- サントリービジネスシステム株式会社
- グループ情報システム部 課長代理
- 中館 崇
ロボット40体がルーティンを代行!3.5万時間の削減を目指す、サントリーの働き方改革
〜残業を減らすだけでは、働き方改革とは言えない。RPAの導入で日々のルーティンを効率化し、個人の成長を促すサントリーグループの取り組みとは〜
日本を代表する酒類・食品メーカーであるサントリーグループでは、2016年より、全社を挙げた「働き方改革」に取り組んでいる。
同社の場合、働き方改革が意味するのは「単なる残業削減」ではない。
ルーティン業務の効率化で創出した時間を個人の成長機会に充てることで、業績のアップ、ひいては各自へのリターンにつなげる、という好循環を作ることが狙いだ。
その柱のひとつとして、2017年より、RPA(Robotic Process Automation)ツールである「Automation Anywhere(オートメーション エニウェア)」を導入。パソコン上で自動稼働する「ロボット」に、様々なルーティン業務を代行させている。
現在は、40体のロボットが4台のパソコン上でフル稼働し、日々の売上共有のためのメール作成や、データの収集・加工などを行っているそうだ。
今回は同社で働き方改革を推進する重枝 裕介さんと、RPA導入を担当する中館 崇さんに、詳しいお話を伺った。
「競争戦略」として位置付けられる、サントリーの働き方改革
中館 私は、サントリーグループ共通のシステムを提供している、サントリービジネスシステム(株)という会社のシステム部で、2017年の春頃からRPAの導入を担当しています。
RPAはこれまでトライアルを進めてきましたが、今年になっていよいよ全社導入を目指すことになりました。そして現在、4台のパソコンをフル稼働させる形で、およそ40体のロボットが、様々な単純作業を人間に代わって行っています。
私たちのチームの使命は、社内の全部署にRPAを知ってもらい、実際に導入している状態を作ることです。
そのために昨年末から体制も整え、現在では、開発や運用保守を担当するメンバーも含めると、20名を超えるチームになっています。
重枝 私は人事部で主に人事制度全般を担当しております。その中で、弊社で2016年から本格的に取り組み始めた「働き方改革」を、チームを組んで推進しております。
働き方改革と言うと、「残業時間を減らすこと」を目的と捉えるような見方もありますよね。
しかしサントリーでは働き方改革を「競争戦略」と位置付け、改革によって創出した時間を有効活用することによって、個人の成長、そして会社の成長につなげることを目指しています。
RPAの導入も、時間創出を具現化する働き方改革の武器として、全社で推進しているプロジェクトのひとつになります。
毎日、人間が定例作業として15分~1時間かけて行っている仕事をRPAに代替させることで、現場へ行く時間や考える時間、個人のリフレッシュに充てる時間などを作ることが目的です。
制度を作るだけではなく、ボトムアップで現場からの改革を促す
重枝 また、重視しているのは「ボトムアップ」で改革を進めていくということです。
これまで人事部主導で働き方を変えようと様々な制度を導入してきましたが、各部署によって働き方が異なるため、取り組みはあまり進みませんでした。
そこで、現場の取り組みを推進すべく、部署毎で働き方改革に関する目標と具体的な取り組みを立案するようにしました。さらに、働き方改革につながる好事例を共有するナレッジサイト「変えてみなはれ」をオープンしました。
▼社内の働き方改革の好事例をシェアするサイト「変えてみなはれ」
ここでは互いの投稿に「いいね」をつけることができます。また、実際の投稿の中から半期に一度、社長表彰を選ぶことで、働き方改革に対してモチベートできる仕組みを整えました。
そうした好事例を生み出す為に欠かせないのが、「推進リーダー」です。これはもともと、ある部署が独自の取り組みとして行っていたものです。
その部署では、業務のことを良く知っているメンバーを「推進リーダー」として各課に立て、そのリーダーが主体となって、部署全体の働き方改革を推進していたんですね。
知ったときには「これだ!」と思い、早速2017年から、推進リーダーの設置を全社に展開することにしました。
中館 このように2年ほど前から社内が盛り上がってきた中で、各推進リーダーからの要望の中に、システムの力を借りないとできない部分がある、という声があって。
例えば「資料作成の枚数を減らそう」「会議時間は短くしよう」といったことは、誰でもすぐにできますよね。
ですが一方で「大量のデータを集計する」といったことになると、自分たちだけでは難しいので、システム部に色々な相談が来るようになったんです。
そこで2017年の春頃から、RPAの導入を本格的に検討し始めたという流れになります。
「ロボットが得意なこと」を定義し、3部署でテスト導入を実施
中館 検討にあたっては、まず3部署から1つずつ、合計3つの業務を出してもらい、それを様々なRPAツールで実行してみました。
この業務を選ぶ際には、単純作業の負担がかかっている部署ということで、営業部門やお客様サポート部門を中心に提案を行いました。「こんな仕組みがあるんだけど、ちょっと試しにやってみない?」という形です。
その時には、「ロボットだから何でもできる」と思われないように、ルールを決めました。
まず、その業務が毎日15分か、週で1時間、もしくは月で5時間以上はかかっているということ。次に、社外システムに依存しないということ。最後に、基本的に変わらずにずっと続く業務である、という点です。
ロボットを作るのにもコストがかかりますので、1日3分しかかかっていない仕事まで始めると費用対効果にあわず、キリがありません。
また、ロボットが得意なのは、転記やコピー&ペーストといった単純作業なので、データの環境が変動するとメンテナンスが大変なんです。
このような観点から業務の向き不向きを整理して、テストに使うものを決めました。
そしてRPAツールは、最終的に「Automation Anywhere」を選定しました。
その理由はまず、サーバーがクラウド型だったことです。
ひとつのパソコンを9時から10時はA部署、10時から11時はB部署、といった形で共有して動かすことを想定していたので、クラウド型であることは必須でした。
次に、Automation Anywhereは、ロボットが実際にできる作業が多いんです。
エクセルを開く、このシートに飛ぶ、そこからB5のセルに行く…といった動作をひとつひとつロボットに覚えさせる必要があるのですが、その動作の選択肢が多く、ロボットを構築しやすいんですね。
最終的には費用面までを比較して、Automation Anywhereの導入を決めました。
ロボット運用の属人化を避けるため、開発・メンテナンスを集約
中館 ツールが確定してからは、対象部署を10部署ほどに拡大し、テストをしながら運用ルールを作っていきました。
その際、ロボットの開発に関しては、弊社のグループ会社の中で作るという形で、各部署では実施しないというルールを定めました。
各部署に任せるとやはり、メンバーの中でもシステムに強い人が作る、ということになりがちかと思います。その時はそれで良いですが、その人が異動してしまったら使われない…といったことが起こってしまうんです。
そういった点をふまえ、最初からメンテナンスはひとつの部署でやっていく状態がいいだろうという結論になりました。
ただ、現場の理解も必要なので、「変えてみなはれ」の中にRPAのポータルサイトを設けて、社内広報活動を行っています。
運用のルールだけではなく、動画で「こういうことが出来るんですよ」と伝えることで、1人ひとりがRPAを正しく理解できるようにしています。
また、各部署の推進リーダーには、それぞれの部署で1日15分以上かかっている業務を一覧にしてもらっています。
それをひとつずつ、実際に画面上で操作している所を見せてもらい、RPAに合うようであれば、業務マニュアルを用意してもらった上でロボットの開発を行います。
基本的な開発自体は2日程度でできてしまうものが多いので、ロボ化する業務を決めてからは1〜2週間ほどで稼働までもっていくことができます。
ただ実際に動かしてみると、やはり途中で止まってしまったりすることもあるので…。各部署の方と一緒に動かしながら、精度をどんどん高めていくイメージです。
毎朝やっていたルーティンワークも、RPAで自動化
中館 現在は、40体のロボットが4台のロボット用のパソコンで、朝8時から夕方18時位まで、休みなく稼働しています。
8時から9時はデータをダウンロードする、9時から10時はメールを作成する、といった形で、1時間単位で時間割を決めて動かしています。今後、パソコンの台数ももっと増やしていきたいですね。
実際にロボ化されている業務で言うと、主要製品の売上の速報データ作成です。
もともとこの業務は、毎朝社員が少し早めに出社して、システムからデータを落として、加工して定時までに送るという作業をしていたんです。
今はその作業は全部ロボットに任せて、最後のメール発信の手前までを行っています。最終的な数字のチェックは人間が行っていますが、定時に出社したら、メールを送る直前まで出来上がっているという状態です。
他にも、お得意先様のPOSデータ(※販売データ)を集めてきて、加工して社内のシステムにアップロードするような仕組みも作っています。
自分が1日に30分かけていた仕事が朝来たら出来上がっている…という形なので、やはりRPA導入の効果はわかりやすいですよね。
社員からも、「出張時でも朝一にやらなければならなかった作業がなくなって助かる」と言った声をいただいています。こういう風に言ってもらえると、個人的にも非常にやりがいを感じますね。
「200業務・3.5万時間の削減」を目指し、RPAの可能性を広げる
中館 今年中に「200業務・3.5万時間を削減する」ということをこのプロジェクトの目標に置いています。
今はできている業務が主にコピー&ペーストなどの定例・単純作業に留まっているので、これだけじゃもったいないなと思っていて。
新たにスタートしているのが、社員の有給取得計画をOutlookに反映させる仕組みです。予定表上にロボットが直接、「あなたはこの日が休みです」と登録する形ですね。
現在はまだ単純な業務しかできないことが多いですが、今後はもう少し「人の判断」のところまで踏み込んでいければと考えています。
例えば、会議の調整や、飛行機や新幹線の予約、経費精算といった、1人ひとりのアシスタント的な仕事を裏でRPAがやっているという状態を実現させたいです。
重枝 私たちの場合、働き方改革の取り組みだけでも、2016年は1人あたり年間約50時間、2017年は約20時間、労働時間の削減に成功しています。
ここにRPAが入ってくると、時間はもっと増えますよね。そうなった時に、その増えた時間をどうするのか、社員1人ひとりがしっかり考えるようにしていかなければと思っています。
そのための支援の施策として、例えば、社内では社員の学びを促す「TERAKOYAサイト」を立ち上げています。
英語や財務の勉強会、お酒の勉強会、当社の宣伝の歴史といった様々なイベントを開催し、社員が主体的に学ぶ仕組みを整えています。
しかし、まだまだ参加者が少ないのも実情です。この「TERAKOYAサイト」が学びの一手段としてどんどん活用されるようにしていきたいですね。
このように、RPAを積極的に導入し、時間を創出する。創出した時間で1人ひとりが主体的に自己成長を行っている。そんな、全員がイキイキと働いている会社を作っていけたらと考えています。(了)