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「再現性のない成長」を脱却。プロダクトマネジメントの大変革を経たベルフェイスの現在地

「再現性のない成長」を脱却。プロダクトマネジメントの大変革を経たベルフェイスの現在地

プロダクトマネジメントに「正解」はあるのだろうか? プロダクトマネージャー(PdM)の人材不足も相まり、その組織づくりに課題を感じている企業も多いだろう。

チームの売上を最大化するオンライン営業システム「bellFace」を展開するベルフェイス株式会社。2020年まで、同社はマーケティング戦略の成功やコロナ禍によるIT投資への助成金といった後押しもあり、順調に成長を続けていた。

しかし、2020年12月にCTOとして入社し、現在はCPOも兼務する山口 徹さんは「当時はマーケットの波に乗れたという運の要素が強く、いわば、再現性のない成長だった」と話す。

実際に山口さんが参画した当時、プロダクト組織には「体系立ったやり方がまったくない」状態であり、顧客の声ではなく「社長の思い」をベースに開発が行われてしまっていたという。

そこで山口さんは、CPOに就任後、組織に「オープンプロダクトマネジメントワークフロー(OPMW)」を導入した上で、各プロセスの成果物を可視化。横軸で情報の受け渡しができるようなパイプラインを設計し、プロダクトマネジメントを徹底的に体系化した。

結果として、属人化やブラックボックス化を排除しながら、誰でも一定の成果を出せる状態を目指すための土台が完成PdMに必要なスキルも可視化されたのだという。

今回は山口さんに、入社からこれまでに行ってきたプロダクトマネジメント体系化の全貌や、ベルフェイスのPdMが担う役割について、詳しくお伺いした。

52億の資金調達をするも…入社当時、組織には課題が山積みだった

僕はガイアックスやサイボウズ・ラボなどを経て、ディー・エヌ・エーで前半はソフトウェアエンジニアとして、後半はソフトウェアアーキテクトとして、合計12年ほど働いていました。最終的には専門役員も務め、スポーツ系システム全般の責任者も務めていました。

ベルフェイスには2020年7月に技術顧問として参画し、その後12月にはCTOとして入社、2021年2月からはCPOを兼務し、4月からは取締役も務めています。

ベルフェイス株式会社 取締役 CTO 兼 CPO 山口 徹さん

ベルフェイス_山口さんこれまで、CTO兼CPOとして、エンジニア組織の人員配置を見直したり、プロダクト開発組織を立て直したり、プロダクトの内製化を進めたり、情報ガバナンスを強化したり…と、本当にいろいろなことをやってきました。

僕が入社した頃のベルフェイスの経営課題をざっくり説明すると、まず2019年までは順調な成長をしていたんですね。そして2020年の頭には52億円という資金調達を実施し、マーケティングや外部の開発パートナー、採用に大きく投資をしていきました。

2020年にコロナ禍に入ってからは、IT投資への助成金や民間のキャンペーン等が始まったこともあり、顧客が非常に増えました。ただ、キャンペーンの影響が大きかったので、実際には課題に全然フィットしていないケースがあったことも事実で…。

しかし、見かけ上は成長を続けていたので、継続して人員も増やしていきましたが、最終的には顧客もチャーン(解約)してしまい、辻褄が合わなくなってきたんですね。

さらに、エンジニア組織も課題を抱えていました。僕が入社するまで、CTOは1年ほど不在で、かつ50人ほどの組織にマネージャーが3〜4人しかおらず、数が圧倒的に足りていなかったんです。

体制としても社内を横断してあちこちに存在していて、組織間の連携が取れないような状態で。離職者も増えていましたし、事なかれ文化が横行して、心理的安全性も低い組織になってしまっていました。

またプロダクト組織で言うと、社長がCPOを兼ねている状態で、プロダクトマネージャー(PdM)は2人いたものの、共に他社での経験はありませんでした。そして顧客の声に基づかないプロダクトアウトな開発をしてしまっていた上に、新しい機能の開発は、外部のパートナー会社に強く依存した状態でもありました。

このように、「あさっての方向を向いたプロダクト開発をしながらも人員は増やしている」という状態が、僕のスタートラインだったんです。入社してからは、これらの是正をずっとやってきたということですね。

顧客ではなく「社長」を向いたプロダクト開発の立て直しに着手

これまで取り組んできたことは数多くありますが、その中のひとつがプロダクトマネジメント組織の立て直しです。

入社してすぐの頃、CTOとしてプロダクト会議に参加する中で、意思決定プロセスがめちゃめちゃだなと感じていて。社長である中島の「こういうプロダクトにしたい」という思いで作っていたので、顧客ではなく社長の方を向いたプロダクト開発になってしまっていたんですね。

顧客が欲しいものを作ることがプロダクトマネジメントですから、顧客の声を聞いてマーケットインで作っていくことが基本形だと思います。

もちろん、プロダクトアウトでも良いのですが、その場合は不確実性が高いので、なるべくフィットしそうなマーケットを探索し、反応を見ながら段階的に、着実に進めていくことが必要です。

bellFaceに関しては、大きく成長をした時期もありましたが、マーケットの波に乗れたという運の要素が強かったと思います。いわば、再現性がない成長だったと。とはいえ、体系的に狙って成長できるスタートアップの方が相当少ないとは思いますが。

さすがにこれではダメだと、社長の中島と話し合い、僕がCPOも兼務するようになりました。

中島には、かなり色々と言いたいことを言わせてもらっていますが、彼は度量がすごく広いんです。失礼なことを言われたとしても、ぐっと堪えて、ちゃんと吸収しようとする。これは本当に彼の美徳だと思っています。

今の中島との関係性としては、メンバーには僕が中島のお母さん的な存在、「CNO(Chief Nakajima Okasan)」だ、なんて言われたりもしますね(笑)。

OPMWを採用し、プロダクトマネジメントとPdMのスキルを体系化

実際にプロダクトマネジメント組織を立て直していくにあたっては、「オープンプロダクトマネジメントワークフロー(以下、OPMW)」を組織に導入しました。加えて、”プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける” という書籍などを参考に、組織をデザインしていきました。

OPMWは、プロダクトマネジメント組織を「Strategy」「Technical」「Go-to-Market」の大きく3段階に分けて進めていくフレームワークです。

▼OPMWのプロセス(ベルフェイス社がopen-pmw.orgを参考に翻訳し作成したもの)

ベルフェイス様_プロダクトマネジメントベルフェイスでは、当時プロダクトマネジメントの経験値が少なく、また、体系立ったやり方も、「なぜ」作るのかというWhyの要素もなかったんですね。その状態を立て直すためのフレームワークを探す中で、OPMWがBtoB SaaS向けのプロセスであったこともあり、採用したという背景です。

このプロセスの成果物をどんどんNotionに載せていって、誰でも見られるようにし、またプロセスの前後のリレーションをきちんと張っていくようにしました。システムやデータはもちろん、会議体の設計も含めて、しっかり情報の受け渡しができるようにパイプラインを設計していきました。

もともと、「体系的にプロダクトマネジメントをしよう」という発想自体が組織にはなかったので、がらっと変わりましたね。

加えて、2020年の後半の採用活動で入ってくれたメンバーに僕と同じような考え方を持った人が多かったこともあり、タイミング良くムーブメントに乗って体系化を進めることができました。

現状、PdMは20名ほどなのですが、Strategyフェーズを担当しているのが3、4名ほどで、残りはTechnicalフェーズを担当しています。Go-to-MarketになるとPMMが担当しますが、何を重視していくかといった観点はPdMが出しています。

PdMの役割として、説明しやすいのはTechnicalフェーズです。基本的にはUI/UXの理解をベースに、WhyからWhatを定めて、Howを遂行していくことが役割になります。

要求を要件にする、具体的なKPIを設計する、その計測に必要なデータを取得し、得られたデータからプロダクトを改善する…といった、具体性の高い仕事ですね。加えて、プロジェクトマネジメントのスキルも必要です。

一方でStrategyフェーズでは、バックログにある課題を開発に落とし込んでいくまでに必要な戦略プロセスに求められる、すべてのスキルセットが問われます

WhyからWhatへとつなげていくので、社内外とのステークホルダーとのコミュニケーションスキルや、仮説から適切なインタビューや実験を元にチェックポイントを設けて、戦略上の意思決定を行うだけのスキルも求められます。

現在、ベルフェイスのPdMの場合は、OPMWのプロセスに対して「これぐらいの給与レンジの人は、これができなければいけない」ということをすべて定義してあります。今は採用においても、それに応じてスキルセットの見極めを行っています。

▼OPMW に対して、どのランクのメンバーが何ができる必要があるかを可視化

ベルフェイス様_プロダクトマネジメント

体系化と可視化で、「誰でも一定の成果が出せる状態」を目指す

こうしたプロダクトマネジメントのプロセスって、ひとつひとつはそんなに難しくはないんです。例えば、OPMWにおける最初のステップである顧客インタビューは、多くの会社で普通に行われていることだと思います。

ですが、それをどこまで体系立って意図的に実行できているかはわからないな、と思っていて。明らかにしたい仮説があり、それに基づいたインタビューを設計・実行し、内容を多角的に検証した上でレポーティングする。そこまでちゃんとできていることが大事なんですよね。

OPMWでは、インタビューの後に「Identify」というフェーズがあり、得られた知見から、その課題がどのユーザーの問題なのか、どういうシナリオで起こるのか、本当に解くべき課題なのか、といったことを特定していきます。

そこから「Analyze」のフェーズに入ると、インパクトや勝ち筋を分析して、次に「Check」で収益性などを確認します。

▼OPMWのStrategyフェーズにおけるプロセス(編集部にて作成)

ベルフェイス様_プロダクトマネジメントこのあたりに入ってくると、PdMの中でもできている人・いない人が出てくると思います。本来は、ここまでできなければPdMを名乗ってはいけないくらいの話ですが…。

こうしたプロセスを体系化し、成果物を可視化して誰もがアクセスできるようにした上で、誰でも一定の成果を出せる状態を作りたかったことも、OPMWを導入した理由です。

なぜプロダクトマネジメントをしているのか? と言うと、事業運営における不確実性を出来る限り下げていくためであり、無駄な工数を発生させないためなんですよね。

そのためには、意思決定の背景を含めて明らかになっていることが大切なので、属人性や、ブラックボックスができてしまうことを廃していきたいと考えています。

ゼロから組織を作る人、未経験だがPdMに挑戦したい人へ

これからプロダクトマネジメント組織を作っていく方にアドバイスをすると、前提として、CPOの役割を担う人は、まずビジョンをきちんと定義して、望ましいプロダクトマネジメントについて整理するところからスタートする方が良いと思います。

僕ももともとエンジニアで、プロダクトマネジメント組織を作ることは初めてでした。だからこそ、良い本からエッセンスを抽出して、自分の思い描く組織の理想像をきちんとデザインしてから挑んでいきました。

また、未経験の方がPdMに挑戦する場合、それを「ハードルが高い」と感じることは一部正しいですが、一部は誤りだと思います。

一個一個分解してみると、そんなに難しいことではないですし、これまでやってきたことが生きる部分もあるはずです。特にメガベンチャーやコンサルで戦略コンサルをやっていた経験のある人は、基本的なビジネスフレームワークは学んでいますし、Staretgyフェーズのスキルは一致しやすいのかなと。

もちろん、全体の辻褄を合わせることに難しさもありますが、ゼロイチのフェーズなので、それは当たり前ですよね。自分に足りないスキルを見極めながら、ブラッシュアップしていく姿勢が大切だと思います。

現在、ベルフェイスのプロダクトマネジメント組織では、Strategyフェーズにおける課題や要望のパイプライン化を本格的にスタートしようとしています。

また、プロダクト戦略についてもより体系化して、誰もが常に「今どの方向に向かっているのか」「どんな価値提案をしようとしているのか」がわかるような状態を作りたいと思っています。加えて、開発自体の生産性を、より高めていくことが今年の目標です。

これからも、組織としての改革はずっと続けていきます。まだまだ体系立っていない部分も多々あるので、そうしたことにチャレンジされたいという方とは、ぜひ一緒に働きたいなと思っています。(了)

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