- (株)リクルートマーケティングパートナーズ
- まなび事業本部 オンラインラーニング事業推進室
- 中根 将太
15秒間で「サービスの良さ」をどう伝えるか?スタディサプリのマスマーケ成功術とは
〜認知はされているが、伝わっていない。その課題を解決すべく、「スタディサプリ」が実施したマーケティング施策の刷新とは〜
競合ひしめく市場において、顧客に他社サービスとの違いをどのように理解してもらうか? ということは、すべてのマーケターにとって大きなテーマだ。
オンライン学習支援サービス「スタディサプリ」においても、「名前は知られているが、サービスの具体的な良さである授業の質の高さが理解されていない」という課題を抱えていたという。
そこで同サービスのマーケティングチームでは、アンケートを活用した調査結果を基に、CMのクリエイティブを「実際の授業風景」を紹介する内容に刷新した。
また、的確なターゲティングを実現すべく、高校周辺の交通広告を利用したOOH(※)施策を実施した結果、予想を上回る新規会員の獲得に成功したという。
※家庭以外の場所で接触する「交通広告」「屋外広告」などのメディア
今回は同サービスのマスマーケティング施策を担当された中根 将太さんに、そのマーケティングの刷新プロセスについて、詳しくお話を伺った。
CMクリエイティブの刷新と、OOH施策で予想を上回る成果を実現
僕は2015年に入社し、現在はオンライン学習支援サービス「スタディサプリ」のマスマーケティングを担当しています。
スタディサプリは、主に小学生〜高校生、そして大学受験生を対象とした、オンラインで受講ができる学習支援サービスです。
月額980円という価格で、全5教科18科目の授業動画が見放題という点が大きな特徴になります。
直近のマーケティング施策で言うと、今年の3月から、大学受験を控えた高校生向けのプロモーションを実施しました。
過去にもCMやDM、新聞折込などの施策を行ってきたのですが、今回は「CMのクリエイティブ刷新」「高校生の導線に最適化させたOOH施策」を行った結果、想定比150%を上回る新規会員の獲得に成功しました。
名前だけが認知され、「価値」が伝わっていない状態にあった
今回このように施策を刷新した背景には、「スタディサプリは、名前の認知は一定数あるが、サービス内容が知られていない」という課題意識がありました。
以前から僕たちは、イベントやショッピングモール内でのブース出展などを通して、オフラインで高校生と直接コミュニケーションを取る機会を持っていたんですね。
その中で、「スタディサプリを知っていますか?」と質問してみると、過去に何度かCMを放送していたこともあって、「聞いたことはある」という高校生はたくさんいたんです。
ただ、「どういうサービスか知っていますか?」と質問すると、「動画を見れるやつ?」「ちょっとわからない」という反応が多かったんです。
実際、学生に授業動画や授業本数を見てもらうと、皆とても驚いてくれるのですが、その魅力が全く伝わっていないなという状態でした。
そのため、今回のプロモーションを実施するにあたっては、どのような訴求方法が良いのか改めて考え直す必要がありました。
「実際の授業動画」を見たときに、最も利用意向が上昇する
まず、サービスの良さを理解してもらうために、どのようなCMのクリエイティブが良いのか? を考えました。
そこで、高校生に伝わりやすい訴求方法を検証すべく、20パターン程の訴求案を出し、そのテキスト情報を見てもらうという調査を実施しました。
その中で、もともとサービスベネフィットを言葉で説明するより、我々が自信を持つ質の高い授業を見てもらったほうが良いのではないか? という仮説を持っていたため、ひとつだけ授業動画を入れました。
結果は、授業動画が入ったものが圧倒的に利用意向を得る、というものでした。
アンケート結果を通じて、この仮説が立証されたため、「月額980円で1万本以上が見放題」という点を訴求していた過去のCMを刷新し、「神授業見放題」(※)と銘打って、実際の授業の様子が分かるようなCMを作ろうということになりました。
※現状は「神授業1万本」に変更
誰でも理解しやすい英単語「on」の解説動画をCMに採用
実は、過去にもCMに授業動画を使おうという話はあったんですよね。ただ、授業が15秒に収まるわけがないだろうということで、挑戦していなかったんです。
そんな中、今回は明確な調査結果が出たため、英語の関正生先生に賛同していただき、授業を10秒でやっていただくことになりました。
関先生は、予備校でも数多くの授業を行ってきた経験があるため、どのような授業内容だと、短い時間でも学生の理解を得るのか? という感覚をすでにたくさん持っていらっしゃいました。
そこで、授業内容の候補を出してもらい、10秒で出来そうなものを10パターンほど実演してもらいました。
例えば、「簡単な暗記方法を紹介する」「勉強法を紹介する」「受験に大事なマインドを語ってもらう」などですね。
反応を検証するために、これも実際に高校生に見てもらったところ、英語の前置詞「on」を解説する授業への反応が非常に良かったんです。そこで、この授業動画をCMのクリエイティブとして採用しました。
▼CM 「神授業、見放題。」(大学受験生篇)
※実際のCM動画はこちら
最初の5秒でスキップされないよう、ランキング形式で配信
このCMは、YouTube上でも動画広告として配信しました。
ただ、テレビCMと違って、最初の5秒でスキップされる可能性が高いので、その5秒間でどれだけ注意を引くかを工夫する必要がありました。
そのため、「神授業ランキング◯位」という形で、CMの冒頭でランキングを伝えることにしました。調査結果に基づいて、5パターンの授業動画を1位〜5位までランクづけしたんですね。
そうすると視聴者も「何だろう?」という気持ちになるので、スキップされにくいんです。更に、2位を見た人は1位が気になる、と言った形で見回ってくれて、再生数が全体的に上がりました。
Twitter上でも「YouTubeでよく流れてるやつ、ためになる」とか、「複数パターン全部見た」という反応をもらうことができました。
高校生を的確にターゲティングすべく、交通広告を活用
また、今回はCMに加えて、OOHを活用した新たな取り組みもはじめました。
というのも、高校生は日本の全人口において、約3%とかなり少ないんです。ですので、なかなかターゲティングできる方法がないという課題感がありました。
何か良い施策はないかと考えたところ、シンプルに交通広告を利用して、各高校の近くにアプローチできれば良いよね、というアイデアが出ました。
ですが、高校生だけをターゲットとした広告媒体ってほとんどないんです。そこで、代理店さんと協力し、各高校の住所を調査して、最寄りのバス停や駅の広告枠を地道に洗い出していきました。
▼各高校の最寄り駅やバス停に広告を掲示
そして、クリエイティブは「そういえばスタディサプリがああいうCMをやっていたな」と想起してもらえるような内容にして、各地で掲載していきました。
オフラインの広告ですので、新規会員の獲得にどれだけ貢献したのかを明確に測ることは難しい部分もありますが、大きな効果があったのではないかと考えています。
今後はより幅広いサービスのプロモーションも視野に
マスマーケティングは、効果を定量評価しづらい媒体も多く、出稿量やクリエイティブについてなんとなく意思決定することも少なくないと思います。
しかし、意思決定に有用な範囲で、可能な限りその効果予測を定量化することで、プロモーションの精度が高まるはずです。
我々はオンラインサービスを扱っていることもあり、これからも定量的な意思決定にこだわっていきたいと思います。
スタディサプリでは授業動画の提供だけでなく、現役大学生のオンラインコーチが付いてチャットで相談できるようなプランを開設したり、授業のライブ配信を始めたりと、新しいサービスラインナップを増やしています。
そのため、今後はこれらのサービスも含めたマーケティングを実施し、より多くの受験生にスタディサプリを利用してもらうことができればと思います。(了)