• 一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ
  • 代表理事
  • 後藤 宗明

デジタル時代の「企業と個人の共倒れ」を防ぐ「リスキリング」とは? 第一人者 後藤 宗明氏が徹底解説

リスキリングとは?_seleck

DX時代の人材戦略や個人のキャリアアップという文脈から、近年急速に注目を集めるようになったのが「リスキリング(Reskilling)」だ。

リスキリングとは、一言でいうと職業スキルを再習得し、それによって新しい職に就くことを意味する。例えば、非デジタル人材がデジタルスキルを習得し、デジタル関連の職に就く…といったことだ。

そのポイントは、近年、日本でも提唱されてきた「リカレント教育」や「学び直し」のような、個人にその実践を委ねるものとは性格が全く異なること。企業が主体となり、テクノロジーによって人間の雇用がなくなる「技術的失業」に対してアプローチするための手段として、注目を集めているのだ。

そこで当媒体SELECKでは、2021年4月に一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブを立ち上げ、代表理事を務める後藤 宗明さんにインタビューを実施。

2016年にリスキリングと出会い、2018年からその日本での浸透を目的とする活動を続けてきた後藤さんは、「リスキリングをすることが、今後の日本における企業と個人の共倒れを防ぐ」と話す。

日本企業がデジタル化へと舵を切り始めたことで、取り入れる企業が急増しているというリスキリング。しかし一方では、その仕組みづくりには失敗も多いという。

今回はリスキリングの定義や、海外の先進事例や最新ツール、さらには日本企業が実際にリスキリングの仕組みを構築する際のよくある失敗まで、後藤さんに徹底解説いただいた。

リスキリングは「学び直し」+「実践」による、スキルの再習得

僕は2018年から、日本で「リスキリング」を広めるための活動をしています。今年(2021年)の4月には一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブを立ち上げ、大きく分けて五つの取り組みを行っています。

まず一つ目が、日本におけるリスキリングの啓蒙活動。二つ目が、海外の先進事例、成功事例のご紹介。三つ目と四つ目が、企業向けの会員組織と認定資格(※取材時は準備中)の運営です。

そして最後に、「リスキリングをどうやってやったらいいの」という企業様に向けた、個社別のコンサルティングをさせていただいています。

リスキリングという言葉の定義として、メディアでは文字数の関係で「学び直し」と表現されていることも多いですね。僕自身は、「学び直しに加えてスキルの実践までを含む、『スキルの再習得』」とお伝えするようにしています。

リスキリングは図で表すと、実はすごくわかりやすくなります。

▼リスキリング、アップスキリング等の違い(後藤さん提供)

リスキリングとは?

真ん中にある「アップスキリング」では、人がエレベーターに乗って真上に上がっていますが、これは僕たちがこれまで「スキルアップ」と呼んできたものです。例えば、人事の方が人事の分野の高度なスキルを身につけていく…といったことですね。

それに対して、右上に配置されているリスキリングは、教科書を持ってる人が右側にジャンプしています。これは、学習してスキルを身に着けた上で、違う分野の仕事に就く…ということを表しています。

この「仕事に就く」ところまで、つまり学び直したあとに、スキルの実践までがセットになっているものがリスキリングです。

と言うのも、スキルを学んだだけでは仕事はもらえませんよね。学習をした上で、ちゃんとそのスキルを使ってアウトプットができるから、仕事ができる。例えば、「デジタルマーケティングの勉強をしました」という人に、いきなり自社のWeb広告のシステムを触らせられないじゃないですか。

実際に海外でリスキリングに成功している企業は、サンドボックス環境という、スキルを学んだあとに練習をする場を社内で提供しています。例えばオンライン上で試しに仕事ができる環境であったり、社内インターンシップ制度といったものですね。そこまでやって初めて、リスキリングを実践している、と言うことができます。

日本でも、デジタル化の流れに伴って、このリスキリングのニーズがどんどん高まってきています。

僕は「企業と個人の共倒れを防ぐリスキリング」という表現をしていますが、企業は人材のリスキリングをしなければデジタル化に出遅れてしまいますし、一方では個人の従業員も、リスキリングをしなければ機械に取って代わられる。

リスキリングをすることが、今後の日本における企業と個人の共倒れを防ぐはずだと考えています。

10年間、テクノロジー領域へと自分自身をリスキリングしてきた

僕自身がリスキリングを広める活動をしている背景には、自分のこれまでの人材育成の経験と、この10年で行ってきたデジタル領域でのビジネス経験があります。これらをもとに、人事とデジタルの領域をつなぐ役割をしたいと考えて、この社団法人を立ち上げました。

僕は新卒でみずほ銀行に入り、営業とマーケティング、そして人事教育研修を担当しました。そのあと、HR領域のスタートアップにジョインして、その仕事でニューヨークに行きました。

その時には世界同時多発テロを肉眼で見るという経験もしましたが、その後もニューヨークに留まり、グローバル研修領域で再び起業しました。そして7年経営し、2008年に日本に帰ってきました。

そのあとは、Ashokaという社会起業家を支援するNPOファンドの共同創業者を務めたのち、思うところがあって、2011年にテクノロジーの分野へのキャリアチェンジをしました。

背景としては、手段としてテクノロジーを使うことによって、社会的課題の解決に取り組んでいる人たちの組織の規模を大きく、スケールアウトさせることができるということを学んだからです。

その後は、フィンテックスタートアップや通信ベンチャーでの経験等を経て、2019年からはABEJAという人工知能スタートアップで事業開発等を担当し、直近では、Virbelaというメタバース事業を展開する企業で日本法人の代表を務めています。

リスキリングという言葉自体を知ったのは2016年なのですが、この10年を振り返ると、自分自身のビジネスパーソンとしての価値を高めるために、テクノロジーのジャンルで経験を積みながら、自分自身をリスキリングしてきたと思います。

そして、現在のコロナ渦とDX推進の延長として、やっと日本でも「デジタル人材の育成をどうしたらいいんだ」という雰囲気が出てきたことで、ジャパン・リスキリング・イニシアチブの立ち上げに至りました。

ジャパン・リスキリング・イニシアチブ

僕は今年50歳になるのですが、30代、40代と色々なことがうまくいかなくて。よく友人には「後藤早すぎ問題」と言われるのですが、興味を持つもののタイミングが早すぎたんですね。

例えば2000年代から社会起業家やソーシャルアントレプレナーに傾倒していたのですが、当時は周りの誰にも理解されなかったんですよ。でも今はSDGsの時代になって、社会問題をビジネスの力で解決することに、疑いを持つ人は誰もいませんよね。

いわゆるビジネスとして考えたときに、「早い」と全然実にならないし、お金にもならない。リスキリングも、日本では3年前から活動していますが、最初は誰にも全く話が通じませんでした。

でも今回はやっと、自分がコンセプトを持ち込んだリスキリングが日本でも広まっていきそうだと。初めて、必要とされる適切なタイミングで、新しい概念を広めることができたという実感が生まれつつあります。やっぱりタイミングが一番大事なんだな、ということを、今回は本当に学びましたね。

テクノロジーの力で「人の持つスキル」が可視化される時代が来ている

近年の面白い傾向として、アメリカでは多くの企業が、スキルベースの雇用や採用にとても力を入れるようになってきています。

レジュメにある会社名や役職名、大学名を見ると、採用担当の方もどうしてもバイアスがかかるじゃないですか。でも「この会社にいるんだから優秀に違いない」と思っても、実際は会社との相性もありますし、わかりませんよね。

それに対して、「ちゃんとスキルを持っていて、転職したあともそれを発揮できるか」を測るスキル評価が、アメリカではどんどん行われるようになっていて、日本にもこれからやってくると思っています。

「スキルを明らかにする」と言ってもまだイメージが湧かない人も多いと思うのですが、実はすでに、テクノロジーによってスキルを明らかにすることがかなりできるようになっています

例えばオランダの「TestGorilla」というプラットフォームでは、採用候補者のスキルチェックをオンラインで実施することができます。

TestGorillaでは、コミュニケーション、リーダーシップといったソフトスキルから、英語、Googleワークプレイス、MicrosoftのPower BIやAzure、CSプラットフォームのZendesk等、150以上の分野から適切なスキルテストを選んで、採用候補者に受けてもらうことができます。

実際にやってみると、回答時間が1問につき10秒しかないので、本当にわかっていなければ答えられません。またWebカメラで映像を撮っていることで、カンニングも防止できます。

こうした「スキルを測る」テクノロジーが今はどんどん進んできており、リスキリング専門のプラットフォーマーたちも活躍するようになってきています。そうした企業にも、ジャパン・リスキング・イニシアチブではアドバイザリーに入っていただいてます。

その中には例えば、カナダの「SkyHive」という、人間のスキルをAIを使って可視化するサービスがあります。2017年に創業して、先日2021年10月にシリーズBで40million(米ドル)を調達した会社です。

▼「SkyHive」(※同社サイトより)

リスキリング_SkyHive

SkyHiveは、AIを使ったプラットフォームによってリスキリングを実現するものです。対象者のスキルマップとなりたい職種を読み込むと、現状のスキルギャップを可視化し、AIが「これを学んでください」とレコメンデーションしてくれます。このスキルギャップが、まさにリスキリングの対象です。

さらに、実際にそのスキルを学ぶための方法として、社内の上級者に依頼を出せたり、外部講座の受講をしたりといったことをその場で行えます。

▼SkyHiveの活用イメージ(後藤さん提供)

リスキリング_skyhive

私は2018年に、サンフランシスコでSkyHiveのCEOに会っているのですが、当時からこれは日本企業にも合っていると感じていました。従業員を解雇するのではなく、リスキリングによって社内の異動を促進することができるからです。

SkyHiveは日本展開も決定しており、今後は多くの日本企業にも導入されることが期待されますね。

「攻めと守り」のリスキリング。主体はあくまでも個人ではなく企業

僕はリスキリングには二つの方向性があると思っていて、「攻めのリスキリング」と「守りのリスキリング」という表現を使っています。

日本企業が、いわゆるDXに関わるデジタル人材育成を行っていくのは、攻めのリスキリング。一方で、技術的失業と呼ばれる、テクノロジーの発展によって人間の雇用がなくなることを防ぐための取り組みが、守りのリスキリングです。

その中で、会社側は、自社の生存がかかっているので、リスキリングと言われた時にすっと受け入れられるんですね。でも、個人はそうはいきません。「俺はデジタルやテクノロジーには興味がない」といった、個人としての感情もありますよね。

例えばリスキリングと対比されることが多い概念として、「リカレント教育」があります。リカレント教育は、人生100年時代の生涯学習として、個人が興味のあることをじっくり学んでいくようなニュアンスなので、あくまでも個人の責任です。

一方でリスキリングは、テクノロジーの浸透によって雇用がなくなる未来に対するソリューションとして注目されているので、その主体は企業であり、性格が全く異なります。

▼リカレント教育とリスキリングの違い(後藤さん提供)

リスキリングとリカレント教育の違い

ですので、リスキリングを企業側が実践したいと思っても、個人側にはどうしても「やらされている感」が出てしまう。ここが、多くの人事部の方が実際に悩まれていることです。

「会社がこれをやれと言っているけれど、自分はやりたくない」という、方向性のねじれがある時にどうするかということに、企業側の姿勢が問われています。

じゃあ、1on1を繰り返しながら擦り合わせをしていくのか、個人がやりたいことの延長上にポジションをアサインするのか…。そこは、企業の度量が試されるところです。

個人は、会社の命に従うか、転職によって会社を出ていくかの選択ができます。企業としては、やはり個人の意思と会社の方向性の重なりを見ながらリスキリングの仕組みを作っていかなければならないので、ここに難しさがあると思います。

リスキリングに取り組むため、企業は具体的に何をすべきなのか?

他にも、企業が自力でリスキリングに取り組もうとした時にやりがちな失敗が「講座の契約をしました。では好きなものを学んでください」で終わってしまうことです。

そうなると、結果的に学んでも支えがないので、どんどん途中でドロップアウトしてしまう。これが、最も典型的なリスキリングに失敗する事例です。

リスキリングを実施していくにあたって、人事の方が講座を用意する前にも後にも、やるべきことがあるんですね。

まず人材戦略として、将来、その事業部でどんなスキルが必要になるのかというフューチャースキルを定める必要があります。その上で初めて、じゃあどんなツール(講座等)を使ってやろうか? という話になるわけです。

そして実際に学ぶフェーズになったら、しっかりと従業員の評価をする必要がありますし、成果を証明する仕組みを作る必要もあります。

さらに、実際に学んだ人を人員配置をするにあたっては、適性を見極めてスキルのミスマッチを防ぐためのサンドボックス環境を用意します。加えて、「学んだら、ちゃんと昇給・昇格するよ」ということが大事なので、給与制度も整える必要があります。

ここまでやらなければ、リスキリングはできないんですね。日本企業は、個人が今どんなスキルを持っていて、何が足りなくて、だからどうする…というところまで、これからは論理的に取り組まなければならないんです。

このように、リスキリングはすごく大変です。ですが、僕がいつも言っているのは、「ここまでデジタル化に出遅れているんだから、もうマイペースでも着実にやりましょう」ということです。

もちろんデジタル化の流れは速く、急がなければならないのですが、このままデジタル化に出遅れたまま終わるより、じっくりとでもしっかり従業員が自ら学んでリスキリングする、ということを定着させていく方が良いですよね。

従業員の雇用を守るためにも、従業員自身が「リスキリングをするというスキル」を身につけることが大事なんです。特に中高年層は、自分をどうやってリスキリングすればよいのか、よくわかっていない人も多いです。

ですが、一度リスキリングに成功すると、それ自体が会社の資産になります。なぜならば、従業員が自分自身でリスキリングをしていってくれるようになるからです。

つまり、リスキリングはもちろんスキルの話なのですが、マインドも重要なんですね。そのために、僕はまず「デジタルは楽しいんだよ」ということを体験してもらう研修を提供することも多いです。

企業がリスキリングに取り組むための第一歩は、会社によって異なります。先ほどお伝えした、攻めのリスキリングに興味がある会社と、「中高年層の雇用が本当にまずいので、どうしよう」という守りのリスキリングに関するご相談をくださる会社が、現状は半々くらいです。

これからも様々な発信を行っていき、一社でも多くの日本企業にリスキリングを定着させていきたいですね。(了)

※編集部より:たくさんのお話を伺いましたが、これでもリスキリングの全体像の「10%」にも満たないそうです。ぜひ、下記の記事もご覧くださいませ。

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