- ブリヂストン株式会社
- 人事・労務本部長
- 江渕 泰久
「選抜型」の研修が発奮材料!ブリヂストン流・世界で戦える日本人リーダーの育成法
〜「復活戦」のある選抜型研修が、「選ばれなかった側」も刺激する。タイヤビジネスシェア世界No.1、ブリヂストンの育成制度とは〜
世界26ヶ国に180以上の生産および研究開発拠点を持ち、日本を代表するグローバル企業として1931年から成長を続ける、ブリヂストン株式会社。
現在およそ14万人の従業員を有する同社では、実は日本人の割合はおよそ2割にすぎない。
全体でグローバル経営人材を輩出することが大きなテーマである中、「グローバルに戦える日本人リーダーの育成」は、常に課題であったという。
そこで同社では、新人には平等に機会を与える一方で、早ければ入社3年目から「選ばれた」社員のみが参加できる、「選抜型」の研修制度を複数設けている。
例えば「海外トレーニー制度」では、敢えて「権限を持たない」状態の若手を海外に2年間送り込み、異文化の中で自主性や対人力を高めることを狙いとしている。
同社で人事・労務本部長を務める江渕 泰久さんは、「ポイントは、研修に選ばれた側、選ばれなかった側、どちらにも上に行くチャンスがあること。選抜型と言っても『復活戦』があることで、全体としても良い刺激になっている」と語る。
今回はそんなブリヂストンの等級制度や、リーダー育成のための「選抜型」研修制度の全貌までを、詳しくお伺いした。
世界で戦える「日本人リーダー」の育成が、30年にわたる課題
私は1989年に、新卒でブリヂストンに入社しました。それから途中7年ほど営業を挟みつつ、基本的にはずっと人事を担当しています。
弊社の組織風土を語る上で欠かせないのが、1988年にアメリカのファイアストンという企業を買収したことです。
ファイアストンはアメリカを拠点に、北米とヨーロッパに強い企業でした。それが日本を中心にアジアに強いブリヂストンと一緒になったことから、グローバルな経営が始まったんです。
結果として1988年からこれまでタイヤ業界をリードし、近年は継続してNo.1シェアを維持しています。
そしてファイアストン買収時からのチャレンジだったのは、グローバル経営とガバナンス、そしてその中で日本人がどうあるべきかということです。
ほぼ自分たちと同じ大きさの会社を30年前に買って、しかも実は、その会社が非常に「おんぼろ」で色々な問題を抱えていたという背景もあって…(笑)。
そこからどのように組織として立ち上げていったかということは、こちらのイベント(HR Japan Summit 2018)でも詳しくお話させていただくことになっています。
そもそも日本の経営スタイルというのは非常にユニークなので、それをいかにグローバル規模できちんと治めていくか、ということはずっと課題でした。
現在は全世界で14万人位の従業員がおりますが、その内、日本人は約2割だけなんですね。
ですので、「どうやってグローバルに戦える日本人リーダーを育てるか」ということは大きなテーマで、そのための様々な育成制度を設けています。
キャリアの年数に応じ、研修制度が「選抜型」へと移行する仕組み
弊社の場合、開発企画職(いわゆる総合職)の3分の2が、新卒採用で入社しています。そして入社後は、社内のいわゆる職能資格制度に沿って昇格していきます。
大卒(学部卒業)の場合はまず開発企画5級から入り、4級、3級と上がっていくのですが、3級から上級に上がる際には社内試験があります。上級の上がいわゆる管理職にあたる、基幹職です。
▼同社の職能資格制度の概要
中には飛び級で昇進していく人もいるため、早い人では年齢で言うと35歳くらいで基幹職になります。この等級自体は、グローバルで統一しておらず、日本だけで展開しているものです。
ただ、国内向けの等級制度に沿って育成をしているだけですと、海外で上手くリーダーシップを取れない日本人が出てきてしまいます。
極端な例ですが、「50歳で初めて海外赴任しマネジメントをした」みたいな状態だと、価値観の違いを理解できず、現場を従わせるようなやり方しかできなかったりするんです。そうすると、現場もついて来ません。
リーダーシップに必要なエレメントは様々ですが、その中には、入社してすぐの若い頃に身に着けないといけないものから、ある程度上級になってから得るものがあります。
そこで私たちは、キャリアの中でそれぞれ必要なものを分解して、育成制度を設けています。
そしてこの制度の背景にあるのは、経験年数に応じて研修制度の主軸を「共通」→「応募型」→「選抜型」と変化させる考え方です。
若手の頃であれば、全員が均等に機会を与えられて、均等に勉強していくべきです。しかしキャリアの途中からは、「自分から手を挙げる」人にチャンスを与えていくことが重要になってきます。
そして更にその先は、「選ばれた」人が制度を享受できる仕組みを作っています。
「選ばれる」ということはひとつのステータスでもありますし、選ばれなかった人にとっても発奮する材料になる。このような考え方で、研修制度の全体を設計しています。
敢えて「権限ナシ」の若手を海外に送り込む理由とは…
こうした枠組みの中で様々なプログラムを設けていますが、その中でも「海外トレーニー制度」と「JDC(日本人リーダー育成クラス)」のふたつは特徴的な制度かなと思います。
まず海外トレーニー制度は、比較的若手のうちに設けているものです。勤続3年以上のメンバー、要するに「一応、社会人として目鼻立ちがついた」くらいの時に、2年間海外に行ってもらうというものです。
現在は、60名ほどがこのプログラムに参加中です。全員が行けるわけではないので、これをひとつのチャンス・目標と捉えて行けるように頑張って欲しいな、という狙いもあります。
▼同社の「海外トレーニー制度」の概要
ここで重要なのは、まだ若手で「権限」を持たない状態で、敢えて海外に行ってもらうということです。自分の身ひとつで、現地で自ら仕事を得ていくという経験を大事にしています。
海外拠点に行って椅子だけ与えられて、英語もできなくて、という状況だと、最初は何もできないわけです。
そこで「自分は特別に優遇された立場でいるわけではない、理解されて仕事を得るにはどうすればいいだろう」と考えるところから始まるんですね。
大体のメンバーが、あまりにも自分の存在が薄いと感じて1回は「へこむ」んですよ。そこから頑張って周りから評価されて、「日本に帰らないでくれ」という状態になるのが理想です。
親会社が日本で、「日本から来た可愛い子供をケガさせずに送り返してね」という研修スキームだったら、観光で来たのとあまり変わりません。そうならないために、このような仕組みを設けています。
「選抜されなかった」側にもチャンスがあることが重要
そして上級職になると、JDCというプログラムがあります。目的は、各部門のマネジメントを支える優秀人材の育成です。
内容は簡単に言うとOJTとOFFJTの融合で、マネジメントに必要な知識やスキルを学び、意識的に個々の能力を高めていくものになります。
これに選ばれるのは毎年20名ほどですが、弊社の総合職の新卒採用は毎年100〜150名なので、なかなか狭き門ではありますね。
▼「JDC」の概要
選ばれる基準はそれまでの評価が一番大きく、各部門から推薦が上がった人たちを毎年横並びにして、20名を決定しています。
ただポイントは、必ずしもこれで選ばれた人が役員になっていく、というわけではないことです。選ばれた側、選ばれなかった側、どちらにも上に行くチャンスがあって、それが良いことかと思っているんですね。
サッカーで言うと、U18、U20、A代表って、同じメンバーではないじゃないですか。A代表を選ぶ時にU20から選ばれるかと言うと、そうではないですよね。
各年に、「今ドリブルだったらこの人」「シュートだったらこの人」という感じで選ぶと思うのですが、ビジネスも同じで。スキルやビジネスのマネジメント力って、人によってどんどん変化してくるものなんですね。
ですので、選ばれなかった人がもうこの会社で将来がないか、というと全くそうではなくて。例えばJDCを受けている人の中でも、海外トレーニー制度には参加していないという人もたくさんいます。
逆に、「これに選ばれたから俺は将来があるんでしょ」ということでもないわけです。「甲子園の優勝投手になったからプロになっても安泰でしょ」と思っていると、プロに入って痛い目にあいますよ、という感じです。
このように選抜型と言っても「復活戦」があることで、全体としても良い刺激になっていると思っています。実をいうと私自身、どちらかと言うと選抜されず発奮したクチです(笑)。
日本人リーダーに必要な「自主性」を若いうちに身につけさせたい
日本の組織の特徴というのは、欧米と比較して、「分厚い中間層」を作ろうとすることにあります。
欧米の組織は、分厚い層を作ることより「ひとりのスティーブ・ジョブズ」を探してくるか育てた方がいいよね、という考え方で、トップ層にフォーカスするわけです。
それに対して日本の組織は、例えば3年ごとに人事異動をしたり、この会社に5年いれば最低でもこれだけできる、という人材を作ろうとしたりします。
その中で私たちは、ちょっと尖った選抜型の制度を設ける一方で、やはり最もお金をかけているのは共通研修や応募型研修なんですね。
「全員が手を挙げれば受けられる機会」はやはり大切だと考えていて。例えばマネージャーになる手前のプレマネジメント研修という、コーチングや意思決定を学ぶ研修は、規定年次の中であれば誰でも受けることができます。
今後に関しては、「自分でやろうと思わないと得られるものはない」という状態を徐々に作っていきたいと考えています。
日本人の弱さというのは、やはり「会社からやれと言われたことを全部やっていたら、気が付いたらその人は育っていた」みたいな状態が起こってしまうことにあるのかなと。
自分の頭を使って考えずに言われたことをとにかくやればいい、みたいな考え方だと、じゃあ誰も何も言わなくなったらどうなるの、ということになるじゃないですか。
そうではなくて「自分には今これが必要だ」「こういうステップを踏んでいこう」という戦略を、自ら立ててほしいと思っているんですね。仕組みだけ用意しておくので、そこに乗っかりたい人がどんどん来てくれたらいいなって。
こうした自主性・主体性を若いうちに身に着けておかないと、それこそ海外で戦おうとした時に全然戦えないんです。
今後もグローバルに通用する日本人リーダーを育てるために、より良い仕組みを作っていければと思っています。(了)
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