- and factory株式会社
- Smartphone App Division Marketing
- 西 香織里
「埋もれた名作」をアプリで掘り起こす!400万DLを突破した「マンガUP!」運用の裏側
〜広告と実作品の「イメージの統一」と「初回体験で迷わせない」ランディングページで、ユーザーの継続率を高める「マンガUP!」のアプリ運用術とは〜
出版業界の不況が叫ばれる中、若者を中心とした読者とマンガの新たな接点として「アプリ」が注目を浴びている。
and factory株式会社は、数々のアプリ開発・運営の知見を生かし、2017年1月にスクウェア・エニックス社(以下、スクエニ社)との協業で「マンガUP!」をリリース。
▼国内最大級のマンガアプリ「マンガUP!」
同アプリは、月刊「少年ガンガン」をはじめとしたスクエニ社の全誌に眠る「過去の名作」を掘り起こし、総ダウンロード数は2018年6月に400万を突破。
その運用で最も重要視している指標のひとつが、ユーザーの「継続率」だ。
そこで、広告とマンガ作品との「イメージの統一」と、初回ユーザーに「読む作品を迷わせない」ランディングページを作成するなどの一連の施策を実行。
さらに、新規ユーザーと既存ユーザー別に、効果的なプッシュ通知を使い分けることで、MAUの蓄積と早期収益化に繋げている。
今回は、マンガUP!のマーケティングを担当している西 香織里さんに、広告運用から継続率の改善施策に至るまで、詳しくお話を伺った。
「過去の名作」を掘り起こすため、出版社と協業でアプリを開発
私は、2015年に入社して以来、ずっとアプリマーケティングに携わってきました。
エンタメ系のアプリをメインに、かなりハイペースでアプリを作っては伸ばして…といった日々でしたね。およそ1年半で50本ほどのアプリを作って、集客からマネタイズまでを担当していました。
その中で、当時急成長していた「ゲーム攻略アプリ」のマーケティングを担当し、データ分析やプッシュ通知の運用などを肌感覚で学びました。
現在は、その経験を生かす形で、マンガアプリのマーケティング・プロモーション出稿を担当しています。
弊社では、出版社と共同開発・運営しているマンガアプリが2つあります。その内の1つが、スクエニ社との協業となる「マンガUP!」です。
今の時代、マンガを本屋などで買って読む人が少なくなってきていて。スクエニ社としては、アプリ化をきっかけに「過去の名作」にもう一度触れてもらったり、新たな読者に知ってもらいたいという狙いがありました。
そこで、スクエニ社が作品提供や編集を行い、弊社がアプリの開発・運用を全面的にバックアップする形で、共同運営することになりました。
私たちは、これまでの数々のアプリ開発・運営の知見を生かして、より多くの人々に作品を届け、また作家の方々にも収益を還元する仕組みを作るために、日々のアプリ運用を行っています。
継続率を高めるには「入り口のイメージ」と「初回体験」が重要
マーケティングのKPIとしては、「デイリーアクティブユーザー数(DAU)」と「1ユーザーあたりの売上(ARPU)」を置いています。そのKPIから分解して、特に重要となる指標が「継続率」です。
そもそも、マンガUP!は基本的に無料で楽しめるアプリのため、ユーザーの9割以上は課金をする必要がありません。
収益を上げるためには、ユーザー数を増やして広告収入を得るか、無課金から課金ユーザーへと育てていく必要があるので、「ユーザーに長く使ってもらうこと」が大前提になるんですね。
この継続率を高めるためには、「入り口のイメージ」と「初回体験」の2つが重要だと考えています。
まず入り口の部分では、YouTube、Twitter、Facebookの3つをメインに運用し、広告からの流入が多くなっています。
ここで大切なのが、「広告とマンガ作品とのイメージを統一する」ということです。
例えば、マンガUP!の場合は「社会問題」を題材とした作品で出稿するよりも、「恋愛マンガ」を使った広告クリエイティブのほうが、明らかにダウンロード後の継続率が高くなるんです。
これは、マンガUP!で公開している作品のうち、後者に近しいジャンルの作品数が多いからだと考えています。
たとえキャッチーな画像でクリック率が高かったとしても、読みたい作品群が実際のアプリに少なかったとしたら、ユーザーは離脱してしまいますよね。
なので、「釣り」のような広告は絶対しないように気をつけています。
また、ある広告を出稿した際、静止画と動画でそれぞれの継続率を測りました。その結果、より内容が伝わりやすい動画広告から流入したユーザーの方が、継続率が5%ほど高くなりました。
そこで動画に注力することを決め、その内容の改善を重ねました。最初は、動画の構成を「起承転結」で完結するように作っていたのですが、「起承転」で止めた方が良いことがわかってきて。
まず、物語のきっかけとなるストーリーを入れ興味をひきつつ、最後に「え?」と思わせる意外性のある場面(転)で終わる動画広告が、かなり効果的でしたね。
初回ユーザーには、プッシュ通知で「読んでほしい作品」を届ける
そして、アプリをダウンロードした後の新規ユーザーについては、初回から3日目までを「初回ユーザー」として、離脱させない工夫をしています。
具体的には、翌日継続率を高めるための「初回ページへの誘導」と、初回から3日目まで継続して起動させるための「プッシュ通知」です。
というのも、これまでのデータを見ると、翌日に継続利用するユーザーは7日目の継続率も高くなり、その後も定着率が高いことがわかっているためです。
そこで、広告経由で「読みたい作品」が明確になっているユーザーが、「あれ、あの作品どこにあるんだろう」と迷子にならないようにするため、通常のトップページとは別に「初回専用のランディングページ(LP)」を設けています。
▼初回専用のランディングページ
ここでは、広告獲得が多い作品や、マンガUP!の人気作品をひとつのページに纏めることで、初回ユーザーが最初に読む作品を迷わないようにしています。
次に、初日から3日目にかけては、プッシュ通知を1日1回ずつ打っています。
プッシュ通知の内容は、「人気作品」をはじめとする、主要な3ジャンルの作品を紹介するものです。
というのも、既存ユーザーには人気作品の更新のタイミングに合わせてプッシュを送ることが多いのですが、初回ユーザーからすると、そもそもそれが人気作品だということがわからない可能性があります。
そこで、初回ユーザーを着実にマンガUP!のファンへと定着させるために、最初は主要ジャンルの作品で訴求をするようにしています。
プッシュ通知はA/Bテストで最適化!クリック率に影響する要素とは
こうして、無事に3日目を経過した既存ユーザーに対しては、1日3〜4回のプッシュ通知を送っています。
そのタイミングとしては、ポイント付与を通知する朝と夜の2回のほか、お昼と夜の21〜22時頃に、人気作品の更新とおすすめの作品紹介などのプッシュをしています。
特に、夜のプッシュ通知では、その時最も訴求したい作品の更新話からシーンを厳選し、画像つきで送信するんです。
そうすることで、絵柄などで敬遠していた作品の中身を知ることができ、読書開始につなげることができます。
また、プッシュ通知の文言や画像は、アプリ解析ツールの「Repro」を使ってA/Bテストを行っています。
数値をモニタリングする中で、徐々にわかってきたのは、クリック率には「タイトル」「ストーリー性」「わかりやすさ」が影響するということです。
そのため、プッシュ通知では、作品のストーリーが伝わりやすいような文言と画像を作っています。
▼プッシュ通知の一例
こうしてプッシュ通知を上手く活用することで、読みたい作品がなくなってきているユーザーに対しても「新作」や「おすすめ作品」をアピールすることができ、さらなる継続利用につながっています。
プッシュ通知「オン」になってる?ゲリラ的キャンペーンを実施
一方で、そもそもプッシュ通知が許諾されていなければ、いくら改善を重ねたとしても、その効果は限定的になってしまいます。
特にiOSの場合、ユーザーが自ら受信を許可する必要があるため、Androidユーザーに比べてプッシュ通知の許諾率が低いことが課題でした。
そこで、プッシュ通知をオンにさせるためのキャンペーン施策を、今年の正月に実施しました。
▼正月に実際した、プッシュ通知のポイントキャンペーン
これは、正月の三が日にゲリラ的にプッシュ通知をおくり、そのタイミングでアプリを開くと、合計750ポイントがもらえるというキャンペーンです。
「通知を許可しておかないと、いつポイントが付与されるかわからない」という状況にすることで、結果的に全ダウンロード数の8〜10%ほど許諾率が上がりましたね。
ですが、一時的には通知オンになっても、やはり徐々に下がっていってしまいます。そのため、四半期や半年に1回くらいの頻度で、定期的にキャンペーンを実施する準備をしています。
アプリの力で、過去の名作をもっと有名にしていきたい
日々の運用の結果、マンガUP!は2017年1月にローンチ後、現在の総ダウンロード数は400万を超えています。
今後も、アプリのユーザーをアクティブにしていき、隠れた名作やマンガUP!のオリジナル作品をもっと有名にしていきたいと考えています。
マンガUP!には、全ユーザーの30〜40%が読んでいる「アラクニド」という超人気作品があるのですが、連載は2015年に終了し、アプリで配信するまで脚光を浴びる機会がほとんどありませんでした。
これは、マンガUP!を通じて再び読者を獲得した、「名作の発掘」の成功例です。
「アラクニド」に限らず、連載が終了した作品でも新しい作品でも、アプリの特長を利用することでこれまでとは桁違いのユーザーに作品をアピールすることができます。
そのような作品を、今後もどんどん増やしていきたいと思っています。(了)