• 株式会社リクルートホールディングス
  • Employee Experience Design部 部長
  • 讃岐谷 真之

正しい「心理的安全性」が組織の実行力を高める。リクルートのエンゲージメント経営

〜従業員体験(EX)向上のため、専門部署を新設。従業員の個を生かす仕組みによって、自発的な高い目標設定と、慣例を超える成果を生み出したプロセスを紹介〜

組織が拡大するにつれて、社員の価値観が多様化したり、相互理解が不足してエンゲージメントが低下してしまう…といった悩みはないだろうか?

2014年の上場後、海外企業のM&Aによるグローバル化や、リモートワークなどの働き方変革を推進してきた、株式会社リクルートホールディングス。

同社では、異なるバックグラウンドを持つ社員が増えたことで、価値観のギャップが生まれ、リクルート固有のカルチャーが失われていくという危機感が生まれていたそうだ。

こうした状況下で、社員のパフォーマンスを引き出し、行動指針である「バリューズ」を体現する組織づくりをミッションとして、2018年10月に発足したのが「Employee Experience Design部(以下、EXD部)」だ。

現在、約20名の従業員が所属するEXD部では、相互理解を促すメルマガ「WOW通信」の配信、OKRによる「高い目標設定」、成長のための「ピアフィードバック」という、3つの施策を実行しているという。

今回は、同部長を務める讃岐谷 真之さんと、同じ部署の城谷 奏子さんに、EXD部発足の背景から、組織の心理的安全性と実行力を高めるプロセスの全容について、詳しくお伺いした。

異なる文化を持つ人材が増え、社員の価値観ギャップが生まれた

讃岐谷 私は2006年にリクルートに新卒入社し、現リクルートキャリアで採用や営業、事業開発に携わった後、リクルートホールディングスに異動しました。現在は、2018年に発足したEXD部をメインに活動しています。

EXD部は4名でスタートし、今は業務委託・アルバイトを含めて約20名が所属しています。新しいスキルや思考を取り入れるため、社外コンサル、ITスペシャリスト、デザイナーなど多様な人材がいるのが特徴です。

組織体制としては、「カルチャーコミュニケーション」「バリューエンゲージメントの向上」「クラウドベースで働く環境作り」「R&D」というテーマ別に、4つのチームに分かれています。

城谷 私は2011年にリクルートに新卒入社し、現リクルートキャリアで営業を経験した後、リクルートホールディングスに異動しました。現在はEXD部に所属しながら、役員の秘書も兼務しています。

▼左:讃岐谷さん、右:城谷さん

讃岐谷 弊社は、2014年の上場以来、海外M&Aを積極的に進めてきました。その中で、「グローバルで通用する専門性の高いヘッドクオーター(本社)を作る」という目的で、専門スキルの高い方々を採用してきたんですね。

しかし、徐々にバックグラウンドが異なるメンバーが増えたことにより、価値観のギャップが生まれてきました。

例えば、外資系企業では、明確なジョブディスクリプション(職務記述書)があり、期待される役割にしっかりと応えることがプロフェッショナルである、という文化があります。

一方、リクルートでは「自ら機会を作り出し、機会によって自らを変えよ」という創業者の言葉があるように、自分がどうしたいかを問われます。

この価値観とカルチャーの差を埋めるため、「グローバル化と専門性を高めながらも、リクルートのバリューズを従業員が体現できるように、会社が支援していかなければ」と強く感じていました。

従業員がバリューズを体現し続けるためには「心理的安全性」が重要

讃岐谷 そうした状況下、2018年に弊社のミッション・ビジョン・バリューズを再定義し、同年10月にEXD部を発足しました。その際に、情熱や志を持つ若いメンバーに機会を与えることや、1人ひとりの持ち味を生かすことの重要性を、経営陣で話し合いました。

また同時期に、GAFA(※)などの最先端のテクノロジー企業を訪問し、ミッションの実現やカルチャー浸透のための取り組みについて、ディスカッションを行いました。

※GAFA=Google、Apple、Facebook、Amazonの略称

そこで、我々が大事にしてきたバリューズのひとつである「個の尊重(BET ON PASSION)」を従業員が体現し続けていくためには「心理的安全性」がとても重要であると感じたんです。

こうした議論を経て、EXD部のゴールを「リクルートで働く従業員が、1人ひとりの情熱を最大限に発揮できる組織へ変革していくこと」と設定し、動きだしました。

当時、経営陣はEXD部の活動の一切を任せてくれて、決して少額ではない予算申請もすんなりと決裁が下りました。やはりこのテーマは、経営として投資すべき領域だという判断があったのだと思います。

一方で、立ち上げにおいて難しかったのは、既存部署との棲み分けです。例えば、社内向けのメディアは社内広報が運営しているし、組織サーベイは人事部が行っており、IT関連であれば既存の情報システム部門があります。

こういった環境下で、新組織であるEXD部が意識したことは、「従業員目線」であることと、これまで既存の部署が手が付けられていなかった業務を、新しいテクノロジーを用いて変革していくことです。

部署を横断して、新しいことにも実験的に取り組めるEXD部だからこそ、チャレンジできることがあると感じますね。

「個をあるがままに生かす文化」を伝えるコミュニケーション施策

城谷 リクルートホールディングス社全体を対象に行っている施策が、社内コミュニケーションの活性化を目的とした、社内メールマガジンの「WOW通信」です。

これは、従業員の価値観を紹介する「WOW!PEOPLE」、役員や組織長の戦略を共有する「WOW!STRATEGY」、組織の枠を越えた協働で成果を生んだ事例を展開する「WOW!TEAM」の3種類から成っています。

例えばWOW!PEOPLEでは、「大事にしている価値観やモチベーションの源泉は?」「仕事を通じて生み出したい価値は?」といった弊社のバリューズに紐づく観点で、内定者が社員にインタビューしています。

2019年1月に配信を始めて、これまでに約150人の社員を紹介し、リモートワークやフリーアドレスを推進する中で、従業員同士の相互理解を促進してきました。

▼「WOW!PEOPLE」画面イメージ

この記事は、当初はメールで配信していましたが、最近ではGoogleハングアウトでのチャット共有を始めました。

「彼女はここが持ち味です」といった形でコメントが重なるようになり、昔は飲み会の場で行っていたようなコミュニケーションが、今はチャット上で広がっています。

記事を読む人だけではなく、インタビューする人、インタビューされる人を含めた3者全員が、大事にしている価値観や、リクルートで働く意味を再認識する体験になっていますね。

讃岐谷 この施策を始めて嬉しかったのは、駐在先にいる方から「昔はすごく無機質な組織で、仕事を機械的に進めるイメージだったけれど、今は人の個性や多様性を認めて、ありのままの自分でいいんだという雰囲気が伝わってきます」という感想をもらったことでした。

「個の尊重(BET ON PASSION)」というリクルートのバリューズが、こういう施策を通してにじみ出ていると思います。

新しい施策はEXD部内でトライアルし、全社に展開する

城谷 さらにEXD部としては、心理的安全性とチームのパフォーマンス向上を目的として、「相互理解」「OKRによる高い目標設定」「ピアフィードバック」といった大きく3つの施策を行っています。

これらの施策は、全社に展開する前に、パイロットチームとしてEXD部内で実施しています。

まず「相互理解」のための施策として、「今月の調子さん」という、月に1度、自分自身のコンディションをオープンにする取り組みがあります。

コンディションは1〜10段階で表現して、仕事のことからプライベートのことまで、自由にコメントを書いてお互いの近況の共有を促す形です。

▼実際の「今月の調子さん」

リモートで働くメンバーが多く、顔を合わせて雑談する機会も少ないので、意識的にこういった仕組みを取り入れて相互理解を深めています。

讃岐谷 次に、私たちが「WOW!MISSION」と呼んでいる施策が、OKRによる高い目標設定です。

弊社には元々、半期ごとの「Will・Can・Must」という目標管理システムがあるのですが、今のプロジェクトのスピードには合わないなと感じている部分もあります。

そこでOKRを導入し、四半期ごとに自ら挑戦したいと思えるような目標を設定する仕組みを取り入れました。目標達成に向けて1on1で伴走しながら、必要があれば期中で目標の見直しなどを行い、期末に振り返っています。

城谷 そして最後の施策としては、「ピアフィードバック」と称して、3ヶ月ごとに同僚同士でのフィードバックを行っています。

弊社には360度フィードバックもあるのですが、そちらは匿名でアセスメント(評価)の性質があるため、ピアフィードバックは相手の成長のために贈る「ギフト」というコンセプトにしています。

具体的には、メンバー自身が2名のレビュアーを自由に選び、指名された人はレビュイーの行動を事実ベースで振り返って、「フィードバックする相手の強みは何か」「さらに成長するために、もっとこうすると良いと思う点は何か」について記入します。

1人あたり約1,300文字のフィードバックをもらうのですが、誰から誰に送ったものかも含めて、すべての内容を公開し、部内の全員が見られるようになっています。

お互いにどんなフィードバックを送りあっているのかを見ることで、「ここまで踏み込んで良いんだな」という安心感が醸成され、フィードバックの質も上がってきていますね。

「IMPACT TEAM SPIRAL」で慣例を超えた成果を創出

城谷 こうした一連の活動を進める中で、弊社で「個を生かしながら、組織の壁を越えて高い成果を生み出しているチーム」のナレッジを抽出・統合し、その特徴をまとめてきました。

それが「IMPACT TEAM SPIRAL」というモデルなのですが、これまでの「Mission Making」や「Team Building」の取り組みを通じて、EXD部内でも今までにない動きが生まれています。

▼「IMPACT TEAM SPIRAL」の循環図

例えば、EXD部のあるメンバーが「海外出張における従業員の身体的負担を軽減しつつ、フライトコストを大幅に削減する」という、大胆な目標を成し遂げました。

そのメンバーは「失敗しても大丈夫だ」という安心感があったからこそ、野心的な目標にチャレンジできるようになったと話していましたね。

讃岐谷 今では、社内外から「従業員のエンゲージメント向上」について相談を受けることが増えましたが、私は経営陣がその重要性を認識して、必要なリソースを充てることが、非常に大切だと考えています。

弊社でも、少し前までは仕事終わりに一緒に飲んだりすることで関係性の質を保っていましたし、世の中的にもそういう会社は多かったと思います。しかし今の時代は、変化を受け入れ、新しい世代や働き方に合わせて、本音で話せる関係性を築くための新たな仕組みが必要です。

一方で、「心理的安全性」という言葉が広まると、「何でも言って良いんだ」と誤解する人が増えてしまう可能性もあります。

これに対しては、プロフェッショナルとはどう在るべきかという職業倫理を、1人ひとりに誠実に話していくことが、モラルハザードを生まないひとつのポイントかなと思います。

私はいつも「自由を主張するなら責任を取らないといけないし、信頼がほしいなら期待に応えないと、どの職場でも相手にしてもらえないよ」と伝えるようにしています。

1人ひとりがプロフェッショナルとして認められ、大胆な権限移譲によって適切な裁量を与えられることで、失敗を恐れず新しいことにチャレンジできる。そのような正しい「心理的安全性」が、チームとしてのパフォーマンスを最大化させるのだと思います。

EXD部は2020年3月末をもって、部としては発展的解消をします。これまで取り組んできたテーマは、既存の部署に引き継いで、それぞれの領域で活動していくことになっています。

そして、弊社ではバリューズのひとつに「社会への貢献」を掲げているので、今後はEXD部での知見を社会に公開していくことで、少しでも多くの方々の参考になれば嬉しいです。

私たちが「こういうことをやると従業員が楽しく働けるんだ」という事例を広めていくことで、より良い社会づくりに貢献したいと思っています。(了)

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