- 株式会社mikan
- 取締役
- 溝口 慎也
スタートアップ仲間集めの最適解!Notionをフル活用した「最高の候補者体験」の作り方
IT業界、並びにスタートアップ界隈での採用競争が激化している。そんな中、約1年で社員数を4倍に伸ばし、副業メンバーから社員への転換でも大きな成功を収めているのが、2019年に創業(※分社による独立)した株式会社mikanだ。
同社は、ダウンロード数550万(※2021年8月時点)を突破した英単語アプリ「mikan」を展開。現在はアルバイトや契約社員、副業も含めると30名以上のチームで、順調にプロダクトを成長させている。
実はmikanは創業初期に、「4人の社員のうち2人がバッチバチにぶつかっている」組織崩壊の状態を経験しているという。
そこからの学びを活かし、現在は自社のミッションとバリューに基づく採用方針のもとで、まるで「プロダクト開発」のように素早く採用施策の実行と改善のサイクルを回している。
具体的には、カジュアル面談数を伸ばすことでタレントプールを拡大、Notionを用いた採用データベースへのあらゆる情報の集約、候補者のWillを徹底的に理解した上での候補者体験の設計など、まさにスタートアップ仲間集めの最適解と言えるような採用施策を展開しているのだ。
同社取締役で採用を担う溝口 慎也さんは、「どの採用競合よりも、その人のことを一番知っていて、考えているのは僕たちだ、という自信を皆が持てている」と話す。
今回は溝口さんに、mikanの採用戦略の遍歴や、具体的な施策の運用について、詳しいお話を伺った。
1年で社員数は4倍に。副業等を含めると30人超の組織に成長
弊社は学生から社会人まで幅広く楽しめる英単語アプリ「mikan」を運営しています。特徴としては、基本的に広告を打たずにオーガニックでお客様が増えていること。そして「学校カバー率」が100%、つまり日本のどこの高校・高専にも1人以上のmikanユーザーがいる…ということです。
▼「圧倒的に早く覚えられる英単語アプリ」mikan
社員数は、いま内定者も含めて13人です。去年のこの時期(※2020年8月)は3人だったので、1年で4倍になりました。エンジニアやデザイナーが14人のうち11人と多いのですが、ビズサイドも含めてプロダクトチームとしています。
加えて、アルバイトや契約社員、副業の方もすべて含めると30名以上の組織です。また現在の社員の大半が、副業を経由した上での入社になっています。例えば、現状コーポレートサイトに載っている社員8人のうち、6人が副業経由です。
mikanは、実は二度の創業を経験しています。もともとはYenomという会社の中で運営していた事業を切り出して、2019年3月に分社したんですね。僕もYenomにいたのですが、分社後に一度フリーランスになり、その後2020年11月にまたmikanに戻ってきました。
僕自身はもともとデザイナーではあるのですが、現在はほぼ何でもやっています(笑)その中でも特に採用は、メインで担っている社員が自分だけなので、比重の大きい活動です。とは言え、いまはデザイナーもいないので、デザインやPMも兼ねながらなんとかやっていて…人事やデザイナーの方を猛烈に募集しています(笑)
現状の社員や副業メンバーの入社経路は、メインがスカウトで、30%がリファラル、残りが自主応募などです。アプリのユーザーだった方も複数人いらっしゃいます。
スカウトは現在LAPRASさんとYOUTRUSTさんをメインで運用していますが、以前はFindyさんやOffersさんも「ほぼスカウトを送り尽くす」状態になるまで使っていました。
「ノリとバイブス」基準の採用の結果、たった4人で組織崩壊を経験
これまでの採用活動を振り返ると、分社後すぐは採用をブーストするという考えはなくて。事業自体は以前から黒字化していたので、特に焦る必要もなく、割とゆっくりやってしまっていたんですよね。
その中でも徐々に「仲間が欲しい」というふわっとした思いが出てきて、Facebookの友達にメッセージを送りまくっては「ダメだったね」という感じでした(笑)
▼株式会社mikan 取締役 溝口 慎也さん
それを何回か繰り返していた中で、一人の方が「代表の高岡さんが好きだから」という理由で入社を決めてくれました。ただ、実際に入社してみると、高岡以外のメンバーとちょっと合わないところがあったんですよ。
僕はちょうどそのタイミングでmikanに業務委託で復帰したのですが、4人いた社員のうち2人がバッチバチにぶつかっているような状況で…。人数が少ない故に影響も大きく、ちょっとした組織崩壊を起こしていたんです。
そして結局、人が理由で入社したけれど、人が理由で退職することになってしまって。何が良くなかったのかをふりかえった結果、そもそも面談や選考の基準がなかったよねと。
もちろんヒューリスティックにカルチャーフィットはみていたのですが、あえて強めの言葉を使うと実質的に採用が「ノリ」で行われてしまっていたと。
社内ではほとんど見かけない言葉ですが、「バイブスが合うから」みたいな採用方針になっていたんですよね。なので今後同じことが起こらないように、自分たちがやりたいこと、ありたい姿に一致する人を採用するようにしましょうと決めました。
その指針になるような、会社のミッション、バリューを改めて作り始めたのが2020年3月。それを基に採用基準を作成し、8月から本格的に活動をスタートしました。そして僕も、11月に業務委託から社員に戻り、採用にそれまで以上に関わるようになりました。
ミッションやバリューをこの人数規模で決めたのは、他社と比べるとかなり早いかもしれません。ですが、事業が既にある程度形になっていたこともありましたし、結果的にそれらが拠り所になって意思決定や採用判断をできることも多く、良かったなと感じています。
採用は「プロダクト開発」と同じ!現状を分析し週1で施策を改善
ただ、「採用活動を始める」といっても、最初はどうしていいかわからなかったですね。まずはいつも通りにFacebookの友達に連絡したら、することがなくなってしまって。
そこでフリーランス時代にお世話になった人たちの伝手を辿ってひたすら相談していくと、やはりスカウトを運用されている方が多くて。そして最初に全員で「スカウト祭り」をやっているうちに、「これ、完全にプロダクト開発やん」と気が付いたんです。
媒体にインして、マッチング、スカウト送信、返信が来てからカジュアル面談、選考スタート…という形が、プロダクトのファネル分析と一緒だなと。ただ当時はそのファネル自体が全く作れていなかったので、まずはそこから取り組んでいきました。
特に最初は、スカウト数を全然稼げていなくて。つまりトップファネルが拡大していかない状況だったので、まず月の送信数を増やしていきました。
そこからもプロダクト開発と同様に、ボトルネックを探し、施策を打って成果を確認するというサイクルを回していきました。僕自身がデザイナーということもあり、開発スプリントを回すようなイメージで週1で改善をしていったので、4週間ほどでほぼ現状の形に固まりましたね。
いまの基本の採用フローは、タッチポイントがあってから、カジュアル面談を行った上で選考に入ります。選考では一次面接でカルチャーマッチ、二次面接でスキルマッチを確認し、体験入社のワークサンプルを経て内定を出しています。
▼mikanの現在の採用フロー(同社提供の資料をもとに編集部にて作成)
副業の方でも、基本的に正社員と同じ選考フローを通っています。
副業希望の方にとってはちょっと面倒くさいとは思うのですが(笑)、基本は社員としての入社が前提の選考になることをお伝えしているので、実質的には「入社検討としての副業」という位置付けになっているのがいまの状態です。
どの競合よりその人を理解する。一人ひとりに綿密な候補者体験を設計
採用活動においては、「ひとりにスカウトを送ってひとりを採用する」のが理想だと思うのですが、難しいですよね。なので、まずはできるだけカジュアル面談という形でお会いして、タレントプールを大きくすることを意識しています。
具体的な目標として毎月120件以上のスカウトを送っていて、そこから現状は毎月40人ほどにお会いしていますね。1日に7人と会うこともあり、正直「もうできない…」と思うときもありますが(笑)
タレントプールはNotionで作成しているのですが、そこにこちらから「最近どうですか?」といったお声がけができるような方をひたすら増やしていっています。
▼Notionで作成された自作のタレントプール(同社提供のイメージ図・クリックで拡大)
カジュアル面談では、候補者の方の意向を確認します。もちろんその場で選考を受ける意志があれば選考に進んでいただきますが、そうでなければこちらで担当者と「ネクスト実施日(※次のアクションを行う日)」を設定して、必ずまたお声がけできるようにこのタレントプールに情報を残しておきます。
▼「ネクスト実施日」に必ずアクションがとれるようにSlackでも声がけ
候補者の方一人ひとりの状況は異なるので、ネクスト実施日のタイミングは個別に決めています。過去には、カジュアル面談から1ヶ月後のお声がけで選考に進んでいただけたり、去年の10月から数回お声がけして、7月に内定になったケースもあります。
現状、採用は売り手市場ということもあり、余程のインパクトを残してるか、僕がスティーブ・ジョブズかでなければ(笑)、なかなか候補者さん側から連絡はもらえないんですよね。
ですので、こちら側でお一人お一人へのコミュニケーションはしっかりと設計します。これは選考プロセスに入ってからも同様で、体験入社の設計等も、お一人ずつ綿密に行っています。
▼体験入社のbefore/after設計もNotion上で綿密に行う(クリックで拡大)
この設計を行うために、とにかくしっかりと候補者さんの話を傾聴して、基本的にその人にとって一番いい選択肢を一緒に考えるというスタンスで取り組んでいます。
その人のWill、やりたいことを深堀りした上で、それをmikanでどう実現できるかということを、カジュアル面談の段階からかなり具体度高く話しています。
その分、面接っぽくなってしまう部分もあるので、最初に「これは面接ではありません」「質問が多いですが、嫌だったら断ってくださいね」という話を必ずしています。
カジュアル面談だけではなく、面接でも候補者の方をしっかりと知るための質問項目を社内に共有していますし、申し送りもかなり丁寧に記載して引き継いでいます。データベースをNotionに集約していて書きやすいこともあり、皆かなりの分量を書いてくれていますね。
どの競合よりも、その人のことを一番知っていて、考えているのは僕たちだ、という自信を皆が持てていると思います。
また、副業からの入社を促進するために意識していることは、お願いする仕事の内容です。
よく「副業の方には、緊急度が低くて重要度が高い仕事をお願いすると良い」と言われますよね。でも、自分が実際に入社したときにインパクトを出せるのか、やりたいことができるのか、ということを判断できる体験ができないと意味がないと思っていて。
なので「いつかできたらいいや」というレベルの施策ではなくて、ある程度は緊急性もあって、クイックウィンが作れ、やりたいこととマッチするような仕事を渡すようにしています。
採用への「渇望」が高いからこそ。全社一丸となって採用を推進
プロダクト改善と同様、採用においても、質を求める前にとにかく「実行数」を増やすことが大切だと思っています。誰しも確度が高い施策をやりたいけれど、当然すべて当たるわけではないですよね。なので、とにかく早く施策を回すようにした結果、いまの形に辿り着きました。
加えて、社内で「もっと速く進めたい、人が足りない」という共通認識ができており、採用への渇望、本気度が高いということがあります。
今後、僕たちがやりたいことのロードマップを引いていくと、「明らかにこのままの人数じゃ無理だ」という状況で、それを皆が感じているんです。
また、社員全員をより巻き込むための施策として、最近始めたのが「コミットメントスコア」の算出です。
週の稼働のうち採用に投資した時間や、採用に関するミニクイズを行い、10点満点でスコアを算出しています。現状は8.5点を超えることが目標で、毎週のオールハンズ(全社ミーティング)で共有しています。
▼Googleフォームを使って採用に関する質問をし、コミットメントスコアを算出
今後も、一貫して実現したいのは全員採用の文化です。採用に関する姿勢は、現時点でもフリーランス時代に10社超お手伝いさせていただいてきた中で一番高いです。とはいえ、まだまだまだまだやるべきことばかりで。
例えば現状だと、選考フローに入るまでは人事依存になっていて、今後募集する職種や人数が増えていくことを考えると持続可能な体制とはいえません。
なので、事業部ごとの裁量・責任で採用していくスタイルに向けて、まずは応募獲得やカジュアル面談を各チームへ委譲していき、人事として中長期的な構造課題を解決していきます。
事業部も今はひとつですし、組織もまだ小さく、どうしても兼任にはなってしまうのですが、数年後スケールしていくのを描いたうえで、逆算して責務を分けるトライです。
mikanのアプリに搭載してるゲーミフィケーションのように、仲間集めのプロセスも全員で楽しみながらやっていければと思っています。
私自身、去年の夏に採用を始めたばかりの「採用1年生」で超未熟なので、人事・広報分野をお任せするプロフェッショナルを探しつつ、全社総出で「人が欲しがるもの」を作っていければと思います。(了)