- 株式会社ディー・エヌ・エー
- IT戦略部 業務改革推進グループ グループマネージャー
- 大脇 智洋
ロボットで8つの業務を自動化し、月128時間の工数を削減。DeNAのRPA活用ノウハウ
〜RPAツール「Blue Prism」を導入。自動化の対象とする業務の選定、導入に際した業務フローの見直し方、運用後の効果などをご紹介〜
働き方改革が叫ばれる中、ロボットによってルーティン業務を自動化するRPA(Robotic Process Automation)ツールが注目を集めている。
株式会社ディー・エヌ・エーにおいても、2017年4月からRPA導入の検討を開始。現在では8つの業務を自動化し、月128時間の工数を削減することに成功した。
同社でプロジェクトを牽引した大脇 智洋さんと塩田 可奈子さんは、ロボットができること、できないことを理解した上で、人間が作業を補完する範囲も残しつつ、業務フローを設計することが大切だと話す。
今回は大脇さんと塩田さんに、RPA活用に際した業務設計のポイントや、導入後の効果、また逆に難しさを感じている点について、お話を伺った。
「Blue Prism」で、8つの業務を自動化し、128時間の削減に成功
大脇 私はIT戦略部にてITを活用した社内の業務改善を担当しており、2017年4月頃からRPA導入のプロジェクトを推進してきました。
RPAは、PC上のソフトやブラウザで行う業務を、「ロボット」によって自動化する仕組みです。
難しい判断を伴うものや、例外が多い業務には向きませんが、エクセルのデータをWebシステムに入力するといった「転記」「繰り返し」の作業を効率化できます。
現在、弊社では、「新入社員のアカウント作成」「IT購買の稟議申請」「リース会社へのキッティング(※)依頼シート送付」など、8つの業務を自動化させ、月に128時間の工数を削減することができました。
※パソコンなどの導入時に実施するセットアップ作業
RPAと一口に言っても、データの管理方式と作業の実行環境によって色々なタイプがあるのですが、弊社では「Blue Prism」を導入しています。
▼導入を検討したツールの比較表
Blue Prismは、ロボットをサーバー上で集中管理することができ、且つ、作業の実行も仮想デスクトップ上で行うことができます。
そのため、ロボットの管理が容易で、幅広いアプリケーションに対応することができます。
また、ロボット開発における変更履歴の記録や、新旧の変更内容の比較、細やかなユーザー権限の管理も可能です。
このようにエンタープライズ向けの機能が豊富に備わっていたこともあり、Blue Prismが最適だと判断しました。
準備期間は約5週間。開発工数の回収期間は1年を目安に
大脇 導入にあたっては、まずトライアルとしてIT戦略部で自動化できそうな業務を洗い出すため、部内メンバーに依頼して、業務内容をシートに一覧化してもらいました。
▼自動化する業務を洗い出し
その中から、自動化した際の効果が大きく、開発の難易度が低いものから取り組みました。
ここで言う「効果」は、削減される工数と、開発後にそのロボットを利用できる期間で判断します。
ロボットを開発してもすぐに使えなくなっては意味がないので、業務プロセスや扱うツールの変更頻度がどの程度あるかを事前に確認しています。
次に難易度ですが、これはロボットが扱う対象ツールにおける開発実績の有無と開発工数で判断します。
例えば、既に開発実績のあるツールであれば、Blue Prismで扱えるツールかどうかの検証が不要になります。
また、ログイン・ログアウトといった汎用的な操作は、共通部品を利用して効率的に開発できるため、難易度は低くなります。
あるいは、対象となる業務フローが長いとロボットも複雑になり、開発期間も長くなるため、難易度は高くなります。
そして、費用対効果の観点としては、「1年で開発にかけた工数を回収できる」ということを基準としています。
ロボットを作るには、弊社の標準的な進め方で平均45時間を必要としています。そのため、自動化する対象としては、現状で月およそ3.5時間以上かけて行っている業務であることを最低基準として見ていますね。
他にも、効率化の観点だけではなく、請求金額を転記する作業など、人的ミスが許されない業務もRPA適用の対象となります。
RPAを適用する業務を決めたら、その業務フローや、インプットとアウトプットを詳細に把握していきます。
業務マニュアルがあればそれを参照しますし、なければヒアリングを行ったり、実際に操作してもらって、画面のスクリーンショットを撮影したり、ということを行います。
その後、開発を進め、完成後はユーザーテストを実施し、実際に業務を回せるという確信が持てたら、本番運用を始めるという流れになります。
現状では、RPAを適用する業務のヒアリングを始めてから新しいフローで運用開始できるまでを、約5週間で進めているイメージです。
「箱と線」をつなげてフローを構築。非エンジニアでも開発可能
塩田 私はこれまで社内のヘルプデスクとして、社員のサポートや、kintoneの導入を担当してきました。
システムの開発経験は全くありませんでしたが、今回はRPAの導入企画と開発を、大脇と一緒に進めてきました。
最初は、Blue Prismの導入をサポートいただいたRPAテクノロジーズさんから、丸5日間かけてトレーニングを受けました。
開発といってもプログラミング言語を書くわけではなく、画面上で箱と線をつなげて業務フローの設計図を作るイメージです。なので、どういう処理が発生するのかはわりと想像しやすく、非エンジニアでも馴染みやすいと思います。
▼「Blue Prism」の実際の設計画面
ただ、どうしてもつまずくこともあるので、販売元のRPAテクノロジーズさんに質問しながら解決していきました。
最初に開発したのは、社員の入社時に、「サイボウズ デヂエ8」というツールのアカウントを発行する作業です。
もともと、受け入れ担当が社員のCSVデータをツール上にアップロードして作成していたのですが、単純で例外が少ない作業だったので最適でしたね。これは、2ヶ月ほどかけて自動化することができました。
また、PCのキッティングをリース会社に依頼するためのシートの送信業務の自動化も行いました。
これは、社内サーバー上からエクセルファイルを探してきて、「HDE Online Storage」というWebツールにアップロードし、発行されるリンクとパスワードをそれぞれメールで送信するという作業です。
サーバーとWebシステムを組み合わせた業務が実行できるかを検証する目的があったのですが、うまく動かすことができましたね。
完全な自動化ではなく、敢えて人間がチェックする工程を組み込む
大脇 RPAを活用する際に注意すべきなのが、現状の運用のまま何も考えずに導入すると、後々、トラブルが発生するリスクがある点です。
例えば、弊社では社員がIT関連の物品を購入する場合、「kintoneで購入依頼を出して、IT戦略部が会計システムとして利用しているNetSuiteに発注情報を登録し、発注を行う」という業務フローが発生します。
その際、発注した社員の所属部門コードをシステム上で扱うのですが、部門コードは人事用のコードと、会計用のコードの2種類存在しているんですね。
ただ、kintoneは人事部門コードしか持っていないため、NetSuiteに情報を登録する際、エクセル上で会計部門コードに変換させていました。
そのままロボットで自動化すると、そのエクセルの変換マスタをメンテする不毛な業務をやり続けなければならないので、自動化するにあたって、kintone側にも会計部門コードも持たせるように設計を変えました。
このように、システムAからシステムBに情報を転記する業務において、システムAに不足している情報を人間が補完しながらシステムBに入力している場合は、情報を元システム側に持たせられないかを検討する必要があります。
また、ロボットに任せる範囲と、人間が作業する範囲をうまく切り分けることも大切です。
先ほどのIT関連の購入申請の例でいうと、kintoneで上がってきた申請を見てNetSuiteに発注情報を登録する際に、管理会計用のコードを入力しています。
しかし、どのコードを利用するかは、購入物品や利用部門、利用目的などを考慮した複雑な判断になるため、ロボットだとそれをなかなか決められないんです。
そのため、一旦仮で、ロボットに「おそらくこれだ」という管理会計用のコードをドラフトとして登録してもらって、それを人間が確認して修正するというフローにしました。
複雑な判断を伴うようなケースでは、必ずしも完全な自動化を目指すのではなく、人間がチェックする工程を入れることで正しくワークする業務設計にするということも大切だと考えています。
明確にルールが決まっていなかった業務フローもクリアに
塩田 導入時に現状の業務フローを見直す必要があったので、それまで何となくで行っていた運用をルール化できたことも良かったですね。
例えば、リース会社に資料を送る業務は、もともと明確な担当者がおらず、チームの中でも「お見合い」が発生しがちでした。
しかし、今では毎日決まった時間にロボットが送信してくれるので、それまでにファイルを作って保存しておくだけで済むようになりました。
また、送付したシートを月別に分けてフォルダに格納する業務を、気が付いたタイミングでまとめて行っていたのですが、現在はロボットが自動でフォルダを作って、毎日、格納してくれています。
作業時間としては大したことがなくても、毎日発生する業務なので面倒だという気持ちはあるんですよね。それをやらなくて済むようになったのは、結構大きいのかなと思います。
非エンジニアのRPA開発者を増やし、活用を進めていきたい
大脇 逆に難しいと感じている点は、ロボットが操作するクラウドツールがアップデートされた時に、ロボットが突然動かなくなってしまうことです。
クラウドツールの画面上は変更がなくとも、HTMLのソースコードレベルで変更があると、ロボットの処理がエラーになってしまうことがありました。
そのため、将来の画面レイアウトの変更やHTML構造の変更を織り込んで、都度修正する必要のないロボットの開発方法を試行錯誤しています。
今後は安定稼働させるための開発ノウハウを、どんどん増やしていきたいですね。
近い将来には、AIにより画面レイアウトの変化にもロボット自身が対応できるようなると考えており、これからの進化に期待しています。
また、開発知識がなくても作れることが魅力でもあるので、非エンジニア向けのトレーニングを進めて、開発者を増やしていきたいと思います。(了)