- ベルフェイス株式会社
- マーケティンググループ マネージャー
- 近内 健晃
2.5億円を「交通広告」に投資!「ヒラメ筋CM」がベルフェイスにもたらした効果とは?
〜話題の「ヒラメ筋」CMの裏側を大公開!交通広告のチャネル選定から、ユニットエコノミクスによる効果計測、CMクリエイティブを最大限に生かす方法まで〜
電車やタクシーなどの交通手段で放送されるCM、いわゆる「交通広告」を導入する企業が近年増えている。
しかし、デジタル広告と異なり、その効果計測は難易度が高い。
営業に特化したWeb会議システム「bellFace(ベルフェイス)」を開発・提供するベルフェイス株式会社では、2018年8月に調達した5億円のおよそ半分を、交通広告に投資することに決定。
2018年10月より、山手線での電車広告と、タクシー広告の2つのチャネルでCM放送を開始した。
その効果測定にあたっては、短期的な「新規獲得」だけでなく、中長期的な「カスタマーサクセス」への効果を加味した、ユニットエコノミクスの視点も取り入れて検証を行った。
その結果、定量的な継続判断が可能となり、2019年10月時点で、第4弾までの交通CMを制作・放送している。
さらに、そのクリエイティブ素材をLPにも二次利用したところ、問い合わせのCVRが約1%から2%台まで上昇したそうだ。
今回は、同社マーケティンググループのマネージャーを務める近内 健晃さんに、交通広告に投資した背景から、効果検証の仕方、クリエイティブ素材の活用までを詳しくお伺いした。
調達資金の約半分、2.5億円を「交通広告」に投資した理由とは
私はもともと、広告代理店や事業会社で、10年ほどマーケティングのキャリアを積んできました。マーケティングの戦略立案から、デジタル・オフライン両施策の企画・実行までを幅広く経験し、2018年9月にベルフェイスに入社しました。
私が入社する以前は、営業メンバーがマーケティング活動の一部を兼務していたので、本格的には取り組めていなかったんですね。そこで、入社翌月の2018年10月にマーケティングチームを立ち上げ、急ピッチで体制を構築していきました。
マーケティングチームでは、MQL(※)の最大化をミッションに掲げ、その施策別に担当者がわかれています。
※MQL:Marketing Qualified Leadの略。マーケティング活動によって創出されたリード数。
例えば、新規リード獲得を目的としたデジタル施策の運用担当や、セミナーや展示会などのオフライン施策の担当、またナーチャリングを目的としたMA担当やクリエイティブ制作のデザイナーなど、メンバー5人がそれぞれの役割を担っています。
私はマネージャーとして、MQL最大化のための戦略を立案したり、ボトルネックになりそうな部分があれば担当者と一緒になって解決したりして、全体最適が図れるように動いていますね。
そして、マーケティングチームの立ち上げとほぼ同時期に、新たな施策として「交通広告」を開始しました。
この理由は大きく2つあって、ひとつは弊社が大切にしている「カスタマーサクセス」の実現です。
というのも、bellFaceはオンライン商談に利用されるサービスなのですが、日本ではまだまだ「訪問して当たり前」という営業文化が根強く残っていると思っていて。
なので、インサイドセールスという訪問しない営業の形を、マーケット全体に啓発することが、カスタマーサクセスにもつながると考えていました。
もうひとつは、啓発によって新規獲得にも効果が出るのではないか、という期待です。
というのも、当時、月200〜300件の問い合わせがあった一方で、さらに伸ばしていくためには、従来のマーケティング施策だけではどうしてもリーチできない層があると感じていたんですね。
そこで、2018年8月に調達した5億円のおよそ半分を、CMに投資するという意思決定をしました。
既存ユーザーの所在地をマッピングし、山手線とタクシーでCMを放映
まず、どのチャネルに露出するかを決めるため、啓発したい重要なターゲット、つまり営業部門の決裁権をもつビジネスマンが、普段よく接しているメディアってなんだろうと考えたんです。
営業であるからには、何らかの手段を使った移動が発生するだろうと考え、電車やタクシーなどの交通広告が良いのではないかという結論に至りました。
さらに、電車広告といっても多くの路線があるので、どこに出稿するかを考える必要がありました。
そこで、当時のユーザー企業の所在地を地図上にマッピングしてみたところ、山手線沿線が一番多いことがわかったんです。その周辺であれば、親和性の高い企業が多いだろうと考え、電車広告は山手線からトライすることにしました。
そして、タレントの照英さんを起用したCMを約2ヶ月かけて制作し、都内のタクシー広告と山手線の電車広告で、2018年10月から第1弾「新人加入篇」のCM放映を始めました。
開始から1〜2ヶ月ほどは、問い合わせ対応のメンバーが「なにを見てベルフェイスを知ったか」というヒアリングを必ず行ったり、ユーザー企業にも「CMをどこで見ましたか」という一斉調査を行ったりして、認知経路を確認しました。
すると、認知獲得のための費用対効果の面において、弊社の場合はタクシー広告が電車広告を少し上回る、という結果が得られたんです。
そこで、11月には山手線でのCM放送をストップしてタクシー広告のみ継続し、テレビCMや東京メトロなどの他のチャネルを組み合わせて、別の検証を行っていきました。
CMの効果をどう検証する? ユニットエコノミクスで継続判断
そうしてCMの効果を検証していく中で、途中からユニットエコノミクス(※)の考え方を取り入れました。
※ユニットエコノミクス:1顧客あたりの経済性のこと。「LTV(顧客の生涯価値)÷CAC(顧客獲得コスト)」によって計算される。
というのも、認知獲得という短期的な効果だけでなく、CMを見てベルフェイスに関心をもってくれた人が後日問い合わせたり、契約を更新してくれたり、といった中長期的な効果があると考えていて。
交通広告をみて資料請求されたお客様が、商談でステップアップしていったかをSalesforceの記録に残すことで、成約に対する費用対効果も追えるようにしました。
現在は、四半期ごとにユニットエコノミクスを分析して、CMのパフォーマンスを測るひとつの指標としています。
また、CMにかかる費用についてはマーケティングの各予算に按分して、全体として黒字なのか赤字なのかを可視化するようにしました。
これも同じ理由で、結局CMを見た人が後から検索してくれたり、デジタル広告をみかけた時にクリックしてくれたりなど、CMと他のマーケティング施策には相乗効果があると考えています。
さらに、弊社役員が知り合いの役員から「タクシーでbellFaceのCM見たよ」と言われたり、問い合わせの理由として「タクシーでCMを見た経営者から、問い合わせてみるように言われた」と回答される方が結構いらっしゃったりして。
届けたいターゲットに、CMがしっかり刺さっているなと感じましたね。
こうした定量・定性の観点から、タクシー広告の価値を測ることができたので、継続するという判断をしました。
クリエイティブ制作は「軸」をブラさず、制作会社と協力する
CMの制作に関しては、最初に第1弾と第2弾の2本を、まとめて制作しました。
コストを抑える意図もありましたが、そもそも経営陣がCMをやろうと決めた時に、中長期的に営業文化を変えていくことや、会社の認知度を上げていくことを考えると、「1本出して終わり」は意味がないからやめようと話していたんです。
幸い、第1弾の「新入社員篇」を出してみて効果があることを確認できたので、第3弾・第4弾のCMを作ることにしました。
その追加制作の際に、実は少しだけクリエイティブの改善をしていて。
というのも、第1弾と第2弾のCMでは照英さんのヒラメ筋の印象が強かったので、ベルフェイスとCMが紐付いていなかったり、ベルフェイスがどんな会社かわからなかったりする人が、結構多かったんです(笑)。
そこで、ベルフェイスの社名を覚えてもらえるようにするため、CMの最後に表示していた社名の位置を、「It’s old 営業」という決め台詞の直後に変えました。
また、クリエイティブ制作で大切なのは、視聴者の記憶に残るようなインパクトを出しつつ、いかに自分たちのスタンスを明確にできるかだと思っていて。
というのも、毎日人が触れる広告は膨大な数にのぼるので、その中で記憶にしっかり残してもらうのは至難の業だと思うんです。今日見たCMを思い返してみても、意外と覚えていないですよね。
なので、bellFaceの場合は「営業あるあるの課題」を提起して、決め台詞とともに印象に残るようなクリエイティブにしています。
かつ、弊社も訪問営業そのものは大切だと考えていますが、メッセージが複雑になってしまうと印象に残りづらいため、あえてインサイドセールスの必要性だけに絞っています。
また、意外とやりがちなのが、制作会社に丸投げしてしまうことで。当たり前のことではありますが、こちらの意図や軸をブラさずにしっかり伝えることが大事ですし、これができるかどうかでアウトプットの質が全然変わってくると思っています。
営業の課題提起の仕方については、こちらもプロとして意見を伝えながら、制作会社としっかりタッグを組んで考えていますね。
CMのクリエイティブ素材を、WebサイトとYouTube広告に二次利用
また制作したCMは、交通広告だけでなく、他の場面でも十分に活かしきることが大切です。
例えば、サービスLPのトップページに、CMのクリエイティブ素材を二次利用したところ、問い合わせのCVRが約1%だったところから、2%台まであがりました。
▼CM動画を埋め込んだ、サービスLP(当時のもの)
また最近では、YouTubeの動画視聴者に弊社がアプローチしたい方が多くいるのではないかと考え、インストリーム広告にCMのクリエイティブを活用してみました。
そのパフォーマンスを分析してみたところ、広告を見た人が、時間を置いてベルフェイスを指名検索し、LP経由の資料請求が増える、という間接的な効果があることがわかってきて。
今はFacebook広告への活用もチャレンジしていますが、CM動画やクリエイティブ素材の二次利用については、まだまだできることがあると感じています。
オンライン上だけでなく、セールスのメンバーが商談時のアイスブレイクにも使っていたり、いろんな場面でCMを活用していますね。
カスタマーサクセスの実現に向けて、チャレンジを続けていく
交通広告を開始して約1年が経ちましたが、採用にも副次的な効果が出てきています。もちろんCMの影響だけではありませんが、求人の応募数は、この1年で約1.4倍に増えました。
新卒採用に関しては、親世代がベルフェイスを認知してくれたことで、内定承諾がスムーズになったケースも出ているように感じています。
一方で、CMの効果検証については、やはりデジタル広告と比べると精緻とは言えないので、その精度をどう上げていくか、というのは課題として残っていますね。
ただ、CMはあくまでも、カスタマーサクセスや新規獲得を実現するための手段のひとつだと考えています。
我々が目指しているのは、ベルフェイスのお客様が営業で成果をあげたり結果を出すことであり、そのために「訪問して当たり前」という固定観念や文化を壊していきたいと。
それを考えた時に、プロモーション投資をする必要があるのかどうか。これに関しては、予算の決め方というよりも、経営の意思決定によるところが大きいですね。
意思決定をした上で、定量・定性できちんと効果を検証し、継続する価値があるかどうかを判断することが大切だと思っています。
今後も、交通CMに限らずいろんな手段を試して効果検証しながら、新しいチャレンジを続けていきたいと思います。(了)