• アナグラム株式会社
  • 代表取締役
  • 阿部 圭司

「この人に自分の時間を使えるか?」現場に意思決定を託す「挙手制」の採用手法とは

〜自走できる人材が集まれば、「挙手制」でも採用できる。意思決定を委ねることでマネジメントを自分ごと化し、各自が採用プロセスを磨き上げる取り組みを紹介〜

人事や役員主導で新しいメンバーを採用したものの、現場のサポートがうまくできず、なかなか組織に定着しない…といった課題はないだろうか。

運用型広告の運用、コンサルティングを筆頭に、マーケティングの包括的な支援を行うアナグラム株式会社。

同社でも創業当初は、代表から指示を受けたメンバーが新しく入社する人のマネジメントを担当する、トップ主導の採用体制だったという。

しかし、育成を任されたメンバーをフォローする体制が整っておらず、育成責任も明確ではなかったため、うまくマネジメントが機能しないという課題があったそうだ。

そこで、採用プロセスに「挙手制」を導入。「自分の時間を、この人のために削れるのかどうか」を基準にマネージャー自らが挙手する採用制度を導入したことで、よりマネジメントを「自分ごと」と捉えて、自走できる組織になったという。

今回は、同社の代表取締役を務める阿部 圭司さんと、人事を担当する高梨 和歌子さんに、挙手制を導入した背景から、採用プロセスと運用を支える仕組みについて、詳しくお伺いした。

「押しつけ」では組織が動かない。案件の担当決めに挙手制を導入

阿部 2010年4月に、アナグラムを創業しました。元々、Web制作会社で顧客のマーケティングを支援していた中で、僕たちのコンサルティングによって顧客の売上が大幅に伸び、「こんなに喜ばれたことはない」といった経験をたくさんしました。

特に、当時はリスティング広告の運用を徹底している企業が少なかったため、市場に大きなポテンシャルを感じ、それが創業のきっかけになりました。

高梨 私は新卒でニトリに入社した後、医療系ECサイトの運営会社で商品開発やマーケティングに携わり、2016年7月にアナグラムに入社しました。現在は人事をメインに活動しています。

阿部 現在、弊社には55名ほどの社員が在籍しています。メイン事業である運用型広告に約40名、広告運用以外のマーケティング支援を担うのが7名、採用マーケティング支援に2名、自社のマーケティングに3名、それに加えて総務・経理という構成です。

▼左:高梨さん、右:阿部さん

創業当時は、営業から受注まで、全ての案件を僕が担当していたので、「こういう案件が来たけど誰かできる?」と聞くと、メンバーは「できます」としか言えない状況でした。

ですが、ある規模の大きな案件の依頼を受けた際に、私が興奮気味に「やりたい人!」と声を掛けたところ、全員が横を向いたんです。

その案件は、データをうまく活用すれば毎月、数百万円の収益が見込めるという魅力的なものでしたが、公序良俗に背くとまでは言えないものの、胸を張って人に言えるような仕事ではなかったんですね。

当時は固定費を稼ぐために、とにかく走らなければならない時期だったので、無理にメンバーに押し付けてでも受けるべきだろうかと葛藤しました。

しかし、それを言った瞬間に「この組織は崩壊する」というムードを感じて、結果的にお断りすることにしました。個人的にはすごく歯がゆかったのを、今でも鮮明に覚えてます。

ですが、たしかにその決断によって目先の収益は逃したものの、組織は良い方向に向かったんです。やはりみんながやりたがらない案件は、無理にやらせるべきではないと実感して。これをきっかけに、案件の担当決めに「挙手制」を導入しました。

挙手制採用のカギは「自ら挙手するような設計と働きかけ」

高梨 現在は、この挙手制を「採用」のプロセスにも導入しています。

まず応募後のフローは、人事が「アナグラムで同じ方向を目指して一緒に走り抜けられる方かどうか」を面談で見極めます

その上で、現場のメンター(育成担当)候補となるメンバーから立候補を募り、手を挙げた人が候補者と面接をする流れです。もし、誰も手が挙がらない場合には、その時点で採用を見送ります。

そして面接では、面接官ごとに独自の見極め基準を持っています。例えば、サッカー経験のある候補者に「どのポジションで、あなたはそこで何を発揮しましたか?」といった質問をして、その受け答えから一緒のチームで活躍できるかどうかを判断している人もいます。

ただ、それだけでは「アナグラムとして欲しい人材」ではなく、「その人が欲しい人材」にフォーカスされ過ぎてしまう。そこで共通の採用基準として、簡単な算数、読解、インスピレーションの問題からなるアセスメントも実施しています。

挙手制の良いところは、「自分の時間を、この人のために削れるかどうか」という基準で手を挙げるので、より責任を持ってマネジメントに取り組んでくれることだと思っていて。採用に対して、いかに自分ごと化してもらうかが肝になるかなと考えています。

阿部 一方で、「自らの挙手を促すこと」が最初は難しかったですね。

というのも、自分が一流プレイヤーになることを優先したいメンバーにとっては、採用すればするほどマネジメントによって自分の時間が削られ、忙しくなるのが目に見えているので、手が挙がりづらくなります。

その心理的ハードルを下げるため、「一流のプレイヤーはマネジメントを避けては通れない」という話を、僕から何度もしました。

元々は、僕自身が個人事業主に限界を感じて組織化をしたという背景があり、「個人で出来ることには限界があるからこそ、大きくレバレッジを効かせることができるマネジメントのポジションを志すべき」だと考えているからです。

また、マネジメントを担うメンバーは、給与水準を明確に上げています。制度を設計する時には、誰かが明らかな損をしないか、矛盾が起きないかを意識しています。

人事が「内部エージェント」としてセールスし、気付きを与える

阿部 こうして制度を設計しても、全く手が挙がらない時もあります。しかし「本人が気付いていないだけで、これは絶対にやったほうが良い」という場面があるんです。

これは例えば、採用に限らず、営業において経験したことのない業種から問い合わせが来た時なども該当します。

手が挙がらない場合には、上司から「なぜこの経験があなたに必要なのか」ということを対象者に対してプレゼンします。日頃から、上司の仕事は「セールスすること」だと伝えていますし、それが弊社の文化になっていますね。

高梨 同様に、人事が内部エージェントのような役割を担って、適任者にセールスすることもあります。

人事側は候補者と相性が良さそうなチームやチームリーダーが大体わかるので、想定通りに手が挙がらない時には、「こういう点であなたと相性が良いと思うので、会ってみませんか?」と念を押して伝えています。

候補者と会う時点では合否は決まらず、マネジメント担当として手を挙げるかどうかは本人次第なので「気付きや機会を渡したい」という視点で動いていますね。

また、時には満場一致で採用が決まり、チーム間での取り合いになるような候補者もいます。その際は、人事やマネージャーが集まって「今このチームに入ると良い影響があるよね、お互いの成長が一番描けるね」と相談した上で、最適な配属先を決定します。

ただ、現場から「どうしても自分のチームに欲しい」という強いセールスがあり、納得性があれば、その意向を汲むこともありますね。

失敗の要因を探り、共通認識化。採用精度を向上させる仕組みとは

阿部 6年ほど挙手制の採用を運用してきた中では、もちろん失敗もありました。自ら採用したものの、育成がうまくいかなかったことで、メンターがひどく傷付いてしまったり…。

こうした経験から「フィットする人をきちんと採りたい」という気持ちが芽生え、採用の精度が上がっていったという側面はあると思います。

高梨 その精度を高めるため、各自で採用フローの振り返りを行っています。「面接で見抜けていない要素があったから、別の質問を加えよう」といったように、フィットする人材を見極めるために必要な要素をアップデートしていく形です。

例えば、マーケティングとの相性を見極める要素として、自身の置かれた状況を俯瞰的に見られて、メタ認知が深い人かどうかを確認するため、「これまでの挫折経験を教えてください」といった質問を加えました。

また振り返りには、アセスメントの結果も活用しています。簡単な内容ですが、早期に退職された方の回答を見返すと、間違えやすい問題の傾向が見えることがあるんです。その因果関係を共有することで、採用に関わる人の共通認識を作っています。

この運用が可能な背景には、「採用人数を目標に置かない」という弊社の特徴もあります。というのも、定量目標を設けると「どう採るか」に思考が限定されてしまい、中長期的に組織の質が下がる可能性もあると思っていて。

定量の目標がないことで、人事は常に中長期の視点と短期の視点を行き来し、今のベストが何かを考え続けなくてはいけない難しさがあります。しかし、人事が経営陣やマネージャー陣と密に連携し、現場の状況をオンタイムで把握するように努めることで、うまく回っているかなと思います。

「ランダムネス」を起こして、より強い組織にしていきたい

阿部 これまでの経験から「挙手制はどの会社でも合うか」と言われると、そんなことはないと思っています。

僕たちは「自走できる人材」を採用しているという大前提があったので、自ら手を挙げてもらうことが一番機能すると考え、挙手制を導入しました。それに加えて、セールスする文化や、評価制度にも期待水準を組み込んでいるので、組織にうまくフィットしたのだと思います。

弊社は、2020年1月に株式会社フィードフォースにグループジョインしました。データフィードやテックの領域で事業展開をする彼らとは、強いシナジー効果はもちろん、社員の人柄や文化も近く、本当に良いパートナーに巡り合えたと思っています。

高梨 今までは、プロダクトを作りたいと思っても、エンジニア部隊がなくて実現が難しかったこともありましたが、今後はフィードフォースと組んで、新しいことが実現できるかもしれません。

様々なチャンスが広がっているタイミングなので、人事側では新卒・中途いずれも採用を強化しようという話が出ています。これまでの「安定」という名の一種の閉塞感みたいなところも、打破していく1年にしたいと思っています。

阿部 今後は、既存の仕組みの中で、どこまで「ランダムネス」を出していけるのかが勝負だと思っています。人が成長するのに不可欠な要素を洗い出すと、ランダムネスの要素が非常に重要だと感じることが多いんです。

というのも、昔ブラック企業で働いていて、今スタートアップで活躍されている方々が「実はあの時代の経験は本当に良かった」と口を揃えて言うんですよね。

なぜかと言うと、突然降ってくる案件や無茶振りといった、多くのランダムネスをかいくぐって成果を出さなければいけない環境で、やはり鍛えられてきたのだと思います。

もちろん、すべてを鵜呑みにはできないですし、一概にブラック企業が良いとは言えないものの、これだけマーケットに貴重な人材を輩出しているということは、「実はめちゃくちゃ価値がある環境なんじゃないか」という考え方もできると思うんです。

弊社は挙手制を取ることで、良くも悪くも、メンバーにとって負荷が少ない環境になっています。気付かないうちに、温室育ちのようになってしまっている可能性があるので、「ランダムネスは必要だね」と話しているところです。

僕たちは、10年後にも切磋琢磨できるような仲間や組織で在りたいし、アナグラムから一流のマーケターをたくさん輩出したい。これからのチャレンジを「楽しみです」と言ってくれるメンバーも多いので、来期はこれまでの文化をより良い形に変えて、さらに進化したいと思います。(了)

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