていました。
この点を検証するためにも、まずはやはり個人向けに出していくべきだろうなと。
最初は、いきなり完成品をAmazonで販売する、ということもアリかなと思ったんです。でもそれよりは、もう少しテストマーケのような形で世の中に出して、フィードバックをもらって、改善していく方が良いだろうと。
そこで活用することにしたのが、クラウドファンディングの「makuake(マクアケ)」でした。
「テストマーケ」にクラウドファンディング「makuake」を活用
実はmakuakeの方もおっしゃっていたのですが、クラウドファンディングって、資金調達のためだけではなく、テストマーケの意味合いも強いそうなんです。
特にmakuakeは、「新製品のお披露目」のような形で利用している他のスタートアップも多く、今回の目的には1番フィットするのかなと考えました。
他のクラウドファンディングですと、例えば社会貢献の色が強かったり、それぞれのカラーがあるので、用途に合わせて選ぶと良いと思います。それこそ本当にお金を集めるという目的だったら、「Kickstarter」が良かったかもしれないですし。
僕たちの場合は、お金を集めることが目的というより、新しいもの好きの尖った方200人に、まずは使ってもらって、フィードバックがほしかったんです。
目標金額は100万円に設定していましたが、実際に100万円じゃ全然ハードウェアは作れないので(笑)、そこは使ってほしい人数から逆算して、ある程度は「キメ」で決定しました。
▼実際の「makuake」でのクラウドファンディングの様子
最終的には、このクラウドファンディングで、百数十個のデバイスをお客様のところに届けることができました。
支援者の「使い方」と「フィードバック」で、サービスを改善
商品の発送後は、まず、プロダクトの使われ方をデータで見ていました。そもそも使われているか、そしてどこの機能が見られているか、といったことを、定量的に見ていたんですね。
するとやっぱり、意外な発見があって面白かったですね。例えば思っていた以上に、「自分の過去の運転」を振り返っている方が少なかったんです。
当時は、安全運転をするとポイントがもらえて、それがどんどん積み上がっていくシステムでした。僕たちとしては、運転すればするだけポイントが増えていくからその方が良いと考えていました。
でもこの形式ですと、やはり「良い運転か」ということがわかりにくく、運転の改善にもつながりにくい。ですので、今は安全運転の診断は、100点満点のスコアで提示する形に変更しました。
また、デバイスを送ったのに、使われなかったケースもありました。そこで聞いてみると、女性の方で、OBD-Ⅱがどこにあるのかわからず、ペアリングできなかったと。
そこで、アプリのほうのデザインを変更し、アプリを開くとすぐにチュートリアルが出てくるようにしました。
▼実際のチュートリアル画面
このインターフェースの部分は、製造業やハードウェアの会社が苦手とするところなので、逆に弊社の強みだと思っています。ですので、UIUXはいただいたフィードバックからどんどん磨いていきました。
makuakeでは、商品を購入してくれた方と、直接コンタクトをできる仕組みがあります。ですので、発送後に「どうですか」といったアンケートを送って、回答をいただきました。
クラウドファンディングならではだと思うのですが、その製品を「支援する」という気持ちが強い方が多いので、アンケートには割りと答えていただけますね。
「オープンでワイドなデータ」を武器に、社会のインフラを目指す
このようにmakuakeでスタートを切りましたが、その後、2016年の9月に法人向けのサービスも開始しました。
拡大するにつれて、新しい課題も見えてきています。やっぱり車の使われ方は様々なので、データの活用法も千差万別で。
でもそこで皆の意見を聞きすぎると、ぐちゃぐちゃになってしまう。汎用的なプロダクトにするということが、非常に難しいですね。ですので、全員に8割回答できるようにするような形を目指して、試行錯誤しています。
そもそも僕たちのサービスの価値は、車メーカーができない「横串の」サービスを提供できることです。どんな車にでも取り付けができるため、非常に幅広いんですよ。
また、非常に面白いデータが、現状でも取れているんですよね。例えばCO2の排出量や、どの道路で急ブレーキやスピード超過が多いか、といったリアルなデータもわかります。
この、サービスの特徴である「オープンでワイドなデータが取れる」ということが広がっていくと、車以外の領域ともつながってきます。色々なことにデータが活用できれば、本当に社会のインフラになれると思っているので、引き続きがんばっていきたいですね。(了)