- natural tech株式会社
- CEO 代表取締役
- 竹内 太郎
インターン生8割の組織で売上1500%を実現!社員レベルの目標・評価制度を構築した理由
〜インターン生がブランド経営やPL管理、マーケティング運用を担い、役員がレビューする。創業2年半で目覚ましい成長を遂げるnatural techの事業・組織戦略の全容〜
スタートアップとして限られたリソースの中で急成長を遂げるには、どのような事業・組織戦略が有効なのだろうか。
2018年9月に創業し、フェムテックの分野でコスメ・サプリメントD2C事業を展開する、natural tech株式会社。
同社では、主にデジタルマーケティングの実務において、経験者よりも高い柔軟性を持つインターン生がフィットすると考え、インターン生8割の組織体制を構築。
会社にインパクトを与えるほどの高い目標設定や四半期ごとのフィードバック、大手企業で3〜4年かけて学ぶようなノウハウを伝授するといった「社員レベルの育成制度」を設け、学生の成長を支援しているという。その結果、前年同期比で売上が1,500%に達するなど、事業が急成長しているそうだ。
今回はCEOの竹内 太郎さんと、実際にインターン生としてブランドマーケティングを担う須藤 真鈴さんに、インターン生を軸にした独自の事業・組織運営について、詳しくお伺いした。
やる気や柔軟性を重視し、インターン生を軸にした事業運営を開始
竹内 僕は、新卒で入社したディー・エヌ・エーでデジタルマーケティングを経験した後、P&Gの「SK-II」や「Pampers」のブランドマーケティング担当を経て、2018年9月にnatural techを創業しました。
起業してしばらくはエンジニアの役員や業務委託・副業メンバーと運営を行っていましたが、2019年秋に初めてインターン生を採用しました。それをきっかけに、現在は役員4名+インターン生13名という「インターン生を軸にした事業・組織運営」をしています。
この運営スタイルを選択したのには、2つの理由がありました。
まず、D2C事業におけるデジタルマーケティングは、ひたすら手を動かしてPDCAを回す必要があるので、思考力や経験値以上にやる気や柔軟性などが重要になります。その点で、未経験の方やインターン生に適性があるのではないかと考えました。
また、資金調達をしておらず正社員を雇う余力がなかったというのも背景にあり、試しにインターン生を採用してみるところから始まった形です。
採用チャネルとしては、Twitterを活用しました。日頃の発信からマーケティングに興味を持つ学生さんがたくさん僕のアカウントをフォローしてくれていたので、募集告知と応募フォームを公開して。1回の募集につき、数十名が応募してくれましたね。
インターン生には「ブランドマネージャー職」として自社製品のブランド経営やPL管理、マーケティングの運用までを担ってもらうことを想定していました。そこで面接では、「オーナーシップがあり責任をもってやり遂げられそうか」や「高い論理的思考力を持ち、合理的に行動できそうか」といったポイントを見ていました。
というのも、ブランドマネジメントは業務範囲が多岐に渡るため、特定の業務にこだわらずに「就職後のキャリアアップのために、インターンを通じて幅広くスキルを身につけたい」という考えを持つ学生さんがマッチします。そういう点で、すでに内定先が決まっている方は明確に目標を持っていて、採用に繋がりやすい傾向がありましたね。
役員が習得したノウハウを余さず伝授。仕事人として育成する
竹内 事業運営においては、P&Gで経験した「1ブランドに対して新人マーケター2名が実務を担い、ブランドマネージャーがレビューする」という組織構造を参考にしています。具体的には、ブランドごとに商品企画やデジタルマーケティングのチームに分かれてインターン生が主業務を担い、役員がレビューをする体制です。
インターン生は、まずFacebook広告の運用といったひとつのチャネルで成果を出すことを求められます。それができるようになると責任範囲が広がっていき、最終的にはブランドマネージャーとして、周囲の協力を仰ぎながら一緒に売上を作り上げていくという感じですね。
インターン生を育成するための制度としては、OJTと2つの研修を用意しています。
まず、ジョインしてすぐに行うのが、サイバーエージェント出身の役員が行うデジタルマーケティング研修です。たとえばFacebook広告の運用や、検索アルゴリズムの仕組みといったノウハウをすべて伝授しています。
また、実務でスキルを磨いてもらいながら、P&G流のブランドマーケティングやマスマーケティング研修などを僕から行っています。ここでは、ターゲット設定の仕方や効果的なクリエイティブの作り方といったノウハウをひと通り学んでもらう形です。
▼インターン生の教育・研修制度(同社提供)
本来は3〜4年かけて学ぶようなコンテンツなので、インターンでここまで学べるのはとても贅沢な経験になるんじゃないかなと思いますね(笑)。
社員レベルの目標・評価制度で、インターン生の自律と成長を促す
竹内 加えて、インターン生が早期に成果を創出するために重要なのが、目標管理手法であるOKR(※)の設定です。僕らはこれを「Three Rocks」と呼んでいて、会社にインパクトを起こせるレベルの大きな目標を設定するように伝えています。たとえば、「担当ブランドの売上を3ヶ月後に1.5倍に伸ばす」といった感じですね。
※OKRについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
このThree Rocksは四半期サイクルで設定し、どのポイントで評価するかを期初に握り合っています。
また、インターン生の評価制度としては、5段階の相対評価に加えて、優れた結果を残したメンバーには特別表彰を設けています。
基本的には定量目標に対して評価するのですが、発売まで結果が見えない新商品開発のメンバーなどは、「消費者インタビューの際に自分たちが考えたコンセプトが最も選ばれた」とか「周囲を巻き込んでリーダーシップを発揮した」といった定性部分を見て評価するイメージです。
さらに、昨年12月からグレード制も取り入れて、相対評価のレーティングに応じてグレードが上がるようにしました。これがインターン生の昇給や業務の責任領域に反映される形です。
正直、インターン生にこういった社員レベルの仕組みを設けるのは、鬼だと思うんです(笑)。
でも社会に出ると、プロセスを含めて加点評価される企業が多い一方で、外資のように最後の成果物でしか評価されない企業もありますよね。
なので、この仕組みを通じて「いかに砂利のような細々とした作業を効率化して、Three Rocksの達成に集中するか」という思考と働き方の癖を身につけて、彼らが就職した時にも早期に成果を出せるようになってもらえたらと考えています。
徹底したユーザーヒアリングで、競合優位性を見出し製品化する
須藤 私は、大学4年生になった昨年春にインターン生としてジョインし、現在は主に新商品の企画や開発、マーケティングを担っています。
当然ながら、学生の私たちがこのような環境で働くのは初めての経験で、中にはプレッシャーに負けてしまう人もいたと思います。でも、竹内さんとの週1回の1on1で目標達成に向けたサポートをしていただけたことで、今やらなければいけないタスクを明確に決められるようになったと感じますね。
竹内 このようなインターン生を軸にした組織で売上を伸ばせている理由は、目標や評価といった社内の仕組みだけでなく、製品開発やマーケティング手法にもあると思っています。
D2Cのサプリメント業界はすでに市場が飽和していて、製品開発では大きなマーケットトレンドを見て既製品を模倣する手法が多く取られている傾向にあります。
それに対して、僕たちはまだ市場にない製品を作るために、P&Gで学んだN=1から入る手法を取っています。具体的には、ユーザー1人につき1時間以上かけてインタビューを行い、その製品カテゴリーにおいて「ユーザーが最低限ほしいと感じる要素」と「ニーズはあるがまだ満たされてない要素」を明確にして、競合優位性が高いコンセプトを発見した時のみ製品化をする形です。
たとえば、妊活中の方に向けた葉酸サプリメントでは「葉酸」が必須ですが、インタビューでは「厚手の靴下を履くことや、入浴で身体を温めることを大事にしている」といった声が多かったんですね。そこで医師と相談しながら「温活」という便益を得られる栄養素を組み合わせて、様々なコンセプトボードを見せながら徹底的にニーズを調査したことで、カテゴリNo.1シェアの人気商品となりました。
このように定性調査が約90%を占める開発手法が、ユーザーの購入率とリピート率の向上に大きく効いていると感じています。
須藤 実際にユーザーインタビューを主導するのはインターン生なのですが、表層だけでなく深層にある悩みを打ち明けていただくにはすごく時間が必要で、最初の頃はとても苦戦しました。
そこで、竹内さんにアドバイスをもらったり、深層までヒアリングできた時の経験からどんどん学んだりしていくことで、着実にスキルが身についてきたと思います。
私が動かなければ、会社が動かない。学生同士で学び合い業務を遂行
竹内 そしてマーケティングにおいては、認知・検討・購入という3つのフェーズの中で、コストが抑えられる出口に近いところから強化していきました。
というのも、初期は投資の余力がなかったため、すでに購入を検討しているユーザーの方に向けたSEO記事やInstagramでの発信などで、購入フェーズでの認知を上げることで徐々に売上を伸ばしていきました。その後、2020年5月にデジタルマーケティングチームの体制が整ったこともあり、今は認知強化のための活動に移行しているフェーズです。
須藤 インターン生は普段ブランドごとのチームに分かれていますが、隔週の定例ミーティングで各ブランドの施策の良かったことや、うまく行かなかったことを学び合っています。
業務で分からないことがあれば最終的に竹内さんに教えていただくこともありますが、インターン生のみんなが経験を通じて大抵のことは知っているので、そこで完結することが多いですね。
私がnatural techでのインターンを通じて、マーケティングなどの知識以上に身についたのは「オーナーシップを持って仕事をする」ということです。
というのも、サポート体制が整っているとは言え、自分が動かないと会社が動かないので(笑)。本当にそれぐらい責任感を持ってやらせてもらっているなと感じます。
インターン生を軸にした事業運営で、前年比1,500%の成長を実現
竹内 このような取り組みを続けてきた結果、2019年と2020年の前年同期比で売上が1,500%も伸び、事業が急拡大しています。
今はマタニティ領域の新製品を続々と発表していますし、新しく始めたコスメ領域も強化したいと考えています。ゆくゆくは「売上100億のブランド」を作りたいですね。
これまでインターン生を軸にした事業・組織運営をしてきて感じるのは、双方にとって良いパートナーシップが築けているなということです。
というのも、事業の戦略策定などの役割は経験者が担った方が質は上がるものの、手足を動かす部分まですべて担うと、どうしても実務の方に時間を割く必要が出てきます。
そこを僕たちは、インターン生にノウハウを余すことなく提供して彼らの学びや経験を支援しながら、役員たちは思考を使う業務に集中することができている。そういった役割分担によって、相乗効果が生まれているように感じますね。
今後もバックオフィスのような業務は常勤のメンバーが担当しながら、事業の前線に立って泥臭く頑張るところはインターン生のみんなと一緒にやっていきたいですし、「インターンを通じた人材輩出企業」になれたらと思っています。
須藤 私は、まもなく就職するためインターン期間が終了してしまうのですが、大学では経験できないような多くのことを学べましたし、就職先と異なるP&Gやサイバーエージェントのような企業の手法をインターンを通じて知ることができたというのも、とても貴重な経験だったなと思います。
社会人になってからも今までの業務の経験を生かして頑張りながら、機会があればまたいつかnatural techで働けたら良いなと思っています。(了)