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指名検索は前年比2倍!中長期で勝ち抜く、SmartHRのマーケ&ブランディング戦略

〜マーケットの拡大で、中長期的なブランディングが鍵となる事業フェーズへ。リード獲得とブランディングを両立し、早期に成果を創出するマーケティング組織改編の全容〜

BtoBのマーケティング活動において、目先のリード獲得と中長期的なブランディングの両軸で成果を出すためには、どうすればいいのだろうか。

クラウド人事労務ソフト「SmartHR」を展開する、株式会社SmartHR。同社でVP of Marketing(以下、VPoM)を務める岡本 剛典さんは「業界トップのシェアを維持し続けるためにも、中長期的なブランディング施策の実行が重要な事業フェーズだ」と語る。

以前の組織体制ではリード獲得を優先しやすい傾向があり、ブランディング活動が進みにくいという課題があったことから、今年1月にマーケティング組織の改編を実施。

ブランディングとリードマネジメントの役割を明確に分けたことで、それぞれの施策スピードが向上。特に、認知強化を目的とした交通広告やテレビCMなどの施策において、認知率25%上昇、指名検索数が前年同月比2倍という成果が出ているという。

今回は岡本さんに、組織改編の全容と実際に行ったブランディング施策について、詳しくお伺いした。

成長し続ける鍵はブランディングの強化。「目的別」の組織に改編

私は、前職のGMOクリック証券にてマーケティング責任者を経験した後、2018年10月にSmartHRに入社しました。現在はVPoMとして3つの組織を管掌し、主にマーケティング・ブランディング戦略の策定、実行を担っています。

弊社は、2015年にクラウド人事労務ソフト「SmartHR」をリリースしました。それ以降、先行者利益も得ながら常に業界トップとして走ってきました。

しかし、近年のHRテクノロジー業界では、類似のプロダクトが増えてマーケット規模が拡大するにつれて、ユーザーからすると各サービスの違いがわかりづらい状態になってきていると思っていて。

その中で、私たちが中長期的な成長をするためには「ブランディング」が重要になる事業フェーズを迎えていました。

とはいえ、昨年までのマーケティング組織は、広報・PRやメディア運営に加えて、オフラインとオンラインの施策で分けた「機能別」のチーム編成だったため、ブランディング施策と新規リード獲得を最適なバランスで推進するのが難しかったんですね。

特にオフラインチームは、認知強化を目的としたテレビCMを企画しながら、目先のリードを追う展示会などの施策が同時に走っていたことで、どちらの活動も中途半端になってしまって。

どちらかと言うとリード獲得が優先になってしまい、なかなかブランディング活動が進まないという組織的な課題がありました。

そのような背景から、今年1月に「目的別」の組織へと改編し、認知・ブランディングに特化した「ブランドマーケティング」と、リード獲得に特化した「リードマネジメント」のチームを新設しました。

▼組織改編前後の概念図(同社提供)

ブランドマーケティングチームは、人事労務担当者の認知率と指名検索数の向上をKPIとし、リードマネジメントチームはMQL獲得数を最重要KPIとして、リードの質に繋がる商談化率も見ながら活動しています。

時流に乗った交通広告とテレビCMを打ち、認知率が25%向上

ブランドマーケティングチームが2020年に実施した主な施策は、交通広告とテレビCMです。この2大施策の効果が積み重なったことで、サービス認知率が一気に25%ほど上昇し、今年10月の指名検索数が昨年同月比で約2倍に増加するという成果に繋がっています。

▼指名検索数_月次推移(同社提供)

まず、交通広告に関しては、新型コロナの緊急事態宣言が出た今年4月に出稿しました。実は、出稿枠自体はずいぶん前に買っていて。春先の入退社シーズンに合わせて、業務効率化やペーパーレスを謳うようなコピーを考えていたんです。

そんな矢先に緊急事態宣言が出て「電車に乗らなくなるなど働き方が変わると、メッセージが合わない」と…。インハウスでの制作だったので、急ピッチでデザインを差し替えて、「ハンコを押すために出社した。」という時流に乗せたコピーで打ち出しました。

同時に「書類提出のために出社した。」という別パターンも出しましたが、実際に捺印のために出社する途中で交通広告を見た方が多かったようで、特に「ハンコ」の広告への一般の方のツイートが4万3000いいねを集めるなど反響が大きかったですね。

続けて4月末には、テレビCMの放映とそのコンテンツを活用したWeb動画広告の施策を実行しました。

このコンテンツは、コロナ禍の影響で急遽SmarHRを導入し、オンラインでの入社手続きを無事に行うことができたという、ある顧客のエピソードを実際のメンバーに出演いただきタイムリーに紹介するものでした。

このテレビCMの効果を最大化するため、「テレワーク」「リモート」といった特定の単語と掛け合わせた検索に対し、専用ページにランディングする設計にしていました。

これらの取り組みによって、「テレワークを後押しするサービスとしてSmartHRが連想できるような状態」を作ることができたと思っています。

サービスのメッセージに情緒的・社会的価値を加え、差別化を図る

これらのマスマーケティング施策と併行して、中長期的なブランディングを目的に行ったのが、サービスビジョンのリニューアルです。

例えば、それまでのサービスメッセージは、「社員の無駄な労働を『なくす』」という「機能的な価値」を伝えたものでしたが、類似プロダクトが出ている中で「これじゃあ足りないよね」と。

そこで、サービスの機能価値に「情緒価値」「社会価値」を上乗せしていく形で、メッセージを作り直しました。

具体的には、情緒価値は「無駄な労働から自由になる『開放感』」とし、社会価値は「すべての社員が『気持ちよく』働ける」と定義しました。

それらを総括したサービスビジョンを「『働きやすい』会社を増やす』と定義した上で、SmartHRの価値として世の中に出す言葉に変換した結果、ちょっとエモさのある、情緒的なメッセージになりましたね。

その他の箇所もリニューアルを行った上で今年8月に新サイトで公開すると、顧客や社内メンバーからも良い反応をいただけるようになりました。

▼コーポレートサイトの新メッセージ

一方のリード獲得においても、速やかにオンラインイベントにシフトし、自社でオンラインセミナーを多数開催したことで、コロナ禍以前に目標にしていたリード数を獲得することができました。

このように目的別の組織に改編したことで、どの施策も格段にスピード感を持って実行できるようになったと思います。

しかし、中にはうまく行かなかった施策もありました。

例えば、今年は紙の広告媒体の出稿単価が下がっていたので、今僕らが出すことでかなりのSOV(シェア・オブ・ボイス)を取れると考え、チラシや紙のDMも試したんです。ですが、その効果が測りきれなくて。

今思うとBtoBでチラシを出すなんて、正気の沙汰じゃないですよね(笑)。

とはいえ、目先のリード獲得だけでなくブランディングにもしっかりと予算を投入して、圧倒的な認知を獲得することが重要なので、そういった小さな取り組みも含めて今の高い成果に繋がっていると思います。

BtoBマーケティング領域でモデルにされる組織を目指したい

現在のマーケティング組織は、マネジメント強化の観点からさらなる改編を行い、リードマネジメントの領域を専門的な2つのチームに分けたものになっています。

リードジェネレーションのチームは、オンラインセミナーの実施、展示会などへの出展、Webの運用型広告・LP改修など、リードを獲得するためにあらゆることを実行します。

もう一方のリードナーチャリングのチームと役割を明確に分けたことで、それぞれの施策スピードと企画力が明らかに向上しましたね。

▼現在のマーケティング組織の構造(同社提供)

特にリードナーチャリングで、定性的な成果が出始めています。例えば、企業のメルマガがSNSで話題に上がることはほぼ無いと思うのですが、最近はSmartHRのメルマガを見て「こんなメールが送られてきた」とツイートされるようになってきて。

先日配信した「-読書の秋- SmartHR経営陣が心打たれた本を読んでみませんか?」といったメルマガ企画は、読者がnoteで取り上げてくださるなど反響がありましたね。

メンバーの各自の適性に合わせた仕事を専門的に担うことでそれぞれの個性が生きてきて、そういった施策の企画力がすごく高まってきたなと思います。

他にも、中長期の事業成長を見据えて新たに2つのチームを設け、既存ユーザーとの繋がりを深める「カスタマーマーケティング」の領域と、データを活用してより効率的に認知・リードを獲得するための「データマーケティング」の領域を強化しているところです。ぜひ新しいメンバーにもジョインしていただきたいですね。

BtoBマーケティングはまだまだ未開拓の領域だと思っています。なので、今後も新たな活動を通じてこれまでにない成果を生み出すことで、多くの企業から「SmartHRのマーケティングを真似しておけば、間違いないよね」と言われるような組織にしていきたいなと思いますね。(了)

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