- 株式会社ビズリーチ
- 広報室
- 田澤 玲子
広報が「舞台」を演出する。トレンド・絵作り・驚きで、事業を加速させるPRとは
〜数人の社員と無名のサービスでも、PRは成功させられる。「メディアに興味を持たれる企画の作り方」「広報と事業部が連携して動く組織作り」をご紹介〜
「社会に浸透していない概念を広め、新たな市場を創る」
スタートアップなどが新サービスを展開する際、このミッションの一端を担うのが「広報」だ。
即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」を中心に多角的なサービスを運営する、株式会社ビズリーチ。
その創業当時、まだ国内に浸透していなかった「即戦力人材向けの転職サイト」という概念を、世に広める必要があったという。
そこで、メディアを意識したサービスのローンチイベントを開催。さらに、「ダイレクト・リクルーティング」という言葉を広めるなどして、その概念を徐々に一般化させてきた。
これらの活動を推進する、広報の田澤 玲子さんは、「メディアに興味を持たれやすい『3つのポイント』を押さえた情報発信」「社内から理解を得て、広報と事業部が連携する組織作り」が重要だと話す。
今回は、同社の創業期からの広報活動について、そのポイントとともに詳しくお伺いした。
広報は「舞台」「役者」「脚本」を決めるプロデューサー
私は、PR会社や事業会社で広報を9年経験した後、ビスリーチが創業した2009年に創業メンバーとして参画しました。
「事業の想いを世の中に伝える」という広報の役割を果たすために、私はいつも「舞台のプロデューサー」を務めるつもりで仕事をしています。
どの舞台で、どんな役者の方に、どのような脚本で演じてもらうのか、ということを考えます。
その一例が、2009年4月のサービスローンチ時に開催した「ピンクスリップパーティー」です。
※ピンクスリップ:英語で「解雇状」を意味する言葉
ビズリーチは即戦力人材向けの転職サイトですが、当時はまだ「即戦力人材に特化した転職サイト」が少なく、イメージされづらい時代でした。
それをどのようにPRしようかと考えていた時、リーマンショックが起きまして。
アメリカのウォールストリートで、リストラされた金融マンとヘッドハンターがお酒を片手にバーで談笑する様子を、アメリカのテレビ局のネット動画で見かけました。
その時、アメリカで流行っているピンクスリップパーティーと呼ばれるこのイベントを、「日本初上陸」と打ち出して開催すれば、メディアの方に興味をもってもらえるのではないかと思ったんです。
ビズリーチの世界観をわかりやすく表現するのに、このパーティーはぴったりだと考えました。
そして、これをどの舞台で開催すれば一番よく伝わるかを考えた結果、選んだのが、当時リーマンブラザーズのオフィスが入っていた、六本木ヒルズの1階にあるバーでした。
▼六本木ヒルズで開催されたピンクスリップパーティー
「今まで多くの送別会が開かれたこの六本木ヒルズのバーで、新たな出会いが始まります」
そんなセリフをアナウンサーの方が言いそうだね(笑)と、代表の南と話しながら企画をしました。
すると、まだ社員も2人だけで無名のサービスでしたが、結果的に約70人のメディアの方々を呼ぶことができたんです。
「戦略的な広報活動をすれば、大きな成果を生むことができる」ということを、創業メンバー全員が体感した経験になりました。
広報企画は「トレンド」「絵作り」「驚き」を押さえることが大切
それから数年間は1人で広報を担当していましたが、現在は7人のチームで広報活動を行っています。
広報のミッションは、「経営と事業の想いを世の中に伝えて、成長に貢献すること」です。
この実現のためには、メディアの方々に興味を持っていただいて、弊社が発信したい情報を取りあげていただく必要があります。
私は十数年、広報として様々なPR活動をしてきた経験から、「かなりの確率でメディアの方に興味を持っていただける」3つのポイントを見つけました。
それは「トレンド」「絵作り」「驚き」です。
まず「トレンド」は、社会から注目されているテーマかどうか、という時事性です。
そして「絵作り」は、テレビであれば十数秒の動画で、記事であれば写真で「面白いな」と思われるシーンを提供できるか、という「舞台作り」を意味します。
特にインターネットのサービスですと、どうしてもリアルな絵を作るのが難しくて。
「面白い話ですけど、それではシーンが立ちません」とテレビのディレクターの方に言われたこともあり、工夫しています。
最後の「驚き」は何かを人にお話しする時に、最初の20〜30秒で「へー!面白いですね!」という反応をしていただけるかどうかです。
また、広報を始めたばかりの方には、「広報の担当として、メディアの方とどれだけの繋がりを持っているかという人脈が重要なのですか?」と聞かれることも多いです。
ですが私は、ただ知り合いであるだけでは不十分だと考えています。
やはり視聴者や読者に面白いと思ってもらえそうな情報を提供できるかどうか? を考え、実践することが、最も重要だと思っています。
「自治体 × 採用」のテーマに「副業」というトレンドをプラス
例えば、2017年11月に「広島県の福山市で、兼業・副業限定で戦略顧問を募集」というプレスリリースを発表しました。
これは、福山市の方から、「人口減少の問題を解決できる、優秀な民間企業の人材を採用したい」というご相談をいただいたのがきっかけで。
ただ、首都圏のビジネスパーソンが転居を伴った転職をするというのはなかなか難しいですよね。
そんな中、政府が「働き方改革」で企業に「副業」を推奨し始めたのを見て、「兼業・副業限定」で募集してみるのはどうかと提案させていただきました。
というのも、副業・兼業という「トレンド」に、地方自治体が全国で初めて取り組むという「驚き」があれば、多くの方々に興味を持っていただけるのではないかと考えました。
さらに「絵作り」の観点からは、福山市長に東京という舞台に来ていただいて、ビズリーチの会員様に向けた説明会を実施していただきました。
▼実際の説明会の様子
その結果、ニュース番組をはじめとしたメディアで報道され、390名を超える応募が集まり、もともと1名の採用予定に対して、5名の採用が決まったんです。
また、他自治体からも10件以上のお問い合わせをいただくことができました。
新たな言葉を創り、社員1人ひとりがエバンジェリストに
また、まだ世にない概念を広めるために理解しやすい言葉を創り、そのカテゴリの第一人者として自社を認知させることも、広報の役割です。
当時、海外では「企業が主体的に動いて、人材を獲得する」という採用手法が広まっており、「ダイレクト・ソーシング」や「タレント・アクイジション」と呼ばれていました。
ですが、これらは日本人には直感的に伝わりづらい言葉です。
そのため、一般的に知られている「リクルーティング」という言葉を代わりに使い、「ダイレクト・リクルーティング」という名で広めていこうと考えました。
そこで、弊社コンサルタントの名刺にも「ダイレクト・リクルーティング コンサルタント」という肩書きをつけ、社員1人ひとりがエバンジェリストになって伝えていきました。
当初、代表の南からは「この言葉、本当に広まるの?」と言われましたが、広まるかどうかではなく、「広めます」と返しました。(笑)
そこから、クライアント企業様の成功事例を1つずつ作り、事例がない時には海外や自社採用の事例をセミナーで紹介したりして、メディアの方々にも伝えるということを続けました。
そして、事例が増えてきたところで、実践されている企業様を表彰する「ダイレクト・リクルーティング・アワード」を開催し、メディアにも取り上げていただくことができました。
こうした地道な活動の結果、2015年に日本経済新聞の一面でご紹介いただけて、その時に「ようやく一般用語になってきたな」という実感を得ましたね。
弊社だけでなく、多くの企業様を巻きこんだ「絵」を作ったことで、「採用の在り方が変わっていく」ということを、少しずつ世に広めていくことができたと感じています。
事業部にも「良き理解者」を。PR視点で動くキーパーソンが在籍
さらに、広報活動を行う上では、社内からの理解をどれだけ得られるかも大切です。
そのため弊社では、広報への理解を促すための様々な社内講座を実施しています。
まず新卒・中途ともに必須で、入社後に1時間かけて戦略的広報の講座を受けてもらっています。
またプロダクトマネージャー向けには、「自社サービスの追加機能を作ると仮定して、そのプレスリリースを書いてみる」という実践的な講座を開催したこともありました。
この講座では、単に「こういう新機能を開発します」ではなく、必ずトレンドも踏まえて書いてもらうことで、時流を踏まえて何かを打ち出す重要性を理解していただきました。
そして、90秒で記者にプレゼンをするというロープレも実施して、情報を簡潔に伝えることの難しさを体感してもらいました。
また、広報活動をスムーズに進めるための重要な役割を担うのが、各事業部の事業部長や「PR視点で動くキーパーソン」の存在です。
具体的な活動としては、月に数回の打ち合わせをしながら、事業側の中長期的な戦略を踏まえた広報プランを一緒に考えています。
さらに、キーパーソンが企業様に訪問する際には、場合によっては、通常のサービス提案に加え、メディア向けの広報企画も提案しています。
このように、広報について全社に理解してもらうことや、広報と事業部が連携して動くことを大切にしていますね。
次は「プロ・リクルーター」という、新たな文化創りを目指す
ビズリーチでは、これまでさまざまなサービスを立ち上げ、組織規模は1,200名超にまで成長してきました。
社会の課題を本質的に解決する事業を立ち上げる過程で、私たちの思いを正しく、より広く認知していただくことを目指して、広報活動をしてきました。
今後は、経営戦略に紐付いた採用計画を自ら立案し、主体的な採用活動を行う、採用のプロフェッショナル「プロ・リクルーター」という文化を、日本に広めていくことを全社で掲げています。
日本の採用市場に新しい概念を普及させていき、「インターネットの力で、世の中の選択肢と可能性を広げていく」というミッションを実現させていきたいですね。(了)