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キャリア開発のカギは「偶発性」? 若手にこそ求められる「自己認知」スキルとは

〜「Planned Happenstance理論」をキャリア開発に取り入れ、新卒研修を設計。1day研修と事後フォローでセルフマネジメント力を高める、若手社員の育成法〜

成長著しいベンチャー企業において、若手社員をどう育成するか? は重要な課題である。

インターネット広告事業を主軸に、創業7年で東証マザーズに上場した株式会社インタースペース。

約400名の社員を有し、毎年20名前後の新卒を採用している同社では、変化の激しい現代における若手のキャリア形成をサポートするため、新卒向けのキャリア開発研修を2018年に導入。

個人のキャリアの大半は予期しない偶然の出来事によって形成される、という「Planned Happenstance(計画的偶発性)理論」に基づき、メタ認知(※)のワークを中心とした集合研修を実施しているという。

※自己の活動(知覚、情動、記憶、思考など)を客観的に認知・評価し、制御すること。

さらに、研修と現場で実態の乖離が生じないよう、同キャリア開発理論に基づいたマネージャー向け研修も行っているそうだ。

今回は、同社で人事を担当し、キャリア開発研修の制度設計・運用をしている長谷川 武蔵さんに、若手のキャリア開発における思想から具体的な研修内容に至るまで、詳しくお伺いした。

「偶発性」を軸に、新卒向けのキャリア開発研修を設計

長谷川 私は、2017年2月に中途入社しました。現在はキャリア開発研修などの人事制度の設計、採用を中心に、人事全般の業務を担当しています。

以前は人材紹介会社に勤めていましたが、それとは別に、社会人になってからずっとキャリア開発系のNPO法人に所属し、活動を続けています。

若手社会人や学生向けのセミナーを実施する中で、今の若い世代が学生時代に受けていた教育と実社会にはかなり乖離があるな、ということを肌で感じていて。

親や先生が伝えてきた教育ではキャリアを逆算するように学ぶ一方で、変化の激しい実社会においては、偶発的に起きたことに対応する力が必要なのではないかと考えていました。

そこで昨年の夏に、20代の若手社員を対象としてキャリアに関するアンケート調査を実施したんです。

その結果、「入社してからモチベーションが変化した」と回答した人は9割を超え、さらに「キャリアビジョンが変化した」という人も7割ほどいました。

一方で「5年以上先のキャリアビジョンが明確に見えている」と回答した人は、8%しかいなかったんですね。

つまり、「これをやりたい」と思って入社した人であっても、実際の業務や一緒に働く人などの周辺環境によってキャリア観は確実に変化していくんだな、ということがわかって。

この結果から、キャリアにおける「偶発性」の裏付けを得て、今の若手に合う形でのキャリア開発研修を設計することにしました。

キャリア開発の核として「Planned Happenstance理論」を導入

長谷川 その第1回目は、2015~2017年卒を対象として、社会人生活の節目にあたる2018年3月に実施しました。

この研修の目的は2つで、自走できる人材の育成と、実社会の変化に対応できる価値観の醸成です。そこで取り入れたのが、Planned Happenstance(計画的偶発性)」というキャリア理論です。

この理論において、キャリアは偶然によって左右されることが多く、これらの偶然をポジティブな方向に考えることでキャリアアップを実現することができる、と考えられています。

特に、入社からの数年間は偶発的な出来事が多いと思うんですね。その事象に対して、自らが望んだことではなかったとしても、「自分ごととして前向きに取り組む」というスキルが重要だと思っていて。

そのためのスキルとして、大切なのが「レジリエンス」です。レジリエンスはポジティブ心理学の領域で研究されており、「逆境から素早く立ち直り、成長する能力」として、アメリカを中心とする様々な組織で活用されています。

つまり、偶然の出来事に対してモチベーションを落とすのではなく、自分の感情や状態を認知し、自分ごととして捉え、そこからどう立ち直れるか、というスキルが若手のフェーズでは最も重要だと考えていて。

そこで本研修プログラムは、人材育成コンサルのザ・アカデミージャパン社が提供する、レジリエンストレーニングを元に設計しました。

いわゆる「メタ認知(内省)」を中心としたワークを通じて、セルフマネジメント力を高めるような内容で構成されています。

具体的には、モチベーションが落ちそうな段階でどう歯止めをかけるか、落ちている状態からどう回復させていくか、逆に高い時はどういう状態か、の3つのフェーズに紐づくワークを実施しました。

モチベーショングラフを作り、「下がっている状態」を同期で共有

富永 私は現在、新卒2年目になります。今年の3月、17名の同期とともに、このキャリア開発研修を受けました。

はじめに、今までの人生・キャリアを振り返る「モチベーショングラフ」を作成したんですね。ターニングポイントとなるような出来事に対して、モチベーションがどのように変化したかを整理しました。

▼モチベーショングラフ(サンプル図)

それから、「自分のモチベーションが下がっている状態」を認識するというワークがあって。自分の心の弱い様相を「犬」になぞらえて互いに説明し合う、というものでした。

例えば、やりたくないから行動が遅くなる「怠け犬」がいる、みたいな感じで、自分のモチベーションを下げている要素を可視化していきました。

▼心の中の「思い込み犬」の一例(研修資料より抜粋)

長谷川 人って、何かマイナスの外的要因にぶつかった時に、それが「怒り」なのか「悲しみ」なのか、人によって生じる感情が異なるそうなんです。

自分はどの感情が生じやすいタイプなのか、どんな要素によって落ち込んでしまうのかを自分で理解することが、セルフマネジメント力を高めるための第一歩だと思っていて。

その上で、落ちている状態からどのように回復させるか? のスキルが大切だと考えています。

落ちた状態からどう回復する? 2種類のワークでスキルを習得

長谷川 その落ちた状態から上げていく部分に対しては、2種類のワークを実施しました。

ひとつは、自分の強みを自覚する「カードソート方式」のワークです。ここでは、知恵・好奇心・創造性といった50つの「資質的な強み」が書かれているカードを机の上に並べ、その中から自分の強みだと思うものを3〜4つピックアップしてもらいます。

▼「資質的な強み」の50要素の一覧

ある調査によると、資質的な強みの活用は、幸福度の増加や抑うつの抑制、レジリエンスの向上をもたらすと言われており、それをワークに応用しました。

またカードの裏面には、それぞれ強みの詳細が書かれているので、それを参考にしながら15分〜20分かけてカードを選んでいきます。

▼「楽観性(Optimism)」カードの裏面

富永 このワークでは、同じグループの人からもカードを選んでもらうんです。すると、自他ともに認識一致している強みがある一方で、自分では気が付けていないものもあったりして。

同期同士、業務は見えていなくても結構理解してくれているんだなと感じましたし、こういう部分も自信持っていいんだな、とわかって嬉しかったですね。

長谷川 また、自分を取り巻く人間関係を内省する「サポーター分析」と呼ばれるワークも行いました。他者との信頼関係の構築は、レジリエンスを生む重要な要素のひとつであることが科学的にも分かっているんですね。

そのため、助力・情報・助言・親密の4つの要素で、周囲の人たちが自分にとってどのような役割をもっているのか? を分析してもらいました。

▼サポーター分析の関係図(画像は編集部にて作成)

この2つのワークを通じて、自分の強みや周囲のサポート環境をきちんと認識することで、落ち込んだ状態から自分で上がっていく一助になると考えています。

メンバー、マネージャー、人事の関係図を「三角形」にしない

一方で、研修での学びを日常に落とし込むには、マネージャー側の正しい理解が必要です。よくありがちな課題が、研修空間と現場との実態の乖離なんですね。

そこで、キャリア概念の理解や評価者としての能力向上を目的として、マネージャー向けの研修も行っています。

この研修では、新卒研修と同様のキャリア理論を伝えたり、SL理論(※)、コーチング、評価のケーススタディなどを実施しています。

※Situational Leadership理論…メンバーの状態や業務に合わせてマネジメントのやり方を変えるという理論

特にメンバーのキャリアにおいては、ゴールから逆算する川下り型だけではなく、偶発的な出来事に対応していくような山登り型もあるという考え方を、共通認識としています。

また、こうした研修の他、メンバーはマネージャーと1〜2ヶ月に1回、人事とは半期に1回のペースで1on1を行っています。

ここで気をつけているのが、人事とマネージャー、メンバーの関係図を「三角形」にしないことです。というのも、メンバーの悩みを人事経由でマネージャーに伝えたりすると、信頼関係を築くことがどうしても難しいんですよね。

▼人事・マネージャー・メンバーの関係図(図は編集部にて作成)

そうではなく、「一本線」の関係にすることで、マネージャーとメンバーが直接コミュニケーションできるように気をつけています。人事はあくまで裏方に回り、背中を押してあげるようなイメージですね。

研修や面談は「タイミング」がカギ。頻度の高いフォローが必要

長谷川 この1年、キャリア開発研修や1on1などを行ってきた中で、まだまだ課題はたくさんあると感じています。特に、フォローの頻度が足りていなかったな、というのがひとつの反省ですね。

というのも、若手は1週間、1ヶ月で考え方が変化するみたいなことも多いので、1年の間でも変化が大きいと感じていて。

それに対して、壁打ち相手となり軌道修正をしてあげることが重要かなと思っています。人事という第三者的な立場であるからこそ、少し離れた親戚のお兄さんみたいな感覚で相談に乗れたらなと。

富永 実際に、直属の上司に対しては、目標に対する振り返りや業務について話すことが多いのですが、人事面談はより幅広く、キャリアなど何でも相談できる場になっています。

長谷川 ただ研修でも面談でも、結局のところタイミングがすごく重要なんですよね。たとえ上司に同じことを言われたとしても、その時の状態によって刺さり具合が違うと思うんですよ。

なので、人事としてはそれを刺し続けるしかないのかなと。いつ、どこで、そのタイミングがくるかはわからないので、より細かい接点をどう作っていくかが今後の課題ですね。

キャリアという言葉は、もともと職業人生を意味していたと思うのですが、人生100年時代と言われる現代では、もはや人生そのものを意味する言葉に変化したなと思っていて。

その人生をどう生きていくか、その土台となる部分を会社の中で作っていけたらと思うんです。これからの若い世代の変化に合わせて、適切な手法やフォローの仕組みを作っていきたいですね。(了)

「チームのパフォーマンスを最大化したい」と思うあなたへ

当媒体SELECKでは、これまで600社以上の課題解決の事例を発信してきました。

その取材を通して、自律的な成長を促す「伴走型のマネジメント」が、組織づくりにおいて重要であるという傾向を発見しました。

そこで開発したのが、1on1の運用と改善で、メンバーの内省を促進し、パフォーマンスを最大化するツール「Wistant(ウィスタント)」です。

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