• 株式会社ワンキャリア
  • PR Director
  • 寺口 浩大

ブランドは「表現」で伝える。信頼残高を糧にした、ソーシャルムーブメントの起こし方

〜社会を変革するための、ブランドコミュニケーションの在り方とは? 「身近な人」を起点にする、ソーシャルムーブメントの起こし方とは〜

社会を変革していくため、企業としてどのようなアクションを実行すればよいだろうか。

2019年に入り、「#ES公開中」に代表される数々のキャンペーンの実行や、パンテーンの「#令和の就活ヘアをもっと自由に」キャンペーンへの協力を通じて、就活市場におけるソーシャルムーブメントを起こしているのが、株式会社ワンキャリアだ。

▼同社が協力した「#令和の就活ヘアをもっと自由に」キャンペーン

同社は2014年1月に、就活生のクチコミサイト「ONE CAREER」をリリース。以来、プロダクトを磨き続け、今では月間100万人以上が訪れるWebメディアに成長させた。

その機が熟した頃合いを見計らって、プロダクトの「Why」を伝えるために、ブランドフィロソフィーに基づくアクションを次々と実行。

その実行においては、説明だけではなく「表現」で伝える、近くの人を大事にして「信頼残高」を糧とする、といったいくつかのポイントがあったそうだ。

今回は、同社でPR Directorを務める寺口 浩大さんに、ソーシャルムーブメントの起こし方について詳しくお伺いした。

プロダクトにこだわり、早5年。「Why」を伝える機が熟した

僕は、新卒で金融会社に入り、不良債権の回収や、投融資に先立つ市場調査などを4年にわたって経験しました。その後、転職してマーケティングや人材育成の領域に携わったあと、2017年1月にワンキャリアに入社しました。

当時はまだ13人ほどの組織だったので、セールスから始まり、採用、PR…と、色々やっていくうちに次の仕事が見つかってきたような形で。現在は、PRディレクターを務めています。

ワンキャリアは、創業当初からずっとプロダクトづくりにこだわってきました。扱う領域はHRですが、人材会社というよりもメーカーっぽいところがあるんです。いいモノを作り、そのモノが売れる仕組みに投資をする。

そうした考えで「ONE CAREER」を2014年1月にローンチし、今では月間100万人以上の学生が訪れるWebメディアに成長しています。

一方で、対外的なブランド発信については、全く注力してこなかったんですね。2018年頃から、弊社の最高戦略責任者を務める北野の本がベストセラーになったり、僕自身も露出が増えたりして「ワンキャリアの人」は認知され始めました。

ですが、会社として「なぜやっているのか」については、社会に対して伝えていなかったんです。まだまだ、これからではあるものの、一旦それを伝える機がついに整ったかなと。

一番伝えづらいのって、やはり「Why」の部分なんですよ。ブランドのフィロソフィーを説明しても、限界があります。

たとえば弊社が「採用マーケットの透明化をめざしています」と伝えても、聞いた人は「ああ、そうなんですね」くらいな感じじゃないですか。言うだけなら誰でもできる。

そうではなく、自分たちのブランドが社会と手をつなぎ、ともにムーブメントを起こすためには、具体的なブランドアクションに落として世の中と対話していくことが必要だと考えていて。

そこで、今年3月の「#ES公開中」や6月の「#インターンのリアル」を実行し、10月にはパンテーンの「#令和の就活ヘアをもっと自由に」というキャンペーンにも協力会社として参加しました。

さらに11月には、Forbesとの連動企画で「Great Company for Students」というアワードも実施する予定です。

ブランドとしてなにを伝えたいか? アクションの指針を定める

これらのブランドアクションを実行する上で、意識したことが2つあります。ひとつは、ブランドとして「なにを伝えたいのか」という指針を定めることです。

というのも、人ってキャラじゃないことをしたら基本的にスベるじゃないですか。法人も同じで、話題性だけを狙ってそのブランドらしくないことを実行しても、大抵うまくいきません。無視されるか、ひどい場合は炎上することもあります。

そこで必要なのが、ブランドらしさを定義するフィロソフィーと、ブランドアクションの行動指針だと思っています。

弊社の場合は、労働マーケットにおける「情報の透明化」を社会に伝えていくため、3つのアジェンダを策定し、2019年3月に世の中に公開しました。

▼新時代の就活に向けた「3つのアジェンダ」

まずひとつが「多様化」です。今までは、就活という短いスケジュールの中で「一生の仕事」を決めることが一般的でした。キャリアの意思決定においても「画一的なものさし」で企業を選択するような時代だったと。

ですがこれからは、より「個人のものさし」が大事になる時代だと思っていて。つまり、職業選択の形態が多様化し、個人の価値観も多様化しているので、それぞれの価値観に基づいた選択が大切です。もはや「就活」というものでは括れなくなります。

これを手助けするために、何が必要か。それがふたつめに挙げた「民主化」です。

個人のものさしによる意思決定をサポートするためには、信頼性のあるファクトが必要です。そのファクトは、今までのような企業発信の情報だけでなく、第三者からの客観的な情報が必要になります。

そして3つめが「分散化」です。Webやデータの力によって、就活の地方格差や、高学歴の学生や人気企業への一極集中を解消していきたい。

これは、多様化と民主化が進めば自然発生するはずだとも思っていて。

つまり、ものさしが多様化して意思決定が民主化されれば、もっといろんな方向にベクトルが向きます。そうすれば、企業・学生ともに一極集中の構図が変わってくると思うんです。

これらの3つのアジェンダを軸として、透明化のためのブランドアクションを企画・実行しました。

たとえば6月の #インターンのリアル では、個人のものさしでインターン参加の目的を考えようという「多様化」だったり、インターン体験者のクチコミを公開することによる意思決定の「民主化」だったりを、コンセプトとして意識しましたね。

「説明」に「表現」を付け足すことで、アクションの連鎖が起きる

次に大事なポイントとしては、「説明」だけではなく「表現」で伝えるということです。

この手段の違いって結構大きいと思っていて。なぜなら、ただの「説明」だと心に響かないし記憶に残りづらい。ですが、これを「表現」に転換することで印象が強くなり、心が動かされるのかなと思っています。

たとえば3月に実施した #ES公開中 では、企業20社の選考を通過したエントリーシートを渋谷駅で公開・配布するという手段によって、採用マーケットの透明化を表現しました。

▼実際のエントリーシートを配布した「#ES公開中」

また、11月のForbes CEOカンファレンス2019で発表される「Great Company for Students」という連動企画では、7月のプレスリリースと同時に「なぜワンキャリアがこれをやるのか」という理由を、北野と僕がそれぞれの個人noteに綴りました。

※実際のnoteはこちら:北野さん寺口さん

というのも、プレスリリースの文章はHow・Whatといった「説明」の要素が強いので、それだけでは伝わらないWhyの輪郭を、個人の「表現」によって強くしたいと思ったんですね。

How・Whatの説明により納得し、Whyの表現を通じて共感、賛同してくれる人が増えていく。メッセージはいつもシンプルにして、それをどう説明してどう表現するかが大切です。

実際に、有志で100人を超える人事の仲間が賛同し、企画を一緒に盛り上げてくれました。

「近くの人」を大事にする。共感者から賛同者、そして代弁者へ

また、ソーシャルムーブメントとして大きなうねりを起こすためには、個のアクションをいかに伝播させていくかが大事です。そこで僕は、まず「近くの人を大事にする」ことを最も大切にしています。

というのも、たとえば有名人などのインフルエンサーを起用して共感をうみ、購買などの比較的ライトな意思決定を促すことはできたとしても、企業として今回のムーブメントに賛同するかどうかの意思決定までは難しいと思うんですね。

もちろん共感は大事ですが、共感だけじゃでかいムーブメントはつくれない。そう考えた時により大事にすべきなのは、遠くまで伝播する影響力をもつ人ではなく、自分のことを信じて一緒に行動してくれる、身近な人だと思っていて。

「こいつが言ってるから、一緒にやろうよ」という最初の仲間たちがいないと、大きなムーブメントの「種」はつくれないと思っています。

僕はよく「仮に今、結婚式をしたら何人来てくれるか」を想像するんです(笑)。というのも、結婚式ってご祝儀に3万円くらいかかりますよね。たとえばFacebookで約3,000人の友達がいる中で、それでも遠慮なく結婚式に誘える人って何人いるだろうと考える。

ここで「誘える」と思えた人数が、本当の影響の輪だと思うんですよね。この一番近くの人を大事にしていると、最初は共感者だった人たちが、賛同者になり、さらに代弁者になってくれます。

すると次第に僕が言わなくても、ワンキャリアの想いや考えをその人が周囲に伝えてくれるようになる。この影響の輪を大切にして、あとは深く丁寧に伝えることを徹底するだけです。

たとえば #ES公開中 の時は、キャンペーンの予告を行った上で、こういう意図でこういうキャンペーンをしますということを、事前に個別メッセしまくって(笑)。

あなただから事前に個別に伝えたし、あなたにはこういうところをリードしてほしい、というメッセージを全部テイラーメイドして、一日中やり取りしていました。

▼事前の告知で「共感者」をふやす

▼個別メッセージで「賛同する仲間」をふやす(※ご本人の許諾を得て掲載しています)

逆の立場で考えると、意図のわからない発信のシェアを依頼されても協力しづらいじゃないですか。

実際、時間もすごくかかるし神経も使いますが、ひとりひとりにきちんと内容を伝えて世の中が変わる確率が少しでも高まるなら、全然面倒だとは思わなくて。

普段からお互いのWhyを共有して、大義を素直に伝える。賛同してくれる仲間には、いつも感謝していますね。

信頼残高がなければ、ソーシャルムーブメントは起こせない

逆に言えば、潤沢な信頼残高がなければ、ソーシャルムーブメントは起こせないのかなと思っていて。

僕は、信頼って「時価」みたいな概念だと思っているんですよ。よく混同されやすい「信用」は、担保を元手とする簿価のような概念であるのに対し、信頼は日々変動するものだと思っています。

ブランドアクションを起こす時は、1人ひとりとのコミュニケーションにおいてどうしても丁寧さに欠けてしまう部分があるので、言わば信頼残高を削っているようなもので。

なので、その残高が回復したかどうかを気にしながら、次のアクションや協力依頼をするようにしています。

実際、#インターンのリアル は、他2つのアクションに比べて、積極的に巻き込むアクションはしませんでした。なぜなら、#ES公開中 という破壊光線を3ヶ月前に打ったばかりだったので、残高がほとんど残っていなかったんですね(笑)。

代わりに、次の一手に向けて近い人たちの熱量を維持するために、彼らの期待を聞き続け、僕らの一貫性を伝え続けるという対話を意識して行っていました。

具体的には、受けた相談に対して、その期待に必ず応えるということですね。相談をしてくれる時点で、相手は課題が解決するかもしれないという期待を抱いているはずなので、それに応えると期待値はキープか上昇します。

ブランドパワーって結局「期待値の総和」だと思うので、その期待がどの方面から来ているのか、どのような中身なのか、どれだけの量があるのかを把握しておくんです。

ブランドキャンペーンの期間と同じくらい、期待値の総和を増やし、次のアクションを乗り越えるための信頼残高を貯蓄するという準備の期間が、すごく大事ですね。

賛同する企業とともに、マーケットの透明化を加速していく

一連のブランドアクションを通じて、世の中の反応も見えてきました。採用マーケットの透明化という社会変革のアクションに対しては、やはり賛否両論があるなと感じています。

2019年の活動を振り返ると、ようやくマーケットに対して、ワンキャリアという会社の自己紹介ができたかなと思っていて。

今後は、僕らのことを理解していただいた上で、仲間になろうとしてくれる人を社内外に増やしていきたいと思っています。

そして僕らの真髄は、やはりプロダクトです。学生が「個人のものさし」に照らし合わせて企業をみたときに、ほしい情報にノイズがない状態でアクセスできるかどうか。

一方の企業に対しても、採用課題にアプローチするSaaSをローンチする予定です。先日のリリースでも触れたとおり、新しいプロダクトを展開していきます。

今後も「多様化・民主化・分散化」というアジェンダに従って、ブランドアクションを続けていきながら、学生の方々や賛同してくれる企業の方々と一緒に、マーケットの透明化を加速していきたいと思います。(了)

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