- 株式会社ディー・エヌ・エー
- ヒューマンリソース本部 人材開発部 新卒グループ グループリーダー
- 中川 泰斗
現場の「熱源」を見つけ、燃料を投下する。過去の失敗を乗り越えたDeNAの新卒採用
〜現場のメンバーを巻き込み、人事の「悩める時間」をなくす。1人ひとりが主役になれる環境づくりを目指す、DeNAの新卒採用・育成法〜
人事の仕事は、採用から人事制度の設計・運用など多岐にわたる。その中で、「現場の協力が得られない」「もっと出来ることがあるのでは?」といった悩みを抱えている人も多いのではないだろうか。
創業20周年を迎える株式会社ディー・エヌ・エーでは、新卒採用において同様の課題感を抱えていたという。
そこで現場を巻き込むため、2018年の春頃より、採用のミッション・ビジョンの浸透と現場主導の体制づくりを始めた。
具体的には、ミッション・ビジョンを視覚的にわかりやすく伝えるため、デザイナーを巻き込んでクリエイティブを制作。
そして、現場のメンバーが主導する「エンジニア・コミッティー」と「Bros(ブロス)」という2つの組織体を立ち上げ、新卒採用・育成における課題を現場を巻き込みながら解決しているという。
その結果、人事の「悩める時間」がなくなり、社員が活躍する環境づくりにより注力できるようになってきたそうだ。
同社の新卒グループでマネージャーを務める中川 泰斗さんは、その成功のポイントは「熱源を見つけ出し、燃料を投下することだった」と振り返る。
今回は中川さんに、過去の反省を活かした新卒採用・育成の実態と、現場を巻き込むポイントについて、詳しくお伺いした。
「コミットメンター制」の新卒採用が、うまくいかなかった理由
私は2012年に新卒で入社し、グループ会社やプロ野球球団への出向を経て、2014年から本社で人事をしています。
ゲーム人材の新卒採用の立ち上げを経験した後、全社の新卒採用・育成に取り組むことになり、現在は10名ほどが所属する新卒グループでマネージャーを務めています。
DeNAでは現在、事業領域と職種の掛け合わせで、計6つのポジションで新卒採用を行っています。
その採用において、今では「現場の社員を巻き込む」体制が整ってきましたが、過去にはいろんな試行錯誤と失敗がありましたね。
例えば2015年卒~2018年卒の採用では、1人の社員が1人の学生を採用し、1年間で一人前に育てあげるという「コミットメンター制」を取っていました。
ですが実際には、メンターの置かれている状況が変わって、新卒の配属が難しくなるケースもあって。結局、採用した本人が育成までコミットできない、といった矛盾が生まれてきてしまったんです。
それから職能別の採用が始まり、当時担当していたゲームプランナーとAIエンジニアの採用では、複数人のチームで1人の採用・育成にコミットするという「チーム制」を取り入れてみました。
これが見事にうまくいって、期待を超えるコミットを見せてくれたんですよ。
例えば、AIエンジニア採用チームが大学の研究室に足を運んでペルソナとなる学生を探してきてくれたり、育成の時も、トラブルがあればチームのメンバーが解決に動いてくれたり。熱量がすごく上がったなと感じましたね。
このチーム制を他の職種にも展開できたら、会社として採用力と育成力が圧倒的に伸びるなと思ったことがきっかけとなり、現場を巻き込む体制づくりに注力してきました。
採用のミッション・ビジョン浸透のため、クリエイティブを制作
そんな中、現場を巻き込むためにまず取り組んだのは、新卒採用のミッション・ビジョンの浸透です。
というのも、もともと「挑戦者を惹きつけ、未来を創る」というミッションはあったのですが、数百人いる面接官にアンケートを取ってみたところ、ほとんどの方が知らなかったんですね(笑)。
そこで2018年6月に、ミッション・ビジョンについて話し合うための合宿を行いました。最終的に、ミッションは据え置きとなり、ビジョンだけ新しいものを定めました。
そして、それらを現場に浸透させるため、デザイナーを巻き込んでクリエイティブ制作を行うことにしたんです。
それにあたっては、まず人事側が伝えたいキーワードを挙げて、それをデザイナーがイメージに落としていきました。約3ヶ月かけて修正とブラッシュアップを重ね、ミッション・ビジョン・バリューの順に出来上がっていきました。
▼ミッション「挑戦者を惹きつけ、未来を創る」
会社のミッションとして「Delight(デライト)を提供しよう」というメッセージがあります。DeNAの門をくぐると、様々な事業でデライトを創出していくことになります。
ですが、採用の場面では、DeNAに入社しない学生さんの方が圧倒的に多いですよね。その挑戦者の方々にも、違う場所でデライトを提供していただくことが、私たちのミッションだと考えています。
そこでビジュアルの中ではオレンジ色の部分で「会社の中」を、水色の部分で「会社の外」を表現し、協業のような意味合いも含めています。
また、ビジョンは「主役になれる環境づくり」と定義しました。
▼ビジョン「主役になれる環境づくり」
ビジュアル上では水色のシャツを着た人事が、現場の1人ひとりにスポットライトを当てている様子を描くことで、皆が活躍できるステージを作っていきたいという思いを込めています。
ミッション・ビジョンが視覚的にわかりやすく表現されたことで、現場のメンバーにも新卒採用・育成で大切にしている価値観がより伝わりやすくなったと思います。
現場主導で立ち上げ!「エンジニア・コミッティー」による採用活動
また、思想の浸透だけでなく、現場を巻き込む体制づくりにも取り組んでいます。
そのひとつが「エンジニア・コミッティー」です。これは、エンジニアの新卒採用・育成についての意思決定をする委員会で、採用から育成までの一連の活動をスコープに入れています。
もともと、ここも人事がすべての責任を負う形だったので、事業部の「わがごと感」が少し薄れてしまう、という課題感があったんですね。
それに対し、CTOの小林が「自分たちで採用して、自分たちで育てるのがあるべき姿だよね」と旗振り役を買って出て、コミッティーが立ち上がりました。
コアメンバーは、責任者の小林やシニアエンジニア、採用担当者で構成されています。
採用ペルソナの作成から、サマーインターンの面接基準の見直し、エントリーシート(ES)の確認に至るまで、上流から下流までの業務に取り組んでいますね。
また必要に応じて、特定の課題を議論する分科会をつくり、関係者を巻き込みながら進めています。
例えば、エンジニアの面接官に対して「こういう課題を今感じていて、興味ある人は来てください」という声がけをして有志で議論を重ねています。
現場を理解したコミッティー主導だからこそ、面接官の協力度が上がっているのはもちろんですが、そもそも自分たち人事だけで解決しようとしていたのが、単純に良くなかったんだなと。
人事の視点も忘れてはいけないのですが、やっぱり自分たちが一緒に働く人は、自分たちの基準で見た方が正しいと思うし、その方が育成へのコミットも上がるんじゃないかなと思っています。
若手メンバーで結成した「Bros(ブロス)」が、現場の課題を解決
さらに、ビジネス職においては、現場の若手メンバーで立ち上げた「Bros(ブロス)」というチームがあります。
このチームは、新卒2年目から5年目くらいの若手を中心に結成されています。もともと面接官や現場で新人育成に携わる中で、それぞれが解決したい課題を持っていたんですよね。
その熱量がすごく高かったので、1人で戦うよりもチームを作ってみんなで変えていこうよ、という話から組織化した形です。
▼Brosメンバーによる会議の様子
定例ミーティングは設けていませんが、Slackで随時コミュニケーションを取りながら進めています。
普段は学生のメンターについたり、採用や育成に携わっているのですが、そうした動きの中で「あれってどうなの?」みたいな課題があればBrosのチャンネルに投げて議論する、みたいな感じですね。
またSlack上で解決しない課題については、議題を取り上げて集まったりもしています。
例えば、採用ペルソナの再整理だったり、選考の質をあげる取り組みなどを話し合っていて、今まさに動き出しているところですね。
現場を巻き込むポイントは「熱源」を探し、燃料を投下すること
昨年からの動きを振り返ってみると、おそらく一番のポイントは「熱源」を探すことだったな、と思っています。
以前はどちらかというと「能力が高いからこの人に任せよう」、そのために「この人の熱を高めよう」としていた節があったのですが、これってあんまり上手くいかないんですよね。
結局、能力よりも、採用や育成に対する熱量が高い人の方を巻き込んでいく方が良くて。
人事がすべきなのは、そうした熱源を見つけて、そこに燃料を投下することなんです。その熱が放出されれば、自然と周りにも伝播していくと思っています。
一方で、熱源をどう見つけ出すか、という難しさもあると思います。
弊社の場合は、半年に1回、採用・育成の協力者に対するアンケート調査を実施しています。また、日頃から面接官とコミュニケーションをとる中で、熱源が見つかることも多いです。
例えば、面接官の心理的安全性が担保されていないと、面接で「落とす」視点になりがちだという話があがってきたりして。そうした思いが熱源になったりするので、解決に向けて一緒に動いていくような形ですね。
また、新卒グループのメンバーは事業部の経験者ばかりなので、現場の課題も肌感としてわかりますし、人のつながりもあるので、そこは強みかなと思います。
ただ、現場のことを完全に理解できているわけではないので、「このやり方でいいんだっけ」「本当にこの人は活躍するんだろうか」と悩みながら動いてたりするんですよね。
それを今回、エンジニア・コミッティーやBrosなどの活動によって、「この人が『育つ』って言っているんだから大丈夫だ」みたいな感じで自信をもって進められるようになりました。
もちろん実質的な業務工数も減ったのですが、それ以上に「悩んでいる時間」がなくなって、アクセルを踏めるようになったのが一番大きいと思っています。
そういう体制を作れてきた今、ビジョンに掲げた主役になれる環境づくりに向けて、挑戦を続けていきたいですね。(了)