• 株式会社SmartHR
  • 代表取締役
  • 宮田 昇始

「解約理由」からサービス改善!2年で7,500社以上が導入したSmartHRのKPIとは?

〜顧客から圧倒的な支持を集める「SmartHR」。その事業を推進していく上でのKPIの考え方と、マーケティング施策をご紹介〜

ローンチ後、わずか2年間で約7,500社への導入を達成し、今年の8月には首都圏を対象にテレビCMの放映も行ったクラウド人事労務ソフト「SmartHR」。

サービスの開発を進める中、課金ユーザーの月ごとの解約率は0.7%と、一般的なSaaSの水準を大きく下回っている。

そして、その成長過程においては、「口コミでのユーザー獲得」「解約理由のヒアリングをもとにしたサービス改善」「トライアル登録フローの最適化」といった工夫があったという。

今回は同社代表取締役の宮田 昇始さんと、マーケティングを担当する荒木 彰さんに、ローンチ以降に追っていたKPIに加え、テレビCM放映を含めたマーケティング施策についてお話を伺った。

初期のユーザー獲得においては、「口コミ」が起爆剤となる

宮田 SmartHRは、これまでサービスのフェーズごとに、KPIを変えながら事業を成長させてきました。

まず、正式ローンチ前のβ版期間は、無料で使うことができて課金の仕組みもない状態でしたので、登録社数の成長率を週次で見ていました。

Y Combinatorのポール・グレアムは「ユーザー数が週次で5〜7%成長していれば、それは良い状態だ」と言っています。

そのため、当時はその7%を超えることをひとつの目安にしていました。結果として、ローンチ前の時点で約200社の登録を集めることができました。

そして、正式ローンチ後に売上が出るようになってからは、KPIを毎月のMRR(※)の成長率に切り替えました。その後は現在に至るまで、これを最も重要な指標として追い続けています。

※Monthly Recurring Revenue:月あたりに発生する収益

新規ユーザーを獲得するにあたって最も強く意識してきたのは、「顧客の口コミをいかに増やすか」ということです。

例えば、すごく小さな改善ですが、履歴書に書いてある生年月日は和暦で書いてありますよね。それを西暦に書き換える際に、いちいち調べるのが面倒だという声が多かったので、自動的に変換される機能を作りました。

そして、その要望をいただいていたユーザーさん全員に、新しく和暦変換機能を追加したことを記事にして送ったんです。

▼機能の追加情報を記事にしてユーザーに紹介

▶︎実際の記事はコチラからご覧ください。

すると、ユーザーさんが「自分の要望がサービスに反映された」と喜んでくれて、Facebook等でシェアをしてくださったんですね。

そして、それを見た方から、「シェアされているのを見て、良いサービスなのだろうと思いました」と、問い合わせをいただくことができたんです。やはり、口コミの影響は大きいんだと思いましたね。

大きな機能の追加だけではなく、ご要望を元に大小問わずしっかりプロダクトに反映していくことと、それをしっかりユーザーに伝えることが、安定的な口コミを生んだ理由だと考えています。

解約したユーザーからヒントを得るべく、あえてプランを月額制に

宮田 また、ユーザーに継続してご利用いただくためには、導入後の利用状況を踏まえて、サービスを改善していく必要があります。

その中では当然、各機能の利用率といった細かい指標も見てはいましたが、toCのサービスのように、「DAUが下がっている。何か悪い所があるはずなので改善しよう」という考え方はあまりしていませんでした。

なぜなら、toBのSaaSの場合、たとえ月に1回しか使わなくても、チャーン(解約)せずにお金を払っているのであれば、そのサービスに満足しているという一番の証明になるからです。

そのため、ローンチ当初から、チャーンレート(※)を厳しめにチェックしていました。

※Churn Rate:ユーザーの解約率

SmartHRの場合、ローンチ時に「TechCrunch Tokyo 2015」で行われた「スタートアップバトル」で優勝することができ、初期からある程度の数のユーザーがいたため、一定の収益が発生していました。

そこで、チャーンに関する指標の中でも、収益に対するチャーンレートであるレベニューチャーンレートを見ていました。

また、サービス改善のヒントを得るために、解約が起こった際にはその理由をヒアリングすることも大切にしていました。社員数がまだ8名のころ、解約したユーザーさんのもとへ社長、プロダクトマネージャー、CSチームのリーダーの3名で出向いたこともあるほどです。

そして、この「解約理由」をサービスに素早くフィードバックするために、あえてプランを月額制にしました。

一般的にSaaSの課金形態は、年単位での一括払いが望ましいとされています。キャッシュフローが良くなることと、アクティブ率の低いユーザーをフォローしやすいことがその理由です。

ただ、「解約したい」と思ってから解約するまでに1年かかってしまうと、その理由をすぐに知ることができませんよね。

そうではなく、サービスに満足していないユーザーがチャーンという形で月単位で可視化されれば、原因を素早く知り、サービス改善につなげることができます。

例えば過去に、解約理由として「電子申請をしたときの返事が遅い」という声が挙がったことがありました。

ただ、この申請には行政側のAPIが使われており、実際の遅れの原因はSmartHR側にはなかったんですね。そこで、申請の進捗がどこで止まっているのかというステータスを可視化することで、その不満を解消しました。

また、ご担当者が退職される際に、後任となる担当者の方がSmartHRの使い方がわからずに解約されることもあったので、そのタイミングで訪問して、使い方をレクチャーしに行くようにもしました。

このようにして、解約したユーザーの声を踏まえたサービス改善を続け、レベニューチャーンレートを少しずつ下げていきました。

登録フローの簡略化とLP改善で、トライアル到達率が142%改善

荒木 僕はローンチから約半年が経過した2016年4月に入社し、マーケティング施策全般に携わってきました。

それ以前は、ペイドだとFacebook広告くらいしか運用していなかったのですが、よりMRRを成長させるべく、この時期から本格的なマーケティング活動を始めました。

まず、オンラインでは各種ウェブ広告やオウンドメディアの運営、オフラインでは展示会への出展等を行い、少し後になって雑誌への出稿やDMも行っています。さらに最近では交通広告やテレビCMといった施策に取り組んできています。

また、これらの施策によってLPへの集客を行った後は、無料トライアルへのコンバージョンを狙う必要がありますよね。

LP上での無料トライアルへのCVRは、3%を目標に設定していますが、これまで実施した色々な改善施策を通じて、今はそれに近い数字まで上がってきています。

例えば、トライアルへの登録フォームをトップページに露出させることで、入力率が20%上昇しました。以前は次のページに遷移させていたのですが、そのワンクリックを省いただけで、数値が大きく改善しました。

▼LPのトップに登録フォームを設置

また、支払いに必要なクレジットカード情報を入力するタイミングを、登録時ではなく15日間のお試し後に変えたりもしました。

課金率を考えて「登録時の方が良いのでは?」という議論もあったのですが、営業チームやCSチームから、「とりあえず使ってみたいというお客様が多い」と聞いていたんですね。

僕としても、まず使って機能を理解してもらうことができれば、サービスの良さをわかってもらえるだろうという思いもあったので、入力のタイミングを変えました。実際に課金率は下がることなく27%増加しています。

更にあらかじめ従業員数を選択していただくことで、プラン選択画面をなくしたり、テナントID(ユーザーID)の生成を自動化することによって、ID入力につまづいて離脱するユーザーさんを減らすなどのチューニングも行っています。

他にも、事例ページを見ているユーザーのCVRが、見ていないユーザーと比較して4倍ほど高いというデータも出ていたので、事例をトップページに掲載するなどの改善も行いました。

このような改善を、春から夏にかけて行った結果、トライアルへの到達率が142%伸長し、CVRはCM放送中であっても20%伸長しました。

現場の認知を得るべく、テレビCM放映を実施

宮田 無料トライアルの後は、セルフサービスでの課金をメインとして考えていますが、顧客規模が大きい場合は訪問をしてクロージングを行っています。

初期だと50名以上、現在ですと100名以上の企業は訪問しているのですが、営業で苦労することはそんなにありません。今春時点では、訪問して機能を理解していただければ、約半数の企業に導入していただけるという状態でした。

そんな中、最近では飲食チェーンやアパレル業界など、IT企業以外のお客様が増えてきており、オンラインだけでなく、オフラインチャネルを通したマーケティングが必要になってきました。

また、導入を決定する人事労務担当者だけではなく、実際に現場で利用する従業員への認知・理解を進めることで、導入後の定着をスムーズに進めることができます。

そのため、よりマスに向けたマーケティングを行うべく、今年の8月17〜31日の期間でテレビCM放映や交通広告など様々なプロモーションを実施しました。

荒木 クリエイティブは、地獄でエンマ様が書類の仕分け作業をしていて、「手書き面倒臭い!」と叫んだところに、「クラウド上で書類を自動作成」という流れでサービスを紹介する映像を作りました。

▼エンマ様が登場するCM

▶︎実際のCMはコチラからご覧ください。

人事労務の手続きはITを活用することで一気に新しく、便利になる」というコンテキストを伝えることを狙いに、古いイメージをもつエンマ様を登場させることで、その対比を表現しました。

さらに、クラウド人事労務サービスのテレビCMだからといって、オフィスや人事労務担当者を登場させると、ほとんどの人が「自分には関係ない」と興味を持ってもらえません。

そのため、「エンマ様がイライラしている」というコミカルな映像から入って、サービス紹介につなげることで、CMの冒頭で離脱されずに最後まで観てもらうような展開にしました。

これは、人事労務担当者だけではなく、従業員を含めた働く多くの方に広く知っていただくことがSmartHRの成長に必要と考えてのことです。

宮田 結果として、SmartHRを導入したいという検討者数が、CM放映の前後で倍になったという調査結果がでました。

これほどの変化があることは大変珍しいらしく、大手企業からのお問い合わせや導入が増えましたし、検討段階だった企業への導入が決まったりもしました。

また、「人事労務担当者が導入したものの、従業員に定着が進まない」というケースでも、テレビCMによって従業員の安心感が一気に広がり、活用が進んだということもありました。

他にも、多くの店舗を持つユーザーさんで、全国から店長の皆さんを集めてSmartHRの説明会を開催した際に、「テレビCMで見たサービスを導入できるなんて思わなかった」と、とても盛り上がったという話も伺いました。

このように、導入後に従業員の皆さんにも抵抗なく使っていただけたことで、マスで広く認知を広めておくことは、効果があるということを実感しましたね。

使ってもらえさえすれば、必ず価値を感じていただけるサービス

宮田 これらのマーケティング活動を通して、導入企業数は7,500社を超えました。

また、ユーザーヒアリングを踏まえてサービス改善を続けた結果、ローンチ当初は2〜3%あったレベニューチャーンレートが、今では0.7%まで改善されています。

これ以上は下げようがないくらいの水準まで来ている状態ですので、現在はKPIとして、MRRの成長率と参考程度にユニットエコノミクス(※)を見ています。

※顧客獲得コストと、獲得した顧客から得られる収益のバランス

クラウド人事労務ソフトは、既に普及している会計ソフトと比べると、認知度がまだまだ低いサービスです。ただ、使ってもらい機能を理解していただければ、必ず価値を感じていただけるサービスだと思っています。

ですので、より多くの方々に知っていただき、使っていただけるように、地道な機能開発や改善を続けていきます。

そして「クラウド人事労務ソフト」というものがあることの啓蒙や、「SmartHR」の自体の認知を広めていくために、大小問わずマーケティング活動に取り組んでいきたいと思います。(了)

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