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  • マーケティング室 マーケットコミュニケーション部
  • 永山 裕

雲の下でも5つ星のおもてなしを!「Webサイトの価値」連続1位・ANAのデジタルマーケ

〜「Adobe Marketing Cloud」を駆使し、5つ星のおもてなしをデジタル上でも実現するANA。顧客の状況にあわせた、そのコミュニケーションの方法とは?〜

世界に誇る「おもてなし」を提供し、5年連続で「5つ星航空会社」に認定されたANAグループ。同社のおもてなしは、何も雲の上だけで行われているのではない。

実はANAの自社サイトは、国内で最も価値のあるWebサイト(※)にも選出されている。こうしたデジタル上の接点にも、実はおもてなしの要素が詰まっているのだ。

※株式会社トライベックのWebサイト価値ランキングより

マーケットコミュニケーション部でデジタルマーケティングの土台作りを担う永山 裕さんは、「目の前の人を正しく深く理解する」ことを意識し、デジタル上での対話を図っているという。

特に2015年からは、デジタルマーケティングソリューションの「Adobe Marketing Cloud」を本格導入し、顧客のより深い理解と、パーソナルなコミュニケーションを実現している。

今回は、ANAがAdobe Marketing Cloudを使い、Webサイトやメール上で、どのようにおもてなしを提供しているかについて、詳しく伺った。

デジタル上でのおもてなしを目指し、Adobe Marketing Cloudを導入

私は2007年より、航空券の予約や運賃照会ができる「ANA公式サイト」の運用・開発に携わっています。

2015年からは、ANAのマーケティング全般を担うマーケットコミュニケーション部に移り、同サイトの企画運営のほか、デジタルマーケティングを行う上でのプラットフォームの整備も行っています。

弊社では、Omniture社(2009年にアドビシステムズ社が買収)のアクセス解析ツールである「Site Catalyst」を10年ほど前から導入していました。

ですが2014年に、アドビシステムズさんから「Adobe Marketing Cloudで、これまで溜めてきたデータをもっと活用してみませんか?」というご提案をいただいたんです。

その際、他のエアラインの事例もお伺いしていく中で、従来の企業が情報を発信していくだけのWebマーケティングでは、今後の成長は難しいと感じていました。

そこで、Adobe Marketing Cloud」を導入し、Webサイトやアプリ、メールといったチャネルを横断した、顧客1人ひとりにあったコミュニケーションを行うことで、デジタル上での「おもてなし」の実現を図ったんです。

データ分析からWebサイトの個別最適化まで!8つのアプリを活用

「Adobe Marketing Cloud」は、顧客に向けたパーソナルなコミュニケーションを、あらゆるチャネルをまたいで提供できる包括的なマーケティングソリューションです。

具体的には、8つのアプリケーションから構成されています。

▼「Adobe Marketing Cloud」を構成する8つのアプリケーション

それぞれの使い方としては、まずアナリティクス機能である「Adobe Analytics」でお客様のデータを分析します。次に、そこから特定のお客様をセグメントし、DMP(データマネジメントプラットフォーム)の「Adobe Audience Manager」上にデータを連携します。

また、お客様がANA公式サイトに訪れた時には、「Adobe Target」を使ってセグメント毎にコンテンツを出し分けます。また、お客様のアクションを促すため、「Adobe Campaign」で状況にあったパーソナルなメールを送付します。

この一連のアプリケーションを活用することによって、チャネルを横断したお客様とのコミュニケーションができるようになり、顧客を軸としたマーケティングを実現できました。

しかし、その導入の際には、我々の意識を変えていくことがひとつの課題でした。どうしても、そのソリューションで「何ができるのか」という考え方をしがちだったんですね。

この考え方を、週次のPDCA会議を通じて「どのような目的で」「何をしたいのか」という明確な意思を持つように、徐々に変えていきました。

デジタル上でおもてなしを実現するための、4つの「Right」

デジタル上でおもてなしを実現するにあたっては、まず「目の前の人を正しく深く理解する」ことを意識しています。

ですので、メンバーの多くがAdobe Analyticsを使い、「どのようなお客様」がウェブ上で「どのような行動」を取られているかを確認することで、マーケティング施策につなげていますね。

Site Catalyst時代も、一応データは見ていました。ただ、「このページがあまり見られていないから改善しよう」といった、マーケティングというよりも、Webサイト改善寄りの施策しか実行できていなかったんですね。

また、実際に具体的な施策を検討する際には、「Right Person、Right Timing、Right Channel、Right Contents」の4つを基準に考えています。

メルマガの事例で言うと、羽田発ハワイ行き航空券を検索していたけれど購入に至らなかったお客様(Right Person)には、2日後(Right Timing)にハワイ行き航空券(Right Contents)のダイレクトメール(Right Channel)をお送りしています。

こうしたリターゲティングメールは、検索履歴などのデータを活用して送信しています。

その人にあった情報を最適なタイミングで提供することで、通常のマスに向けたメールより、開封率は4割くらい高くなっています。

Webサイト価値ランキング1位の理由は、お客様目線の運用

お客様との窓口のひとつであるANA公式サイトでも、お客様が求めるコンテンツ(Right Contents)を提供できるよう工夫しています。

具体的には、トップページの上部に表示されているカルーセルパネルのクリエイティブを、Adobe Targetを使い、訪問元などによって出し分けています。

▼背景の画像表示が最適化される(この画像の場合は富士山)

例えば、現在ANAマイレージクラブカードに興味がある方には、カードに関する画像を、メールマガジン経由で来た方には、メール内容にあわせた画像を1ページ目に表示させています。

「夏休み期間だからこの路線を売りたい」「この便に空席があるから、優先的に埋めていきたい」とこちらの都合ではなく、お客様が本当に求めている情報を提供できるよう、頻繁に改修を行っています。

このように、もともとはチケットを売るためのだけのサイトだったのが、今では旅の始まりから終わりまでをサポートする、お客様との重要なコミュニケーションプラットフォームになりました。

現在では、ANAのお客様のうち、9割近くの方がサイトを訪れてくださっています。そしてありがたいことに、国内の「Webサイト価値ランキング」で、ANA公式サイトは5年連続1位を獲得することができました。

搭乗履歴やCRMのデータから、おもてなしする人の「顔」を見る

最近では、お客様のことをより深く理解するため、サイト内行動のほか、ANAマイレージクラブの会員データや、お客様の実際の搭乗履歴も活用し始めています。

例えば搭乗履歴は、Webサイトやメールをパーソナライズするデータのひとつとして活用しています。

ANAマイレージクラブの会員データは自社の基幹システムで管理されていますが、それらをオフラインデータとしてAdobe Marketing Cloudに同期しています。

そのため、ANAカードのプロモーションをする際に、最適なカードをオファーすることが可能になっています。

また、会員データとWeb上の行動履歴をかけ合わせた施策も実施しています。

ANAマイレージクラブの会員のお客様は、マイレージとは別にSKYコインという、現金のように使えるポイントがあるのですが、Webの行動履歴と掛け合わせて「1万コインを持っているので、貴方が検索したこの路線は1万円引きになりますよ」といったご提案もしていますね。

スタッフと対話している感覚を、デジタル上でも実現したい

今後は、直接ANAのスタッフと対話しているように感じてもらえるコミュニケーションを、デジタル上でも目指していきたいと思っています。

お客様の情報が取れるようになっても、声をかけるタイミングや、そもそも声をかけるべきなのかといったことを間違えると、おもてなしではなく「おせっかい」になってしまうので。そこは、これまでANAが現場で培ってきたお客様との経験を活かしていきたいですね。

これからも、お客様に喜んでいただいたり、ANAのことを好きになっていただいたりすることを目指して、デジタル上でファイブスターのおもてなしを提供していきたいです。(了)

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