• LINE株式会社
  • Enterprise IT センター長
  • 片野 秀人

急拡大する組織でも「チャレンジ」できる環境を。LINE社のマネジメントを支える仕組み

〜事業、組織ともに急激な拡大のさなかにあるLINE。多様な人材で、スピーディに結果が求められるチームを支える施策とは?〜

コミュニケーション領域に加えて、電子書籍、決済、求人まで、多種多様なサービスを展開するLINE株式会社。

近年、年間300人ペースで社員が増え続ける同社では、中途入社の社員をいかに早く組織にフィットさせるか、また多様なチームが成果を挙げるためにどうサポートしていくのか、ということに課題を感じていたそうだ。

そこで同社では、2017年5月より、高頻度のアンケートを通じて組織の状態を可視化する「従業員向けパルスサーベイ」と「人間関係の診断サーベイ」を導入。

両者をセットで運用することで、チームの変化を早期に認識し、その原因に対しての仮説や改善策を立てやすくすることを可能にしてきた

また同社では、新しく入ってくる社員により早く組織に馴染んでもらうための「オンボーディング」の取り組みも強化中だという。

今回は、このようなLINE社の取り組みについて、Enterprise IT センター長の片野 秀人さんと人材支援室の佐久間 祐司さんに、詳しくお話を伺った。

社員の9割強が中途入社。多様な人材をどうサポートするかが課題

佐久間 私は2017年2月にLINEに入社し、現在は人材支援チームという、評価や育成、組織づくりといったことを担当しているチームに所属しています。

その中でも私は特に、いわゆるHRテックを推進する担当として、データ提供やツールの面から現場や人事をサポートするのが役割です。

人事全体のミッションとしては、採用を含めて、優秀な人に早く・長く活躍をしてもらうということになります。

今、弊社の東京オフィスには1,800人ほどが所属していますが、その9割以上が中途入社のメンバーです。ここ数年は、年間300人ペースで増えていますね

しかも、メッセンジャーからマンガ、決済まで、多種多様な事業を展開しているので、募集ポジションが300以上あって、その中で300人を採用しているような状態です。

従って、社歴の短い社員もかなりの割合を占めるようになってきていますし、出身業界も様々で、大企業出身もいればベンチャー出身もいます。

また、平均年齢は34、5歳で、経験と自信を持ち、ライフステージもいろいろな変化を迎える局面です。そんな多様な社員によって、LINEは構成されています。

そのため、私自身も入社してすぐに「あ、これは大変だ」と思いました。常識がお互いに違う、ということに気が付くところからスタートなんです

そしてそんな中でも「成果は早く出せ」と言われるわけです

どうやってこんな難しい環境で挑戦をしている人達をサポートしていくか、ということを、日々考えながら取り組んでいます。

社内向けの業務であっても「結果」にスピード感を求められる組織

片野 私は2009年に、当時のライブドアに入社し、経営統合によってLINEに入りました。元々はサービスインフラをメインで見ていましたが、2012年から社内系も見るようになりました。

現在はLINEの国内全部のIT部門の責任者をしながら、グループ全体のIT戦略策定にも関わっています。

弊社のIT部門は、ちょっと特殊かなと思っていて。運用業務より、開発業務の方が常に多いです。

単純にシステムを作るだけではなくて、業務における課題を特定するためのコンサルティングから、それを実装して運用に乗せる、というところまでを全部見ています。

また、次から次へと新しいことにチャレンジする会社なので、「保守」という守りの考えはあまりありません

社内向けの業務であっても、新しいことをやった時に結果が出るまで3ヶ月以上は待ってくれない、という感じですね。

人事系の開発も人事部門と連携しながら、常にスピード感を持って取り組んでいます。

組織の状態を可視化するサーベイツールで、「変化」を見る

片野 LINEはモノづくり中心の会社なので、以前は「クリエイティビティを阻害してはならない」という考え方が特に強くて。

組織マネジメントも、各部門の自主性に任せられている部分が大きかったです。

ですが、組織が大きくなれば、当然サポートは必要ですよね。どんなに優秀な人材でも、組織のマネジメント方法と相性が悪ければ、成果が出なくなってしまうこともあります

「管理」という意味のマネジメントではなくて、「正しい方向性に導く」という意味でのマネジメントの必要性は、絶対にあるんですよね

LINEではもともと、いわゆる従業員向けの満足度調査は実施していました。でも半年に一度だったので、3ヶ月で次々とターゲットが変わるような組織とは、タイムラグが大きいと感じていました。

佐久間 そこで、2017年5月から、社員に月に一度、簡単なアンケートを実施することで組織の状態を可視化できる「パルスサーベイ」を導入しました

ただ、全社で使っているわけではなく、役員が「やりたい」と言った部門だけで導入しています。

最初は500人ほどからスタートしたのですが、少しずつ「ウチもやりたい」というチームが増えてきて。現在は1,400人ほどが対象となっていますね

LINEで導入しているパルスサーベイでは、組織風土や上司との人間関係、自己成長といった項目で、「組織の状態」がスコアリングされます。

導入している部門には「スコアの変化に注目してください」と伝えています

というのも、絶対値が良いに越したことはありませんが、組織によって置かれた環境は異なりますし、LINEでは皆、難しい挑戦に直面しています。

その挑戦をサポートするためには、組織の健康状態の変化を早期に発見し、その原因を特定して、改善につなげていくことが重要だと考えています

例えば、マネージャーがメンバーとの1on1始めるとスコアが上がってくる、といった結果が見られることもあるんですね。マネージャーからすると、アクションが数字として現れる、という部分も面白がってもらえているようです。

「人間関係」の診断サーベイを併用し、マネジメントをサポート

佐久間 ただ、数字が低下したといっても、どうしたらいいかを考えるのはやはり難易度が高いです

そこで弊社では、パルスサーベイと一緒に、人間関係の診断サーベイも必ずセットで導入して、改善のヒントにしてもらうようにしています

個人の強みや弱み、何をストレスとして感じやすいかは人によって異なります。

「人を動かすツボ」のようなものは、長く一緒にいればそれも自然にわかってくるものですが、次々とメンバーが増えて行く中でそれを待ってはいられないので、ツールでサポートすることが有効だと考えました。

パルスサーベイは「健康診断」、人間関係の診断サーベイはその「処方箋」というイメージで捉えてもらえるとわかりやすいかもしれません

健康診断のスコアが悪化したら、処方箋を見て関わり方やコミュニケーションを考えてくださいね、という関係です。

事業領域が急激に拡大しているLINEでは、初めてマネージャーとしてアサインされた、という人もどんどん生まれてきています。経験や時間の不足を、この2つのツールで少しでも補えれば、と考えています。

片野 人間関係の診断は基本、変化することがない性格特性なので、入社のタイミングで一度受けてもらっています。

Enterprise ITチームでは、その結果を公開してメンバーがお互いに見られるようにしていますね

「この人はこういう特性だよ」という感じで共有しておくと、例えば新しく入社した人が「自分と似た人っているのかな」といったことを見ることができます。すると、組織にもフィットしやすくなりますね。

こうしたサーベイツールが導入されたことで、月1でしっかりと組織の課題が可視化されるようになったことは、ひとつのポイントかと思います

「認識しているけど、まだ改善策を打てていない」というような課題が、放置されずにしっかりと議論の対象として上がってくるようになりましたね。

「入ってくる人」に注力し、きめ細かなオンボーディングを提供

片野 また、人事課題の中でも特にフォーカスしているのは、やはり「入ってくる人」なんですね

現場に待ち望まれ、採用チームが頑張って採用してきた人をどれだけ早くフィットさせるかは、投資対効果が非常に大きい課題として捉えていて。

そこで、入社後の適応を促進する「オンボーディング」の取り組みはとても大事にしています。

佐久間 具体的な取り組みとしては例えば、入社前から入社後10日目まで、システムから毎日メールが届きます。

内容はLINEのカルチャーについてであったり、最近提供をはじめたサービスであったり、経費精算等の社内システムでつまずきやすいところであったりと、様々です。

LINEは変化が激しいので、こうした情報を先輩社員がうまく説明できないケースもあるんですよね。なので、メールを使って我々が補足をしています。

片野 また、LINEを通じて社員がわからないことをなんでも聞ける、「LINE CARE」という社内サービスを2017年3月から本格運用しています。

「PCの調子が悪いです」というシステム系の質問から、「このサービスにこういう要望を投げたいです」といったことまで、本当になんでも投げてもらっていますね。

▼「LINE CARE」のやりとりの一例

LINE CAREはITと総務など、バックオフィス部門の混成チームで運営しています。彼らが答えられることは即回答、答えられないものも、必ず担当者につないでクロージングします。

問い合わせの内容の、8〜9割は総務とITが中心です。それがデータでわかっていたので、2017年からITと総務を中心に運営するようになりました。

また、メッセンジャーを通じてだけではなく、オフィス内にLINE CAREのサービスカウンターも設置しています。そこにふらっと行って相談しても、同じサービスが受けられるようにしているんです。

▼LINE CAREのサービスカウンター

新しく入ってきた人って、わからないことがたくさんありますよね。その時のための「駆け込み寺」として、なんでも気軽に聞ける場があるだけですごく安心感があると思っていて。オンボーディングの重要な一部だと捉えています。

運用的には、LINEか、カウンターのどちらか一方でまとめられたほうがもちろんラクです。でも人材が多様なので、人によって問い合わせやすいチャネルは異なります。

そこで、全体的に見た時に大きなデメリットがないのであれば、ユーザー側に選択肢を与える運用にしようと

なんでも聞ける安心感を大事にしているので、ときには「ご飯食べに行きたいんですけど、いい店知りませんか」みたいな質問も来ることがあります。

でもそこで「知らんがな」と言わず、優しく答えてくれるメンバーを配置していますね(笑)。おかげさまで、問い合わせ件数はずっと右肩上がりです。

「チャレンジ」をし続けるためのシステムを

佐久間 今後は、散在しているサーベイのデータや評価の情報などをひとつにまとめて、1人ひとりの社内での活動履歴を簡単に参照できるシステムを構築したいと考えていて。片野のチームにも、協力してもらっています。

組織が拡大する中で、人事が社員の顔やキャラクターを把握してキャリア構築の手伝いをする、というのは現実的でなくなってきています。

しかしそのような中にあっても、社員のキャリアに会社が積極的に関わっていくために、まず既存のデータは手間なくスピーディに拾える、という環境をつくっていくことから着手している段階です。

片野 これらの話の前提にあるのは、「チャレンジする」ことを大事にするLINEのカルチャーです。

流れの速いWebサービスの業界で、一定のポジションであり続けるためには、それだけ多くのチャレンジをして戦っていかなければなりません。変化は多いですが、それを楽しめる人を集めているんですね。

なので、組織づくりに関しても、いかにずっと刺激的でそれを楽しめる環境であり続けられるか、ということも大事にしています

例えば、組織をピラミッド型にしたら、メンバー1人ひとりが考え、刺激を受ける機会が減っていきますよね。マネジメントだけを考えればそれで良いのかもしれないですが、単純にそれをやってしまうとチャレンジができなくなりますし、楽しくなくなってしまうなと。

人事データの一元化もただ管理がしやすいというシステムでなく、社員が楽しめる機会を提供する、ということに繋げられるように工夫を重ねています。

規模の拡大や効率ともバランスを考えながら、今後もチャレンジを支えるような人事制度やシステムを構築していきたいですね。(了)

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