• 株式会社IVRy
  • 代表取締役
  • 奥西 亮賀

「ほぼ全員が業務委託」「信託型SO導入」 IVRy社の “Work is Fun” を目指す組織づくりとは

IVRy奥西様インタビュー_SELECK

2021年12月に、シリーズAラウンドにて3億円の資金調達を発表した株式会社IVRy(アイブリー)。1日100円から利用できる「電話自動応答サービス」を展開する同社の、ユニークな組織づくりをご存知だろうか。

まず、プロダクト開発に関わるおよそ40名のメンバーのほとんどが業務委託であり、その働き方は様々。実はシリーズA調達の直前まで、社員は代表である奥西 亮賀さんただひとりだったのだという。

多様な関わり方をするメンバーで構成される組織であることから、コミュニケーションやプロジェクトマネジメントにも独自の工夫が。例えばSlack上の個人チャンネルである「times」の運用と「LT大会」の組み合わせは、組織の活性化に大きな役割を果たしたそうだ。

奥西さんが組織づくりにおいて目指すのは「関わる人が楽しく働き続けられるためのエコシステムをつくる」こと。その思想は同社の報酬設計にも表れており、「創業者だけが儲かるのは前時代的」という思いから、信託型ストック・オプション(※)も導入済だ。

※従来型のストック・オプションと異なり、「誰に」「どのくらいの」新株予約権を付与するかを入社後の貢献などを加味して決定できる仕組み(詳細は本記事の後半に記載)

今回は奥西さんに、”Work is Fun(働くことは、楽しい)” を目指すIVRy社のこれまでの歩みについて、詳しくお話を聞いた。

シリーズA調達まで社員1名。多様な働き方の仲間40名とサービスを開発

弊社が運営する「IVRy」は、1日100円から使える電話の自動応答サービスです。

金融機関などに電話をかけると、「◯◯の方は1番を押してください」といった自動音声が流れますよね。このシステムは従来、SIerさんが時には数千万円かけて構築してきたようなものなのですが、それをスモールビジネスでも気軽に使えるようにしたい、という思いからスタートしました。

「電話のDX」を実現する電話自動応答サービスIVRy

電話自動応答(IVR)サービス_IVRy

2020年11月に正式リリースし、2021年12月にはシリーズAで3億円の資金調達も実施しました。ただ、資金調達の直前まで社員は自分以外に誰もおらず、フリーランス、副業の方30名ほどと一緒にプロダクトを作っていました。

いまはこれまでに関わってくれたメンバーが少しずつ正社員としてジョインしてくれていて、現在の社員数は4名(※2021年1月時点)、春頃には10名を超える見込みです。

引き続き大半のメンバーはフリーランス・副業人材で、社内のSlackには40名ほどが参加しています。月に2、3時間ほどしか関わらない人もいれば、週に4日稼働してくれている人もいたり、バラバラですね。

実は、現在のメンバーはほぼ自分のつながりで声をかけた人たちなんです。なので、採用コストはゼロ。ですが出会い方は色々で、過去に一緒に仕事をしていた人もいれば、学生時代の友人もいれば、居酒屋で声をかけた大学生も。「過去に出会った人は、すべて採用候補」みたいな感じです(笑)。

僕自身の組織づくりの考え方としては、面白い友達と楽しく働き続けることができるような、エコシステムを作りたいと思っています。

例えば創業者や資本家だけが儲かるのは、20世紀的だなと思っていて。もっと令和的な会社組織は、より民主主義的で、関わった全員がハッピーになるような形の方がいい

そういった仕組みを備えた会社でありたいので、信託型ストック・オプション(※以下、信託型SOと表記)も導入しています。

信託型SOに限らず、一緒に働く人に還元がしやすい仕組みと、会社としてそれがリスクにならないようなバランスを考えながら、組織を成長させていこうとしています。

「サーバーが何かも知らない」大学生が「電話のDX」に辿り着くまで

僕はもともと大学で情報学を学び、そのまま大学院では情報工学系の研究室に進みました。ただ、大学3年生まで全く勉強していなかったので、それこそ「サーバーって何ですか?」というレベルだったんです。

でも、研究室に配属されたあと、さすがにやばいと思ってからはめちゃくちゃ勉強するようになって。そのときはMonster(エナジードリンク)を毎日4本飲みながら30時間ぐらいぶっ続けでプログラミングをして、そこから12時間くらい寝る。「1日を48時間で生ききる」みたいな感じでした(笑)。

株式会社IVRy 代表取締役 奥西 亮賀さん株式会社IVRy 代表取締役 奥西 亮賀さん_seleck

ただそのおかげでコードが書けるようになったので、友人たちとアプリ開発をするようになって。ですが、京都の最適な観光ルートを提案してくれるアプリを作って、「すごいいいじゃん」と思っていたら、大人たちに「それ、どうやってお金儲けるの?」と言われたんです。

そこで、「あれ?」みたいな。「良いものを作れば儲かるはず」というエンジニア気質でやってきましたが、自分でサービスを作るにはマーケティングやマネタイズの設計もできなければダメなんだなと。

そこでビジネスの勉強をするために新卒でリクルートに入り、最初はUIUXのディレクター、2年目からはプロダクトマネージャーとして保険系の事業に携わっていました。

実はそのときも、プロジェクトメンバーの中でプロパーの社員でフルコミッションは僕ひとりで、あとは業務委託の方30名ほどで回していたんです。

当時から「委託者、受託者」のような関係性ではなく、あくまでも「人間同士」の関係をとても意識していました。結果としてリクルートを辞めたあとも「仲間」という関係性でつながっていたので、起業してからもたくさんの人が手伝ってくれた…という背景があります。

2019年6月に退職し、創業したのですが、最初は「Peoplytics」という社名で、大手企業の従業員データ分析基盤の開発を受託していました。そこで稼いだお金を自分たちのプロダクトに投資する、という形でしたね。

採用領域のメディアであったり、その日の天気に合わせた服装が見られるメディアであったり、毎月1個ずつ実験していって。

中にはテレビに取り上げていただいたものもありましたが、そもそも新規事業って真剣に考えても全然当たらないので、とりあえず10個ぐらいはやってみようと思っていました。

そんな中で、7個目くらいに生まれたのがIVRyでした。

背景としては、当時、自分の携帯電話を会社の代表電話番号にしていたのですが、営業電話がバンバンかかってきてしまい、すべての電話を無視していたんです。

その当時、銀行と融資の話もしていたのですが、融資のための本人確認の電話も無視してしまい、審査に落ちてしまって。当時、たまたまキャッシュフロー的には大丈夫だったものの、もしかしたらこれで会社が終わっていたかもしれなかった。

個人的な体感として、かかってくる電話の9割は重要ではないけれど、1割、とても大事なものがある。このペインは深いなと。

そこで実際に、この課題を解決する電話の自動応答サービスの簡易LPを作ってリスティング広告を出して検証してみました。すると、すぐに10件くらいのお問い合わせがきたんです。

そしてお客様にヒアリングしてみると、一番最初のモックでも、「これで満足です」という反応で、すでにPSF(プロブレムソリューションフィット)していたんですよね。

さらに後押しになったのが、新型コロナウイルスのワクチン摂取が始まったタイミングで、病院やクリニックからのお問い合わせがとても増えたことです。その半年前と比べると、月の問い合わせ件数は10倍ほどになりました。

その後、他の業界でも使えることが徐々に証明されてきて、自信もつき、IVRyに集中しようという意思決定をしました。現在は、25業界以上45都道府県で使ってもらっており、累積着電数も100万件に近づいてきています。

ほぼ業務委託で構成される組織を盛り上げた「times」と「LT大会」

組織づくりについては、序盤はあまり何も考えていませんでした。事業の軸も決まりきっていなかったので、最初は「自分が働いていて楽しい人と一緒にやる」という感覚だったと思います。

株式会社IVRy 代表取締役 奥西 亮賀さん_seleck

ただ良かったのが、2019年末頃に、利益が出たので社員は誰もいないけれどオフィスを借りたことです。それによって、みんなが遊びに来てくれるようになって。それまではひとりの時間が長くて結構辛かったのですが、そこから楽しくなっていきましたね。

オフィスを借りたことで「奥西のところに遊びに行こう」みたいな感じで関わりを増やしてくれる人も出てきて。結果、自分自身のつながりから副業・業務委託のメンバーが増えていき、2020年6月には20名ほどになりました。

ただ、みんな僕とのつながりなので、既に働いている他の人とはほぼ「初めまして」なんですよね。なので、最初は無駄に気を使い合っているような雰囲気があって、何かを決めるにしても、いったん僕にDMが来るような形になってしまったんです。

こんなふうに情報が非対称な状態、かつ僕がコミュニケーションの単一障害点になるのは良くないということで、スタートしたのがSlackのtimes(※メンバー個人が運用する社内Twitterのようなチャンネル)の運用と、毎月のLT大会でした。

「times」チャンネルでは互いの投稿を引用して会話が盛り上がる

IVRy様_Slack_times

最初は、Slackのtimesだけ作ってもあまり盛り上がらなかったんです。でもLTと組み合わせたことで、すごく効果が上がったんですよ。

LTはテーマなどは特に決めずに、お酒を飲みながら各自が話したいことを話すだけです。自己紹介だけの人もいれば、機械学習の話をする人もいれば、GLAYの20万人LIVEについてずっと話していた人もいました(笑)。

LTを通じてお互いの「人となり」がわかりますし、これをきっかけにtimes上のコミュニケーションが生まれていったので、本当にコスパの良い施策だったと思います。

また、timesを盛り上げるための「選手権」も開催しました。自分のtimesの投稿数や、リアクションをもらった数といった賞を設けたところ、すごく盛り上がりましたね。

※上記施策については、こちらの奥西さん投稿のnoteもぜひご覧ください:Slackに「times制度(分報)とtimes選手権導入」の圧倒的な効果 

またプロジェクトマネジメントにおいては、関わり方も人ぞれぞれなので、定例会議をちゃんと作ることを意識しています。そしてKanbanボードに全員がタスクを可視化した上で、ビジネス側含めて簡易スクラムのような形でチケットを切ってスプリントごとにやることを決める、という形をとっています。

他に意識しているのは、言いづらいことやネガティブフィードバックはなるべく僕が伝えることです。本人が「気が付いていなくてできなかった」ということが一番不幸なので、その時には「うっ」となったとしても、言語化して要求の認識を合わせるのが一番良いと思っています。

「経営者という立場」と「金銭的リターン」を切り分ける信託型SO

またIVRyでは、資金調達をするより前のタイミングで信託型SOを導入しています。それによって、時間的な非対称性が少なくなるため、後から入社する人たちもポジティブに入りやすくなっているかなと思います。

※編集部注:信託型SOとは?
SO発行時に割当先と個数を決める必要がある従来型のSOとは異なり、全員分のSOをまとめて信託に割り当て、対象者にはSOに将来交換できるポイントを割り当てることで、保管期間が終了したタイミング(上場時など、予め設定)でポイント数に応じて対象者にSOを割り当てられる仕組み。
ポイントプログラムの運用次第では、あとから入社した貢献度の高い社員にも良い条件のSOを付与するなど、入社タイミングのズレによるキャピタルゲインの差を生まないようにすることが可能。

「スタートアップで働く」という選択肢を個人目線で考えると、やりがいやスキルアップという側面もある一方で、「直近の給与を下げても将来的なキャッシュリターンが大きくなる可能性がある」という期待もありますよね。

ただ、従来型のSOでは、税金の優遇措置を受けられるかどうかという問題もありますし、後期のSOになると、実際には利幅があまり高くないケースも多い。となると、個人的にはなんとなく「騙している」ような気持ちもあって。

じゃあ、直接株を渡してしまえばどうか? という話になりますが、これも会社の評価額によっては大きな税金がかかってくるので現実的に難しい。それに、その人が株を少しでも持っていると、一気に「経営の人だよね」という空気になると思うんですよ。

でも人によっては、「経営クラス」と見られることが将来的に苦しくなる可能性もあるだろうなと。株式会社である以上「株の権利=経営に口出しできる権利」ではあるのですが、それとキャッシュリターンは切り分けなければ、うまくいかないのではないかと思っていたんです。

それで色々と調べているうちに信託型SOという仕組みを知り、導入したという背景です。

信託型SOの導入にあたっては、その制度設計にはスタートアップにとって決して小さくない金額がかかりますが(※編集部注:一般的に数百〜一千万円ほどと言われる)、今後の採用を考えると必要な投資だなと。

自分だけお金持ちになるのではなく、みんなで、と考えて、それぞれの利幅を大きくするために最も効率の良いタイミングで意思決定をしたという形です。

“Work is Fun” ずっと楽しく働き続けるためのエコシステムをつくる

僕個人としては、これからも「面白い仲間たちと新しい価値を生み出し続けられる環境」を作っていきたい。

それを実現するために必要な要素を考えると、まずは、先ほどもお話したような金銭的なリターンがちゃんとあること。その上で、本質的には「楽しく働く」ことをずっと続けていけるようにしたいと思っています。

“Work is Fun” という言葉をキーメッセージとしてよく使うのですが、楽しいと、みんなポジティブになるので、良い仕事ができると思うんですね。そして、良い仕事をすると、良いサービスにつながって、世の中から認められる。そうするとまた楽しくなって…というふうに、会社のエコシステムが回るようにしたいなと。

それをどうやったら実現できるか? ということを考えながら、組織を成長させていきたいと思っています。

株式会社IVRy 代表取締役 奥西 亮賀さん_seleck

例えば具体的なネクストチャレンジのひとつとしては、いわゆる「組織図」のない組織を作っていくことを考えています。

組織図って、何かを最適化するためにはバリューが出ると思うのですが、新しいものを生み出していくときにはうまくいきづらいなと。もっと流動的で、コラボレーションが生まれやすい組織がこのフェーズには必要なので、全てプロジェクト制にして、クオーターごとにそれぞれの継続判断をしていく…といった形にチャレンジしたいです。

採用に関してもこれまでほぼ僕のリファラルでしたが、新しい人にもどんどんお会いしたいと思っています。興味のある方とは、ぜひカジュアルにお話できればと思います(了)

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