• クルーズ株式会社
  • 取締役 最高人事責任者CHO
  • 対馬 慶祐

子会社に受け継がれる「秘伝のタレ」とは?攻守のノウハウを伝授するグループ経営戦略

〜約1年で20社以上の子会社を設立!リスク管理の「状態異常回復会議」の活用と、徹底した権限委譲で子会社を育成する、クルーズの経営戦略とは〜

企業成長のためには、「攻め」の事業戦略と、それを支える「守り」の体制が肝心である。

ファストファッション通販サイト「SHOPLIST」などのサービスを手掛けるクルーズ株式会社(以下、クルーズ)。

同社では2017年中頃から、100人100億円経営を目指す「永久進化構想」の試運転を開始。約1年で、20社以上の子会社を立ち上げてきたという。

そして、「インターネット時代を動かす凄い100人を創る」というミッションを掲げ、2018年5月に全ての事業を子会社化。

そこで子会社に提供される仕組みのひとつに、会社運営の「守り」を固める、リスク管理の「状態異常回復会議」がある。

この会議で活用されるチェックリストは、クルーズが長年経営する中で、人事労務、法務、財務経理、情報セキュリティなどのリスク管理ノウハウを貯めてきた、いわば「秘伝のタレ」だ。

グループ各社は半期に一度の合宿で、チェック項目に従って総点検を行い、会社経営に関わるリスクの発生を未然に防いでいる。

さらに子会社の成長のため、月1回、本社の小渕社長との「金脈会議」や、グループ会社間でのノウハウ共有の場を設けているそうだ。

今回は、同社で最高人事責任者を務める対馬 慶祐さんに、グループ経営移行の背景や、攻守のノウハウを子会社に伝授する仕組み作りについて、詳しくお伺いした。

ミッション実現のため、1社1代表1事業のグループ経営へと移行

私は2004年にクルーズに入社しました。当時はまだ40〜50名の会社だったので、営業から企画、Webディレクションまで何でもやっていましたね。

2007年に上場したタイミングで、人事を強化するために部署異動し、2009年からはCHO(最高人事責任者)として人事や管理部門を見ています。

クルーズには「インターネット時代を動かす凄い100人を創る」というミッションがあります。インターネットの発展を社会還元できる次世代の経営者や事業を創出し、もっと世の中を良くしていきたいと考えていて。

そのミッションを達成するための一手段として、2018年5月に事業部制をやめ、グループ経営に移行しました。

そして、時価総額1兆円の企業を目指していくために、当社の代表取締役社長である小渕が、「100人の経営者が100億円の事業を生み出す」という「永久進化構想」を作ったんですね。

この構想は、次世代を担う経営者を社内外から輩出することを目的とし、「大型インセンティブの付与」「経営ノウハウの伝授」「子会社への権限委譲」の3本柱から成っています。

会社が継続的に成長していくためには、次世代の事業と経営者の誕生と成長、そして永遠のベンチャースピードが伴っていることが必要不可欠だという思想を基にしています。

そのためには、単独ではなく「1社・1代表・1事業」で分社化することで、新しいポストを生み出し、組織のスピード感が失われないような仕組みが必要だと考えました。

2017年中頃から試運転を開始しましたが、この1年間で子会社の数は3社から20社以上に増加しています。

守りが固いからこそ攻められる。代々継がれる「秘伝のタレ」とは

クルーズは、これまで何度も事業を変えながら、赤字を一度も出さずに成長を遂げてきた会社です。

その背景には、攻めの事業だけでなく、会社運営におけるディフェンス力が極めて高い、という強みがあると考えています。

事業がどんなに好調であっても、情報漏洩やコンプライアンス違反が起きてしまうと、サービスを継続できなくなってしまいますよね。

そこで創業から20年近くかけて蓄積した、人事労務、法務、財務経理、情報セキュリティ面でのリスクヘッジを、「状態異常回復会議」と呼ばれる経営合宿で管理しています。

人間が定期的に健康診断にいくのと同じように、会社も定期的に診断し、悪いところはすぐに治療しましょうという目的で、クルーズの上場直後から取り組んできました。

ここでは半期に一度、チェックリストを活用してリスクを総点検しているのですが、現在ではこれを、本社だけでなくすべての子会社でも同様に行っています。

例えば、人事労務であれば「労使協定が適法に結ばれているか」「健康診断を社員全員が受診しているか」といった、企業として必ず遵守すべきことが項目に入っています。

他にも、財務経理の観点でキャッシュフローや契約書の内容といった細かい所まで確認し、少しでもできていない部分があれば、締切を切って改善するまで追いかける、といったことをしていますね。

やはり、会社を始めたばかりの頃って管理部門機能が整備されてなくて、こうしたディフェンス面がわからず苦労することが多いじゃないですか。

なので、僕らが上場企業として運営してきた中での失敗経験を、いわば「秘伝のタレ」みたいな形で、グループ子会社にも提供しています。

経営者が、厳しくリスクをチェックする「癖」をつけることが大切

実際の合宿では、各社の代表と本社の各部門トップが参加し、出来ていない部分をどのように改善していくか議論します。

当日を迎える前に、各社はカテゴリーごとに40〜50ページからなるスライドと、対応するスプレッドシートに沿って、項目のチェックと必要な帳票の提出を行います。

ただ、それは全てをチェックするのではなく、各社の規模によって適用範囲を変えるようにしています。

というのも、社員数や事業規模の全く異なる会社が同じレベルのリスクヘッジをしてしまうと、逆にスピード感が出なくなってしまうことがあるんですね。

そこで、子会社の売上や社員数を基準に、A・B・Cの3つにグループ分けをして運用しています。

例えば、CROOZ SHOPLISTなどの規模の大きな会社については本社と同じものを適用していますが、小さな会社については最低限守るべき項目を適用していますね。

▼チェック項目と統制ランクを管理する、実際のスプレッドシート

また、運用していく上では、チェックリストの最新化と、属人化させない仕組みが重要です。そこで人事労務や法務などの各部門では、その更新を複数人で担当しています。

内容のアップデートは法改正のタイミングなどで都度行っていますが、「リスク共有」に関する社内チャットのグループを作っており、リアルタイムでも確認していますね。

例えば、他社で起こったリスク情報を拾い、各社への注意喚起や該当しないかの確認報告などをチャットで行っています。

ここで牽制された項目は漏れなくチェックリストに更新されていくので、当初よりも項目はかなり増えました。ですが、確認する側としては雪だるま式に工数が増えていくとは考えていなくて。

なぜなら、最初たくさんあった課題もどんどん改善されて整備されていくので、チェック作業は段々早くなっていくんですよ。

実際、本社も最初はダメダメだったんです。それを半期ごとの合宿で指摘を受けると、日常的にリスクを意識するようになって、段々とツッコミ所が無くなっていくんですよね。

最初はすごく辛いんだけれど、いかに厳しくチェックする癖をつけるか、ということが、経営者のレベルを上げるひとつのポイントかなと思っています。

これを早期に身につけることで、会社の成長基盤ができてくると考えています。

徹底した権限委譲が、「経営人材」を育てる

また、経営人材を育てる上で重要なのが、徹底した「権限委譲」です。

グループ子会社であっても、親会社からの支援で成り立つのではなく、各代表には「起業」として捉えてもらいたいと考えていて。そのため、オフィス探しから採用、事業内容や制度設計なども各社に任せています。

またオフィスは「本社と別の場所にする」ことをルールにしています。というのも、物理的な距離が離れた方が「自分たちでやっていくんだぞ」という気持ちになりますし、本社側からの不要な関与も防ぐことができます。

また、採用についても、権限をすべて委譲しています。

起業において、創業メンバーってすごく大事だと思うんですよね。なので最初は代表に任せて、もし人が欲しい時にニーズの合致する人材がいる場合には、グループ内での異動も検討しています。

さらに、各社の事業戦略や中長期の目標も、敢えてそれぞれ異なるものを作ってもらっています。

それぞれの会社が、それぞれの目標を達成することによって、「インターネット時代を動かす凄い100人」になってくれるのが、結果的に一番良いと考えています。

こうした権限を与えられることで、以前は事業部長だった人が子会社の社長となり、経営者としてすごく頼もしくなった実感もあって。着実に、ミッション達成に向けて前進している感覚がありますね。

各社の育成と事業判断を実施する、ふたつの会議体とは

一方で、ただ任せるだけでは経営は上手くいきません。各社の育成と事業判断を目的として、月次と週次の2種類の会議体を運営しています。

まず、月1回の頻度で開かれるのが「金脈会議」と呼ばれるものです。これは本社社長の小渕と各子会社の代表が、事業に対するディスカッションを1対1で行います。

こちらでは、各事業で握っている主要KPIやマイルストーンの進捗確認をしたり、それをどう達成していくか、といった改善策を議論します。

それとは別に、グループ各社の代表と本社の取締役が集まる月次の取締役会の場で、業績の進捗を報告しています。そこで各代表は事業の状況を、具体的な数字とともに「晴れ・曇り・雨」のお天気マークを付けて表現するんですね。

例えば、事業計画の目標に対して余裕で達成できる場合は晴れ、ギリギリであれば曇り、到達していなければ雨といった形です。

ここで雨マークがついた場合のみ、それを精査する週次会議で、撤退するか継続投資するかの判断を行っています。

この週次会議では、本社の社長とCFO、管掌役員が集まり、実績だけでなく改善の兆しや事業性といった総合的な観点から、投資期間を延長するかどうかを判断します。

意見が割れる場合にはディスカッションをしますが、「チャレンジする数が多ければ、その分撤退の数も多くなる」という考え方をしているので、無理やり引き延ばすようなことはしません。

なので、事業撤退になってもネガティブな捉え方はしていなくて。そこで頑張った人達は本当にすごく成長しているケースが多いので、次にまた違うチームで活躍してもらっていますね。

任せるところは任せ、攻守のノウハウを伝授する仕組みを作る

個人的には、今年の5月に分社化をしてから、走りながら仕組みを見直してきたような感覚を持っています。

会社経営や事業成長に必要なノウハウをグループ間で共有する一方で、分社化当初から日々の会社経営に関しては「本社は子会社にノータッチ」という基本スタンスでやってきました。

というのも、自分たちが起業した時と同じようなスピード感や決裁権限を持たせたい、という意図があったんですね。

ですが、実際に進めていく上では、やはり「ここはグループで共通化した方が良いな」ということも当然いくつか出てきました。

例えば経理では各社別々の会計システムを使うよりも、連結の会計システムを導入して全グループでオペレーションを統一したほうが無駄なコストが減ります。

また、各社で退職希望者が出てきた際には、グループ他社で採用のニーズがないか確認するフローを、取締役会で取り入れています。実際に、ある事業会社を辞めてグループ内で転職し、新しいチームで活躍している人も出てきていますね。

今は、各子会社がきちんと自走してスピード感が出るような権限委譲を進めつつ、クルーズのグループ全体のメリットを活かせるような体制作りを行っています。

それは状態異常回復会議による「守り」の部分だけでなく、事業領域ごとのノウハウを子会社同士で共有する「攻め」の部分も同様です。

この約1年で20社以上が誕生している中で、100社の目標はそう遠くはないと考えていて。

まだ立ち上がったばかりの子会社をより成長させていくため、今後も任せるところは任せつつ、攻守のノウハウを提供できるような仕組みを構築していきたいと思います。(了)

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