- 株式会社ブライトテーブル
- 代表取締役
- 松下 勇作
「botは人力で育てるペコ!」グルメQ&Aアプリ「ペコッター」のチャットボット活用法
〜最初は人間が「botのふり」!?ペコッター立ち上げ秘話と、対ユーザー、対社内におけるbot活用ノウハウをご紹介〜
ユーザーがまるで「人間と会話するように」機械と会話できる仕組み「チャットボット(Chatbot)」。
チャットボットを活用するWebサービスが増え続ける中、2015年からそのチャットボットをサービスの中心に用いて開発されたのが、グルメコンシェルジュアプリ「ペコッター」だ。
メニュー、シチュエーション、予算といったユーザーの希望に応じて、チャット形式でおすすめの飲食店を教えてくれる同サービス。
現在は、その回答をbot「メカペコ君」が自動で行っている。しかし実は、サービスの立ち上げ初期には、代表兼開発者である松下 勇作さんが「人力で」すべての質問に回答していたそうだ。
今回は松下さんに、ペコッターの立ち上げ秘話と、チャットボットを活用する際に必要な考え方について、お話を伺った。
オススメの飲食店をbotとユーザーが教えてくれる「ペコッター」
私は2012年に弊社(株式会社ブライトテーブル)を創業し、「世界中の食卓を明るくにぎやかに」するためにサービス開発を進めてきました。現在は、グルメコンシェルジュアプリ「ペコッター」の開発、運営をしています。
ペコッターは、飲食店を探す時に使うサービスです。自分の希望をチャットするように問いかけるだけで、ぴったりのお店を教えてもらうことができます。
▼希望にぴったりの飲食店を教えてくれる「ペコッター」
問いかけた質問には、「メカペコ君」というbotや、他のユーザーさんが回答してくれます。また、気に入ったお店があれば、お店の予約をチャットで依頼することができます。
▼希望の条件をチャットで入力すると…
▼すぐにメカペコ君がおすすめのお店を教えてくれる
行きたいお店の条件が具体的に決まっているなら、Googleやグルメサイトで検索ができますよね。でも、「何かこの辺で、さくっとごはんできる、おいしいお店はないかな?」っていう時もあると思うんですね。
そんな時に、今の気分や希望をつぶやくだけで、おすすめのお店を教えて貰えるサービスとして、ペコッターを開発しました。
ペコッターのbotは、最初は「人力」だった!その理由は…
ペコッターは今でこそ、botを活用したサービスになっていますが、最初から機械が回答していたわけではありませんでした。
リリース当初は僕がずっとパソコンの前に張って、お風呂に入ってる時以外は常に、質問がきたら2、3分以内に自分で回答する、ということをやっていました。
僕自身、街を歩いてお店を探すのが好きだったので、「この街だったら、このお店がいいよね」っていうお店地図が頭の中にあったんですね。初期は、その貯金を切り崩すかのように、とっておきのお店を教えていました。
はじめからbotを作るのではなく、自分で回答をしていた理由は、ユーザーさんに、人に質問する時と同じくらいの濃度で、ペコッターにも質問をしてもらいたかったからです。
と言うのも、精度の高い回答を返すためには、まずはbotに学習をさせる必要があります。「どのような質問が来るのか」「それに対してどのような回答であれば満足されるのか」といった、情報を集める必要があるんですね。
そして、その学習自体の精度を上げる「人間らしい会話」を蓄積するためには、そもそもユーザーさんに「人間に尋ねるような」質問をしてもらう必要があります。
でも、botのUIはシンプルすぎて、ユーザーさんからすると「このbotで何ができるんだろう?」という感じで、そもそもの期待値が低いんです。そのため、きっと人間にするような高度な質問はしてくれないだろう、と考えました。
そこで、まずは、ユーザー同士が回答をしあうコミュニティの形でスタートすることで、人に聞くような質問や会話を促そうと考えたんです。
多くのデータを集め、チャットボット「メカペコ君」をリリース
そうやって1年半ほどの間、人力でサービスを運営する中で、「この質問に対してはこう回答をする」というデータが、数十万件ほど貯まっていきました。
そのデータを基に、2016年8月、質問に対して約5秒で回答してくれるbot「メカペコ君」をリリースしました。
メカペコ君が認識しているキーワードは、メニュー名ですと4万6,000件ほど。「お蕎麦」「おソバ」などの表記の揺れにも対応しながら、ユーザーさんの質問の中からニーズを認識した上で、それにぴったりなレストランを探します。
また、ペコッターでは全国のレストランのメニューだけでなく、値段帯、営業時間、お席の情報、口コミでの評価など、様々な情報をデータベースに蓄積しています。
一人の人間がお店の情報を眺めているだけでは到底読み込めない情報の海の中から、botがぴったりのお店を探してきてくれるんです。
例えば、ある珍しいお酒が「他のどのグルメサイトのメニューにも掲載されてないけど、ある口コミの隅っこに小さく掲載されている」という場合でも、メカペコ君は見つけ出してきてくれます。
「メカペコ君はお店のことなら全部知っている。蓄積された情報の中から、今の自分にぴったりのお店を選んでくれる。だから、メカペコ君に聞くのが一番!」と思ってもらえるように、日々、あらゆる観点から情報を蓄積、更新しています。
お店への予約を自動化するため、最初は自分が「機械のふり」
また、ペコッターでは、予約名と電話番号を伝えれば、代わりにレストランに予約を入れてくれる「ペコッター予約」というサービスを展開しています。
この仕組みは、現在は自動音声による効率化を進めていますが、それも最初は、最適な案内方法を検証するために、機械のふりをして自分がレストランに電話をかけていました。
例えば、
店員 お電話ありがとうございます。◯◯(店名)の◯◯(店員名)でございます。
bot(松下) 予約をお願いいたします。お席の確認の準備はよろしいでしょうか。
店員 (???少し戸惑いつつ)はい。。。
bot(松下) 6月18日、土曜日、18時30分から、3名、テーブル席、以上です。お席に空きはありますか? 空いている場合は1を、空いていない場合は3を、もう一度聞きたい場合は5を…
といったイメージです。
この流れの後に、「予約代行サービスの運営にあたって、自動音声での予約を実験している」ということをお店に伝えて、フィードバックをいただきました。
▼フィードバック内容を記録した実際のメモ
例えば、冒頭の切り出しの言葉は何がいいのか、録音っぽい話し方と自然な話し方のどっちがいいのか、どこで何秒くらい間をおくのがベストかなどなど、何度も「機械のふり」をして検証を繰り返しました。
社内でもbotを活用。キャラクターを使うことで、柔らかい空気を
キャラクターの活用は、アプリの中だけにとどまらず、社内のコミュニケーションツール「Slack(スラック)」でも「モニ太郎」「アラートおばちゃん」というbotが活躍しています。
モニ太郎は、ユーザーさんの質問に回答が届いてない時に、「9分間も待ってるもに」「12分間も待ってるもに」「15分も待たせてどういうつもに?」と、3分ごとに教えてくれるbotです。
▼回答を待たせている場合に教えてくれるモニ太郎
普通のアラートが出ると、「もう大変だ!」って、気持ち的に結構まいっちゃうんですよね。
そこを、モニ太郎に変えることで、「モニ太郎がモニモニしてる!モニ太郎を助けに行かなきゃ!」というような、柔らかい空気を保つことができるんです。ルンバが袋小路にハマって出てこれないのを、助けてあげるイメージに近いです。
そして、オペレーターが回答ルールから外れてしまった場合に教えてくれるのが、アラートおばちゃんです。
例えば、ペコッターでは、「全角数字を使わない」というルールがあるのですが、誤って使用してしまうと、アラートおばちゃんが現れて、「あらあら、全角数字使ってる人見つけちゃったわよ。使わないようにパソコンの設定をしておいてね」という風に教えてくれます。
▼表記ルールに反した場合に教えてくれるアラートおばちゃん
これも、オペレーターの士気を下げることなく、ミスを指摘するための工夫です。
また、ペコッターでは、最初は丁寧語で回答をしていたのですが、そうするとユーザーさん側も丁寧語になってしまい、入力が面倒になると考えました。
ただ、サービス提供側がタメ語を使うのはさすがに受け入れられないだろうと考え、語尾に「ペコ」をつけることにしたんです。すると、ユーザーさん側も「何とかよろ!」みたいな感じで、botを使いっ走りのように使ってもらえるような空気感を作ることができました。
チャットボットを通して、1人ひとりに最適な情報を届けていく
このように、泥臭い取り組みを交えながら、ペコッターの開発を進めてきました。サービス自体も順調に成長し、今年の10月には、月間6万件の店舗送客を達成することを目標にしています。
今はまだ、飲食店を探す方法としては「検索」が主流です。そして、今の検索は、すべての検索者に同じ結果が表示されています。
ただ、ペコッターを運営していてわかったのですが、「この質問であれば、このお店が人気」という一般的な傾向と、それぞれのユーザーさんが好むお店の傾向は、やっぱり違うんですよね。
また、「この時間に、この質問であれば、こっち。この曜日なら、あっち」と検索される時間帯、曜日によっても最適な回答は異なるんです。
ですのでペコッターでは、チャットでのやりとりや実際の予約履歴を学習して、だんだんユーザーさんの嗜好性に合わせた回答ができるようになってきています。
例えば、検討中のお店を保存できる「とりあえずキープ」と、実際に予約依頼ををする「ここに決めた!」というボタンを押された飲食店のデータをユーザーさんごとに蓄積し、活用しています。
▼見つけたお店をキープして、比較検討した上で予約することができる
このキープ・予約依頼の件数は、サービスそのものに対する満足度を測る指標でもありますし、かつ、ユーザーさん個人の嗜好を知るヒントにもなっています。
リリース後、まずは「質問と、それに最適な回答」という一般的な傾向を掴むことに注力してきましたが、今後はより、ユーザーさん1人ひとりの嗜好を把握していくことができればと考えています。
この10年間で、インターネットのインターフェースは、Webからモバイルに移り変わり、さらに音声に変わっていくと考えています。その時に、自然な言葉で質問できて、ぴったりのお店を返してくれるペコッターが本当に受け入れられる日がくると考えています。
今後も、あらゆるユーザーさんの好みに合わせて、最適な情報を提供できるよう、サービス開発に努めていきたいと思います。(了)