- 株式会社ベーシック
- 執行役員 ferret Founding Editor
- 飯髙 悠太
Webマーケは「当たり前を、素早く愚直に」 半年で黒字化・「マケスト」立ち上げの裏側
〜Webマーケティングに「ウルトラC」はない。地道な改善の積み重ねが「噛み合った」ことで、サービスの黒字化に成功した事例〜
多くのWebマーケターにとって、「コンバージョンレートの改善」は至上命題だ。そのために試行錯誤を繰り返し、日々、PDCAを回している。
Webマーケティング総合サイト「ferret(フェレット)」から2017年4月に誕生した、ITツールの比較検討サービス「マケスト」。
▼ITツール・サービスを比較検討できるポータルサイト「マケスト」
同サービスは、「35サービスの情報掲載」と「ユーザーがITツール・サービスの資料請求をできる」という最低限の仕様で垂直立ち上げを行ったものの、当初は期待通りのコンバージョンが獲得できずにいたという。
しかし、「WebマーケティングにウルトラCはない」という哲学のもと、新規コンテンツの企画や、サイト内・メールマガジンの地道な改善を継続。
結果、コンバージョンレートをリリース時から300%改善させることに成功した。
サービスリリースの期間は、企画・セールスを含めおよそ3ヵ月。リリース半年で利用者は1,000人を超え、事業も黒字化させることができたという。
今回は、株式会社ベーシックにて執行役員を務める飯髙 悠太さんと、当時プロダクトマネージャーとしてマケストの立ち上げを率いた中橋 紀善さんに、リリース後の改善施策についてお話を伺った。
「知る」から「実践」へ。ツールの比較検討をサポートするマケスト
中橋 弊社では2017年4月に、マーケティングや営業活動に役立つITツール・サービスを比較検討できるポータルサイト「マケスト」をリリースしました。
日本全体で「生産性の向上」が大きなテーマとなっている中で、業務に様々なITツールを利用する企業が増えてきています。
ただ、ユーザー側からすると、同じカテゴリーでも色々なサービスがあって「正直どれも同じでよくわからない」という課題があると思います。
そこで、サービスの情報をわかりやすく伝えて、最適な意思決定に役立ててもらいたいと考え、マケストを立ち上げました。
飯髙 僕は2014年にWebマーケティングメディア「ferret」を立ち上げました。現在では月間430万PV (2018/1月現在)のメディアになっています。
Webマーケティングに携わる人が「知って、学んで、実践できる」をコンセプトに運営を続けてきた中で、「知る」という部分については、ferretを通して、ある程度実現できたのかなと思っていて。
このコンセプトに沿って考えた際に、実際にツールを導入する「実践」をサポートするのがマケストです。
価格などのスペック情報だけでなく、サービス開発や活用の事例ストーリーを含めて、わかりやすくツールを紹介することを大切にしています。
マケストは、「コンバージョンできる」を最低条件にリリース
飯髙 マケストの開発をスタートすることが決まったのは、2016年12月です。僕と中橋、セールス1名、エンジニア3名、デザイナー1名という7人のチームで、1月から動き始め、4月にリリースをしました。
実は、僕はこれまで、「こういうサービス作ったら面白くない?」という感じで開発して、思ったより伸びなかったという経験をしてきました。
振り返ると、リリースする事が目的になってしまっていて、その後うまく伸ばすことができなかったなと反省しています。とはいえ、その感覚で伸びたものもあるし、一概に全てが悪いとは思ってはいないですが。
ただ今回は、中橋をメインに中長期的な事業計画を作って、「こういうマーケットで戦う」というプランをしっかり立てた上でスタートさせました。
▼実際に作成した、事業計画書のサマリ
計画段階から、マケスト上に掲載するサービス数をKPIのひとつとして掲げていたのですが、「30社いかなければリリースしない」と決めていたので、短い期間で必死に営業しましたね。
また、最初からサイトを完璧に作りこんだところで、ユーザーがどう動くかはわかりません。
そこで仕様上のリリース条件としては、「ユーザーが資料請求をできる」という、最低限のものに設定しました。
「とりあえずコンバージョンが発生する状態だったらOK」という、スモールスタートで始めたんです。
中橋 企画・セールス・制作ディレクション・マーケティングを3ヵ月で一気に進めていったので、リリース時点ではGitHub上に300くらいのイシューが残っていて。
「とりあえず動いてる」みたいな感じでしたね(笑)。
ただ、初日からクライントもいる、利用者もいる、そんな状態をしっかり作りたかったので、その最大公約数を探した結果ではありました。まさに垂直立ち上げです。
リリース当初は僕ひとりでサイト内の改善まわりをみていましたが、途中からディレクター2名が、ferretとの兼務で参画するようになりました。
そこから、ferret会員に向けたメルマガや、ferret上へのバナー掲載、Web広告などで集客、導入事例や編集部ブログなどのコンテンツの拡充を一気に進めました。
主要KPIとしては「掲載するサービス数」の他に、「月間ユニークコンバージョン数」「1人あたりコンバージョン数」を見ていたのですが、当初、ほとんどのユーザーが1件しか資料請求をしていなかったんです。
というのも、一般的なECにはある「カート機能」がなかったので、各ツールをそれぞれの詳細ページから単品で資料請求するという仕様だったんですね。
それ自体は問題ではなかったのですが、「1回アクションしてそれっきり」というユーザーが大半であるというボトルネックが生まれてしまったんです。
そこで、カート機能の実装に加えて、資料請求しようとしているツールの関連商品をレコメンドするようにしました。コンビニで言うと、「レジ前のチロルチョコ」みたいな感じですね。
また、資料請求フォームまで到達しているユーザーに気持ちよくコンバージョンしてもらうために、とにかくストレスを感じさせないデザインに改善するなど、ちょっとした仕掛け作りを進めてきました。
例えば、一画面上に必要な要素が揃っていて、ボタンひとつで先に進んでいけるような体験を作りました。
「資料請求ボタンを押す→ポップアップが立ち上がる→カートに入る→おすすめもワンクリックで追加できる→フォームに遷移する」というフローが、画面遷移なしで行えるようにしたんです。
それ自体は当たり前のことなのですが、作り手側にまわってしまうと期限や実装の難易度といったバイアスもかかって、つい後手にまわってしまうんですね。
他にも、かなり地味にはなりますが、入力フォームの横端を揃えたり、スクロールしなくて済むように、選択方式をラジオボタンからプルダウンに変えたりして、フォーム入力のハードルを下げました。
このような施策を通して、複数の資料請求を行うユーザー数を増やすことができ、1人あたりのコンバージョン数を2倍以上に改善させることができました。
メルマガタイトルは「数字や固有名詞」を使ってキャッチーに
飯髙 また、マケストに会員登録をしてもらった後のリテンションを促進するために、メルマガの改善も行いました。
これまでferretを運用してきても思うのですが、メールを開封してもらうために大事なことのひとつは、配信のタイミングです。
通勤時間を狙うのもひとつの手段ですが、それだと、SNSや漫画、ゲームなどの競合が多い中で勝たなければならなくなります。
なので、その時間よりは会社に着いてPCを見るタイミングを狙って、9時半に送ってみるのもひとつの方法です。
ただ、やはり1番は件名ですね。メールのタイトルがいかにキャッチ―でわかりやすいか、ということが一番大事で。
例えば、「Web接客ツール」という言葉を使っても、Web接客を知っている人にしか伝わりません。ということを考えると「ECの売上が300倍!」みたいにした方が良いですよね。
他にも「インスタグラマー10人の投稿を調査してみた」より、「佐々木希を含む女優インスタグラマー10人の投稿を調査してみた」の方がクリックしてみたくなります。
要は「読んだ時に何がわかるか」を示すことが大切です。数字や固有名詞を入れるということは、よく意識しますね。
また、閲覧データを踏まえて、ユーザーの関心に最適化させたメールをテスト的に送ったところ、コンバージョンレートが200%以上改善しています。
今後はより、one to oneに近い形でのメルマガ送付を強化できればと考えています。
小さな改善が積み重なり、ある時点から急にコンバージョンが発生
飯髙 このように色々な改善を続けてきましたが、前回のインタビューでも話したとおり、基本的にWebマーケティングにウルトラCはないんですよ。
割と愚直に、当たり前のことをずっとやっているだけなんですよね。
【参考記事】WebマーケにウルトラCはない!月間250万PV・1,500リードを獲得する、ferretのメディア運営
昨年の秋に、月末に差し掛かっても月間の目標コンバージョン数に全く足りていない時があったんです。
目標に対して、半数近く足りていないくて、「これどうするの?」と中橋に聞くと、「達成できるんで、もうちょっと待って下さい」みたいに言われて。
「根拠は…?」という感じだったのですが(笑)、残り5日の時点で送ったとある1通のメルマガから、通常の2〜3倍のコンバージョンが起きたんです。
その後は、メルマガを配信しない日でもコンバージョン数が3〜4倍になって、結果、達成できたんですね。
何か特別なことをしたわけではなくて、本当に小さい改善が積み重なって、丁度きれいに噛み合った感じでしたね。
中橋 今回の開発にあたってはスクラム開発を採用していたので、通常よりはかなり機動的に実装を進めていけた思っています。
とはいえ、明日にでも新機能を公開して改善を図りたいと思っている中、施策の優先順位を判断しながらずっとハラハラしていましたね。
当然、全ての施策が成功する訳ではなくて、例えばボタンの色変更や、新規コンテンツの追加等、うまく成果の見えない施策もありました。
このように試行錯誤しながらも、やるべきだと思うことをやり続けた結果、今の結果を生むことができたと思いますね。
選択肢が多様化する中、最適なツールと出会える未来を作っていく
中橋 結果、リリース後の多くの改善を経て、サービスを半年で黒字化させることができました。
今の世の中では多くのITツールが提供されているので、それらを活用することで担当者のいわゆる作業的な仕事が圧縮されて、よりクリエイティブなことに時間を使えるようになっていって欲しいと思っています。
現在はマーケティングと営業周りのツールを掲載していますが、今後はジャンルも広げていく予定なので、ツールとユーザーの最適な出会いの架け橋になれればと思いますね。
飯髙 便利なツールがたくさん登場する一方で、多様化しすぎていて、何を使えば良いかわからないという問題もあります。
ただ、必要な条件を入れたら、「あなたは、これを使えば良いですよ」というレコメンドが貰えるような未来って絶対来ると思うので、そこにマケストが寄与できれば、嬉しいなって思いますね。(了)