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大げさな分析資料はいらない。メルカリの「意思決定」を支えるデータアナリストの役割

〜そのデータで、意思決定は変わりますか? 戦略の策定、新機能の検証、さらに広報まで。組織を横断して最適なデータ活用を実現する、メルカリのBIチームとは〜

データを活用できる組織とできない組織、その違いはどこにあるのだろうか。

国内唯一の「ユニコーン企業」とも称される、株式会社メルカリ。同社の東京オフィスでは、2018年4月時点で7名のデータアナリストから成るBI(Business Intelligence)チームが、経営目標の達成をデータ分析で支える役割を担っている。

チームのマネージャーを務める樫田 光さんは、「『分析こんなに頑張りました』という大げさな資料は、意思決定をする側には必要ない」と語る。

その言葉通り、同社では分析の結果をあくまでもスピード重視で共有。また、できるだけ多くの人がデータを活用できるようにするため、組織を横断した仕組みづくりも強化している。

例えばその活動のひとつであるプロジェクト、「ゆるふわBI」では、経理から財務、カスタマーサポートまで、各部署からデータ分析に興味がある人が集まり、スキルアップを行っているそうだ。

今回は樫田さんに、メルカリにおけるデータ活用の実態や、データ分析において大切にしていることについて、詳しくお話を伺った。

データが活用できる企業・できない企業の違いとは…

僕は2016年の頭に、データアナリストとしてメルカリに入社しました。

もともと20代の頃は、プログラミングや統計とは全く無縁の仕事をしていて。30歳になって初めてデータサイエンスに興味を持ち、独学で勉強を始めたんですね。

それで面白いなと思い、今後、必ず市場で必要とされる役割だと感じたこともあって、データサイエンスを専門で展開している会社に入りました。

その会社には「大学出たばっかりだけど、既にめちゃくちゃプログラミングできます」みたいな人がたくさんいたので、結構大変なこともありましたね。かなり勉強しました。

メルカリには入社の1年ほど前からよく遊びに行ったりしていたのですが、当時は、データアナリストはアメリカで採用されたメンバーがひとりいるだけでした。

その後、僕の入社のタイミングで自分を含めて4名となり、BIチームという形になりました。

現在の組織編成は、東京に7名、アメリカとイギリスに数名ずつおります。ここは少なくとも直近で20〜30名くらいまでは増やしていきたいので、今、大募集中というところです(笑)。

データアナリストチームは、組織図上は横断部署という形で存在しています。ただ仕事という意味では、それぞれのメンバーが各社内プロジェクト(※)にアサインされ、その構成員となっている、という位置づけの方が強いです。

※メルカリでは、機能や改善ポイントごとにプロジェクトを発足させ、プロダクト改善や企画などを行っている

ですがチームとしては、全社のデータへのリテラシーを上げていくという使命感もあるため、そこは横断的に活動を行っています。

データが大量にあるのに全然活用ができていない会社って、世の中にたくさんあると思っていて

頑張って分析しても、結局「へえ、その数字そうなってるのね。わかった、わかった」みたいな感じで。本当に「ちょっとした参考材料」くらいにしかならないケースも多いのかなと。

でもメルカリの場合はそうではなく、データのような外部からの客観情報に対して、経営者や企画者がきちんと向き合っています。そこがデータアナリストとしては、一番面白いところですね

経営指標から広報まで。様々な領域で、最適なデータ活用を進める

データアナリストが関わるプロジェクトは、多岐にわたります。社内の色々な職種の人と、仕事をする機会がありますね。

例えば「ボタンの色を変えたことで何が変わったのか」といったUI系のミクロな行動分析もありますし、機能追加に企画から関わって、実装によるインパクトを仮説検証することもあります。

PR観点で、広報と仕事をすることもありますね。例えば福岡にオフィスを作ったときには、プレスリリースでの話題作りのために、「福岡の人がメルカリで買っている物は、他の県とどう違うのか?」という特徴を分析しました。

会社の節目でリリースしている、メルカリの数字のインフォグラフィックのための分析も、広報と一緒に行います。

マクロな視点で言うと、昨年は、アメリカにおける事業の方向性を定めるために、経営陣とBIチームで「US事業の戦略を決めるぞ合宿」を1泊2日で開催しました。

アメリカ市場に関しては、当時は「マーケットプレイスとしてまず規模ありき」という考え方が強かったです。これはマーケットプレイス型のビジネスモデルでは、ごく当然の発想でした。

しかし腰を据えて分析してみると、量の拡大はもちろん大事なのですが、それ以上に質面での拡充も見直すべきかもしれない、ということが見えてきまして

ユーザーを100人増やすのも当然大事ですが、それ以上に、10人のユーザーを大切にして継続率をある程度まで高めていかないと、中長期的な成長は簡単には達成できない、ということが分析を通じて見えてきたんです。

この分析結果は、3ヶ月ごとに決めている経営目標にも落とし込まれました。

メルカリのダイナミックな意思決定やスピード感が、データアナリストとして働く上で面白いところだと実感できる出来事でした。

重要なのは意思決定。「分析こんなに頑張ったよ!」の資料は不要

基本的に僕たちのミッションは、「分析によって何かの意思決定をする」ということです。

ですが、結構ドライに言ってしまうと、データで初めて何かを知ることって世の中にそこまで多くはないのかな、と思っていて。

「データで全く新しい発見を」というのは確かに目指すところではあるのですが、実際はそこまで簡単ではないんですよね。

それよりは、皆がなんとなく「そうなのかも」と感じていることに対して、最後のひと押しになる・決定する自信を与える、ということも大事だと思っています

その意味合いでは、世の中の分析資料って、無駄なものが多いんですよね

「こういうデータを使って、こういう定義と手法で分析しました。その結果がこれなのですが、そこからさらに一工夫加えてこう出し直しましたよ」みたいな。

簡単に言うと、「分析こんなに頑張ったよ!」みたいな感じですよね。でもその情報って、意思決定する側は、さほど求めていないんですよ。

「この企画は『イエス』or『ノー』」ということ、「超サマリー」的な根拠となる数字、それくらいで十分なんです。

それよりはやっぱり、皆、早く結果を知りたいんですよね。ですのでメルカリでは、分析結果はSlackにピッと貼って終わり、ということがほとんどです。

ですが、いかにわかりやすくその「イエス or ノー」を出すか、かつ理由を聞かれたらしっかりと説明できるか、ということがプロとしては必要かな、と思っています。

また、データ分析の依頼があったときに全てをラフに受けるのは良くないと思っていて、そこはできるだけ気をつけるようにしています。

例えば、すごく心配性の人に「明日雨降りそうって聞いたけど降水確率って何%?」と聞かれるとします。「90%と10%だったらどう変わるの?」と聞き返したら、「どっちみち傘を持って行きます」みたいな。

これですと結局、意思決定は変わらないので、分析する必要はないですよね。実は、こういうことって結構あるんですよ。

ですので、分析の依頼があった時にも場合によっては「分析の結果がAだった場合とBだった場合で、意思決定は変わりそうですか?」ということは聞きますね。

それで「うーん」みたいな感じだと、その分析はさほど必要ではないということになります。

そうやって、有限な時間の中でなるべく重要な意思決定に寄与できる、必要性の高い分析にフォーカスできるように心がけているんです。

社員に「愛されない」ダッシュボードはただのガラクタ

メルカリは、データに対するリテラシーということで言うと全社的にかなり高いとは思います。とは言え、より一層それを強化していくために、様々な取り組みも行っています。

そのひとつは、経営目標に紐づく数値を可視化するダッシュボードですね。もともとアメリカのBIチームが使っていた「Chartio」というツールを日本でも導入して、いろいろなKPIを見える化しています。

▼「Chartio」(画像はメルカリで使われているものではなく、イメージです)

ダッシュボードがあれば、「いきなりこの数字がハネたね」みたいなことに誰でもすぐに気が付けますし、何があったかを究明しに行けます。僕がいちいち分析しなくても、各メンバーが施策の効果などをリアルタイムに判断できるようになるんですね

このダッシュボードを作るのもデータアナリストの仕事ですが、目指しているのは、誰もがいつも確認したくなる「愛されダッシュボード」です。

見られないダッシュボードとか、ほんとにガラクタでしかないと思っているので、それは結構気を配っています。「折れ線グラフは5系列以下に」とか「もっと見やすい色使いを」など、細部までなるべくこだわるべきだと考えています。

あとはなるべく、見る側の気持ちが「燃える」ようにすることも大事かなと。

例えば売上の目標に対する実績を示すとしても、日々の数字がただ表示されているものと、1日1日積み上がって達成に向かっているものですと、絶対に後者の方が面白いし皆見るんですよ。

どういうものを見せれば皆がそれを確認したくなるか」を考えることが非常に重要ですね。

更に言うと、ダッシュボードを見ること自体も「一手間」だとは思っていて。わざわざ見に行かなければならないので、あくまでも「プル」の仕組みなんですよね。なので、「プッシュ」の仕組み化も結構大事だと思っています

具体的に言うと、トップレベルで大事な数字に関しては、プログラムを組んでSlackに毎朝投稿されるようにしています。

▼実際に数字が通知されているSlackの画面

すると、やはりそこから議論が起こるんですね。「これで今月大丈夫?」とか「昨日いきなり数字上がったんだけどこれ何?」みたいなことを、誰かが言い出す感じです。

ひとりでダッシュボードを見ていても誰とも話せませんが、Slackであれば皆がいるので、何が起こっているのか究明しやすいです。

「まだ共有できてなかったんですけど、実は昨日こういう施策を緊急で走らせていて…」といった形で数字が変化した理由が判明したり、情報共有にもなります。

職種の枠を越えて、全社でデータを活用するための施策も

社内でデータ活用を進めていくために一番大事なのは、皆がデータに詳しいかどうか、ではないと思っています。

むしろ「データって大事だよね」と思っている人が会社の過半数いるか、ということかなと

皆が「データってそんなに重要じゃないよね」と思っている状態で分析で価値を出すのって、すごく大変で。

そうした背景から立ち上げたのが、「ゆるふわBI」、通称「ゆB」というプロジェクトです。

これは今年からスタートしたのですが、各部門のデータ分析が好きなメンバーを集めて、わからないことを聞けたり、一緒に勉強できるようなゆるい組織体です。

ゆるふわBIな人々が集まるSlackチャンネルに今は50人以上いて、週次の定例MTGにもかなり大勢のメンバーが集まる人気プロジェクトになっています。

参加者は、経理、プロデューサー、マーケティング、財務、カスタマーサポート、エンジニア…などなど様々です。

定例会では、最近行った分析を共有したり、分析で困っていることを持ち寄ったりしています。先日はアメリカのマーケターが「やりたいんだけどやり方がわからなくてできない」と言っていた分析に対して日本のやり方を紹介したところ、すぐに解決して喜ばれましたね。

また、最近ではGitHubに過去のクエリを蓄積していくQuery Recipe」という取り組みも始めました。

▼実際に運用されている「Query Recipe」

分析って結構、「秘伝のタレ」みたいな所あるんですよね。でもクエリであったり、書いたコードにはそのノウハウが詰まっているわけなので、それをどこかに集めておけば色々とメリットがあるなと

現状、BIチームのメンバー同士でも「これってこうやってるんだ、知らなかった」ということは発生しているんですよね。

また、これからチームを拡大するにあたり、新しいメンバーのラーニングコストを下げることにも繋がります。もちろん「ゆB」のメンバーにも、参考にしてもらえますね。

GitHubの中の構造としては、メルカリのユーザー行動に沿ってクエリを分類しています。

メルカリのお客さんが取る行動って、ある程度は決まっているんですね。インストールして、会員登録して、検索して、商品ページを見て…といったフローがあるので、この流れごとにディレクトリを作っています。

すると、大量の細かいクエリをわかりやすく分類できますし、自分が関わっている業務に応じてクエリを探しやすくなります

BIチームとしては、経営課題として優先度の高いことであれば、常にどんな小さいことでも相談されたいと思っています。一方で、そうではない細かい部分は、「ゆB」やノウハウの公開で解決できたら良いなと。

今後もより一層、社内でのデータ活用が進むような取り組みを進めると同時に、チームの仲間も増やしていきたいですね。(了)

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