- 株式会社リクルートテクノロジーズ
- データイノベーション推進部
- 赤塚 諭
ロボットの仕事を「疑う」のは意味がない。年8,500時間を削減したリクルートのRPA活用
〜月に数十万件の「入金」もロボットが判定!「まずはやってみる」からスタートした、リクルートの業務自動化とは〜
RPA(Robotic Process Automation)を導入し、ルーティンワークをパソコン上で動く「ロボット」に代行させる企業が増加中だ。
株式会社リクルートでも、RPAツール「UiPath(ユーアイパス)」を導入。グループ40社超の経理業務の中で「人の判断がいらない」作業を自動化し、年間およそ8,500時間の業務時間を削減することに成功したという。
「『大事だけど皆ずっとやりたくない業務』をロボに代行させることで、新しいことに挑戦するための時間を生み出すことができた」と語るのは、経理推進部の村上 和優さんだ。
今回は村上さんと、RPAの開発・運用を行う株式会社リクルートテクノロジーズの赤塚 諭さんに、RPAの具体的な活用法や、「完全自動化」を目指す未来についてお伺いした。
年間8,500時間・およそ5人月の作業を「ロボット」が代行
村上 私は株式会社リクルートの、経理推進部に所属しています。ここには40名強が在籍し、リクルートグループの事業会社に対して、経理サービスを提供しています。
基本的には、40社強に対して同じサービスを提供しているんですね。ですので似たような作業やトランザクションも多く、チープな言い方をすると「ずっと同じことやるのって嫌だよね」という課題感がずっとありました。
また、経理業務ってどうしても、労働集約的な働き方になりがちなんです。
例えば会計システムから数字をダウンロードして、手で加工して資料を作る…といった作業も、40社分となると、結構な時間がかかってしまいます。
こうした業務も非常に価値のある仕事ですが、そればかりになってしまうと、新しいことに挑戦するための絶対時間が足りなくて。
かと言って単純に人を増やすというわけにもいかないので、いかに人の手をかけずに業務の効率と品質を上げるか、ということが課題だったんです。
そこで2016年の10月頃に、部署単位でRPA導入をスタートしました。当時はグループ全体のプロジェクトになっていたわけではなく、あくまでも経理のお財布の中で小さく始めたんです。
と言うのも、海のものとも山のものともわからないテクノロジーを役員会に持っていて、「お金下さい」とはなかなか言えませんので(笑)。
まずは我々でやってみて検証しようということで、半年ほどは経理の中だけで展開していました。
その後、これはいけるのではという判断になり、2017年の4月から組織としてRPAを導入していくことになりました。 仕組みを作るエンジニアと要件を出す経理だけでなく、プロジェクトマネジメントの部門も入る形で編成を組んで、一気に加速させた形です。
成果としては、現時点で、年間およそ8,500時間の業務時間の削減が実現できています。単純換算すると、大体5〜6人月ほどの工数が削減できました。
「まずはやってみる」ことが可能だったRPAツール「UiPath」
赤塚 私は現在、データイノベーション推進部に所属し、RPAの構築・運用に関わっています。
データイノベーション推進部は、グループ会社の業務全般にフォーカスして、データを活用した生産性向上を目指す組織です。
私が現在進めている取り組みは、大きくふたつあります。まずは、BI(Business Intelligence)ツールである「Tableau(タブロー)」を活用した業務効率化です。
▼「Tableau」画面イメージ(サンプル画像です)
例えば営業がクライアントにレポートを送付する場合、従来はデータを1個ずつ抽出してグラフを作り資料を作成する必要がありました。
しかし今では、それがTableauの画面キャプチャーを貼り付けるだけで資料作成が可能になり、クライアントのために考える時間を増やせるようになりました。
そしてもうひとつは、今回のRPAに代表されるような業務の自動化です。
いわゆるBPR(※)に近いのですが、人が機械的にやっている業務をできるだけなくして、人の時間をより難しい業務や、考える事に使っていくことを目指しています。
※Business Process Re-engineering:社内の業務プロセスを改善すること
RPAは、その中でも優先順位としては高い位置にあります。と言うのも、「データ活用による生産性アップ」を数値で測るのは結構難しいのですが、RPAであれば「業務時間がどのくらい減ったか」という形で、明確に効果が見えやすいんです。
RPA導入をプロジェクトとして推進していくことが決まったあとは、最初の製品選定のところから見直しを行いました。
最終的には「UiPath(ユーアイパス)」を導入したのですが、選定の際に重要視した項目は大きく3点です。
まずは、ロボットの「野良化」を防ぐ中央集権的な仕組みがあるか、次に、スモールスタートで導入することができるか、そして最後に、弊社独自のアプリケーションの操作ができるか、という点です。
特に「スモールスタートできるか」という部分は、弊社にとってはかなり重要でした。「まずはやってみよう」という会社ですので「いきなり10台のパッケージを導入」という形だと難しいんですね。
まず1台作ってみて、良かったか悪かったか判断する、ということがUiPathでは可能だったので、それは大きかったですね。
「大事だけど皆ずっとやりたくない業務」をロボットが次から次へと代行
村上 今、RPAで実際に効率化している業務は、例えば税金計算です。
税金計算って実はものすごく複雑で、以前は時期によっては30〜35名が、かかりきりになって40社分を作業していました。
ですが現在は、1アクションでロボットがデータの出力や簡単な演算を行い、人がチェックする手間を省けるようになっています。
また、いわゆる「経理あるある」で、「大事だけど皆ずっとはやりたくない業務」ってあるんですね。例えばBSの借方・貸方の残高消込作業もそのひとつかなと思うのですが、現在はその判定をロボットがやっています。
以前は月次の締めを行うタイミングで、この作業にヒーヒー言っていたんですよ。ところが今は帰宅する前にボタン1個押しておいて、翌朝来たら判定が終わっています。後は消込の承認をして、不明点をヒアリングするだけです。
同様に、入金の消込もロボットが行っています。これはクライアントからの銀行振り込みを、我々の会計システム内の債権とぶつけて消し込むというものです。
赤塚 実はこのロボットが、業務時間の削減に最もインパクトがありました。と言うのも、グループ全体で見ると入金件数が膨大で、月に数十万件に上るんです。
ただ、データが膨大な分、開発にも苦労しました。
当初はロボのパフォーマンスが想定よりも遅くなってしまうことも多かったため、複数台を動かしたり、外部ツールを一部のプロセスに取り入れたり、細かいチューニングも行いましたね。
村上 入金の消込はもともと、色々なシステムにまたがってチェックしていたんです。
それが今は、RPAのボタン1つで複数のシステムのデータベースにアクセスし、一括で判定して、マッチングが完璧なものに対してはフラグが立つようになっています。
ロボの作業に「疑う余地」があっては意味がない
赤塚 新しい業務でロボを開発する際には、いくつかの軸で優先順位を判断しています。
実際にどれだけの業務時間を減らせるかということはもちろん、関係者の多さや、「デジタル化の度合い」もひとつのカギですね。ロボと言っても、紙は動かせないので。
また、ロボがやった作業に対して、人間が「本当にこれ合ってるの?」という目で見てしまうようでは意味がないと思っていて。「ロボが立てたこのフラグは本当なのか」って、疑いだすとキリがないんですよ。
つまり、人の判断が入る余地があってはいけないんですよね。ですのでそうした業務は、今は敢えてフォーカスから外している部分もあります。
先ほどご紹介したBSの消込に関しても、本来は完全自動までいけるのですが、ロボが100%すべてを判断しないように設定しています。
消込をするための目安となるのは金額や内容、振込名義ですが、我々の場合は同じような明細が毎月あるので、単純にすべてを機械的に付け立てると、ミスが発生する可能性があるんです。
ですが、「RPAがミスをしている可能性がある」となると、結局人間がチェックすることになってしまいますよね。それでは意味がないので、敢えて信頼できるレベルまででロボの作業をストップするようにチューニングしています。
ロボ1体の開発を始めてから稼働までは、早ければ2〜3週間、長いもので1ヶ月半ほどです。
また、開発の際には、早めの段階で現場に受け入れテストを行ってもらっています。
ロボの安定性を上げるためには、この「開発→テスト」のサイクルを細かく何度も回すことが大事だと思っていて。また、現場の人も実物を見なければイメージが湧きづらいので、テストをしながら要望の摺り合わせも行っています。
完全自動化の世界「Class 3」を目指して…
村上 月次作業のようなルーティンの経理業務が効率化されたことで、部署としてより付加価値を出していくような業務に時間を使えるようになってきています。
例えば私たちの仕事のひとつに、「事業支援」があります。これはグループ内で新しいビジネスが生まれた時に、適切な会計基準や経理プロセスを提案していくものです。
以前はこの部分にすごく時間を使う、というわけにはいかなかったのですが、今後はこちらから先回りしてソリューションを提案していくようなこともできると考えています。
また、経理って毎年毎年、会計基準が変わりますし、ビジネス自体も移り変わっていくので、ある意味勉強の連続なんですね。そういった学習の部分にも、より多くの人間が時間を使えるようになるといいですね。
赤塚 データイノベーション推進部としては、今後はより高いレベルでの自動化にも取り組んでいきたいと思っています。
我々が今やっていることは、RPAの業界で言われている「Class 1」にあたる、ルールベースの自動化です。
これが「Class 2」になってくると、AIが入ってきて、「人の判断」の領域にも踏み込んでいけるようになります。
実際に、この領域での取り組みも既にスタートさせています。例えば、社内申請で発生する「人のミス」のチェックを、機械的に判断する仕組みを試験運用しています。
RPAだけではなくAIを含めて稼働させることで、より大きな相乗効果が期待できますよね。私たちの組織はAIの方に強みがあるので、RPAの開発を行っている価値は、ここにあるのかなと思っています。
最終的には、完全自動化の世界である「Class 3」を目指して、今後も頑張っていきたいですね。(了)