- 株式会社CRISP
- 代表取締役社長
- 宮野 浩史
KPI全て「社外にも」リアルタイム公開中!データドリブンなサラダ屋・CRISPの挑戦
2014年にカスタムサラダの専門店としてスタートしたクリスプ・サラダワークス。現在は19店舗のレストランに加えて、デリバリー、オフィス向けデリバリーオーダー、サブスクリプション型のサービス等を展開するが、特筆すべきはそのテクノロジーやデジタルへの積極的な投資だ。
2017年には、事前注文・決済ができるモバイルオーダーアプリ「CRISP APP」と、それらのデータを店舗側で管理するシステム「PLATFORM」を導入。さらに2019年6月からは、自社で蓄積したノウハウをベースとしたモバイルオーダー運用ソリューション「CRISP PLATFORM」の外販提供も開始した。
そして2021年7月には、自社がKPIとして追っている売上や顧客数、LTV、リピート率などをすべてリアルタイムで見られる「CRISP METRICS」を公開(※β版は6月に公開済)。
運営元である株式会社CRISPの代表・宮野 浩史さんは、「外食産業はデータのない『真っ暗』の状態でビジネスをしている。自分たちがそんな状態を変えていく道標になり、データドリブンな経営で非連続な成長と高い収益率を実現させていく」と話す。
今回は宮野さんに、CRISPが目指す世界や、今回KPIの公開に踏み切った背景について、詳しいお話を聞いた。
テクノロジーの力で非連続な成長を。新しい外食ビジネスを目指す
2014年に、株式会社CRISP(※当時は株式会社クリスプ)を立ち上げました。東京の麻布十番にサラダの専門店「クリスプ・サラダワークス」を創業したことがスタートです。
現在、弊社の事業は大きくふたつに分かれています。まずは、CRISP SALAD WORKSというカスタムサラダブランドです。この中では、現在19店舗のレストラン展開に加えて、デリバリーやオフィス向けのデリバリーオーダー、サブスクリプション型のサービスを展開しています。さらに、無人型の店舗や、サラダを作るロボットも開発中です。
加えて、僕たちが自社向けに開発している基幹システムを、SaaSの形で外販しているPLATFORM事業があります。こちらでは、飲食店における注文・決済をスムーズに事前予約できるモバイルオーダー運用ソリューションを提供しています。
さらに、飲食店で働く人をより適正に評価するためのツール「WORKPLACE」を開発中です。
▼CRISPが展開する事業の一覧(同社提供の資料)
このように、CRISPはデジタルやテクノロジーを様々な領域で活用しています。ですが当然、我々の目的は技術を使うことにはなく、あくまでも外食事業にあります。
僕は、外食の本質は3つしかないと思っていて。料理、接客、そして空間における体験です。例えば普通の人が「あのレストランってデジタル化していて人件費率がすごい低いらしいから、食べに行こうよ」なんて言わないじゃないですか(笑)。
その点、美味しいものを高いクオリティのサービスを通じて提供している日本の飲食店はたくさんあります。しかしその一方で、商品や接客だけをひたすら積み上げていっても、IT企業のような成長を実現することは難しかったんですね。
そこで我々は、テクノロジーの力を使って外食事業の価値を増幅させていこうとしています。エンジンはもともとあるので、ハンドルをそちら側に切っていくようなイメージです。
目指しているのは、新しい外食企業の形「コネクティッド・レストラン」です。シンプルに言うと、イノベーションによって全く新しい顧客体験を提供し、非連続な成長と高い収益率を実現させ、データドリブンに経営する外食のビジネスモデルです。
▼「コネクティッド・レストラン」のビジネスモデル(同社提供の資料)
飲食店のゴールは、お客様に喜んでもらうこと。つまり、顧客体験を向上させることです。そのために、「おいしい」「接客や体験が良い」というベースはあった上で、お客様との関係性やつながり、ストーリーを大切にしていきたい。そのためにテクノロジーが必要なので、活用しているという背景があります。
海外では2桁成長が続く「ファストカジュアル」領域を日本でも
日本の外食産業は、どちらかと言うと「職人さん文化」が強い世界です。大きな企業であっても代表は料理人の方が多く、いわゆるビジネスマンはほとんどいない。業界の新陳代謝もあまり進んでおらず、40年前の大企業が今も大企業、という状態です。
もちろんそれが悪いわけではありませんが、海外と比較すると、いわゆるビジネスとして外食を始めることが日本ではとても少ないんです。
僕たちが事業を展開しているのは、外食の中でも「ファストカジュアル」と呼ばれる領域です。ファストフードとレストランの中間ぐらいで、ジャンクフードではないレストランで出てくるような食べ物を、セルフサービスで、1,000円くらいで食べることができます。
実はこの領域自体は、この20年、ずっと2桁成長を続けています。特に2000年以降にアメリカで上場している外食企業は、ほとんどファストフードかファストカジュアルです。
本来、飲食は属人的な要素が大きくなかなか仕組み化できないのですが、ファストフードやセルフサービスであればシステマティックに仕組みを作れるので、成長・拡大がしやすいんですね。
▼モバイルアプリと店頭のタッチパネルで完全セルフサービスの仕組みを実現
このように世界的にはすごく伸びているのですが、日本では新しいスタートアップが生まれていない。ここに、僕は課題感を感じていて、テクノロジーを活用した外食産業の変革にチャレンジしていこうとしています。
飲食店のゴールである「お客様の体験を向上させる」という意味では、当然それをアナログで行っても良いわけです。高級レストランのプロフェッショナルなウェイターさんが、1,000人のお客様のことを覚えている…みたいなことってすごく価値があるし、素晴らしいですよね。
一方で、そのアナログのやり方ではすごくもったいない。そもそも、アナログというのはフリクション(摩擦)が多すぎるんですね。
例えばお客様のことを知ろうとするときに、「よかったらお名前聞いてもいいですか」「それ、ちなみに、漢字でどうやって書くんですか」「前回ご来店されたのはいつですか」なんて、ひとつひとつ聞いていられないじゃないですか。
同じ情報をいただくとしても、お客様にアプリに登録してもらえたら一瞬なんですよね。つまりデジタルのほうが圧倒的に早いし、さらにはデータを属人化させずに、会社の資産にしていくことができます。
▼事前に注文・決済ができるモバイルオーダーアプリ「CRISP APP」
「真っ暗な状態」で商売をしている、外食産業を照らす道標に
こうしてデータドリブンなコネクティッド・レストランを実現しようとしていく中で、今回、「CRISP METRICS」の公開に踏み切った背景は、大きくふたつあります。
ひとつは、採用です。すでに外食産業で働いている人、そうではない人も含めて、この数字を見て自分が何かできそうだ、と思う人がいるのではないかと。
例えばインターネット関係の仕事をしている人の中にも、リアルな肌ざわりがあるビジネスをやりたいな、という人はたくさんいますよね。でも、リアルな事業って大体レガシーなので、カルチャー的にあまりヒットしないという課題があります。
ですが、僕たちがこうした数字を公開することで、「飲食でもこういうことができるんだ」と一歩進むきっかけになってもらえるのではないかなと。
もうひとつは、外食産業が「真っ暗な状態」で商売をしていると感じていることです。
要するに、データがないんですね。「お客様の属性」のような単純なデータすらも、蓄積できていない会社が多い。「売上」と「客単価」というわかりやすい指標があるからこそ、それしか見ずに商売できてしまってきているところがあります。
データドリブンな経営をしようとしても先人がいないので、僕たちも最初はすごく大変でした。例えば「定着したお客様のLTVが5万円」だとわかったとして、その数字が高いのか低いのか、前例がないので全然わからないんですよ。
SaaSの領域であれば、事例もたくさんあり、目指すべき数字もありますよね。でも外食にはそういった指標がないので、最初はどこを目指すべきか本当にわからなかった(笑)。いまでこそ、お客様の3回目と5回目の来店がキーになることがようやくわかってきましたが、全部手探りで見つけてきたんです。
▼CRISP METRICSでは、様々な角度から同社のKPIが公開されている
そこで、こうした数字を僕たちが開示することによって、これからデジタル化を進めていく外食産業の人たちの道標のような存在になれるのではないかなと。
公開した数字が現時点で素晴らしいとは、全く思っていないんですよ。あくまでも、データを持っていることはスタートなんです。自分たちが真っ暗な状態で商売している傍らで、オンラインの世界でデータを当然のように運用している人たちがいるわけですから。
まずは、自分たちがデータドリブンな経営の準備ができていることを見せる…ということですね。
いまは本当に、明かりがない部屋で戦わされている、みたいな感覚なんですよ。なので、これまで明るい世界で仕事をしてきた人たちがこちらに来ても、全然力を生かせなかったりします。
ここを変えることができれば、外食自体が、もっと優秀な人がたくさん入ってくるような世界になっていくのではないか。その後押しがしたい、という思いが根底にありますね。
データドリブンかつデジタルな経営で、外食産業の課題を解決していく
我々も、いまは必要なデータや指標がすべて定量的に見れている状態にようやくなれたな、というところです。現在は、このデータをもとに3ヶ月ごとに「エピック」という重点目標を設定しています。例えば「SMILE率(3回目の来店率)を42%から50%にしましょう」といった形ですね。
▼2021年7-9月のEPIC(同社提供の資料)
「明かりがついていない」外食産業におけるデータ活用を推進するために必要なのは、コミットメント。つまり、もう「やりきるかやりきらないか」というだけの話しかなと思っています。
実は外食って、言葉を選ばすに言うと、ある程度うまくいけば最初の段階からけっこうお金になるんです。自分の経験からも言えることなのですが、1号店を麻布十番にオープンしたときには、家賃が30万円ぐらいの場所で、月商1,000〜1,500万売れたんですね。自分自身がお店に立って、本社もなくて…という形であれば、月にかなりのお金が残るんです。
つまりスタートアップと違って、わりと早めからご褒美がもらえてしまう。そうなるとやはり、大きな変革は起きづらいですよね。
ただ僕自身としては、お金が儲かっただけだとつまらなかったんです。それがなぜだろうと考えた結果、このお金を自分の車や家に使うより、自分がずっと外食産業で「おかしい」と思ってきたことを解決することに使いたいなと。
例えば、めちゃくちゃ接客が素晴らしい人と、あまりやる気のない人が時給差10円で働いていたり、10年アルバイトをしている方よりも本社の新卒社員が優遇されたり。おかしなことがたくさんあるんですよ。
こうした課題を解決していくことが、ある意味、僕の人生のテーマで。現状、累計で10億円を調達していますが、そこにお金を全部使っていこうとしています。例えば、いま開発中の「WORKPLACE」では、スタッフごとのお客様の再来店率などを可視化することで、LTVに貢献している人の価値をしっかりとお金にすることを実現しようとしています。
日本の外食はとてもクオリティも高いし、オペレーションも優れているので、テクノロジーにもっと投資していけば、未来のある業界に変わっていくはずです。
我々が調達した金額も決して大きいとは言えませんが、それでも現状、自分たちが日本の外食企業で最もテクノロジーに投資している会社だと思っています。これからも、産業自体が抱える課題を解決していくための挑戦を続けていきたいですね。(了)