• ナイル株式会社
  • 社長室 採用人事マネージャー
  • 渡邉 慎平

「採用がうまくいかない」理由を徹底的に可視化。施策のパッチワーク化を防ぐ手法とは

〜採用のゴールは「自社への入社」だけじゃない。「コンセプトダイアグラム」をもとに採用課題を可視化し、認知度の向上と採用のミスマッチをなくした手法〜

近年、採用にマーケティング思考を取り入れる企業が増えている。しかし、採用活動が「企業目線」に陥ってはいないだろうか?

デジタルマーケティングを主軸に、様々な事業領域でサービスを展開する、ナイル株式会社。

同社でも、マーケティング手法のひとつである「コンセプトダイアグラム」をもとに、採用候補者の視点から「心理的な変化」のプロセスを作成。それぞれの態度変容を起こすきっかけを洗い出すことで、採用における優先課題と施策の可視化を行ったという。

そして、課題であった「正しい認知」を得るため、オウンドメディアのまとめ記事を選考前に共有。また、内定承諾率を高めるため、想定年収カーブなどを記載したオファー面談資料を作成した。

結果として、オファー数が減る一方で内定承諾率が上昇する、という「ミスマッチの少ない採用」に成功したという。

今回は、同社の社長室で採用・広報責任者を務める渡邉 慎平さんに、コンセプトダイアグラムの活用法から採用施策に至るまで、詳しくお伺いした。

「過去の企業イメージ」からの脱却。課題はブランディングの統一感

私は、2013年にナイルに新卒入社しました。入社して5年ほどは、Webコンサルタントとして、大手企業からITベンチャーまで300社以上を支援させていただきました。

その中で、様々な業界や業種を見ているうちに、「優れたプロダクトを持つ企業は、組織力が高いんだな」と思ったんですよね。

そして徐々に、人間の心理や組織づくりへの関心が高まっていき、自ら希望を出して2018年の5月に社長室に異動しました。現在は、採用・広報責任者を務めています。

私が人事になった当時、最も大きな課題として感じたのは「外から見たナイルのイメージと、内部の実状に乖離がある」ということでした。

創業以来、デジタルマーケティングを主軸に成長してきたので、どうしても「ナイル=SEOに強い会社」というイメージが強くて。ですが実際には、全売上に占めるSEOの比率は年々下がってきていて、今は半分もないんです。

スマートフォンメディア事業やマイカー賃貸サービスなど、多岐にわたる事業展開をしていることの認知が低かったですし、「ナイルってこういう会社だよ」という企業ブランディングにおける統一感が出しづらい、という課題がありました。

また、事業ごとにビジネスモデルや採用職種が異なるため、採用では「母集団形成」や「歩留まり」という概念が、あまり通用しなくて。というのも、採用ポジションが40〜50職種あるのに対し、採用人数は各職種1〜2名というような感じなんです。

これが例えば「営業職を10名採用する」であれば、マーケティングのファネルのように母集団から絞り込む形でも良いのですが、そもそもペルソナが異なる様々な職種を募集しているため、最適化が難しい状況でした。

このような課題を解決するため、採用プロセス全体を再設計しようと、「コンセプトダイアグラム」を元に優先課題を可視化し、施策を考えることにしました。

候補者の「心理変容」から、採用の優先課題と打ち手を考える

これは、「自社への好感度」を縦軸に、「転職意向」を横軸に置き、候補者の視点から「心理変容」のプロセスを洗い出したものです。

弊社のデジタルマーケティング事業で顧問を務める清水 誠氏が提唱している「コンセプトダイアグラム」というカスタマーアナリティクスで用いる思考法を、採用に応用する形で作成しました。

▼採用に応用した「コンセプトダイアグラム」

よくあるカスタマージャーニーマップとの大きな違いは、「誰の目線か」ということです。

前者が「企業目線」で自社サービスの購入をゴールに置くのに対し、後者は「カスタマー目線」による心理変容なので、例えば「商品に愛着がわいた」というゴール設定でもいいんですね。

これって、まさに採用でも同じだなと思っていて。候補者の視点に立つと、他の企業に就職したり現職に留まったり、入社に至らないゴールも存在するじゃないですか。それでも、「ナイルっていい会社だな」と思ってもらうことが大切だと考えていて。

そこで、望ましい心理変容のステップを作った上で、それぞれの態度変容を起こすにはどのような情報や動機づけが必要なのか、を洗い出していきました。

例えば、「そろそろ働く環境を変えようかな」から「ナイルって初めて聞いたけど良さそう」に気持ちが変化する場合は、Web上の記事やSNSの発信、プロダクト経由での認知がきっかけとして考えられます。

これを全プロセスで洗い出した上で、現状の課題と施策を議論していきました。

▼課題のひとつにあがった「認知不足」

この作業を通じて、現場と役員陣との視点の違いに気が付けたり、施策の優先順位を決める「共通の判断材料」となり、スムーズに議論を進めることができましたね。

「正しい認知」と「惹きつけ」のため、選考前にまとめ記事を共有

コンセプトダイアグラムを元に課題を整理したところ、最優先だと考えられたのは「認知」の部分でした。そしてそれをさらに分解すると、「ナイルを知る」と「ナイルを正しく理解する」の2つに分けられました。

どちらの課題も、施策としては重なる部分なので、オウンドメディアの「ナイルのかだん」を強化することにしました。

具体的には、「ありのままでフレッシュな生のナイル」をコンセプトに、事業、人、カルチャーなどを伝えるコンテンツを増やしていきました。

そして、候補者に対して必要な情報をきちんと届けるため、読んでほしい記事をnoteにまとめ、選考前に共有するステップを導入しました。

弊社の場合、先程お伝えしたように事業領域やモデルが異なるので、どのチャネルからきた人であっても、基本的には「よくわからないけど話を聞きに来た」または「SEOの会社なんでしょ」という認識がまだ大半の状態です。

そのため、ファーストステップとして「正しく理解してもらい、温度感を上げる」ことが必要なんですよね。

これを1次面接で頑張ることもできるのですが、「なんで毎回同じことを一生懸命話してるんだろう…」と思うこともあって(笑)。記事を事前共有することで、その惹きつけのステップを短縮することができました。

他にも、面接官のインタビュー記事も併せて共有することで、選考の心理的ハードルを下げるようにしていますね。

オファー時に「給与カーブ」を提示し、候補者の不安を取り除く

また、私が人事に異動する以前から課題にあがっていたのが、「内定承諾率」と「入社後の定着率」でした。

内定承諾への態度変容をおこす動機づけとして、一番のポイントは「不安」を取り除くことだと思っていて。結局、「成長率150%」や「導入社数1,000社」といった実績って、企業の魅力ではあっても、入社の決め手にはならないと考えています。

それよりも、入社後のキャリアは描けるのか、年収は上がるのか、本当にこの組織でやっていけるのかという観点の方が、本人やその家族にとってはより重要です。

そこで取り入れたのが、オファー面談時の資料です。この内容には、入社後のミッションや、キャリアイメージ、想定年収カーブなどを記載しています。

以前は、入社後に何をしていただくかのコンセンサスが現場と握れておらず、入社後に苦労する人もいたんですね。

また、年収のオファー額で負けてしまうこともあったので、入社時はこの水準だけれど、パフォーマンスを出してもらえればここまで上がる、ということを図で可視化するようにしました。

▼オファー面談資料(一部)

こうすることで、収入面の不安を取り除くだけでなく、この期間でこれだけのパフォーマンスを出してほしい、という期待値の調整もしやすくなりましたね。

また受け入れる側も、オファー面談資料の作成を通じて、オンボーディングの体制づくりを考え直すきっかけになりました。

「前回入社された方がうまくワークしなかった部分はどこか」「それをどうすれば解決できそうか」といった問いを現場に投げかけることで、研修内容の改善にもつながったかなと思います。

マッチングを高めるため、ワークサンプルと採用委員会を導入

さらに、入社後定着率に対して、マッチングが弱いという課題がありました。そこで、Googleの「ワーク・ルールズ!」という本を参考にして、ワークサンプルの導入と採用委員会の設置をしました。

以前は、書類選考と面接だけだったのですが、一度「優秀そう」という印象がつくと、見極めよりもアトラクトに懸命になってしまい、結果的に入社後のギャップを生んでしまっていました。

そこで、選考プロセスの中にワークサンプルを導入し、スキルフィットも見るフローに変えました。全職種、実際の業務をベースとして、60〜90分間のケース課題を作成しています。

例えば、採用広報であれば、社員をインタビューして、記事を執筆していただくといった形ですね。基本的にはリモートでも可能ですが、見極めたいスキルによっては、オフィスに来ていただく場合もあります。

一方で、スキルフィットはもちろん重要なのですが、それ以上にマインドやカルチャーフィットを大事にしています。

そこで、ワークサンプルは1次面接の後に実施し、2度の面接を経て、最終的な判断の場には採用委員会を設けています。これは、経営陣と各事業部の責任者、募集ポジションの決裁者、人事で構成されています。

全員が集まる場で「この人を採用したいです」と経営陣の判断を仰ぐことで、入社後のミッションや条件面も含めて、会社として本当にその人を採るべきかどうかの意思決定を行っています。

結果的に、面接の通過率やオファー数は以前よりかなり落ちましたが、内定承諾率と入社後の定着率はかなり向上しました。採用の効率を高め、自社にマッチングした人を採用できるようになりましたね。

これらの取り組みは、私が人事に来る以前から試行錯誤してきたものではありますが、今回コンセプトダイアグラムを用いることで、各施策がパッチワーク的にならないように、全体設計と各施策の意味付けができたかなと思います。

社内のリレーションを強化し、「事業家集団」に向けた採用を行う

採用に関しては一定の成果が出てきた一方で、今後はより社内のリレーション作りに注力したいと考えていて。

結局、人事が「Wantedlyの応援してください」とか「記事シェアに協力してください」と言っても、なかなか動いてもらえなかったりするじゃないですか。

まずは、どのような人を採用すべきか、どういうことに協力できそうかを話し合い、現場と一緒に進めていくことが大切だと思っています。

私自身でいうと、実は自分なりのこだわりが強くて、人に頼ることがすごく苦手なんですよ(笑)。ですが、自分が思っている以上に、現場にもっと頼ってほしいとか、採用や広報に関心を持ってくれているメンバーもいるんだなと、社内メンバーからのフィードバックで気がついたんです。

今は、少しずつリファラル採用も増えてきているので、その火種を他の職種にも広げていきたいと思っています。

ナイルは、Webコンサルティングから、アプリメディア、自動車といった新しい事業を展開し、昨年には「事業家集団」という組織コンセプトを掲げて、さらなる挑戦を後押ししていくフェーズです。

今後は、既存事業のグロースだけでなく、新規事業の立ち上げも加速していくため、社内の人も育てていきたいし、一緒に挑戦していく仲間を増やしていきたいですね。(了)

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